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ブロークンハート

作者: puti

 騒がしい喧騒が聞こえてくる。ビルのテナント1階、私は勤めている服飾雑貨店で頭を悩ませていた。こんな私を雇ってくれるなんて、ほんとにいい会社だと思う。けれども、私のような石頭に店内の飾りつけをーキラキラした石たちを使ったかわいいオブジェの作成なんてー任せるとか、やめてほしい。

 そんなことを思っていると、外の喧騒とは別の、なんだか争うような声が聞こえてきた。女性の声と、女の子か、子供のような声?

 「だから、もうちょっと待ってってば!」

 「だめです。どれだけ待ってると思っているのですか!」

 店の中に嵐がやってきた。女の子のような男の子のような中世的な顔立ちをした子供とつばの広い帽子を被った女性が店に飛び込んできて、追いかけっこをしながら大声で言い合いだした。

「きゃっ。」

 私は子供に押されて、作りかけのオブジェクトを倒してしまった。

 「あっ。・・・ごめんなさい。」

 慌てて子供が謝ってくれる。そして私の手元に気づいて、慌てたように言った。

 「壊しちゃった・・・。それにケガしてる!」

 確かに、私が作ろうとしていたモノー赤いハートの石と針金をぐるぐると巻いたものをくっつけ、人型のようにして、それからガラス製の薄いピンクのハートをどうしようかと悩んでいたオブジェーは無残にも崩れ、ガラス製のハートに至っては少し欠けてしまっていた。そして、痛みがないので気づかなかったが、私の指もガラスで切ったのかケガをしていた。

 「家賃をためるからほかの人にも迷惑がかかるんだよ。責任取りなさいよね。」

 女性の前半のセリフは無視して、子供は「なおさなきゃ!」と慌てている。

 壊れたら取り換えるだけだから大丈夫。と言いかける間にも、子供は黒猫のかわいらしい模様のついたポシェットを取り出し、何やら人の話も聞かずごそごそとしている。

 「あった!」と嬉しそうに取り出したのは、これまたパンダ印のかわいらしい赤いチューブだ。接着剤だろうか。

 「これを塗ればケガなんてすぐ治るよ。」

 見た目の年齢に反した、すごく優しい口調で穏やかに言われてしまい、戸惑っていると、子供が私の手をそっと、とってきた。

そして、チューブから出した薬のようなものを私の手に塗り込み始めた。手作りらしいが、大丈夫なのか。私なんかにも効くのか。様々な疑問が私の頭を占めていく。私の混乱を読み取ったのか、先ほどから黙っていた女性が口を開いた。

 「大丈夫。市販の薬なんかより、先生の薬はよっぽど効くから。人間にも人間以外にも。」

 先生?確かに私は身体の組成の半分が鉱物の、俗に鉱物人間と呼ばれる種族だが、そんなモノにも効くのか?さらに混乱は増していく。

 「さて、治療完了。次はこの飾りだね。」

 薬を塗り終わったのか、「先生」と呼ばれた子供が壊れてしまったオブジェに目を向けた。混乱しながらも、これは、もう捨てるから。そう口を開こうとした時、一瞬早く「先生」が女性に向かって、「やすりとかある?」と聞いていた。

 「あります。ちょっと待ってください。」

 女性は先ほどまでの、大人げない態度とは打って変わって、まるで「部下」のような、おとなしい態度で言って、ごそごそとしている。

 「ん。ありがと。」

 子供は女性がなぜか持っていたやすりを受け取ると、欠けてしまったハートを磨き始めた。しかも、かけた部分がより目立つように。

「な、なにを!?」

 驚いて声を上げると、いいからいいから、とかえってきて、そのまま人形の心臓あたりに設置した。これではまるで。

 「ブロークンハート。なんてね。」

 「趣味悪いですよ。」

 女性が冷静に突っ込んでいる。

 「きれいでかわいけりゃいいんだよ。小さいカップとかある?」

 「先生」が聞いてきたので、つい「あります」と敬語で答えてしまった。少し悔しく思いながらオブジェ作成用の小物類を収めているボックスから小さいカップと、スプーンもついでに出してみた。

 「ナイス!お姉さん。」

 そういうと、小さい「先生」は赤い石の頭と針金の体、壊れたハートを持つ人形の前にちょこんと置いた。

 「心が疲れて壊れてしまったら、少し休憩するんだ。それでまた前に進んで、疲れたら何度でも休憩していいから。そのために僕らがいるんだから。」

 先生が優しく言った。私も、少し休んで、いいだろうか。本当は自分の種族も、それを言い訳に何もできない自分も、それらのことをを嫌うのにも疲れてしまった。薬をぬられた指を見ながらそう思ってしまった。

 「壊れてしまっても、嫌いになってしまっても、大切にしてあげて。一緒にいたことは本当のことで、決して消えない確かなことだから。この不確かな世界で、大切な確かなことだから。」

 いつか、自分のことも、大切に、思いたい。先生の言葉で、そう思ったのは、確かに、確かな自分だ。

 「じゃあ、お大事に。薬、拭っちゃだめだよ。」

 そういって、ポーチを仕舞った先生は女性と一緒に出ていこうとした。

 「あっ。ちょっと待ってください!」

 「何?ああ、治療費は僕の責任だからサービスでいいよ。」

 「いつもこれだけの治療で金とってるんですか!?って、すみません。そうじゃなくて、お名前を教えてくれませんか?」

 こんな治療っていうけど、どれだけこの薬の開発に苦労したことか・・・となんだか先生の叱責なんだか愚痴なんだか苦労話なんだかよくわからないものが始まりかけたのを遮って、女性が答えてくれた。

 「私はシオン。このちび先生の助手をやっています。このちび先生はツユキ。一応、医者みたいなもの?」

 「「疑問形!?」」

 先生とはもってしまい、お互いに顔を見合わせて笑ってしまった。

 今度こそお別れだ。店から出てく二人を

「行ってらっしゃいませ。またのお越しをお待ちしています。」

 と、笑顔で見送った。嵐は静かに去っていった。

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