30話 5D:スフィア3
魔人の両手がオレンジ色に灼熱して、魔人の周りの空間が陽炎の様に揺らいでくる。
少し離れている俺にもその高温の放射熱が伝わってくる。
確かにあれに捕まれたら、ひとたまりもなさそうだ。
<あれは魔法の力なのか?>
俺の問いに素早くフタバが答えてくれる。
<はい、マスター。……しかし、あの魔力消費では長時間の維持はできないでしょう。それまで逃げ切って下さい>
<分かった>
俺とフタバの短い思考伝達の間に、魔人は素早い移動で距離を詰めて、灼熱した右拳が胸を狙って迫ってくる。
それをギリギリの所で俺は左に回って回避する。
灼熱した魔人の拳が”ゴォォ”と音を立てて俺の目の前を通り過ぎた。
肘が俺の目の前に来た時、その肘を速度を殺さないように左手で突く。
”ドッゴォォォン”
魔人の目標を失った拳は、そのまま後ろの大岩に轟音を立ててまた突き刺さる。
しかし、今度は大岩は砕け散ることは無く、あっと言う間に灼熱して溶け出す。
魔人は拳を引き抜き素早く俺の方を向く。
その顔は先ほどの余裕が消え、殺意をみなぎらせて睨み付けてくる。
そこから殺意を持った魔人が連続して左右の拳で俺を突いて来るが、身体を捻り、魔人の腕を側面から打ち払い、攻撃を避けていく。
魔人への反撃はできないが、避けることは直人の道場での防御練習がここで役に立ってくれた。
しかし、木人形の反応速度が生身の体より早く反応してくれていい感じだ。
「……この体捌き……少し甘く見すぎていたようだ。……お前、名は何という?」
「………」
俺は魔人の問いを無視した。
カッコつけた訳ではない、人間の敵であり殺気を放つ相手に、名前を教える必要は無いと思ったからだ。
「そうか、ならば聞かん!先を急ぐ。ここで破壊させてもらうぞ」
返答しないことに苛立ちを見せた魔人は、更に魔力を両手に集めてくる。
オレンジ色の灼熱した両手は、更に高温になり白色の輝きから青紫色の輝きへと増していく。
その変化は離れている俺にさえ、先ほどの”熱い”から”熱過ぎて痛い”と感じるほどの熱量だ。
遠巻きにいた魔獣達もそれを感じたのか、魔人を中心にして更に距離を取っていく。
俺は身の危険を感じて、腰に挿している短刀を抜き構える。
魔人は両手の超高熱をどの様に遮断しているか分からないが、魔人はその熱さを感じていないようだ。
青紫の光を放つ猛火の右手を魔人は素早く振ってくる。
驚いたことに、その右手から鞭のように青紫の猛火が伸びて俺を襲ってきた。
俺はその伸びる高熱の鞭に驚きながらも、横に飛んで避けるが、鞭は俺がいた後ろの木々に巻き付く。
巻き付かれた木々は、瞬時に燃え上がり炭化して切り倒される。
あまりの高熱のため木全体が燃え上がることなく、巻き付いた部分がレーザーで切り取れたように炭化している。
俺はすぐに立ち上がりながら、その様子をフタバに確認する。
<やばいな。俺に巻き付いたらああなってしまうのか?>
<数秒間は耐えうることはできますが、それ以上は危険です。マスター>
ーー 魔人の懐に飛び込んでも両手で攻撃されるだろうし、離れて攻撃するにも伸びる鞭が厄介だ。やはり、魔力切れまで逃げ切るしかないか。
俺はそう考えながら次々に繰り出される鞭を、身をひるがえして回避し、短刀で弾き返していくが、それでも避けきれずに鞭が擦っていく服が炭化していく。
しかし、とうとう逃げ切れずに高熱の鞭が、俺の左腕に絡みついてしまった。
ーー痛い!熱い!痛い!痛い!!!
鞭が巻き付いた左腕は、瞬時に炭化する事は無かったが、熱さより痛烈な痛みが伝わってくる。
俺は右手の短刀ですぐに高熱の鞭を切断して、すぐさま後ろに飛び退る。
幸い短刀は鞭を切断しても刃こぼれせずに白い短刀のままだった。
次々に鞭が襲ってくるが、それを避けながらチラッと左腕を確認する。
少し炭化している様だが、腕はまだ繋がっていることにホッとする。
<マスター、左腕から手先までの機能が50%を下回りました。動作に注意して下さい。回復に数分かかります>
<分かった、フタバ>
しかし、避け続けていた灼熱の鞭が、フッと消えた。
それと同時に魔人の両手の青紫の猛火も消える。
「ちっ!ちょこまかと動き回る。煉獄の炎の鞭で仕留められなかったか」
ーー魔人の魔力が底を突いたか?
そう思った瞬間、魔人が今まで以上に早い動きで左拳の突き出してきた。
反射的に俺はその拳を避けるように右側に回避するが、魔人は左拳の突きをフェイクで戻すと、右から俺の頭を捕まえにくる。
俺はすぐに反応して魔人の右手を避けために左腕を上げるが、負傷した左腕は動きが鈍く反応が遅かった。
”ガッツン!!”
魔人の大きな右手に俺の頭が捕まれた。
メキメキと万力のように頭を締め付けてくる。
<マスター、この位の力でガーディアンは壊れません。イメージで手を押し返して下さい>
俺は、フタバに言われるままに魔人の力を跳ね返す強固の身体を思い浮かべる。
そうすると、途端に頭の締め付けが嘘のように無くなってくる。
<お? 本当にイメージするだけで痛みがなくなったぞ>
<はい。明確なイメージをガーディアンは読み取り、それをガーディアンが最適解で反映します。しかし、今のガーディアンでは魔力が少ないため長くは持ちません。反撃をお願いします。マスター>
<分かった。……直人、そろそろいけそうか?>
俺は直人に確認の念話をする。
『ああ、大丈夫だよ!』
<じゃ、任せる>
俺はそう言うと、頭を掴んでいる魔人の腕を左手で掴み、右手の短刀を魔人の顔に向けて突き立てる。
魔人は、俺の反撃を予期していて、その短刀を簡単に顔を捻って避ける。
”ザッシュ!”
次の瞬間、俺を掴んでいた魔人の右腕が付け根からスッパリと切断された。
自分の腕を切り落とされた魔人は、緑の血を噴き出す右肩を押さえながら飛び退る。
「な! なに!!!」
主を失った重い右腕が俺の足下に重い音を立てて落ちる。
不意打ちを与える事に成功した直人が、大剣を構えた姿で現れる。
「もう1体いたか!」
「サンキュウ」
「胴体を狙った攻撃が避けられたから、完全な不意打ちって訳にはいかなかったけどね」
「もう砦攻略はやめだ!!こいつらを完全に壊す!!!!」
片腕を失った怒り狂う魔人は、魔法で出血を止めると左手に岩を掴んだ。
岩の一部が変形して重量がある斧が作られる。
それと同時に、遠巻きにいた十数頭の魔獣達が俺たちに襲いかかってくる。
俺と直人は、魔獣除けを発動させるが、それは魔獣達を一瞬停止させたが次の瞬間には、猛進して突っ込んでくる。
魔人は攻撃を直人に定めて斧を振り落とす。
直人はそれを大剣で受け流すが、四方から襲いかかってくる炎の熊を避けることに精一杯で、反撃が出来ない。
俺も魔獣が襲いかかってくるため、直人を助けられない。
<やばいな!数の圧力に負けそうだ>
『だっ、だけど、これで本砦まで、…攻めることが、出来なくなった、よっと』
直人は魔獣と魔人の攻撃を避けながら、どうにか念話で返答してくる。
しかし、魔人の攻撃は先ほどより激しくなり、斧の打ち込みを流す直人は、その都度体勢が崩れて他の魔獣からの攻撃で危険になる。
俺も刀で炎の熊を傷つけないように弾き返すだけで精一杯だ。
それに、次々と後から来る魔獣がこの場に集結してくる。
狭い山の頂上は、俺たちを取り囲むように魔獣に埋め尽くされ始めた。
<本当にやばい!俺たちが逃げる場所がなくなったぞ>
『これからどうする?』
<フタバ、言われたように、魔人を本気にさせて、魔獣を集めたが、本当にやって大丈夫か?被害は最小になるのか?>
<はい、魔獣除けの2枚をその様に変更してあります。マスター>
まだまだ集まり続ける魔獣のために、俺たちの逃げ場がなくなり、魔人と魔獣の攻撃が体に当たり始める。
<じゃあ、やってくれ!>
<了解しました。マスター、直人様。発動させます。伏せて下さい>
フタバの指示に、俺と直人は急いで地面に伏せる。
<”爆縮!!”>
フタバの掛け声に俺たちから離れた2カ所の場所で異変が起きる。
そこでは風景が歪み、黒点が突如として現れると周りの岩や木々を吸収し始める。
その異変を察知した魔人は、素早く逃げるが、操られている魔獣達は次々と、その黒点の荒れ狂う吸引の嵐に引っ張られて消えていく。
俺たちも引っ張られるが、その黒点からは離れているために、どうにか吸収されずに耐えられた。
数秒後に黒点が消えると、俺たちの前後の頂上は直径20メートルほどのクレーターとなって、大岩や木々と共に溢れかえっていた魔獣達もーー 俺たちの近くにいた数頭だけ残して ーー消滅していた。
本砦側のクレーターの向こうには魔獣はいなくなったが、反対側のクレーターの向こうには魔獣達がまだ多くいる。
これで残りの魔獣達が本砦へ行くことが難しくなった。
「こ、これは、…爆縮魔法か?……しかし、なぜ、ガーディアンが使える?……異常に速い動き、魔法を使えるお前らは、普通のガーディアンでは無いのか!?」
普通というガーディアンを知らない俺たちは、答えようが無かったが、フタバが補足してくれる。
<マスター、ガーディアンにも複数の種類があります。マスター達のガーディアンは、最高位に位置する個体です>
「話しは無しか。いいだろう。俺の魔獣が消滅された恨みも晴らさせてもらう!!」
魔人は残った数体の魔獣と共に俺たちを襲ってくる。
片腕の魔人の斧から繰り出される1撃1撃は、先ほどより更に重く俺と直人は受け流しするだけではじき飛ばされる。
<マスター、直人様。一時退避して下さい。退避先はクレーターの向こうにいる魔獣の中です>
<そんな事して、退避になるのか?更に危険になるんじゃないのか?>
『そうか!魔獣を盾にするんだね?』
<はい、直人様。魔人の力を削ぐために魔獣を使います>
<分かった。行こう!>
魔人の斧が俺に迫ってくる。
<マスター、直人様。あそこまで跳躍が可能です。力を足に込めて跳躍して下さい>
<直人、先に行け!>
『分かった!』
直人はクレーターの対岸にジャンプする。
俺は斧に弾き飛ばされ地面を転がるが、すぐに立ち上がり直人の後を追ってジャンプして、降り立った俺たちは、魔獣の群れの中に飛び込み、二手に分かれる。
それを見た魔人も俺たちを追ってくる。
「ガーディアン!!逃がさんぞ!!!」
地響きを立てて降り立つ魔人は、その運動エネルギーを斧に込めて俺に振り下ろす。
俺は刀で受けずに回避するが、巻き添えで2頭の魔獣が傷つき血の炎を上げる。
その魔獣は、急に意識を取り戻したように暴れ、そして恐れ逃げ出し山の崖から落ちていった。
<フタバ、魔獣が盾にならない!>
<大丈夫です。傷つけられることで魔獣は、魔人からの支配が解放されてしまうようです。そのため魔人も早々に魔獣を傷つけないと考えます>
その時、後方の魔獣達が騒ぎ始めた。
念話が割り込んできた。
『直人君、モーラです。遅れてごめんなさい。今、ユンデ砦から精鋭10名、メテ砦から15名が山頂に着いて戦闘を開始したわ。ユリスティアの指示で魔獣は、山頂の崖から突き落としていく方法になったわ。崖から落ちれば殆どは死ぬでしょうけど、生き残りは本砦と左右の砦で徐々に倒していくそうよ』
『モーラさん、ありがとうございます。助かりました』
モーラの念話に、ホッとした声で直人が返答している。
魔人も後方の魔獣達の異変に気づき、戦闘を一時中断して後方に意識を向けた。
魔人は、後方の魔獣達から流れ込む感情と風景を瞬時に処理していくが、状況は悪い方向に向かっている事が分かった。
それらの情報の中を解析して分かった事で、砦からの人間の部隊に毒使いがいた。
その毒使いが、次々に毒を打ち込み、動きが鈍くなった魔獣達を人間が切りつけ、山頂から谷へ落としていく。
谷底に落ちた魔獣は、殆どのものが谷底に打ち付けられ即死してしまう。
即死を免れた魔獣も遠方からの弓矢で次々と仕留められていく。
「砦の人間が来たか。……これまでか!」
魔人は、作戦の失敗を自覚した。
命令を無視して本砦の攻略も失敗し、その上、山頂の地形が不利に働き砦の人間に、魔獣が全滅されかねない状況だ。
残りの魔獣で、人間に一矢を報いることは出来るが、そこまでだ。
これでは魔人の砦に戻ることは出来ない。
そう思った魔人は、魔獣の支配を解除して帰還命令を出す。
意思を取り戻した魔獣は、散り散りに逃げ始めていることが分かった。
そして、魔人はこの失敗は全て目の前にいる2体のガーディアンのせいだと決めつけた。
俺は、モーラの念話を聞いてホッとした後、どうやってこの魔人を退却させるか考えるが、何か忘れている嫌な予感が働いた。
<直人、何か忘れているような、嫌な予感がするんだが、何か感じるか?>
『……いいや』
その時、強制ログアウトの通知音がなり、カウントダウンが始まった。
ーー そうか!強制ログアウトの時間だ!
戦闘ですっかり忘れていたが、もう4時間経ってしまった。
まだ、目の前に魔人が健在で、ここでログアウトしたらユリスティア達がどうなるか分からない。
<フタバ、忘れていた!強制ログアウトだ!あと5分で元の世界に戻ってしまう!>
<マスター。落ち着いて下さい。まずは目の前の魔人が急激に温度上昇しています。……この状態は、魔力解放を行う危険があります>
『魔力解放?』
<はい、直人様。魔人族の生命力でもある魔力を解放することです>
<つまり、自爆か?>
<はい、この魔人が今魔力解放を行えば、本砦までを消滅させる事が出来るほどになります>
<それは大変なことじゃないか! ……どうすればいい?>
<それには、魔力解放を行う前に魔核を見つけ出して、魔力をガーディアンが吸収すれば問題ありません。ただ、魔人の魔核の位置は分かるのですが、その魔核を取り出す手段が、ここにはありません>
魔人は覚悟を決めたのか、全身が高熱となり発光して陽炎が立ち上り始める。
「白のガーディアンよ。俺の負けだ。……しかし、おまえ達も道連れにしてやる」
そう言うと、魔人は俺に斬りかかってくる。
俺は斧を回避して、魔人の足元を転がる際に切りつけるが、足で俺の右腕を踏みつけられてしまった。
腕が焼けて痛みが走るが、すぐにイメージで痛みを消して、足で魔人の太股を蹴るが、魔人はビクともしない。
直人が魔人に斬りかかるが、捨て身になった魔人は強かった。
直人の大剣を左腕で受けて止めると、俺を縫い止めてている足と別の足で直人を蹴り飛ばして、大岩に叩きつけてしまう。
俺のカウントダウンが、1分を切った。
『トシヤ、そのまま魔人の両足を捕まえていて!!』
突然、友美の声が聞こえた。
俺は魔人のもう片方の足を捕まえて、抱え込む。
”ドッシュ!!”
魔人が俺が何をするかと見下ろした瞬間、魔人の背中から胸に槍が刺さった。
胸に生えた槍の先に激しい輝きを持った物質が刺さっている。
<マスター、あれが魔核です。あれを掴んでください!!>
フタバの声に応えるのも惜しみ、手を伸ばして魔核を掴もうとする。
魔人も自分が槍に貫かれて、槍の先に自分の魔核が現れたことに、信じられないと思いながらも手を伸ばす。
しかし、魔人は右腕がない事が災いして、自分の魔核を守る事は出来なかった。
俺は、魔人から奪った魔核を手に持って、魔人から急いで離れる。
<マスター、魔核を吸収します!激しいショックがありますが、後の事はお任せ下さい>
そうフタバが言っている間にも、魔核が爆発するような激しい光りに包まれる。
そこで俺は強制ログアウトしてしまった。
ここまでお読み頂誠に有り難うございます。
魔人との戦闘が思うように書けていませんので、大筋は変えずに書き直すかも知れません。




