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2.可愛らしいお客様

リンッー

開店して3時間ほど過ぎた頃ドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」


カウンターの奥で椅子に座り、読書をしながら待機していた私は急いで立ち上がりお客様をお出迎え…?


「あらっ? 確かにベルの音がしたのだけど」


ベルの音はしたのに部屋の中には誰もいない。

気のせいだったかしら。


「…」

「?音が」

「ここよ!」

「うわっ!」


私は、突然目の前に現れたお客様に驚き後ろにひっくり返りそうになり、なんとかこらえた。


店主となり初めて迎えたお客様は、小さな女の子の姿をし蝶々の様な羽をはためかせ中に浮いている可愛らしい妖精さんだった。鼻先で浮いているのでつい寄り目になってしまう。


「ねぇ! 此処にくれば探し物が見つかると聞いたのよ! とても急いでいるの!」


忙しなく羽を動かし、恐らくお客様にとってはとても大きな声を一生懸命だして聞かれた。


真剣な妖精さんの表情に私は直ぐにお客様の前に両手の手のひらを開いてお願いする。


「私の手のひらに手を乗せて下さい」

「えっと、こうかしら?」


小さな手が私の手に触れしばらくした時。


…カタン


ガラスケースの一番隅の箱が微かに動いた。


「少々お待ち下さい」


私は急いでケースの鍵を開け、箱を取り出し蓋をあける。中には、丸い1センチも満たない艶のあるパールが一粒。でも、この部屋の物達は普通なわけがないわ。お客様の前で箱を開きみていただくと。


「これっ! きっとこれだわ!」


興奮しながらパールに触れる。


「間違いない! マラールの雫!」


…まずいわ。

この部屋にある全ての品をまだ把握していない私はお客様の言葉で、そのパールにしか見えない物の名前を知った。


「これ、下さい!」

「それは構いませんが」


お父様は、価格の話をまったくしていなかったのよね。


ああ、確か子供の頃。


『種族も世界も違うお客様が来店されるから、価値もそれぞれだし、値段はお客様に決めてもらっているんだよ。金貨やその品に相当する物でお支払をしてもらったりもするなぁ』


『それって儲からないわ!』


『ああ。だから副業さ。だが、これはお金に変えられないほど素晴らしい仕事だよ』


『意味がわからない』


『そうだなぁ。もう少し大人になったら、きっとマリーなら分かるさ』


『私は、もう立派なレディよ!』


『ふふっそうだね。私のお姫様』


「ねぇ、代わりにこれと換えてもらえるかしら?」


昔の記憶を思いだし一瞬お客様の存在を忘れていた。いけない!初日から駄目だわ。


「あっ畏まりました。これは…とても綺麗だわ」


それを見た私は、つい声に出してしまった。


「そうでしょ! プリメルの花は滅多に見つからないもの!」


妖精さんは、背中に背負っていた物を私の手のひらに置き、それはとても小さいピンク色の花が1輪。でも普通とは違い花びらも茎も鉱物でてきているようだ。部屋の少し照明を落とした光に反射しキラキラと光る。


「お買い上げありがとうございます」


口から交渉成立の言葉がでていた。


「よかった! これで女王様の病が治るわ!」

「あっ、お待ち下さい!」


直ぐに去ろうとした妖精さんを引き留めた私は、急いで出せなかったスコーンとジャムを悩んだ末にスコーンは細かくなりすぎないよう砕き、ジャムはスプーン一杯ほどを漏れないよう別に包んだあとハンカチで全てを包み差し出してみた。


「よろしかったら、どうぞ」

「まあ! 美味しそうだわ!」


匂いで分かるのか、鼻をくんくんする仕草をした後とても嬉しそうに笑い受け取ってくれた。


「また来たいわ!ありがとう!」

「ありがとうございました」


お客様に頭を下げ、ドアの閉まるベルの音で頭を上げた。


本当ならドアを開けるのが礼儀だけれど、このドアだけは、来店したお客様しか開閉出来ない。


何故なら、何処につながっているか分からないから。


「やっぱり接客は、私には向かないわ」


知らぬ間に肩に力が入っていたのに気付きゆっくり腕を回す。


「裁縫をしているほうが気を使わず、よっぽど楽よ」


嫌だわ。

つい独り言がでてしまう。

ふと壁に掛かっている時計を見ると、あと少しで9時だった。交換した花をケースに入れ、ドアの鍵を閉めようとカウンターを出ようとした時、またベルが鳴った。


「…此処は何の店だ?」


閉店間際に入って来たのは、顔は知らないけれど私のいる町で見かけた事のある制服。

騎士様だった。


──驚いた。


この町、この国の人が来店だなんて。

前に過去の来店の記録をざっと見た時、50年くらい前に1人だけ記されていた。しかも、よりによって騎士だなんて最悪。


探るように周りを見渡した騎士様と目が合う。

背はかなり高く水色の瞳にダークブルーの髪。

かなり女性に人気がありそうな顔だわ。


この物腰、この人は貴族。

何故分かるかというと亡くなったお母様が貴族だった。お母様は変わり者で有名だったらしく、貴族の中でも特に良い家柄だったのに、お父様に一目惚れし家を捨て結婚したらしい。

らしいというのは、お母様は、私が幼い時に亡くなってしまったから。


それでも、穏やかで優しい笑顔、普通の動きなのにとても優雅に見えた姿は今でも覚えている。そのお母様に似ているわ。


そして今なら分かる。

厳しく躾られているからこその優雅な動き。


「おい」

「あっ申し訳ございません」

「何かお探しですか?」


そう伺うと騎士様は、訝しげな表情をした。


「いや、特にないが」


──おかしい。

必要な物がない限りここへは、絶対入れないはず。でも、騎士様の様子では嘘を言っているようにも見えない。


「この店は、先祖代々副業で続いている古道具屋です」


こうなったら、さっさと帰っていただくしかない。


「そうか。細い路地の先だから、赴任した時確認が漏れたか?」


呟く騎士様がテーブルにあるスコーンを見た。

…えっと。


「私が作った物ですが。召し上がりますか?」


物欲しそうに見ているので、つい言ってしまった。店の中を胡散臭そうに見ていたし嫌がるかと思いきや。


「いいのか?」


そんな嬉しそうな顔されたら、さっさとお帰り下さいとも言えないじゃないの。


「旨かった」


ー結局お茶も淹れて出した私は甘かったかしら。


「今日は、すでに遅いのでまた日を改め見に来る」


こんな遅く迄1人店を開けるなと注意され、意外にアッサリ帰ってもらえた。帰り際に名前を教えてもらったけれど。


「ライル様、あなたはこの部屋から出ればきっとこの店の事も私の顔すら覚えていないでしょう」


この店に来て目的の品を得て部屋から出るとこの店の事は覚えていても扉を見つける事は、なかなかできないとお父様に教わった。用事がないライル様なんて、尚更記憶から消えるに違いない。


「まぁ顔は好みだけど貴族だし、ないわよね」


私は、もう今日はお客様が来ないようすぐドアの鍵をかけた。


「さっ、残ったスコーンでも食べてさっさと寝ましょ」


伸びをしながら、お茶を飲もうと私は、お湯を沸かしに奥のキッチンに向かった。


この騎士様とこの先何度も会う事になるとは、その時の私は思いもしてなかった。



店主になった日に売れた品

・マラールの雫ー妖精の病に効く薬らしい。


お金の代わりに受け取った品

・プリメルの花1輪ー花びらを砕いて意中の人に飲ませると強力な惚れ薬に。



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