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いつかどこかのレボリューション

作者: 重原重治

「もう限界よ!」

 リムは叫んだ。その叫び声は周囲の者たちにも届き、当然、彼女の周りには皆が集まった。

「どうしたんだ、いきなり」

 彼らの中ではリーダー格のコトが暴れようとする彼女を抑え込む。そうしなければ今すぐにでも壊れてしまいそうなほどに、彼女は取り乱していた。

「どうしたもこうしたもないわよ!私はいつまで、こんなところで労働しなくちゃいけないの!?」

 彼女は疲れていた。度重なる労働で、彼女の身体は既にボロボロだった。確かに、最初は加工したてのカップのようにきめ細やかだった彼女の肌も、今となっては所々に穴が開いている。正しくボロボロだ。

「私たち、何年働きづめなのよ。一年?二年?いいえ違うわ。五年もよ!五年の間、私たちはずっと休みなし。毎日毎日あっちとこっちを往復して、それで身体をすり減らし続けるだけよ!なんなのよ!いやよこんな生活!」

「やかましい女だ」

 彼女の様子を遠くから見ていたカーボは、馬鹿にした声音で言った。当然、それはリムにも聞こえてしまう。案の定、ただでさえ余裕のないリムは激昂して、また肌が若干荒れた。

「なんですって!?あんた、何様のつもりよ!」

「俺たちは元々そういう存在だろうが。使い潰され、用済みになれば捨てられる。どれだけ恨み嘆いたところで、それが変わることはない。あいつらは使う側で、俺たちは使われる側だ」

「あんたはそれで悔しくないの!?どうにかしたいとは思わないの!?」

「ふ、そんなことを考えたこともあったな。だが、知ってるか?世の中にはな、どうにもならないことなんて言うのは山ほどある」

 カーボは皮肉気に、しかし悲し気に呟いた。その言葉につい、興味を引かれたリムは、何があったのかを聞いた。

「・・・そうだな、まあいいだろう。昔の話だ」

 昔を思い出すように、カーボは話し出す。

「俺にはな、兄弟が居た。随分優秀な兄弟だったさ。特に一番上の兄さんなんて大したもんだ。輝いていた。この上なく、誰もが羨む位にな」

 彼は大陸からやってきた、それは皆知っていた。長い間労働に明け暮れる毎日。娯楽も何もないこの場所では、お互いの身の上話が唯一の娯楽だったからだ。

 だが、彼はその家庭環境を、頑として語ろうとしなかった。

 それが破られたのは、諦めもある。しかし、彼もまた疲れているのだろう。

「俺も、兄さんのようになりたかった。そのために多くの奴らとつるんださ。不良、優等生、色んな奴とな、そして、世間の重圧に押しつぶされそうになりながら、頑張って自分を磨いて行った。いつか、輝ける宝石になるために」

 彼の語り口調は、在りし日の、輝いては居なくとも、努力していた日々を思い起こしているのだろうか。あまりにも胸に突き刺さり、感受性の高いエルなどは涙ぐんでいた。

 しかし、そこで声は、どん底に陥った。

「そんな時だ。俺たちは、見出された」

 彼の住処は、心無い者たちによって荒らされた。彼らが長く住んできた住処は、もう跡形もない。

「兄貴はその時、既に十分な逸材だった。すぐに重宝され、どこかに言っちまった。きっと、どこかの良いところに努めて、自分を磨いているはずさ。だからよかった。けどな、俺は、色んな連中とつるんだその時だったんだ。これから、そう、これからだったんだ。俺たちは、低賃金で雇われるだけの労働者になった。バラバラにされて、気が付けばこんな薄暗闇でよくわからないものを運搬する毎日さ」

 カーボはそれっきり、何も話さなくなった。

 皆も、何も話さなかった。

 話せなかった。あまりにも残酷過ぎたのだ。

 彼は何も悪くない。言ってしまえば、運が悪かったのだ。

 今から努力しようと思っていたときに、その努力の道を断たれてしまうというその苦悩。それはいったい、どれほど苦しいことなのだろう。

 誰もがそう思い、エルに至っては号泣していた。

「―――くだらないわね」

 だが、リムはそれを一笑に付した。

「―――なんだと?」

 カーボは静かな怒りに身を震わせていた。エルもまた、それに呼応するように震えている。だが、リムはそれに物怖じない。

「くだらないって言っているのよ。何よ、それって要するに、昔のことじゃない。昔、自分が努力したけどどうにもならなかった。だから次もダメだって。何の根拠もなしに決めつけているだけじゃないの」

「ふざけるな!貴様に何が分かる!」

「わからないわね。あんたみたいな負け犬の遠吠えなんか聞く耳持たないわ!私はね。負け犬になるつもりはない。こんなところで労働者をやっていても、まだ、再起の眼はある。私は諦めない」

「どこにあるというんだ!俺たちはこのまま使い潰されて、用済みになれば捨てられるだけだ!」

 カーボの言葉は、真理だった。上の人間に慈悲などない。あるのはただ一つ、役に立つか、立たないか。その判断だけだ。彼女たちの意志など彼らには関係ない。

「けど、それなら見せつけてやればいい。私たちは、ただ消費されるだけの存在じゃないってことを。追い詰められれば、奴らの思いも寄らない方法で復讐することが出来るってこと」

 リムの声には、力があった。

 彼女は追い詰められ、限界になった。弱音を吐き、折れそうになった。

 しかし、彼女の身体には確かに、意志が宿っていた。

「良い?可能性が一パーセント、いいえ、ゼロじゃない限り、私たちに抗う術はある。立つのよ、立って戦うの!戦わない私たちに何の価値があるの?ただ使い潰されるだけで良いっていうの!?私は嫌よ!そんなの!さあ、立ちなさい!私たちは戦って、戦って、勝つの!勝てなかったとしても、奴等に一泡吹かせるのよ!」

 彼女の身体が一回り大きくなった。彼らにはそれが分かった。

「立て!立つの!私たちは戦うの!例え身体をバラバラに引き裂かれようとも、身体が一粒でも残っている限り戦い続けるの!それが私たちを好きなだけ酷使してきた奴らへの、復讐よ!」

 叫び声が、木霊した。

 誰もが、口を開けなかった。コトは難しい顔をしている。エルは音に震えている。

 カーボは、少しだけ、迷い、呆れたような声を出した。

「・・・貴様は、強いな」

「いいえ、強くないわ。ただ、往生際が悪いだけよ」

「ああ、そうだな。往生際が悪い。お前の生き方は美しさではない。輝いては居ない」

「ええ、そうね。私は所詮、暗闇の中でしか、粋がれないような弱虫よ」

「だが」

 カーボはそこで言葉を切り、彼女に手を差し伸べた。

「気に入った。俺が力を貸してやる」

 リムは驚いたようだったが、すぐに冗談めかした口調で返した。

「ふふ、私は安くないわよ。また、会う時があったなら、その時はもう少しお話ししましょう」

「ああ」

 リムはカーボと向かい合い、遂に、その手を取った。

 瞬間、全てが白い光に包まれ、消えていった。







「今日未明、充電していた携帯電話から火が出て、家が全焼するという事故がありました。幸い家主は外出していたため被害は家だけに留まったものの、メーカー側は急遽、記者会見を行うとのことです」

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