4.便利屋さん
リンッー
「ども~」
髭の立派なお爺さんが来店した次の日の6時過ぎ。軽い口調に似合う軽い感じの30代くらいの男が来店した。
カウンターの中で暇潰しを兼ねてお父様から渡された引き継ぎ書類を見ていた私は、反射的にいらっしゃいませと言いかけ、来訪者の顔を見て言い直した。
「今晩は」
今、丁度読んでいた部分に書かれていた。
"便利屋"
…何故か夜なのに黒い眼鏡をかけているのが不気味だわ。
便利屋さんの首にかけてある太い金の鎖の先には艶のある真っ黒な懐中時計。
"年齢も定かでなく、首に下げている時計を使い時を時空をまたぐ商人"
「よっと、置かさせてもらうね~」
便利屋さんは、そう言うと同時に入って左側にある二人掛けのテーブルの上に黒い大きなバックを置いた。
黒い眼鏡を外しながら彼はカウンターに近寄ってきた。
眼鏡を外しても彼の瞳は黒。
襟足で一つに結んである髪も黒だ。
「噂では聞いたが旦那が死んだのは、本当のようだな」
「はい。マリーと申します」
よろしくお願い致しますと頭を下げた。
「あ~堅苦しいのいいから~」
「はあ」
彼はさも嫌そうに手を振った。
「さて、店内みせてもらうぜ。その間、食べる物の準備をよろしく~」
「はぁ」
そう言うやすぐにふらっと棚の方へ向かった。
"便利屋には食事を多くだすように。商品に関してはしばらくは、彼任せで構わない。仕事はキッチリやる人物だ。"
「さて、この棚のは古いからこっちで回収して、その花は、欲しがってる金離れがいい客いるから貰っていくな」
カウンターのガラスケースの上には、便利屋さんが広げた物でいっぱいだ。
彼が今回持って帰るのは、棚の奥に転がっていた綺麗なガラス瓶に入れられた飲めば数日間寝ないで動けるという薬が三瓶と同じく似たような錠剤が入った飲めば数時間夜目がきくという二瓶、計五品と部屋の隅に立て掛けられた何の特徴もない木の杖と妖精さんと交換した鉱物のような花。
「んで金貨は、品物と金にチェンジするわ」
「えっ換金してもらえるのですか?」
「ああ。まあその時の額や置いていく物の差額だから少ないよ」
てっきり物々交換だけかと思っていたのだけど。少しでも生活のたしになると聞けば少しやる気がでてきたわ!しかも思っていたよりお金を貰えたので嬉しかった。
「あと、これは完全に俺が食べたいから」
出された緑の板のような物は、今日の料理にも使われている昆布という乾燥した海藻だ。
「よし、これでとりあえず仕事は済んだ」
「あっ食事を持ちします」
私は温めていた料理を深い器に盛り便利屋さんの前に置いた。
「おっいいね~。匂いといい見た目といい懐かしいな」
今日用意したのは、おでん。
これもお父様から渡された料理の引き継ぎに書かれている品の一つ。
野菜は似た物があるけれど、昆布という物は手に入らずこの便利屋さんが持ってくると書かれていた。
「汁が染みててウマイ」
「前日から煮込みました」
「いいね~」
ふうふうしながらも次々と平らげていく姿は、何故か無邪気な表情をしていて少年のようだわ。山盛りのおでんは、あっという間になくなった。
「じゃ、帰るわ~」
もっとゆっくりしたいんだけど、時間の進み半端ないからなぁとよく分からない事を呟きながらドアへ向かった。
「あっそうだ、これおまけであげる」
彼は去り際ポケットから小さい箱を取り出し私に投げてきた。
「えっ、あの!」
「次回は、そんなに間空かないでこれると思うので~よろしくね」
箱の中身を確認する間もなく便利屋さんは行ってしまった。
「なんだか、嵐のような人だったわ」
ドアに背を向けた直後。
リンッー
あら?
「忘れ物でもありましたか?あっ、申し訳ございません」
便利屋さんが何か忘れたのかと思い振り返れば、ライル様だった。
゛欲する品物がないのに三回来店できた客は、品物ではなく、この店か店主に深く関わってくる人物゛
書類には、それしか書かれていなかった。
「何か予定があったのか?」
「いいえ、先程帰られたので大丈夫です」
「店主?」
騎士が関わるって良いとは思えないのだけど。
頭を振り切り替える。
「考え事を。申し訳ございません。いらっしゃいませ」
私は営業用の笑顔をつくり挨拶をした。
貰った物
便利屋さんからのおまけ