04話
8/27 修正を行いました。
9/17 今まで読んで頂いた方には申し訳ありませんが、1話から5話までを大幅修正しました。
ログインから3時間10分。
そうして、サンダータートルとの戦いが再開されたが、結果から言うと呆気なく全滅させられた。
あの後、全員で魔法強化を行って攻撃したが、足を切断できるほどの攻撃は出来なかった。
それでも強化した分は深手を負わせることが出来て、モンスターの2段あるHPの上段を削ることまで出来た。しかし、快進撃もそこまでだった。上段のHPを削った直後からモンスターの動きが素早くなり、俺たちの攻撃を回避される様になった。更には、漆黒の甲羅から雷電が周囲に放たれるようになった。その電撃を全員が受けて呆気なく全滅させられてしまった。
全滅から5分のインターバル後に、俺たちは空き地から少し離れた場所に復活した。
「また負けちゃったね。やっぱりレベル15には勝てないか、くやしい」
友美は、負けて少し悔しそうに空き地の方に鋭い視線を向ける。
俺は、友美がそのまま無謀にもまた空き地に突撃しないか不安になったが、友美は直ぐに俺たちに向き直ってくる。
「だけど、サンダータートルと戦う前に出てきた、光の少女と女性って結局なんだったのかしら?」
「俺にも分からないけど、手裏剣で攻撃できたら何かのイベントに関連しているのかも知れないな」
「そうだね、僕もそう思うよ。何かメニューのログに残っているかもちょっと調べてみる」
そう言って直人が自分のメニューをチェックし始める。俺も念のために調べてみるか。
メニューを開く操作をすると、すぐにメニューが視野の隅に表示される。
メニューをスクロールして見ると、ログアウト項目の更にその下に『接続』という項目があることにすぐに気がつく。
「ミュウ、ジン、メニューの項目が増えているぞ」
「どんな項目?」
「メニューの一番最後に『接続』って項目が追加されてるんだけど、ミュウたちもある?」
「えっと、メニューの一番最後ね。あ、項目欄が1つ増えている。グレーで薄らと『接続』って書いてあるみたい」
「僕も増えてる。友美と同じでグレーアウトされて押しても反応がないよ」
自分のメニューは自分以外には見えない。
友美と直人はメニューの『接続』を押しても何も変化はなかったので、不思議そうに俺を見ている。
「俺の方は点滅している。やっぱりあの光の少女が、俺たちに光を打ち込んだ事が関係してるのかな?」
そう言いながら俺は『接続』を押してみる。
すると「バシュ」という音と共に俺たちの前方斜め上に、バチバチと火花を散らしながら光点が現れた。
その光点は横に移動して、次に真下に移動していく。
光点が通った後は、鉄板を切断するアーク放電で切り取られた後のようにオレンジの火花を散らしている。
その所々でバチバチと火花が飛ぶ。
光点は、人が通れる範囲を囲うようにグルリと一周すると消えてしまった。
「え~と、これは何?」
友美は、目の前で起こった現象に唖然として聞いてくる。
四角く火花を散らしている線を見て、俺も驚いてしまう。
「う~ん、なんだろう」
直人は興味津々に光の線を調べている。
扉ほどの大きさで光っている線の内側は、板も何もなく仮想空間の向こう側の森林が見えるだけだった。
俺たちは、暫く考え込んでいたが直人が何か閃いたようだ。
「何も操作画面が表示されないって事は、音声操作かも知れない」
「そうね! この四角い光の線を扉と仮定して、音声操作すればいいのかも」
直人の考えに、友美は直ぐに反応する。
「じゃあ、トーヤがメニューで起こした現象だから、トーヤが言ってみて」
「開けとかオープンとか言えばいいのかな? 分かったやってみる」
俺は、光の線に向かって自分が知っている扉を開ける言葉を出した。
しかし、「開け」「オープン」「オープンセサミ」「開けごま」といろいろ叫んでみたが反応はなかった。
「う~ん、違うのか?」
俺は腕を組んで悩んでしまう。
直人達も悩んでいるようだ。
俺は、ふとメニューの『接続』が頭に浮かんだ。
『接続』の意味を考える。
この場所とどこかを『接続』すると言う意味なら、メニューで『接続』を選んだだけではまだ、接続が完了していないのではと思った。
まずは接続を完了させるコマンド操作が、必要になるのではと思った。
俺の閃きを友美達に話してみる。
「メニューの接続から思いついたんだけど、もしかしたら接続のコマンドが必要かも知れない」
「え、接続コマンド? そうなのかしら、だけどやってみる価値はありそうね」
「よし、『接続』」と呼んでみる。
すると線の四角い内側が、白く眩しいほどに輝き出す。
「おお、やったか?」
そう喜んだ俺だが、今度はその白い輝きが終わらない。
「あれ、やっぱり開くって …… 今度は『開く』で反応した?」
俺が輝きから変化のない状態に失望して、独り言で呟いた『開く』に反応して輝きが静まる。
そこに現れたのは、水銀の様な膜でできた鏡だった。
俺と一緒に直人も目の前にある水の様に波打つ鏡を、興味深く観察している。
「何かのゲートかも知れないね」
「どこでもド○の様にゲーム移動時間の短縮のためにか?」
直人の仮説に俺は突っ込みを入れながら、短刀を抜いて鏡面にゆっくりと差し込んでみる。
短刀は、水に差すようにスッと入っていく。
その短刀を抜いて刃を見るが、傷も付いていない。
だけど、扉のような大きさで『接続』や『開く』で出来たこの鏡面は、やっぱり何らかのゲートなんだろうなぁ。
俺が、どうしようかと悩んでいると、横で見ていて痺れを切らした友美が、手を鏡の中に滑り込ませてしまう。
「あ、危ないなあ」
俺は、友美が無防備に手を入れたことに驚きながら、友美を鏡から引き離す。
全く無鉄砲だよ!
本当に心配を掛けさせるなよ。
そう思いながら俺は友美の手を見るが、何ともなさそうだ。
「大丈夫だよ。ゲームの世界だし危なくないよ」
そう言って猫耳少女の友美は、笑顔で鏡に入れた手を振ってみせる。
「そう言っても、危ないから俺が入った後に入ってくるように! いいな?」
「は~い」
心配して注意する俺に、ちょっといい加減な返事をする友美を軽く睨んで、俺は直人に合図して鏡の中に入っていく。
◇
鏡のゲートを通り抜けると、大理石の神殿に出た。
建物自体は小さいが、アテネの神殿やポセイドンの神殿の様に白い柱が何本も建ち並び、天井の白い屋根を支えている。塵一つない真新しい神殿は、建てられたばかりのようだ。
俺がゲートを通り抜けてくると、直ぐに友美が出てきて、最後に直人が出てくる。
直人が出てきてもゲートは閉じる様子はない。
俺は「クローズ」とか言って帰れなくなってしまう不安があったので、ゲートはそのままにしておくことにした。
「ねえ、ここ何処だと思う?」
猫耳少女の友美は、走って神殿の端に着くと外を眺めてい聞いてくる。
俺と直人も友美の側に走って行く。
そこから見た風景は、広大な森林の世界だった。
だけど、ゲートを通り抜けてくる前のゲーム世界と何かが違っているようだ。
しかし、その違いが分からない。
広大な森林世界の向こう側は、霞んで見えない。
一番目を引くのは、広大な森林の中央くらい位置に、こんもりとした巨大な樹が生い茂っていることだろう。
遙か遠くにあるはずだが、その巨大の樹は「世界樹」と言っていい程に大きく神秘的な雰囲気を出していた。
また、この広大な森林世界を取り囲むように高い山脈が取り囲んでいる。
山脈の頂は、所々雲に隠れてみることが出来ないほどだ。
俺たちがいる神殿は、高い山脈の裾野に位置する広い棚田のような場所に建てられていた。
「ここは南部の樹海とは違うようだ。あんな世界樹の様な樹もなかったし、周りを取り囲むこんなに高い山脈もなかった」
そう指摘する俺に、直人も補足してくる。
「ここから見る限りだと、町や村が見えないし、プレーヤーやNPCが生活や畑仕事している様な場所も見えないよ」
先ほどから猫耳少女の友美が、犬のように鼻をクンクンとしていたが、もっと重要なことを言ってくる。
「そうね。ここには香りを感じることが出来る世界みたい。さっきから甘い香りがしてくるのよ。ねえ、何だと思う?」
友美には、ここがフィールゲームと違う世界でも余り驚いてないようだ。
俺も周りの香りを嗅いで、そしてこの風景を見て先ほどの違和感が分かった。
ゲートを通り抜けてくる前のゲーム世界は、臭いも味もまだ感じない世界だったが、ここの世界は香りを感じることが出来る。
それとこの風景を見ると、あのサンダータートルが現れる前に感じたのと同じ神秘的な雰囲気が、この世界全体から感じられるのだ。
それが違和感となっていた。
「香りを感じるからフィールゲームとは違う仮想世界のようだけど、ここもゲーム世界なのかな?」
「僕はここもゲーム世界だと思うよ。確か次期バージョンアップで味覚や嗅覚に対応するって発表があったから、その開発環境に接続したのかな?」
「そんなことがあるのかな?」
「このゲームは、まだ発表されていない新しいOS上で稼働しているって話しだから、もしかしたら混線することもありそうかも。それにゲームのサービスイン初日だしね。何があってもおかしくないと思うよ」
「そっか、開発中だから町や村がない閑散とした世界になっているのかな?」
「だけど、この仮想世界って何か神秘的な雰囲気がするよね?」
「お、ジンもそう思ったか? 俺もさっきサンダータートルが現れる前の雰囲気と同じだなって思ってたんだ。何だろ、何か関係してるのかな?」
そんな遣り取りを俺と直人で話していると、痺れを切らした友美が話に割り込んでくる。
「ねえ、そんなことよりまずは、この甘い良い香りがする場所に行ってみましょうよ!」
甘い良い香り=美味しい食べ物という公式に当てはめた友美が、いてもたってもいられないと言う感じで俺たちを急かしてくる。
「了解! どっちの方から香りが流れてくるかわかる?」
若干、友美の急かし方に苦笑いしながら、俺は香りがする方向を聞いてみる。
「あっちよ!」
即座に返答してくる。既に方向を把握しているようで、ピッと神殿から下の森の方向を指さす。
それと反対方向に尻尾がピンと伸びるのは、前と変わらない。
「じゃあ、先導をお願いするね」
直人の言葉に、友美は反応して神殿から坂を駆け下り始める。
「危ないから走っちゃダメだぞ!」
「大丈夫!猫の反射神経を舐めないでよね!」
心配する俺に、友美は自分が人間であることを忘れたような発言をしながら、一直線に駆け下りていく。
それを見て心配と同時に、俺も忍者として負けられないと俊足で追いかけていく。
「ジンはゆっくりでいいから、俺は先に行ってるぞ」
「ああ分かった」
直人が声を出す前に、もう姿は遙かに下って行ってしまう。
直人は、トシヤと友美の遣り取りは見ていて飽きないなあと思ってしまう。
そうして、遠くに見える神秘的な世界樹を見ながら、直人はゆっくりと坂を下り始めていく。
坂を下りて森に少し入ったところで、俺と友美は桃のような果物をいくつも抱えて直人を持っていた。
「遅いわよ。待ちくたびれちゃうわ」
そう言いながらも、友美は笑顔で美味しそうな桃のような果物を、直人に渡している。
「ありがとう。美味しそうだね。だけど食べても平気かな?」
「大丈夫でしょう? ゲームの中だから食べても実際の身体には影響ないわよ。ね?トーヤ」
「まあ、そうだね。毒を食べても痺れて苦しむだけだしね」
「嫌のこと言わないで!」
ゲートを通り抜けてくる前の味覚の無いゲーム世界で、友美は俺の制止を振り切って本当に味覚がないか、美味しそうに見えるキノコを食べてみると言い出した。
食べて味覚が無いことは分かったけど、そのキノコが毒キノコで痺れて苦しんだ事を俺に指摘されたのだ。
「まあ冗談はさておき、これだけ香りがいいと毒でも良いから食べてみたくなるよね」
「そうだね。だけど毒消しの薬はもう無いよ」
「じゃあ、俺から毒味をかねて先に頂くから、それまでミュウは食べちゃダメだぞ」
「分かったわよ。大丈夫、我慢できもの!」
俺が注意しなければ、真っ先に食べようとしていた友美は、少し顔を赤くしながら反論してくる。
ジュクと果実を噛むと、桃のように甘い果汁が口の中に広がる。
果肉も桃より更に食感が良い。
何度も噛む必要もなく果汁と果肉は溶けるように喉を通って、胃に落ちていく。
それと同時に力がみなぎって、感覚が鋭くなっていく感じがする。
もう一口、食べたくなってしまう。
ジュクっともう一口食べていた。
身体の何かが書き換えられるような感覚にとらわれてしまう。
その感覚は嫌な感じはしない。
今まで我慢していた友美が、辛抱できなくなったのか、俺に聞いてくる。
「トーヤ、大丈夫? 食べても良いわよね?」
じっと我慢をしている子犬のように俺を少し涙目で見上げる友美に、ちょっと意地悪したくなるが可愛そうなのでやめておいた。
「ああ、大丈夫そうだよ。遅効性の毒があるかは分からないけど、食べた感じは大丈夫みたいだ」
そう許可すると笑顔になって食べ始めた。
パク。
「う~ん!なにこれ、すっごく美味いわよ。桃より遙かに美味しいわ」
そう言いながら、友美はモシャモシャと美味しそうに食べている。
猫の尻尾もユラユラと揺れている。
直人も「美味しい」と良いながら嬉しそうに食べている。
そうして暫くは、「旨い」「美味しい」と言いながら桃の様な果実を無心に食べていた。