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5.私は平穏を望む

「何故だ?」


便利屋さんが去った後に入れ違いのように来店したライル様に手を出してもらうようお願いしたら、案の定、警戒丸出しで思わずため息をついてしまった。


「こちらへ」


ライル様に部屋の中央にある二人用ソファーへ座って頂く。私はそのソファーから少し離れたところに置いてある一人用のソファーへ座った。


もうこの際ざっと話をした方がよい気がした。

渋々座った騎士様に、私はお茶も出さずに話始めた。


さっさと終わらせお帰り頂こう。


「以前この店は代々続く古道具屋とご説明しましたが、もう少し詳しくお話します」


ライル様を見た。

よかった。聞く気はあるようだわ。


「本来この空間、この店には、必要な物がない限り入る事も、そもそもこの店を見つけることさえできません」


「だが、私は」

「はい。ライル様はこの店を見つけ入ることができました」


口を開きかけたラウル様に目でとりあえずこちらの話を聞いて欲しいと訴えた。


「私は父から最近この店受け継いだばかりで、その父が亡くなる前に私に引き継ぎの書類を渡しました」


たった一冊だけの、しかも大した厚みのない紙を束ねただけのような品。


「それには、三回必要な物もなく来店できた人物は、店にか店主に関わりがでてくる人物と書かれていました」


でも。

そこまで話をし、私は彼を見た。彼も困惑した様子で私を見つめていた。お父様が全て正しいとは限らない。間違いや偶然はゼロではないはず。


「私は、騎士様と今もこの先もご縁があるとは思っておりません」


なにより貴族なんて、迷惑このうえないのよ。

しかもこの人は魔力が強い。


「──だから、なんなのだ」


苛立ちと困惑の騎士様。


無理もないわ。


この、私達がいる世界では、魔法使いはいない。いいえ、遥か昔は存在していたらしいけれど、今は魔術のみ。でもその魔術を操る魔術士も原因は不明だけど、年々減少している。


その為魔力が強い者は身分に関係なく産まれた時から貴重な存在の為、大切に育てられ、いずれ戦力として城で働くと決められていた。


そしてお父様がら、これは誰にも決して話してはいけないと言われた事がある。


私の家は、とても強かった魔法使いの子孫だと亡くなる数日前にお父様から聞かされたのだ。

私はそれを聞き驚きよりも、まず納得したのよね。


ああ、やっぱりと。


普通、魔術士の素質がない限り、どの人が魔力持ちかなんて分からないと言われている。

だって魔力がなければ、それを察知できるわけないじゃない。


でも、私は子供の頃から、魔力が強い人を見分けられた。それが普通じゃないと早々に気づいた私は子供ながらに、これは誰にも話してはいけないと悟った。話したら、絶対嫌な事、大変な事が起きると気づいたのよね。


私の望むことは、昔から普通に地味に目立たず生きる事なのよ。

私はライル様に近づきお願いする。



「私はお客様に触れることにより、その方の必要としている物を探す事ができます。ライル様もこんな変な店と関わりを持つのは良くないと思います」


私は片手を差し出した。


「手をお借りしたいのですが」


信じてくれなくても構わない。それで物が見つかれば、この人との縁も切れるはず。


ライル様は、迷う様子を見せた後ゆっくり私の手に触れた。


しばらくして物が動いた。

けれど。

…私のポケット?

さっきの便利屋さんが投げてきた物かしら。ポケットから小さな箱を取り出した。黒い箱を開けると。


「まあ! 可愛いわ」


中には指輪が一つ収まっていた。

多面体にカットされた水色の石が二石並んで配置され、その石の間と両サイドにとても小さいパールがそれぞれ三粒。中央は縦に、両サイドは三角形にちょこんと置かれている。


タダでくれるなんて、これ高価な品じゃないのかしら?


…私が欲しいくらいだわ。


あまり装飾品に興味がない、いえ、見るのは好きよ。でも身につけるのはあまり興味ないのだけど。でも、この指輪はとても惹かれるわ。かなり名残惜しいけれどライル様に差し出しお見せした。


「この品のようですが」


ライル様の反応は、今までのお客様と違い困惑の表情のみ。


「私は、女性の物は…いや、妹が近々結婚するが」


「では、お嬢様の為なのかもしれません」


私は、すぐに断定した。

指輪は、かなり、いえ、凄く名残惜しいけれど、これで縁が切れるならいいわ!

それに、この指輪はタダだし!


「あ、ああ、そうなのか?」

「お代は、ああ、そのリボンで如何ですか?」


タダで構わないのだけど、この堅物そうな騎士様は納得しなさそうなので、髪を結んでいた紐を見てとっさに提案した。


「それは構わないが…」


まだ状況が飲み込めていないようなライル様を無視し、品物をサービスで包装紙に包み、あっそうだこれも。


「では、どうぞ」


まあ、お客様にはかわりないのである容器の中で返却不要の一番安い器に入れたおでんと共に、指輪を押し付けるように渡し、私はドアの近くへ立った。


ライル様は、何故かため息をついた後ソファーから立ち上がり、髪を結んでいた紐をほどき、そんな仕草も無駄に色気を出していたけれど、それを私に差し出した。私は受けとると頭を下げた。


「ありがとうございました」


ドアの閉まる音で顔を上げた。

手に握っていた紐を見るとそれは、綺麗な緑色をしていた。そういえば指輪の石は、ライル様の瞳と同じだったわ。


「まっ、どうでもいいわ。あーこれで平和が訪れる!」


伸びをしながら、軽い足取りで私は、カウンターの中に戻った。


しかし、これで終わりではなかったのだ。

その時の私はまったく気づきもしていなかった。


売れた品

便利屋さんからもらったおまけの指輪


受けとった品

髪紐

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