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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
タムルの砦
7/38

06話 2D:フィール1

8/27 修正を行いました。

9/17 1話から5話の修正に伴いこの話も修正しました。

 2日目、ログインから10分。


 俺達は、フィール仮想世界にログインした。

 ログインゲートは、『境界の町』の昨日と同じ南部を指定して、俺は友美と直人とほぼ同時刻にログインすることが出来た。

 ちなみにこの『境界の町』は、4つの区部に分かれている。

  東部は地中海、

  南部は森林、

  西部は砂漠、

  北部は白雪、

 それぞれがその様にイメージされた作りになっているらしい。

 その区部のイメージは町の外側のフィールドにも反映されているとのことだ。俺は昨日は東部でログインして南部で友美達と会ったが、今日は友美達と一緒に南部にログインした。


 直ぐに俺たちは、町の南部の門を出て小さな広場に立っている。周りには多くのプレーヤーが町と森を行き来している。


 「もう一度、確認するわよ。昨日トーヤが作ったゲートがまだあるか確認することと、その途中でモンスターを倒してアイテム補充をした後、ユリスティアに会いに行く。それでいいわね」


 友美は、昨日の幽霊騒ぎが無かったように明るく少し早口に今日の予定を話してくる。


 「ああ、OKだ」

 「それでいいよ」

 俺と直人も、その予定で問題ないとすぐに答える。



 ◇



 昨日のログアウト直後、俺はユリスティアから突然頬にキスされた所を撫ぜながらも、友美は大丈夫か心配していた。

言っておくが頬っぺたへチュウされた事は、小さい時に友美からされたことがあるから別に後ろめたいって事もないんだ。そう、御礼だって言ってたし、俺が赤くなる事はないはずだ。

 そんな事を考えていると机の上のスマフォが突然鳴った。

驚いて電話に出ると友美からだった。


 「トシヤ、あの後の事を聞きたいから今からトシヤの家に行くわね」


 友美の声はいつものように元気になっている。どうやら直人が「幽霊怖いパニック」を上手く収めたようだ。さすが直人だと思っていると友美が直人の話をしてくる。


 「それと聞いてよ。直人がね、さっき私に電話してきてあの『夢見の世界』だったけ? そこにトシヤを置いてきたら今頃ユリスティアさんといい感じになってるかもとか言ってくるんだよ。そんな時に幽霊怖いなんて言ってちゃダメだって言うんだけど。……そんな事無いよね?」


 ーー はぁ?直人め!何が「任して」だ!

 ーー 幽霊の恐怖心を、他の心配事で塗りつぶしただけじゃないか!

 ーー それより「そんな事無い」って、ユリスティアといい感じなる事か?それとも幽霊怖いって言うことか?

 ーー ユリスティアとはいい感じにはなっていないと思うが頬にキスされてしまったし、友美が幽霊を怖がるのはどうしようもないしなぁ。


 俺がそんな事を考えて返事が遅れると、友美は急に心配するような声を出してくる。


 「そんな事…無いよね?……ユリスティアさんとチームを組むって言って私たちから離れて行っちゃうのはやだよ?」


 ーー そんな事を心配してたのか。


 「当たり前だ!俺と友美と直人はこれからもチームだ! ……だけど直人との付き合いはちょっと考え直した方がいいかもな」

 「え? 直人を除け者にしちゃダメだよ。直人はあれでも優しいし、私たちの頭脳なんだからこれからも一緒だよ」

 ーー おい、サラッと直人の事を「あれでも」って言ってるのはなんだ?


 「じゃあ、すぐに家に行くから待っててね」


 俺は心の中でそう突っ込みを入れたが、それを言葉に出す前に友美は電話を切ってしまう。




 そして家に来た友美と少し遅れてきた直人と共に、ユリスティアの事を話し、その対応方法について日が沈むまで話し合った。

 それと幽霊の事を友美に聞いたら凄く悩んでいたが、幽霊と会うのとユリスティアに会うのを天秤にかけたら、あっという間にユリスティアに会うことに傾いたそうだ。つまり、幽霊怖いよりユリスティアに会って友達になりたい気持ちが強かったと言うことみたいだ。それでも「幽霊が出たら助けてよね」って俺たちは頼られてしまったが。まあ、俺としてはユリスティアとの約束が果たせるので助かった。


 その後、友美達が帰る間際に、俺の母さんが「友美ちゃん、直人くん、夕飯のカレーを食べて行くでしょ?」と言う言葉に、友美は少し緊張して、直人は普通に「「はい! 頂きます」」と、返事をして夕飯を食べていった。

 夕飯を幸せそうな笑顔で食べていた友美は、控えめにお代わりをお願いしていたけどね。

 食べ終わった友美と直人は満足そうに帰って行った。


 ちなみに、俺が気にしていた言葉が日本語じゃあない事には、友美達も気がついていたそうだが、ゲームシステムが勝手に変換してくれるんだろうと、特に気にしていなかったそうだ。

 まあ確かに、今は自動言語変換してくれるインターネットのサイトもあるので珍しくもないかも。

 俺も余り深く考えずにそう結論づけてしまった。



 ◇



 そんなことで、『夢見の世界』に行く前にフィール仮想世界で、ゲートの確認とモンスターを倒してアイテムを補充することになった。


 「じゃあ、ここから一気に昨日のゲートを作った場所まで行きましょう」


 俺たちは森に入ったが、早々に遠くの方にいるラビットモンスターを見つけてしまう。


 まだ、ラビットモンスターは気がついていないで、草をポリポリと食べている。


 ヤバい、友美がラビットモンスターにふらふらと近づいて行く。


 「ミュウ、早くユリスティアに会いたいんだろ? こんな所で時間を食っていいのか?」

 「ハッ、そうだった」


 俺の言葉に直ぐに正気に戻った友美は、それでもチラチラとモンスターを見ながらこっちに戻ってくる。

 いくら可愛いからって、モンスターに抱きつこうとするのは止めて欲しいな。

 

 「じゃ、…じゃあ、ここは駆け抜けて森の奥に行きましょう」

 後ろ髪を引かれるような表情をしている友美は、『可愛いモンスターを避ける』作戦で行くらしい。

 


 友美が駆け始めた。それに続こうとして俺たちも駆けようとした。


 「スパーン」と空気が破裂する様な大きな音と共に、友美が霞んだと思った瞬間に、「ドゴーーン」と10メートルくらい離れた大木に大きな音を立てながら、友美がぶつかっていた。


 俺と直人は、駆けるのも忘れて驚いてしまった。周りに他のプレーヤーも3人いるが、やはり驚いている。


 「あいたたた……」


 友美は、大木から頭と腕を苦労しながら引き抜いている。


 「だ、大丈夫か? ミュウ」


 俺は心配になって、友美の元に駆け出す。

 すると駆けだした瞬間に周りの風景が凄い勢いで流れ始める。

 一瞬で大木から抜け出そうとしている友美の側を通り過ぎて、目の前に更に奥に生えている大木が迫ってくる。


 俺は、回避できないと思うと、右腕で顔を庇い左腕を前に出す。

 「ドゴーーン!!」と友美の時より大きな音を立てながら、大木の半分以上に埋まってしまう。


 ええ!? なんだ? 異常に駆けるのが早くなっているのか?

 それに大木に埋まるほどの衝撃なのに、全く身体が痛くない? HPも減っていないぞ。

 どう言うことだ?


 俺は混乱しながらも、何とか大木から抜け出す。


 すると俺の支えが無くなった大木は、俺によってえぐられた部分からメキメキと俺の方に倒れてくる。

 俺は咄嗟に大木に手を突いて避けようとするが、突いた瞬間、大木は抉られた部分が千切れて、コマの様にグルングルンと回りながら離れた場所に飛んで、「ドドン!」と音を立てながら落ちる。


 俺は、余りのことに呆然となってしまうが、それでも友美の事を思い出す。

 振り返って友美を見ると、ようやっと大木から抜け出して自分が抜け出した大木を見ている。


 友美が怪我をしていない様子にホッとしながら、俺は今度は駆け出さずにゆっくり歩いて友美の元に行く。


 「ミュウ、大丈夫か? 怪我は無いか?」


 俺はつい心配性に聞いてしまう。HPが減っても直ぐに回復できるのに。

 それでも心配してくれることが嬉しいのか、笑顔で友美は返事をしてくれる。


 「ええ、大丈夫よ。ありがとう。……それよりこれはどう言うことだと思う?」

 そう言いながら友美は、大きく抉られた大木を指して質問をしてくる。

 

 俺も、自分が倒した大木の惨状を見ながら痛くもない頭を手で押さえる。


 「多分、速度、体力共に異常に高くなっているようだ」


 俺は、そう言いながらステータスを確認するが、レベルは2、HPとMPは100と昨日のままだ。


 「だけど、俺のステータスは、昨日と変わっていない」

 「私もステータスは変わっていないわ。ジンも同じなの?」

 「僕も変わっていないよ」


 原因が分からず悩む俺と友美に、周りを気にしていた直人が俺たちに声をかけてきた。


 「トーヤ、ミュウ、周りのプレーヤーが興味津々でこっちに来るよ。ここは逃げた方がいいんじゃないかな?」


 確かに大木を倒して平気でいるプレーヤーに興味を持ったようで、声をかけようとこちらに歩いてくるプレーヤーがいる。


 俺にも原因が分からないのに、他人に話せるわけもなく、面倒になる前に逃げ出した方がいいかも。


 「よし、まずはこの場から逃げだそう」


 俺は、友美と直人だけに聞こえるように言うと、友美達が頷くのを確認した後、今度は慎重に駆け出す。



 慎重に駆け出したにもかかわらず、ギューーンと風景が高速に流れ始める。

 目の前に木が迫ってくる。足の軸を移動させて木を避ける。上手く避けられた。



 唖然として残った見知らぬプレーヤー達は、大木を難なく倒して声を掛ける間もなく視界から消えてしまったプレーヤーについて騒ぎ始める。

 後日、『チートプレーヤー現れる』と騒がれていたが、俺たちはそんな事を知ることはなかった。

 


 ◇



 2日目、ログインから30分。


 走り始めて直ぐに速度や力加減に慣れてきた。

 俺たちは、木々をすり抜けることも、足のバネを使って木を倒さずに蹴って方向を変えることも出来るようになってきた。


 そんな時に、人の倍ほどの巨大蜘蛛のモンスターが現れた。レベル5のモンスターだ。

 昨日は、俺たちの攻撃が利かずに、俺たちが倒されてしまったモンスターの1匹だ。


 「トーヤ、ジン、今ならこのモンスターを倒せそうよ。私だけに任せて貰える?」

 「ああ、いいよ」


 友美のやる気満々の声に、俺は仕様がないと思いながらもOKと答える。

 今の体力と速度で攻撃すれば、何とか倒せるかも、それでも2,3回攻撃して、友美だけで倒せそうになかったら直ぐに助ければいい。そんな考えで俺はいた。

 直人もそんなに心配していないようだ。


 槍をメニューから出して構える猫耳の友美は、早々に上段から槍を振り下ろして切りつける。


 その攻撃は、昨日の固い外皮に弾かれたとは信じられないくらいに、豆腐を切るようにスッパリと巨大な蜘蛛を、縦に切り裂いてしまう。


 「ギューー」

 と、耳障りな鳴き声を上げて、モンスターは真っ二つになって光の粒となって消滅してしまった。

 それと同時にドロップアイテムが現れる。


 「え? うそ」

 友美は、最初の一撃で倒してしまったことに驚いている。

 余りに簡単に倒せてしまったことで、逆にオロオロしている。

 少し猫耳を倒して上目遣いに「どうしよう」って感じに俺たちを見てくる。


 「一撃って事に驚いたけど、…… まあいいじゃないか。それよりアイテム回収しておきなよ」

 俺は頬をポリポリ掻きながら、友美を励ますようにそう言った。


 「うん、分かった」

 なぜか少し元気ない返事をして、アイテムを回収している。

 

 俺は、元気のない友美を見ながら、なぜ急にこんなに強くなってしまったのだろうかと考え始めてしまう。

 昨日の変わったこと言えば、『夢見の世界』に行ったこと、ユリスティアにあったこと、後は美味しい桃のような果実を食べたことだ。

 そう言えば、あの果実を食べた時に身体が書き換わるような不思議な気持ちになった。

 あれが原因か? 今度ユリスティアに会ったら聞いてみるか。

 

 そんな事を俺が考えていると、直人が近づいてきて声をかけてくる。


 「ミュウ、強いモンスターを倒したはずなのに、元気がないね」

 直人も心配している。


 「昨日との落差が大きすぎで、簡単に倒せすぎたのにショックを受けているんじゃないかな?」


 なんとなく友美の心情が分かってしまう俺の言い方に、直人は感心したように見てそれから少し考えて友美に声をかけている。


 「ミュウ、僕達どれだけ強くなったか試してみたいんだけど、あのサンダータートルに挑戦してみない?」


 「え、…… うん! OKよ! 昨日のあいつなら今は簡単に倒せそうね!」


 少しユリスティアに会うのが遅れることに悩んでいたようだが、アイテムの補充も出来ると思いついたようだ。

 直人の提案に、昨日の最強モンスターを思い出した友美は、途端に元気に返事をしてくる。


 俺もそうだが、直人も幼い時から友美が元気になるように気にかけている。

 そんな俺たちの気持ちが分かっているのか、友美も笑顔になっている。


 「じゃあ、途中のモンスター達を倒しながら昨日の場所に行こうか」

 「分かった」


 俺の合図に友美が返事をして、直人と共に駆け出す。




 ◇



 2日目、ログインから45分。


 広域フィールドマップで、森の真ん中より上にいた俺たちは、常人ではない駆ける早さで、見る間に南東の隅の昨日の場所に到着する。


 昨日は、町をでてからここに来るまでに2時間かかっていたのが、今日はログインしてからここに来るまで45分で来てしまった。


 それも途中で、5匹のモンスターを全て一撃で倒してきている。

 しかし、俺たちのレベルは2のままだしHPもMPも誰も変化していない。


 ここまで先頭を駆ける人を、友美、俺、直人とローテーションを組みながら、モンスターが現れたら先頭が攻撃を行ってきた。それで分かったが、友美の槍は突きの方が威力があって、突きを放つと大きな風穴を開けた後に爆散する。直人の大剣は、軽く振るだけでモンスターの両断と共に10メートルほど離れた木々も簡単に切り倒されてしまった。本気に振ったらどうなるか想像も出来ない。俺の場合は、接近戦になってしまうが、短刀がモンスターに切り込めば刃が伸びたように身体を貫通して、そのまま振り抜けるとスッパリ切り取られてしまう。


 俺たち3人とも突然のチート持ちになって、それぞれモンスターを倒した後は薄ら笑いしか出てこなかった。

 それでもモンスターを倒して、アイテムやポイントが結構手に入ったのは嬉しかった。



 繁みの向こうに昨日の空き地が、降り注ぐ陽光で誘っている。

 昨日作られたゲートの場所を見るが、ゲートは無くなっていた。

 俺はメニューを開いて『接続』を見ると、昨日と同じように点滅していた。


 「ゲートは無くなっているけど、俺のメニューには接続が点滅しているから、何処の場所からでもゲートは作れそうだ」


 そう友美と直人に報告する。


 「それは良かった。駆けるのが異常に早くなったと言っても、毎回ここまで来るのは大変だものね」

 


 「ミュウ、トーヤ、ゲートの確認は取れたなら、あの空き地のモンスターを攻略してみる? それとも、そこそこアイテムや薬草が手に入ったから、このままユリスティアさんの所に行ってもいいと思うけど」


 直人の提案に、悩みながら友美が返事をしてくる。


 「そうね、…… どうせならサクッてあのモンスターを倒してから行きたいわね!」

 

 「よし! それじゃあのユニークモンスターを倒すとしようか」

 俺もサンダータートルを倒すなら今しかないと思う。

 そうして俺たちは、空き地に足を踏み入れた。





ここまでお読み頂誠に有り難うございます。


お待たせ致しました。

新章「タムルの砦」を始めたいと思います。

筆が遅いので更新スピードは遅くなりますが

少しずつ投稿して行きたいと思います。


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