37.芽生えた執着心 〜ライル〜
「これは」
「あ!」
ふと、あの黒い男とは違う気配を感じて辿れば一枚の紙切れが目についた。
「見ても?」
彼女の焦る様子に更に気になった私は、伸ばされた細い手を避け紙を引き抜いた。そこには……特定の相手を近づけさせない方法? 彼女を見れば、目を逸らされた。
それを見れば誰に対してかは一目瞭然だった。
「何故?」
「つ、離して下さい」
先程、避けたはずの彼女の腕を思わず掴み引き寄せた。怯えていると察していても、今はこの腕を放す気にはなれない。
「私は、戯れで貴方に接していたのではない」
最初は、ただこの不思議な部屋に迷い込んだだけだった。
警戒と猜疑心。
「ライル様、痛い!」
「すまない」
「なっ」
小さな悲鳴に腕から手を離し自分の身体に引き寄せ抱きしめた。
小さく柔らかい彼女を両の腕の中に閉じ込めた瞬間、とても心が満たされた。
ああ、自分はずっとマリーをこうしたかったと実感した。
「貴方は、私にいつも色々な食事を出してくれた。困ったような顔が徐々に柔らかくなり、思わず頭に唇を落としても拒むことはなかった」
つい先日、その唇にも触れたばかりだ。
「マリー、貴方の今の状況や家柄以外で私が納得できる説明をして欲しい」
私が貴方をどれだけ欲しているか。
「とりあえず離して下さい!」
その見上げてくる、懇願する瞳が余計に私を煽っていると、そろそろ気づいてよい頃だ。
「まず、この紙を燃やしてから話をしようか」
悲しそうな顔をされても、こればかりは無理だ。
「ライル様」
「まだ、閉店まで時間はある。今夜は私が茶を淹れよう」
どれだけ貴方に惹かれているかは話しきれないかもしれないが、二度と突き放すという選択を選ぶのは不可能だと知ってもらえるくらいはありそうだ。
私は、マリーの頭に口づけを落としながら、承諾を得る前に闇の気配を色濃く残す紙を燃やした。