幕間 星は流れる
窓辺にもたれ、瞬く街を見下ろす。
さして面白くもなかった。
「星がひとつ、流れましたか」
「いや。ふたつ」
ブレザーの右袖をまくりながら、訂正を入れた。
顔を出した銀色の鈴が、ちりん、と転がる。とても綺麗で、しあわせな音色。
「今回の件につきましては、須藤理玖という少年……彼が、いちばんの被害者ではないでしょうか」
ちりん、ちりん、と鈴を響かせるのは、優越感。
「もっと早く日野さんとお会いできていたら、結果は変わっていたのでしょうね」
……ちりん。
「笑わせるなよ」
汚れてしまいそうで、鈴をすかさず、袖に隠した。
「そうでした。あなただけの〝ふぅちゃん〟でしたね。ごめんなさい、零?」
悪びれていない声色だった。
漆黒の闇で、おかしげに声が震える。
「〝隠し名〟と〝はぐれ猫〟……水と油が、こんにちはをしたようなお話ですこと」
「もういいだろう。いなくなったヤツのことなんか、考えなくとも」
「そうですね。神の洗礼は滞りなく。星は、あるべき場所へと還るでしょう」
いい加減、その言葉は聞き飽きたな。
「……散り散りに砕けて、消え失せればいいのに」
あのヒトの孤独な夜空に、星はいくつも要らない。
夜風が舞い込む。
そうだ。闇の世界は、冷たくて、孤独だ。
「あら、もう行くの? 久しぶりに帰ってきたのですから、くつろいでおゆきなさいな」
窓枠に手をかけたところで、そんな戯言が耳に届く。
「くどい」
帰ってきた? なにを履き違えれば、お花畑な発想に至るのか。
「おまえたちに飼われるくらいなら、薄汚い野良のほうがマシだ」
振り向きざまに、殺気を込めた眼光で、貫く。
「彼女に手を出したら――殺す」
闇が、笑った。
「ふふ……行ってらっしゃい、零」
含み笑いにかまわず、瞬く街へと身を投げる。
空を切る夜風に、ブレザーのネクタイがひるがえった。
「また、お会いしましょう?」
――墜ちゆくおれは、その言葉を捕らえそこねた。




