表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/37

6.ライル side

「最近ため息ばかりですね」

「そうか?」

「気づいていないなんて、かなり重症ですよ」


補佐のカールはそう言うと書類の束を置き去っていった。また増えた書類を見てため息が出た。


私の名は、ライル・ガウナー


最近この町ヴァンフに配属された騎士だが、悩みが二つある。


一つは、ここヴァンフを含めた一帯を治める辺境伯、ガウナー家の当主の体調が思わしくない。そこで当主には跡継ぎがいない為その弟が呼ばれた。そう私だ。


本来長男が家を継ぐ為私は爵位は得ることなく騎士として一生を終えるはずだった。いや、今もそう願っている。だが、周りはそうは思わず最近は、休みの日に屋敷へ呼び出され半ば強制的に領主としての仕事を教え込まれ始めた。顔色の悪い兄に懇願され逆らうこともできず、幼少を共に過ごしたカール、今ではかなりのやり手らしいが、そいつを補佐につけられ机に縛られる日が続いていた。


二つ目は、息抜きがしたくなり酒場を探し夜の道を歩いて迷いこんだ謎の店とその店主、マリー・クラウス。


引き出しから黒い小さな箱を取り出し蓋を開けた。そこには、昨日私の髪紐と交換させられ渡された指輪が一つ。

店主は妹にだと断定しこの品を渡してきたが、改めて指輪を見るとやはり派手な妹のシュリーの好みではない。


むしろ店主に合う気がするのだがー。


『私は、騎士様と今も、この先もご縁があるとは思っておりません』


新緑を閉じ込めたような瞳に闇夜を思わせる黒い髪のマリーの表情は完全に私を拒絶していた。


いっそ、気持ちがいいくらいの態度だった。


騎士と分かっていても、まったく物怖じしない姿が印象的だった。あと彼女の料理も。


関わりたくないと態度でだしているのに彼女は帰りがけに煮込んだ野菜をくれた。


確か…オデンと言っていたそれは、初めての味で最初は薄味でどうかと思ったが食べるうちに癖になる味へと変わり、屋敷の料理人に見せ作れないか聞いたが、やってみますがと頼りない返事がきた。


「──少し調べてみるか」



私は指輪の箱の蓋を閉じ引き出しの中へ戻すと再び書類に手をつけ始めた。


その時、私は彼女に惹かれていることにまだ気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ