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零戦(ゼロファイター)シリーズ

零戦外伝 初霜と神崎のバレンタイン(たまに山ノ井)

作者: 七日町 糸

 二月十日、広島県呉市にある呉港には、一隻の空母が身を休めていた。

 艦橋後部のマストに翻る旭日旗、周りにいる護衛艦とは比較にならないほどの大きさ、これこそが在りし日の大日本帝国海軍が誇った空母「翔鶴」だ。


 その空母「翔鶴」がよく見える呉港の桟橋で、わたし―初霜実は迎えの内火艇を待っていた。

 

 タンタンタンタンタンタン


 エンジンの音とともに内火艇が近づいてきて、桟橋に横付けされる。

「ごめんね、実。待った?」

 内火艇から降りてきたのは、わたしが尊敬する凄腕搭乗員の山ノ井春音さんだ。わたしとは「実」、「お姉ちゃん」と呼び合うほど仲がいい。

 お姉ちゃんはいつものごとく、海軍の第一種軍装を着ている。ちなみに、わたしは私服の白いニットのセーターにデニムの冬用ショートパンツと黒タイツ、特注のカーキ色のフライトジャケット。足元はスニーカー。

「全然待ってないよ。お姉ちゃん」

 わたしがほほ笑んでそういうと、お姉ちゃんも微笑んだ。

「よかった。じゃあ、行こう」

 わたしが内火艇に乗り込むと、お姉ちゃんはわたしと一緒に士官室に入り、操縦手の人に声をかけた。

「じゃあ、三机さん。翔鶴までよろしくお願いします。」

「はーい!」

 タンタンタンタンタンタン

 内火艇が動き出し、翔鶴のほうに向かう。

「実、ちゃんと材料は持ってきた?」

「うん!持ってきたよ。」

 板チョコとその他諸々がぎっしり詰まったトートバッグを見せると、お姉ちゃんは少し笑った。

「永信君に渡すチョコなんだから、愛情込めないとだめだよ~」

「わ、わかってるし」

 トートバックをぎゅっと抱きしめる。

「永信・・・・なんでわたしの気持ちに気づかないのよ・・・・・・・」

 実をいうと、わたしは、永信のことが好きだ。空の上で初めて会った時から好きだ!

 だから、四日後のバレンタインの時に永信にチョコを渡す。そして、こう言うんだ。「大好き」って。

 でも、わたしは料理が苦手だ。だから、料理がめっちゃうまいお姉ちゃんに教えてもらって、チョコを作ろうというわけ。

「永信君はどんなのが好きかきいた?」

「え~っとね、生チョコが好きだって。」

「だったら、翔鶴の士官用烹炊所に行けば材料あるね。」

 話してる間にも、内火艇は翔鶴に近づいていく。


 タンタンタンタンタンタン・・・・・・コトッ


「つきましたよ。」

 操舵室から三机さんが顔を出した。

『ありがとうございます。』

 二人同時に行って、左舷後方の舷梯に乗り移ると、内火艇は、またタンタンタンと音を響かせて艦尾のほうに消えていった。

「初めて乗艦する中尉以下は、左舷後方から乗艦するの。」

「ほえぇ。」

 お姉ちゃんについて舷梯を登ると、甲板に繋止されていた零戦をエレベーター場まで押し込んだ整備員さんがこっちを見た。めちゃくちゃかわいいメガネっだ。

「ハルさん!お疲れ様です!」

「みやびもお疲れ。」

 お姉ちゃんが右手を額につける。

「わたしも後から烹炊所に行きますので!」

「はーい」

 会話を終えて、フネの底部にある烹炊所に向かって階段を降りる。

「そう言えば、さっきのって誰?」

 きいてみると、お姉ちゃんはすぐに答えてくれた。

「奥谷みやび。うちの整備士で、階級は一等整備兵曹。歳は、実と同じ高一だね。実って、階級なんだっけ?」

「一飛曹。」

「だったら、同い年で階級も同じ一曹だね。いい友達になれんじゃない?」

「そうかな・・・・・・・・」

 わたしが言葉を濁すと、お姉ちゃんが顔をぐっと近づけてくる。

「大丈夫。今ヤスが軍オタの英才教育を施してるから。」

(ヤス兄・・・・・・・・・・・っ!?)

 まったくあの神崎兄弟は・・・・・・・ほんと軍オタで困っちゃう。

 でも、そういうのは嫌いじゃないね。



 烹炊所につくと、お姉ちゃんは壁にかけてあったエプロンを手に取った。だけど、その柄が・・・・・・・

「お姉ちゃん。白地に墨書きで『第一航空艦隊』って・・・・・・・・なんでそんな柄なの?」

 もしかして、お姉ちゃんも神崎兄弟に洗脳されてる?

「わたしの好み♡。ほら、実も早く着替えなよ」

「はーい」

 トートバックから『くコ:彡』の顔文字が胸に書いてあるエプロンと三角巾を取り出し、手早く身に着ける。

「それじゃっ、クッキングスタート―!」

 お姉ちゃんが嬉しそうに叫んだ。




 二月十四日、わたしはまた、呉港の桟橋に立っていた。いつもと同じように私服のフライトジャケット姿だけど、、今日はちょっと張り切ってお化粧もお姉ちゃんに習って少ししてみた。


 タッタッタッタッ


 駆け足でこっちに来る足音が聞こえた。

「ごめんごめん。待った?」

 永信がわたしの前で止まる。

「待ったわよ。いつまで待たせるつもり?」

「だからごめんって。」

 わたしがツンとそっぽを向いて見せると、永信はちょっと困ったように謝った。

「今日は許してあげる。でさ」

 永信のほうに体を向けて、手に持った紙袋を差し出す。中身は、この前お姉ちゃんと一緒に作った生チョコだ。

「今日ってバレンタインじゃない。だからチョコあげるわ。べっ、別に永信が好きとかじゃなくて、友チョコが余ったから永信にもあげるだけよ!そこんとこ勘違いしないでよね!」

「わ、わかったよ。」

 永信がおずおずと紙袋を受け取る。そっと中を見た。

「ねえ、この箱開けていい?」

 そうほざく唇をそっと人差し指で押さえてやる。

「ダメに決まってるでしょ。家帰ってから開けなさい。」

 そっと指を離すと、永信の顔が一気に赤くなった。

(これだから奥手は・・・・もっとアグレッシブに来てくれたらわたしも素直に告白できるんだけどな。)

「いい?家に帰るまで開けないのよ。」

「わかってる。」

 わたしが念を押すと、永信はちょこっと敬礼して言った。

「じゃあ、さっそく家に帰って開けてみるね。」

 永信はそういうと、颯爽と走り去っていった。

「今年も・・・・・・・好きって言えなかったな・・・・・・・」

 わたしは、ため息をついて空を見上げる。その空を、一機の零戦が飛んでいくのが見えた。




 僕-神崎永信は、家に帰ると、実からもらったチョコの箱を開けてみた。

「うわっ、すごいじゃん実。あんなに料理が下手だったのに。」

 

 ピコン!


「ん?」

 ラインの着信音が鳴った。スマホを手に取る。

「ハル姉からだ。」

 えーっと。

《永信君、実にはなんて返事したの?》

「返事?」

 何のことだろう。

《なんのことですか?全然何も言われてませんが。》


 ピコン!


 すぐに既読がついて、返事が来る。

《そうなんだ・・・・・・・》

《実と、話してみるね。》

 ん?本当になんなんだ?次の瞬間・・・・・・・・


 ピリリリッ!ピリリリッ!


 携帯の着信音が鳴り響く。

「うわっ!」

 急いで画面をタップした。

『もしもし!?永信?』

 聞きなれた親友の声がする。

「実!?どうしたの?」

『さっき、言い忘れてたことがあって・・・・・・・・』

「なに?」

『わたし、永信のことが好き!』

 えっ!?

「ちょっと実、それってどういう・・・・・・」

『だから、わたしは永信のことが大好き!愛してる!だからさ・・・・・・・』

 僕の言葉を遮るように言ったみのり、は少し言葉を止めた後、言った。

『わたしと、付き合ってください・・・・・・ダメかな?』

「え・・・・・・・・・・・・」

 僕は少し考えた。心の中でゆっくりと自分の気持ちを確かめる。そして、返事をした。

「いいよ。僕も実のことが好き。だから」

《これからも、よろしく。》

 二人の声が、ぴったりと重なる。

 

 ボーーーーーー!


 呉港に停泊する翔鶴の汽笛が、僕らを祝うかのように鳴り響いた。

~その後、空母翔鶴艦内にて

春音スマホをいじりながら「あ!実、思い切って永信君に告白したって!」

保信「ほほう、で、お返事は?あんないいやつフッたりしたら絞めてやろう。」

みやび「物騒なこと言わないでくださいよ。」

春音「OKだって!」

みやび、保信「おおおー!」

春音「そういえば、二人にもチョコあげる。はい。」

みやび「ありがとうございます!」

保信「サンキュッ」

春音「この二人もわたしが恋のキューピッドになってあげたからこそ付き合うことができたんだよ。」

保信「電話で実をけしかけただけのくせに・・・・・・うぐっ」

春音「そんなこと言わないの。結果オーライじゃん!」

みやび「お二人とも、仲がいいですねぇ。」

春音「これでも付き合ってるし、同じ部隊だしね。」

みやび「今日もいちゃついてますね。」

保信(口押さえられてる)「ふぃふぁふふぃふぇふぁんふぁふぁい!(いちゃついてなんかない!)」

春音「ほんとどうしようもないほどの軍オタで軍用機のことになったら体壊すまでやっちゃうしょうもない彼氏だけどさ・・・・・・・・・」

 春音、保信の耳に口を近づける。

春音「愛してるよ、ヤス・・・・・・」

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