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8.謎の老婦人

「は~疲れたわ」


一段落した本職も、また少し忙しくなり始めた。


いいえ。


このため息は、仕事だけのせいじゃないのよね。あの貴族のライル様よ。お肉屋さんの店主ガーネさんに、ライル様が私を調べていると聞いてから10日ほどがたち、今日は副業開店日。


大分怒りは収まった。というか、探られていると知っても相手はお貴族様だし、怒鳴りこんだって門前払いだろうから何も行動をおこせない。わかってるのよ。


…だけど。


「──スッキリしない」


私は、丸椅子に座りカウンターに両肘をつき頭をガシガシした。お父様は、こんな私のお行儀悪い姿を見たら苦笑するわね。


時計を見れば夜の7時すぎ。9時迄まだ時間がある。お茶でも淹れようかしら。そう思い椅子から立ち上がりかけた時。


リンッー


ドアベルが鳴った。

ゆっくりとした足取りで入店してきたのは。


「今晩は…かしら?」


戸惑うような口調のお客様は、寝間着のような生地の服を着ていて、とても細い体つきの老婦人だった。

私がまずしたことは、棚の上に置いてあった膝掛けを広げ老婦人の肩にかけた。


「ありがとう」


ニッコリ笑った。

何故かしら?

特別美人というわけでもないのに、とても惹かれる。それよりも、血の気がなく、立っているのも辛そうだわ。


「大丈夫ですか?」


私は挨拶するのも忘れ、老婦人を抱えるようにしてソファーに座らせた。


「少し待っていて下さい」


私は老婦人の返事を待たずに、お茶を淹れるのと、今夜に出す品の様子をついでに確認するために部屋の奥へ小走りに向かった。


「ありがとう」


老婦人は、白く細い指で湯気のでているカップを包むように持ちながらお茶を口に含んだ。

その時、目が驚いたように開き、此方を向き呟いた。


「日本茶によく似ているわ」


そう言うと、老婦人は、周りにゆっくりと視線を向け部屋の中を見渡した後、また私を見た。

歳を重ねてきた瞳は少し色があせている。

けれど、それでもその黒のような茶色の瞳は…なんて力強いのかしら。そらすことができない。


「ルドは、もういないのね」

「──はい」


違和感を感じるわ。

お父様を店主とは言わず、ルドと老婦人は呼んだ。ルドは、親しい人と呼びあう時にしか使われていなかった。


「メイリーンは…」

「父は最近。母はずいぶん昔に」

「そう」


お母様のことも知っている? 以前来店した髭の立派なおじいさんの時とは違い、背筋がザワザワする。


老婦人は、一瞬悲しそうな表情の後、私に微笑みゆっくりとした口調で話し出した。


「私は、ルドが大好きだった。異性として」


ただのお客様ではない…?

貴方は何者なの?



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