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プロローグ弐 私の『才能』

私が神様からもらったのは『才能』だった。

私の父は弁護士の仕事をしていて、とても頭の良い人なのだ。私の自慢の父親だ。だけど娘の私はそんな聡明な人なんかじゃなかった。それは小学一年生の最初の総合テストで思い知った。全ての教科において二桁の点数もないのだ。

それを見た父はどう思ったのだろう? 叱られることはなかった。でもそれが逆に私の心を苦しめる。もしかして、幻滅させてしまったのだろうか? そんな想いを錯綜させながらも、私は必死に勉強した。私のせいで父を馬鹿にされたくないから。

それから一年後。再び総合テストを受けた。結果は、惨敗だった。全くといっていいほど成果がない。その時私は神様に願ったのだ。


「誰にも負けない記憶力がほしい」


と。そして神様は本当に現れた。


『その願い、叶えてあげよっか?』


ふわりと。私の身体全体を包み込むような感覚。まるで宙に浮いている気持ちになる。


貴女(あなた)は、神様?」

『うん。そうだよ。君の純粋な願いは私が叶えるに相応しい』

「だったら叶えて! 神様なんでしょ? すぐに叶えてよ!」

『あ、うん。色々説明したいところだけど、それらは聞かなくていいの?』

「いいから! はやく!」


正直に言うと、この時の私は焦っていた。これが世間様で言うところの『一生に一度のお願い』だと思ったからだ。


『はいはい……本人の同意を頂きました。これから君は私の『契約者』だ。君の願いを叶えるためのね。きっとその願いは君を幸せにしてくれると、私は信じてるよ。またどこかで会えるといいね』


そう言うと彼女は宙に浮いて消えていった。

それからの私は一切の物忘れをしなくなった。どんな細かい事柄であろうと瞬時に記憶し、それを思い出すことができるようになったのだ。おかげで成績もすこぶる調子が良い。これを『才能』と言わずして何と言おうか。

ところが、引き換えに私は大事なものを失っていた。それに気づいたのは、ある女子生徒に落とした消しゴムを拾ってもらった時のことだ。


「宝月さん。これ、落ちてたよ」

「え? あ、ホントだ。ありが……」

「…………?」

「あ……ありが……」


最後まで言えない。感謝の言葉が、うまく言葉になって出てこない。これは……。


『自分の気持ちを伝えられない』


それは感謝の気持ちだけではなかった。謝罪。不満。嫉妬。感動。それら全てが他人に伝えられない状態になった。

それでも私は、この神様のくれた『才能』の代償というのなら喜んで受け入れる。だって、私のお父さんはこんなにも嬉しそうだもの……。





「……これが私の神様との出会いと『才能』のお話よ」

「…………」


宝月先輩は言い終わると、どこか遠くを見つめている。俺はなんと言葉を掛けて良いか分からない。


「さ、今度は園田くんの番よ。私がここまで話したんだから、あなたもそれ相応の情報を聞かせてくれないと困るわ」

「……そうですね。じゃあ俺の話をします。俺と神様との出会い。そして、この『呪い』の話を……」


俺はなるべく事細かに説明した。俺の願いのこと。神様のこと。『呪い』のこと。他にも『契約者』がいるらしいこと。

話を聞き終えた宝月先輩はいの一番にこう答えた。


「なるほどね。だから自分とフレンドリーに会話が成立した私を『契約者』だと思ったわけね。自分と仲良くできるのは『契約者』だけだから」

「その通りです」


他人とは仲良く出来なくとも、『契約者』となら話は別のはずなのだ。そう思わなければいくらなんでも理不尽すぎるだろう。


「でも不思議ね。三年間も『契約者』に会わなかったっていうのは。いやまあ、どこかでばったり会ったけど気づかなかっただけかもしれないけど。『特別な力を持った人たちと仲良くなりたい』っていうのはつまり、その『契約者』と会わなければ意味がないものね」


俺もそれについてはさっきから疑問に思っている。本来なら、神様がくれたこの『特別な力を持った人と仲良くなりたい』という力でもっと『契約者』と呼べる人たちと出会っているはずなのだ。神様自身もそう言ってたし。ただ単に絶対数が少ないだけなのかもしれないが。


「まあそんなの今更首を傾げても仕方ないわ。とにかく、園田くんの近くに居ればその『契約者』と出会う確率が上がるのは間違いないのね?」

「確証はありませんけど多分……。何かするつもりなんです?」

「そりゃあ決まってるじゃない。私もその人たちと仲良しになって、そんでもって友達になるのよ!」


高らかに振り上げられる拳。いやそんな風に力説されても分かりませんがな。


「いやまあ俺は『呪い』のせいで友達いませんけど、宝月先輩にはいるのでは? わざわざ数の少ない『契約者』を探さなくても」

「……フン。私もね、園田くん。『自分の気持ちを伝えられない』せいで友達いないのよ。だったら同じ『契約者』に私の事情を知ってもらうしかないじゃない」


宝月先輩はその時だけ目を逸らした。触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。よくよく考えてみると、何かしてあげてもお礼の一つも言わない人など好印象を持たれるわけがない。


「……なんかすみません。軽率でした」

「別にいいわよ。気にしてないから」


ふう、と短い溜め息。俺はこの言葉が嘘なのだと分かった。だってこの人は『自分の気持ちを伝えられない』のだ。気にしてないという気持ちを伝えられるはずがない。


「あ〜はいはい! 暗い話はここまで! とりあえず私と園田くんは友達になったってことでOK?」

「う〜ん、そうですね。そういうことになりますね」

「良かったわね園田くん! 初めて友達ができたわよ! 嬉しい? 嬉しいわよね!?」


そうは言うが嬉しそうなのは宝月先輩の方だ。まあ俺の場合は一応初めてではないんだけど、そこは黙っておこう。


「はい。嬉しいですよ。こんな可愛い先輩と友達になれて」

「は!? か……可愛い?」

「え? あ、はい。可愛いじゃないですか」


可愛いという単語に過剰反応を見せる宝月先輩。なんか顔が赤い。


「どうしたんです?」

「べっとぅに〜!? なんでもありませんけどぅ〜!?」


発音がおかしい。口も尖ってるし目も泳いでる。誰がどう見ても挙動不審なのは明らかだ。分っかりやすいなあ、この人。


「宝月先輩は可愛いじゃないですか。その金髪と碧眼は親が外国人とかなんですか?」

「え? ま、まあね! 私のお母さんがイギリス人なのよ。多分それのせいね」

「へえ〜。じゃあ宝月先輩は日本人とイギリス人のハーフということに?」

「まあそうなるわね。私は母親似だから、可愛いって言ってくれるなら、きっとお母さんも喜ぶと思うわ」


ニヒヒとはにかむ宝月先輩。どうやら他の人を通してなら自分の気持ちも伝えられるようだ。おそらく、神様との『契約者』となってからずっと行ってきたことなのだろう。

パタンと。突然、本を閉じる音がした。


「「ひょっ!?」」


二人して同じ驚き方。音のした方へ振り向くと、部屋の隅でパイプ椅子に座った少女がいた。手にはさっき閉じたと思われる本が握られている。誰もいないと思い込んでいただけに、幽霊でもいるのとか思った。が、その人に足はちゃんとある。

顔の右半分が隠れるボブカットの髪。眠そうな眼。無表情なのに可憐さがある顔立ち。なんだかお人形さんを彷彿させる。蝶ネクタイの色からして、俺と同級生のようだ。

あ、目が合った。


「話は聞かせてもらったよ」


抑揚のない声。それは名の知らぬ少女が発したものだ。それに答えたのは宝月先輩。


「あら、盗み聞きなんて失礼な人ね。さっき私が見た時には居なかったと思ったわ。とりあえず名前を伺ってもいいかしら?」

「自分の名前? ああ、そうだね。話し掛けたのは自分だから、こちらから先に名乗るのが礼儀だよね」


こちらに向き直ってコホンと咳払い。


「偶然とはいえ、君たちの話を盗み聞きをしてしまって申し訳ない。自分の名前は九十九(つくも)白羽(しらは)。君たちと同じ『契約者』と呼ばれる者の一人だよ」


最初に見た時となんら変わらない無表情で告げる白羽という少女。衝撃的すぎて言葉が続かない。ほら、宝月先輩なんか水槽の金魚みたいに口をパクパクさせてるよ。

少女は続けて言う。


「自分以外にも『契約者』がいるとは思わなかったよ。正直なところ、少しだが嬉しく思う」


とは言うが、本当にさっきから表情が変わっていない。眉どころか頬すら微動だにしていないのは異常すら感じる。

金魚状態の宝月先輩に代わって俺が切り返す。


「あの……九十九さん?」

「白羽でいいよ、園田くん。さん付けも、出来れば要らないかな。同級生なわけだし」

「じゃあ白羽って呼ぶぞ。白羽、お前は自分を『契約者』だと言うが、その証拠となるものはあるのか?」

「証拠? そうだな……自分の『契約者』となる経緯、とかで良いなら」


まあそうなるだろうな。実際問題、俺だって証拠を見せろと言われても、それくらいしか思いつかない。ダメだな……疑心暗鬼になってるのかな、俺。


「ああ、それでいい」

「そうか。なら聞いてもらえるかな?」


そう言って、白羽は淡々と語り出した。

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