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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
タムルの砦
27/38

26話 4D:スフィア5


 4日目、ログインから3時間40分


 俺たちは本砦に戻ってきた。


 既にモーラからの念話で報告を聞いていた本砦では、砦の大人たちや子供たちの喜びの表情で迎え入れてくれた。

 そんな中で、片足が不自由なフィシスとルナ医師が、中庭に現れると俺たちの前まで来てくれた。


 「報告はシラブルから聞いたよ。一瞬にあの魔獣達を倒したそうだね。どうやって倒しか後で聞くとして、まずは、ありがとうよ」

 「いいえ、俺たちは殆ど何もしていません。このフタバの指示で倒す事が出来たんです」


 俺の肩に乗っている小さな双葉の若木を指し示した。新緑の葉が谷を流れる風で少し揺れている。


 「そうかい。フタバ様にも御礼を言わせてもらおうかの。……フタバ様、砦の同胞を助けて頂き誠に有り難きこと。我らに出来る事であれば、ご恩をお返しさせて頂きます」


 そう言ってフィシスが頭を小さな若木に向かって下げると、その言葉が聞こえた大人達も同じように頭を下げながら感謝の気持ちを表してきた。聖樹を守ってうやまってきた人達は、自分達を守ってくれた小さな若木に頭を下げることにも、それほど違和感がないようだ。そこは日本人の俺たちと同じかも知れない。


 <マスター。フタバは特に何もしていませんが、フィシス様達に今まで通り聖樹を守って頂ければそれでいいです>


 俺はフタバが凄いことをしたと思うのが、フタバ自身は本当に大した事をしたという認識はないようだ。

 フィシスにフタバの言葉をそのまま伝えた。

 そして俺たちはユンデ砦で、どの様にして魔獣を倒したのか、その後の魔獣除けを施したことを話した。


 「魔獣除けとは、始めて聞く防御方法だね。それならメテ砦にも同じように据え付ける事は出来ないかね?」


 <フタバ、出来そうか?>

 <はい、それくらいならすぐに出来ますが、マスターがもうすぐお戻りになってしまうので、行うとしても明日になってしまいます>

 <そうか、じゃあそう話しておくよ>


 俺はフィシスにメテ砦にも魔獣除けを施すことが出来るが、明日以降になると話した。


 「明日以降でも据え付けてくれるならありがたいよ。これで少しは楽が出来そうだ」

 

 フィシスの喜びに、ルナ医師も連日の負傷者数が減ることに嬉しそうだ。


 <マスター、もうマスターが留まっていられる残り時間が少ないので、その時間内に残りのガーディアン3体を、聖樹の室に運び込んで頂けないでしょうか?>

 <残りのガーディアンに何かするのか?>

 <はい、マスター。それらのガーディアンも使えるように、今の段階で修復しておいた方が良いと推測しました>

 <何か、起こるって事かな?>

 <はい、あの黒い鳥を操っていた魔人への対策の1つです>

 <分かった。ユリスティアとフィシスさんに確認を取ってから残りのガーディアンを運び込もう>


 ユリスティアが川魚が食べられる様になるかも知れないと嬉しそうにフィシスへ報告しているところに、俺は残りの御神体について話して見たが、特に問題ないと言うことで早々に友美達と御神体が祭られている部屋に向かった。


 俺たちがぞれぞれ1体ずつ御神体を担いで、聖樹の根元に辿り着いた時には、強制ログアウトの通知が出た時だった。

 あと5分で強制ログアウトが発生する。


 「なんか、少し熱中しちゃうとすぐに強制ログアウトになっちゃうわね。もっとログインしている時間を延ばすこと出来ないかしら?」

 「確かに。今後を考えるとどうにかして時間を延ばしたいな。直人は何かいい方法を考えられないか?」

 「う~ん、もう一度調べてみるけど、あのフウカって言う運営側の人に聞くのが一番いいかな。だけど、多分あの人怒っているだろうからダメだろうね」


 <フタバの方で俺たちのログアウト時間を延ばすって事は出来ないのかな?>

 <フタバには、まだマスターの基底ルールにアクセスする手段がありません。なので時間を延ばすことは出来ません。申し訳ありません>

 <ありがとう、今はそれだけ聞ければいいよ。何か方法を見つけたら教えてくれ>

 <はい、了解しました。マスター>

 

 聖樹の根元に俺たちとユリスティア、その後ろには、興味本位で一緒に付いてきた子供達とルナ医師も続いて来る。

 子供達の中には、ライナやトリティ、リリアナも明るい笑顔で一緒にいる。

 子供達は、俺たちが動いたり御神体を担いだりする度に驚きの声を上げている。

 その子供達の中でルナ医師も一緒に騒いでいるようだが、今は時間がないので見ない振りをしておこう。


 俺は聖樹の柵の鍵を壊してしまったことをユリスティアに謝っておいたが、すぐに代わりが用意できると言うことで心配しなくていいと言われた。


 柵を開けて中に入って駆け登っていく様子に、子供達が大きな歓声が上がっているが、その中でルナ医師もまるで子供のように喜んでいるように見える。


 ユリスティアも一緒に登ってきて、聖樹の穴を覗き込んでいるが暗くて中が見えない。


 「ここにまた入るのですか?」

 「ああ、この中でこの御神体を修復する事が出来るそうなんだ。俺たちの木人形もまだ修復途中だからこの中に入って置くからね」


 そう言って俺たちは担いでいた御神体を穴の中に入れていく。


 「そうですか、だけど今日は色々とありがとうトシヤ、友美、直人」

 「私はあんまり活躍していなかったけど、ユリスティアの手助けが少しでも出来たなら嬉しいわ」


 友美は、そう言ってユリスティアを軽く抱き締めた。


 「じゃあまた明日ね」

 「はい、友美。お元気で」


 俺たちは聖樹の室に入っていく。口の中に液体が入ってくるが苦しさはない。すぐに暗視拡張が働き出して周りが明るくなる。

 強制ログアウトまで2分弱だ。


 <マスター、友美様と直人様にガーディアンを運んでもらいたいので、念話を行っていいでしょうか?>

 <いいよ>


 フタバのお願いに快諾した友美と直人はむろの中に沈んだ御神体を壁際に移動していく。液体の抵抗で移動しづらいかと思ったが、思った以上に抵抗なく物や体が動かせる。この液体は摩擦係数を変化させる事が出来るのかも知れない。


 俺は今日使った銃もどきを見ながら気になったことをフタバに聞いてみた。


 <フタバ、ちょっと聞きたいんだけど、この銃でどうして魔獣を直接撃たなかったんだ?>

 <それは当たるまでの距離が反射板の方が魔獣に近いこと、それに命中精度の誤差が、反射板を利用した方が格段に小さくなるためです。一度魔力光弾を発射すると変更する事は出来ませんが、魔獣に近づいた場所の反射板で再度微修正を行って命中精度を上げる事を行っていました。それにマスターが直接あの数の魔獣を狙撃するには、現在のガーディアンでは銃を高速移動させる負荷に腕や関節が耐えられません。>


 <つまり、この木人形が修復中で耐えられないのと、魔獣に近い反射板で精度が上がるから板を撃ったと言う訳か。あの板にそんな機能もあるのか>


 <正確に言うと、魔力光弾の前に短光の補正情報を乗せています。その短光の補正情報を板が読み取って、すぐ後に来る魔力光弾の反射する角度を瞬時に作り出して、光弾を弾き返しています。そのために一カ所に10回撃ってもらっても別々の方向に光弾が飛んでいく様になります>

 <なんか難しいことしているんだな>

 <あのくらいならフタバにも出来ます。マスターもすぐ出来るようになりますよ>

 

 <そうなのか?だけどフタバは色々と出来て偉いな>


 <あ、ありがとう御座います。マスター///>


 あれ?フタバが照れてるのか?褒めると照れるのか可愛いかも。

 そんな事を思った時に強制ログアウトが発生して、俺はログアウトしてしまった。



 ◇



 タムル砦の谷の出口から数キロ離れた場所に魔人族の砦があった。

 しかし、その見た目は砦と言うより城壁がない城と、その周りに規則正しく配置された広い庭を持った屋敷が数戸あるだけだった。


 そこを砦と知らなければ、別荘と言ってもいい程に綺麗に整った城と屋敷だったが、ただその周りを歩き回る魔獣の数が異常だった。

 十数種類の魔獣が喧嘩やお互いのテリトリーを冒さず城や屋敷を守る様に、見えるところでも1000もの魔獣がユッタリと体を休めている。見えない所にいる魔獣を会わせると3000もの魔獣が隠れ潜んでいる。

 魔獣以外の動物は殆どいない。


 人間が攻めてくることもないために、城壁を作る必要もなかったが、攻めてきたとしてもこれらの魔獣を相手に城や屋敷に辿り着くには、至難な事だろう。


 これらの魔獣は、城や屋敷の上級魔人によりある数分・・・・を支配下に置いている。

 魔獣は活動をしなければ殆ど腹を減らすことがないが、減った場合も勝手に何処かへ餌を探しに行き、その魔獣がいない間は別の魔獣がその場所を自分の場所とすると言うような棲み分けがされていた。




 その城の最上階に作戦会議室があった。




 「だから何で俺の魔獣達ばかりが出撃しなければならんのだ!!!今日は20匹の狼と5頭の熊が倒されたんだ。それも一瞬にな!!それでも人間の本砦を襲撃してはいかんのか!!?」


 

 バチは熊の様な巨体と厳つい顔に獰猛どうもうな鋭い眼差しで力任せに手をテーブルに叩きつけ、テーブルに座っている3名の魔人を射殺す様に見渡した。この砦で兵士と言えるのは、バチを含めてこの4名だけだった。それ以外は城と屋敷を管理する執事やメイド達が十数名いる。この4名で砦の兵士として済むのは、全て外にいる3000以上の魔獣を支配して操ることが出来るからだった。


 「人間の本砦への襲撃はダメだ。……我々はタスク卿からの任務で動いている。その指示で人間の本砦を襲撃する事は禁則となっている。しかし、定期的な左右の砦への攻撃では一番の適任がバチの魔獣達なのだ。バチにはすまないがもう少し辛抱して貰えないだろうか。近いうちに変わりの魔獣を投入する予定になっている」


 会議室の広い部屋に響き渡るバチの怒鳴り声に、いつものように冷静な表情でラプソは答える。


 バチの対面に座っているこの砦の責任者であるラプソは、蒼い髪に20代後半の若い青年の容姿だが、年齢は1000歳を超え、その体内に秘める魔力はこの砦で一番、いやタスク卿の領地内でもトップクラスである。

 それに対してバチは300歳と魔人族でも中堅の部類に入るが、この砦に任命されたのは50年ほど前になる。


 「私も何度も言ってますが、バチの魔獣以外では簡単に人間を滅ぼしてしまうのですよ。今、本部にバチ用の更に強い力を持った魔獣を補給してくれるように進言していますから、早ければ今月中に送られてくるはずです。それまでは我慢して頂けないでしょうか」


 ラプソを助けるように参謀のトルアが、バチを宥めにかかる。

 トルアは銀の髪に眼鏡を掛け人好きのする顔つきに20代前半の小柄の体格であるが、それでも700歳であり、この砦の参謀を務めている。


 「しかし!俺の魔獣だけ使われることには、納得できん!!」


 そのバチの怒りに水を差すように3人目の若い女性が声を出す。


 「だってバチの魔獣がこのメンバーの中で一番弱いんだもの仕方ないじゃない。それが我慢できないなら人間の砦でも壊して来なさい。そうすれば優先して強い魔獣が頂けるかもね」


 「なんだと!? ナーティ!!俺に喧嘩を売ってるのか?!」


 バチの巨体が怒りで更に大きく膨らみ覇気があふれ出す。その様子をナーティと呼ばれた20歳前後に見える赤毛の美しい女性は涼しい顔つきで見ている。


 「止さないか。ナーティ、バチの今の働きが評価されればすぐに我々に追いつく力を持つだろう。軽々しく人間の砦を襲撃することを焚き付けるな」


 「申し訳ありません。ラプソ様」

 

 ラプソの叱責にナーティは心底済まなそうに答えるが、それはラプソに対してでありバチにではなかった。


 「バチも済まない。もし良ければ私の魔獣を12体貸しだそう」

 「他の支配下にある魔獣はいらん!!」


 そうバチは吐き捨てるように言うと、ドシドシと歩き会議室を出て行ってしまった。

 その様子を黙って見送るラプソにトルアが声を掛けてくる。


 「ラプソ、バチへの対応は?」

 「……人間の砦に攻め込む挙動があったらすぐに教えてくれ」

 「了解しました。」

 

 「では、本日の議題は他にあるでしょうか? なければ会議を終了致します」


 トルアの終了宣言で会議が終わった。


 トルアは早々に部屋を出て行ってしまった。バチの動向を監視するために内偵ないていに優れた魔獣を招集しに行ったのだろう。

 しかし、ラプソはバチが怒りと共に発言した「一瞬で倒された」と言うところに興味を覚えた。


 「ラプソ様、どうなされましたか?」


 考え込むラプソを心配そうに見詰め返すナーティ。


 「ナーティ、君に頼んでばかりで済まないが、バチの魔獣が一瞬に倒されたと言う発言の裏を取ってもらいたい。君の魔獣でどうしてそうなったか人間の砦を監視してもらえないだろうか?」


 「私にお気を使わないで下さい。喜んでお手伝い致します」




 ~~~~




 怒りで会議を飛び出したバチは、この砦に来た時から何種類もの自分の魔獣達が倒されてきたことに、もう我慢ができなくなっていた。


 しかし、バチだけの魔獣がいつも使われてきた分けではないのに、生還できる魔獣の少なさは他の魔人の魔獣に比べて低かった。

 それは一概にバチの魔獣だけが弱いというわけではなく、バチ自身が力押しの戦いを好み、戦略的な攻撃が組み立てられていないことに大きく起因するのだが、バチはその事には気づいてはいなかった。それを誰かが指摘しないのかと言うと、ラプソが指摘したとしてもバチは聞き入れないだろうとラプソ自身も思っていたからだ。


 禁則である人間の本砦を襲うことに、もうバチはためらいがなかった。


 密かに長い間考えていた計画を実行するため、バチは己の支配下にある炎の熊を谷の入り口付近に集結させる命令を300頭の炎の熊に対して発信した。

 しかし、他の魔人に気がつけられないようにするために、300頭の炎の熊を徐々に集めスピーナ山(背骨の山)を登ることが出来るのは、どんなに急いでも明日の昼過ぎ以降になりそうだった。











ここまでお読み頂誠に有り難うございます。

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