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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
アウトサイド・タムル
37/38

33話 6D:捕らわれ

 魔獣オオワシに掴まれて飛ぶこと1時間。


 大地は、俺たちの足下に広がる雲の隙間より更に遙か下の方に見える。


 外気温はマイナス45度以下に下がっていることから、直人が上空9000メートル以上をこのオオワシは飛んでいると教えてくれた。


 なぜ、こんなに高い高度で飛ぶのか分からないが、重いはずの俺たちの木人形をものともせずに、一気にこの高さまで上昇して飛んでいる。


 そのオオワシの1つに跨がる魔人ナーティは薄手のジャケットとパンツでありながら、極寒を感じていない表情でオオワシを操っている。


 俺たちの木人形の機能が殆ど止まっている状態では、俺たちは分からなかったが、フタバの話しだと、魔人とオオワシの周りに防寒用の魔法結界を張っているらしい。


 幸い俺たちの木人形自体も基礎強度が高いため、機能が殆ど止まっていても、寒さや息苦しさを感じる事は無かった。


 この高度で飛び続けていけば、半日ほどで魔王城に着きそうだったが、俺たちには幸いと言って良い事に、オオワシに強い向かい風が拭いているので、タムル砦からまだ70キロほどの場所を飛んでいる。



 しかし、俺たちは焦っていた。


 正確には、俺と友美と直人だ。


 それは、あと1時間ほどで俺たちが強制ログアウトしてしまうからだ。


 しかも、まだ木人形はピクリとも動く事も出来ないことに焦りが出る。


 だけど、もし、今すぐ動く事が出来てオオワシから脱出したとしても、1時間で砦に戻ることは不可能だろう。

 その事実も焦りとなっている。



 <フタバ、俺たちが元の世界に戻ってしまった場合、ガーディアンとユリスティア達はどうなるんだ?>


 <はい、マスター。その場合、ガーディアンはユリスティア様たちの鎧として機能しますが、ガーディアン自体の能力は殆ど使えなくなります>


 <その状態で、魔人との戦闘は出来るのか?>


 <はい、ユリスティア様の剣技でしたら上位魔人でも互角に、戦闘可能でしょう>


 その答えを聞いて少し安心するが、モーラ、ユリスティア、ライナは、なぜかユッタリと落ち着いて話しを聞いてくれている。

 肝が据わっているのか、それとも手も足も出ない状態なので、今は全てを俺たちに任せているのかも知れない。


 そう思っていたらフタバが教えてくれた。


 <マスター。ユリスティア様達は、現在、極度の緊張と疲れが発生しています。それを解きほぐすために、ガーディアンに取り込まれているお体に、今は精神的至福感が高まるように酵素を投与しています。すぐにその酵素を分解する事も可能ですが、分解した方が良いでしょうか?>


 フタバの話しを聞いて、確かに魔人の王都へ連れ去られてどうなるか分からない状態であり、この飛行機が飛ぶ高度と同じ位の高さをオオワシのかぎ爪だけで、飛んでいる恐怖は俺にもある。

 

 ライナも最初は、見る間に大地から飛び降りたら死ぬ高さへ飛び立った時に、恐怖の悲鳴を上げて、ライナが俺にしがみつく様な感覚があった。

 それから暫くしてライナが、落ち着いたようだったので慣れたのかと思っていたが、フタバがそんな事をしてくれていたのか。


 <ありがとうフタバ。そのままユリスティア達の疲れを取ってくれ。……しかし、なぜ、ラプソと言った魔人が近づいてきたのに気が付かなかったのだろうか?>


 <マスター、それはバーストフレアによって掃討された魔獣の沸き返る魔力の乱れと、”雪綿”の消失で一時的な盲目となりました。それに合わせてあの魔人達は、魔力を一時的に隠蔽することに長けていたようです>


 <フタバ、今は、あのナーティと言う魔人の魔力を感じる事はできるか?>


 <マスター、申し訳ありません。ガーディアンは、まだ殆どの機能が封じ込められている現状で、感知する事は出来ません>


 そうなのか。

 

 『じゃあ、フタバちゃんの解除作業が、もっとも最優先って事ね?』


 今まで黙って聞いていた友美が、フタバに声を掛けてくる。


 <はい、友美様。あと5分で一部解除を行えます。ただ、その解除でも『ケーラの輪』を首から外すことは出来ません。出来るのはガーディアンの行動を30パーセントまで解放することです。それだけでもこの状況から逃げ出すことが可能となります>


 『あのナーティと言う魔人は、僕達の中にモーラさん達が取り込まれていることやフタバちゃんの存在は、知っているのかな?』


 <直人様。マスターがライナ様を取り込むところは見られていないでしょう。それに、モーラ様やユリスティア様の存在には気が付いていないと思われます。そうでなければ、ケーラの輪以外にガーディアンを封じ込める拘束を行っているはずです。また、ケーラの輪を解除できるフタバの存在もまだ知られていないようです>


 『それじゃ、このケーラの輪を首から外すには、僕達はどうすればいいのかな?』


 <直人様。フタバが持っている古い情報だと、鉱山の民である『カリュプスの民』がケーラの輪を取り外す基礎技術を持っている様です。その民に合う必要がありそうですが、古い情報だと数日の距離にある山脈の麓に部落が合ったそうですが、現在どこに居るか情報がありません>


 <そうか、そのカリュプスの民に会う必要がありそうだな。……フタバ、確認したいんだが、ライナ達は今の状態でもガーディアンから外へ出られるのか?>


 <……いいえ、『ケーラの輪』を外さなければライナ様達は外に出ることが出来ません。……マスター、申し訳ありません。ケーラの輪の封印はそこまで強力な力を持っているのです>


 そのフタバの返答を聞いて俺たちは、驚いて黙ってしまった。


 今の状況なら俺たちが元の世界に戻っても、ユリスティア達は木人形に守られていれば、外に出るよりは安全だろう。


 しかし、魔人から逃げ出した場合、ケーラの輪を外さなければ、いつまでも木人形の中に閉じ込められて居るわけだ。


 <……皆、俺の考えだけど、このオオワシから脱出したら、そのままカリュプスの民を探そうと思うだが、どうだろうか?>


 『ええ、そうね。ユリスティア達がガーディアンから出られないのは不味いわね』


 直人も同じ考えであると言ってくれた。

 モーラさんやユリスティアは、どうしてもガーディアンの外に出る必要はなく、暫くこの中に居てもいいと言ってくれたが、もしかしたら依存度が高くなり始めているのかも知れない。

 それはライナも、控えめだが外に出たくないようなそぶりが、感じられたためだ。


 最終的にはケーラの輪を外すために、『カリュプスの民』を暫く探すことになったが、それでも見つからなければ、一度砦に戻ることに落ち着いた。


 あと、俺たちやモーラの念話は、シラブル達には届かなかった。

 ケーラの輪で封じ込められているのと、念話できる距離も人によって違ってくるとフタバが教えてくれた。

 


 ◇◆◇◆



 ライナは、目もくらむ高さを人より遙かに大きい鳥ーー魔獣オオワシーーに掴まれて飛んでいることを、夢のように感じていた。


 空に飛び立った時には、初めての体験で悲鳴を上げて、トシヤ様にしがみついてしまった。


 しかし、それも心がホンワカと温かくなると恐くなくなった。

 それからようやく、トシヤ様に助けてもらったと実感できた。


 …… 嬉しい。


 オオワシの上には女性の魔人もいるけど、トシヤ様の御神体の中に居れば、もう大丈夫という気持ちが心を満たしている。



 猿の魔獣によって谷の外にさらわれた時は、もう死ぬだろうと諦めていた。


 あの時、毛むくじゃらの猿の魔獣はライナをしっかり抱え込んで、それだけでも、魔獣の腕が絞め殺そうとしている様に感じていた。


 暫くして魔獣達が騒がしくなり、高ぶった咆哮が周りから聞こえ始めて、猿の口から生暖かい息が吐き出されるを、首筋に感じた時には、もうダメだと思った。


 痛みがすぐに終わることを願い、目を固く閉じた。


 しかし、いつまでも激しい痛みに襲われることはなかった。


 「ライナ! 大丈夫か?!」


 あの時の声は今でも心に木霊こだましている。


 聞きたかった声、助けてもらいたかった声、その声がすぐ耳元で呼んでいた。


 夢だと思った。


 もう猿の魔獣に食われて、死の世界に入ったと思った。


 死んで夢で幻のトシヤ様が現れたんだと思った。


 だけど、トシヤ様はしっかりと優しく抱き締めてくれた。


 訳が分からなかった。


 まだ恐怖で震えが止まらない。


 恐怖で涙が溢れる。


 だけど、ここが夢だとしても声を出して泣くことは出来ない。


 小さい時からお父さん、お母さんに何度も何度も聞かされた話しを思い出す。


 『魔獣が近づいたら泣いたらダメよ』

 『泣き声で魔獣が寄ってくるからね』


 その話しを今思い出す。


 口を閉じてトシヤ様の服に顔を埋めて、泣き声が漏れないように顔を押しつける。


 優しく頭を撫でられた。


 トシヤ様が何か言ったが、良く理解できなかった。

 だけど、「俺の言うとおりにしてくれないか?」それだけはハッキリと理解できた。


 顔を上げてトシヤ様の顔を見て頷いた。


 その後はあっと言う間に御神体の中に入ってしまった。


 足を正座で御神体の中に入ったけど、トシヤ様と足の長さが違うからだとすぐに分かった。


 その格好でも体は痛くなかったし、すぐに眠くなって何か幸せな気持ちになった。


 目が覚めるとトシヤ様が、すぐ側にいることが分かったけど、トシヤ様の姿を見ることは出来なかった。


 <ライナ、もう大丈夫だよ>


 その声を聞いた時、トシヤ様が本当に助けに来てくれた現実だと分かった。


 嬉しかった。


 嬉しさの余り強い光りが爆発するように私から溢れ出し、輝いで気を失ってしまった。


 


 気が付くと森の中にいた。


 不思議な事に体が浮いて森の木々の間を漂っていた。


 体が空を飛ぶなんて今まで経験したことがないから、すぐに夢を見ているんだなと思った。


 さっきまでトシヤ様と一緒に御神体の中にいたのに、不思議な夢を見ていた。


 下の方から子供の声が聞こえた。


 木々の枝の高さから下を見るとライナより幼い子が3人で、山の中腹にある細い道を楽しそうに歩いている。


 男の子が1人、女の子が2人ーー1人は女の子とすぐに分かったけど、もう1人は男の子かも知れないーーが細い道を歩いている。


 男の子をよく見ると、何となくトシヤ様に似ているようにも見える。


 元気に走り出す女の子と、それを追う男の子。


 その道の片側は、急斜面になっていて足を滑らしたら危ないと思った瞬間に、女の子がよろめいた。


 男の子が手を掴むが、そのまま斜面を転がり落ちていく。


 ライナは、悲鳴を上げそうになった。


 転がり落ちていく男の子と女の子の先には、鋭い切り株がいくつもあったからだ。


 ライナは、夢であることも忘れて子供達を助けたいと、手を伸ばすが、高い木の枝と同じ位置に浮いているので届くはずもなかった。


 だが、目の前の子供達が大怪我となる状態を放っておけなかった。


 ただ、ただ、助けたいと思う気持ちが、ライナの手を子供達に向けて、『届け!!』と強く念じた。


 不思議な事が起こった。


 ライナの手から光りが飛び出し、男の子の足に当たって、その足が”ビクン”と地面を蹴った。


 そのまま子供達は、斜面の下まで落ちていった。


 その様子を見て、女の子の額が切れたようだったが、それ以外には大きな怪我がなさそうに見えて、ホッとすると、ライナの体が木々の上に舞い上がり始める。


 木々から出て周りの風景を見て、ライナは驚いてしまった。


 見たことも無い建物、水を張った土地に整然と並んだ緑の植物、馬もいないのに動く鉄の箱、そんな風景が目の前に広がっている。


 不思議な風景だった。


 近くの家から数人の大人が、こっちの森に駆けてくるのが見えた。


 ライナの視力は良いが、それでも空に上がった高さからその大人達の顔は見えなかった。


 しかし、その大人達の中で一人だけこっちに気が付いた大人がいた。


 ライナは、その大人が老人であることが、どうにか見えた。


 その老人は、ライナを暫く見て頭を下げてくる。


 訳も分からずライナも空中でお辞儀をすると、スッとライナの意識が落ちてしまった。

 

 次に気が付いた時には、御神体の中でトシヤ様の存在に包まれている幸せをすぐに思い出す。


 その後、魔人に捕まって空高く舞い上がった時には、さっきの夢の時と違って、その飛び方が恐くて悲鳴を上げてしまった。


 だけど、今は、トシヤ様と一緒にいる安心感で恐怖を感じない。 



 ◇◆◇◆



 <マスター、友美様、直人様。『ケーラの輪』の一部を解除しました。これで手足が動くことが出来ます>


 フタバの言う通りに、魔人に気が付かれないように手足を動かすと、感覚が戻ってくる。


 <動くようになった。よし、ここから脱出するけど、本当にこの高さから飛び降りて助かるのか?>


 <はい、マスター。地上付近で羽を広げます。それで着地が出来ます>


 羽を広げるって、ハングライダーやパラグライダーか、または落下傘の様になるのかな?

 まあ、フタバにそこは任せよう。


 <友美、直人、準備はいいか?>

 『ええ、いいわ』

 『僕もOKだよ』


 <じゃあ、オオワシの足を手刀で打ち払って、ここから地面へ落下しよう>


 そう言って、俺たちは息を合わせて手の側面を、小刀のようにオオワシの足に力一杯に打ち付けた。

 

 その手刀は、オオワシの足を大きく切り裂く。


 突然、足の痛みに驚いたオオワシは、俺たちの肩に食い込んでいた鉤爪を、開いて飛び離れる。


 俺たちは自由落下で、急速に落ちていく。


 高度9000メートルからの落下である。


 すぐに魔人とオオワシが、俺たちを追いかけてくるが、落下速度は俺たちの方が、遙かに早い。


 みるみるオオワシとの距離は離れていくが、それと反対に大地が急速に迫ってくる。


 気圧が高くなり、人間なら鼓膜が傷つきそうな速度で落下していくが、木人形はそれらは感じない。


 オオワシとは大きく離れることができた。


 下に見える大地は、何処までも続く荒涼とした赤茶けた大地で、所々に深い裂け目が出来ていのが見える。


 連れ去られて時の草原や森は、もう見えない。


 <マスター、友美様、直人様、片腕を上に上げて下さい。羽を広げます>


 フタバの言われた通りに、右腕を上に伸ばす。


 それと同時に、木人形の上半身を服として機能していた布が解けて、2枚の長い生地に戻って伸ばした腕の先にまとわりつき、その生地の先がその腕から更に広がって伸びる。


 その腕から伸びる2枚の羽は、丁度腕首のところを軸としてクルクルと回転し始める。


 その羽の様子は、松ぼっくりの種が空から落ちてくる時の様に、羽が腕首を中心に回転している。


 大地が数百メートルまで迫ってくる。


 2枚の羽は、落下の速度による風により回転が激しくなり、水平近くまで広がっていく。


 友美と直人にぶつからない距離に離れているので、それでも問題なかったが、落下速度が遅くなっていく。


 <羽というのは、松の種に付いている羽だったんだな>


 <はい、この形が一番早く地上に降りられるのと、少ない魔力でも簡単に作れるのでそうしました>


 地上が300メートル程に迫ってくると、頭上からオオワシの鳴き声が近づいてきた。


 俺たちが速度を落とした分、オオワシが追いついてきたのだ。


 オオワシは、俺たちをもう一度足で捕まえようとして、急速に近づきながら鋭い鉤爪を俺たちの方に向けてくる。


 <マスター、羽をすぼめます>


 そうフタバが言うと、水平近くまで広がっていた羽が、見る間に上の方にまとまり始める。

 そうなると落下速度がまた上がって、ストンと急降下し始める。


 <マスター、このまま大地の裂け目に逃げ込みます>


 オオワシが慌てて追いかけてくるが、その時、突然遠くの裂け目から光弾が発射された。

 その光弾は、次々にオオワシに当たっていく。

 

 3羽いたオオワシの2羽が光弾で胴体を打ち抜かれて、深い裂け目に落ちていく。


 最後に残った魔人が載ったオオワシは、慌てて上空高く逃れたが、それでも羽の負傷した様だ。


 オオワシの上に乗ったナーティは、悔しそうな顔をするとそのまま逃げて行ってしまった。


 俺たちは、大地の裂け目に入った時に、再度羽を全開に広げて裂け目の底に降り立った。


 裂け目は深かった。


 木人形の暗視が働いて、ほの暗い底が明るくなる。


 その底の左右の壁には無数の穴があるのを見つけた。








ここまでお読み頂きまして誠にありがとうございます。

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