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プロローグ肆 ボクの『魔法』

ボクが神様からもらったのは『魔法』だった。

ボクは極度の人見知りで、友達を作るどころか会話すらままならない。ずっと一人だった。もはや自分だけではどうしようもないと思った。だから神様にお願いしたのだ。


「誰とでも話ができるようになりたい」


と。心の底から願った。だからなのだろう、すぐに神様が現れたのは。


『その願い、叶えてあげよっか?』


ふわりと。浮遊感漂う感触。初めて神様を目にするのに、不思議と安堵感があった。


「神様……神様……!」


言葉が出てこない。言いたいことは決まっている。でも、いざ自分が発言するにあたって、いつも喉がカラカラに乾くくらい緊張する。神様はそれを察してか、ボクの代わりに質問をしてきた。


『君は純然たる願いで私を呼び寄せた。だから私は君の願いを叶えてあげたい。でも、それには代償が必要だ。君は、何かを失ってでも、その願いを叶えてほしいかい?』


神様の言う代償とやらがなんなのかは分からない。それでも願わずにはいられない。ボクがボクであるために。


「……! ……!」


全力で首を縦に振る。口で言えなくても、意思表示くらいならできる。


『……そう。そうか。なら叶えてあげよう。本人の同意をいただきました。ほら、君はもう私の『契約者』だ』

「…………?」


意味が理解できない。ただ……今まで見えていた世界が、突然変わったのは確かだ。


『色の判別ができない』


ボクの見えるもの全てが、白と黒の二色しか存在していないのだ。色の強弱こそあれど、それが何色なのか全く分からなくなっていた。

戸惑っていると、神様が説明しだした。


『それが君に与えられた代償だよ。君の願いを叶えるための代償。だけど、きっとその願いは君を幸せにしてくれると、私は信じてるよ』


本当に叶ったのだろうか? 消えていきそうな神様を、ボクは呼び止めた。


「待って! ボクはどうなったの? ボクは本当に、誰とでもお話できるようになったの?」


神様は当たり前だと言わんばかりにクスクスと笑う。


『できるよ。だって、君はもう私とお話してるじゃない。さあ、お別れだ。またどこかで会えるといいね』


そういうと、神様はスーッと消えてしまった。

それからというもの、ボクは一人ではなくなった。クラスのみんなとお話できる。まるで『魔法』に掛かったみたいに、今までと全然違う。ありがとう、神様。ボクは神様に会うたびにそれを言うことにした……。




「ちょぉっと待ったぁ!」

「うわお。どうしたんです?」


話の途中だが、俺は嵐子を遮った。気になることがあったんだ。


「神様に会うたび?それってつまり、神様に複数回会ったってことか?」

「は、はい……。だからいろんなことを神様から聞きましたよ?」


やっぱりそうか。俺は一応確認のために宝月先輩と白羽に目配せしてみる。が、二人とも予想通り、首を横に振った。最初に願いを叶えてもらった時以外で、神様と出会っているのは嵐子だけなんだ。


「どんなことを聞いたんだ? 俺たちは『契約者』だが、いかんせん情報が足りない部分がある。知っていることを全部教えてほしい」

「それは別に構いませんけど……先に先輩方の話を伺ってもいいですか? 教えるにしても、どこからどこまで知っているのか分からないと、ボクも説明のしようがありませんし」


う、うむ……。嵐子の言う通りだ。俺と宝月先輩、それに白羽は自己紹介を含めた神様との経緯を、かいつまんで嵐子に話した。


「ふむふむ。なるほど理解しました。お名前は藍輔先輩に、遥先輩。そして白羽先輩ですよね」


嵐子は俺たちを一人ずつ指差しで確認しながら名前を言っていく。


「ところで、その先輩ってなんだ? ネクタイの色からして、俺と同学年だろ?」

「ああ、言ってませんでしたっけ? ボク、本来なら中学二年生なんですよ。飛び級で高校に入りました」

「…………」

「帰国子女ですから!」


な、なんだって!? じゃあ嵐子って、めちゃくちゃ頭良いの!? まあ確かに、身体が小さいから中学生みたいだなとは思ったけども!


「ほう……飛び級?」


そしてそれになぜか食らいつく宝月先輩。え……もしかしてライバル心が芽生えたのか? 自分の『才能』より上がいるのが気に入らないのか!?


「ねえ嵐子ちゃん? 私たちに嘘ついてない? 実はその頭の良さが願いだったりとか、その身体の成長が貧相なのが代償とかだったりしないわけ? ねえ?」


この人顔は笑ってるのに目が笑ってない! 今日一番怖い顔だよこれ! ガトリングパンチしてた時よりよっぽど怖えや。


「失敬な! ボクは嘘なんてついてませんよ。それにちゃん付けはよしてください。ボク、オトコですよ?」

「……にゃ?」


宝月先輩から可愛い鳴き声。無理もない、だって嵐子がオトコってそんなそんな……。


「「マジで!?」」


俺と宝月先輩が綺麗に声を揃える。そんな俺たちをよそに、白羽が嵐子に話を促す。


「今は『契約者』についての話をしているんだろう? 嵐子から色々聞いておかないと」

「そ、そうだな!」


嵐子が本当に中学生だったり、男だったりも衝撃的だが、今はそれよりも『契約者』についての情報を知りたい。嵐子が周囲を見渡して話の出始めを伺う。


「ふう……。ではいいですか? 神様との『契約者』になった者は、神様に対する信仰心を糧にボクらの願いを叶えてくれます。しかし、それには代償が付きものです。藍輔先輩の言う『呪い』のように」

「…………」


自分で言う分にはあまり意識しなかったが、他の人が言うとこう……グサッとくるな。


「神様いわく、願いと代償は表裏一体、つまりは光と影のような存在だと言っていました。願いに対してどんな代償を支払うことになるかは、神様でも分からないそうです」


まあ、そうだろうな。神様は代償のことについて、あまり触れたくなさそうな感じだったし。


「ただ、願いの大きさに応じて、代償の方もいくらか変わるとも言ってました。大きな願いを叶えるとなると、それだけ代償も大きくなる」

「なるほどな。だから光と影ってわけか」

「はい。だから神様はボクたちのことを『表裏一体の契約者(コントラスト・コントラクト)』と呼ぶこともあります。普通に『契約者』とも呼んでる時もありますけど」


表裏一体の契約者……コントラスト・コントラクト、か……。語呂はいいが、いかんせん長い名前だな。

嵐子が続ける。


「あとは……あ、代償に対して逆らうような行動を取ると、願いがあまり機能しない、みたいなことも言ってましたね」

「願いが機能しない? どういうことだ?」

「簡単に説明します。藍輔先輩は『呪い』を受けてますよね?」

「あ、ああ……」

「つまりその『呪い』……言わば代償ですね、それに対して抵抗をしましたよね? だから今まで『契約者』に会わなかったのかと」

「…………」


言われてみればそうだ。確かに、無理に友達を作ろうとしなくなった途端、宝月先輩たちに出会っている。しかも一気に三人も。辻褄は合っているな。


「こんなところですね。ボクの話は以上になります」


嵐子が一息つく。嵐子の話のおかげで分かったことがたくさんある。頭が下がるばかりだ。


「ん、ありがとな。色々教えてくれて」

「いえいえ。お役に立てたなら至極光栄ですとも」


少しだけ疲労した顔を覗かせたが、嵐子はすぐに笑顔に変えて手をヒラヒラさせた。

閑話休題とばかりに、宝月先輩が別の話題を振ってきた。


「それにしてもアレよね。園田くんの『特別な力を持った人と仲良くなりたい』ってやつ、なんか湿っぽくなっていくわね」

「どういうことです?」

「だって嵐子ちゃんってば、他人とコミュニケーションを取れるようになっただけで『魔法』とか言ってるのよ? それって、園田くんの言う『特別な力』なのかしら?」


言われてみればそうだ。『魔法』というにはあまりにも規模が小さい。しかしそれに対して嵐子は反論する。


「『魔法』ですよ! 今までとは違う世界が見えてるんですよ、二重の意味で! だからこれは『魔法』以外の何ものでもありません!」


……まあ、本人の受け取り方次第なんだろう。『特別な力』ってのはつまるところ『契約者』なら誰でも当てはまるんだろうけど、願ったものがその人にとってなんなのかは俺たちに分かるはずないんだ。

俺が『呪い』というように。

宝月先輩が『才能』というように。

白羽が『奇跡』というように。

嵐子が『魔法』というように。


「……まだまだいるのかもな。『表裏一体の契約者(コントラスト・コントラクト)』」


ボソリと呟く。まだ見ぬ『契約者』とも会えるかもしれない。そんな淡い期待から漏れた言葉だ。


「どうせならもっと恰好いいのにしなさいよ。私みたいなね!」

「遥先輩はダサダサです! ボクの方がよっぽどマシってもんですよ!」


口論の続く二人をなだめるのは白羽。


「二人とも、校舎案内はどうしたんだい? 早く行かないと日が沈んでしまうよ」

「あ! そうでした! では一時休戦といきましょう遥先輩」

「むむ……仕方ないわね。自分から引き受けちゃったからにはちゃんと案内するわ。ほら、行くわよ」


宝月先輩は半分置いてけぼりのようにスタスタと先を行く。嵐子もブツブツと文句を言いながらも後ろから付いていく。


「……俺らは帰るか」

「うん。そうだね」


俺はいつもより早足で帰路に着いた。





翌日の放課後。俺の足は自然と四階へと向かっていく。昨日と同じ部屋の扉を開けると、すでに他の三人が俺を待っていた。


「遅いわよ、園田くん!」

「来ると思ってたよ、藍輔」

「藍輔先輩! ビリですよ、ビリ!」


それから俺たちは、毎日ここに集まってバカ騒ぎをするようになった。

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