22話 4D:スフィア1
本日の2話目です。
4日目、ログインから10分。
俺たちは夢見の世界に入った。
神殿から裏手の樹の根元に移動している時に、遠くの山の斜面に黒豹の姿を友美が見つけた。
500メートル程離れていたが、黒豹は明らかに俺たちを見ている。
また襲ってくるかと緊張して見ていたが、すぐに興味を無くしたように森の中に隠れてしまった。
あのユリスティアとの約束を守っているのかも知れない。
ホッとして力を抜いて、木の洞に俺たちは入っていく。
地下の部屋で昨日入った木のベッドではない方に俺たちは横たわった。
すぐに意識が沈んでブラックアウトする。
◇
目が覚めた。
「あれ?」
周りが暗い。
ユリスティアの世界は夜なのかなと一瞬思ったが、天上から光りが薄らと降り注いでいる。
”ポコ”
木の口から空気の泡が漏れ出す。
<あ、マスターお帰りなさい>
<フタバか?>
<はい、マスター>
<今の状況を説明して欲しいんだけど>
<はい、分かりました。現在、昨日から聖樹の室でガーディアンの修復を行っています。進捗状況は90パーセントまで完了しました>
<あれ?フタバ、語彙が増えた?それにしゃべり方がちょっと流暢になった?>
前は話し始めた幼子って感じだった喋りが、今は少し幼さが残っている小学生って感じの声になっている。
<はい、マスターと話すために最低限必要な言語習得を行いました。ただ、経験が不足していますので不適切な言葉が出るかも知れません。言語習得を最優先にすれば、意思疎通が高速になっていきますが、どの様にしましょうか?>
1日でここまで習得が出来るのか。
どんな方法で言語習得したんだろうか、それとも進化するって言っていたがそれでなのかな、今度教えてもらいたいな。
<それじゃ、他の優先が発生するまでは言語習得を優先してくれ>
<はい、了解しました。マスター、言語習得を優先します>
<あと聖樹の室って言ったけど、昨日の聖樹の穴のこと? その穴に落ちていた木人形にまた俺は憑依したって事か?>
<はい、室は昨日の穴の事です。このガーディアンは昨日マスターの生体パターンと紐付けられました。そのためマスターが明確に変更しない限り、同一のガーディアンに憑依することになります。別のガーディアンに移りますか?>
<えっと、分かった。今はこのままでいい。じゃあ、友美達はどうしている?>
<友美様と直人様は、すぐ隣のガーディアンにいます。念話を行いますか?>
<ああ、そうして欲しい>
そう言いながら、俺はフタバの声が機械的になって寂しいと思ってしまった。
<マスター、申し訳ありません。初期の言語習得により、現在、感情表現が最小となってしまいました。上手く普通に話せません>
俺の思いを読み取ってすぐに答えてきた。
<そうか……フタバが話しやすいしゃべり方でいいよ>
<マスター、ありがとうございます。次のレベルアップまで暫く不便をお掛け致します。それでは念話を繋ぎます>
「友美、直人、大丈夫か?」
『あ、トシヤ!真っ暗で何も見えないわ。それに水の中にいる感じだけど息が苦しくないのよ』
『確かに息が苦しくないね。この水の中の感じは昨日の木人形に憑依したんだね』
<フタバ、俺たちが苦しくないのはフタバが何かしたのか?>
<はい、ガーディアンと人の生存本能である呼吸概念伝達を正しくなるように修正しました>
<う~んと、何か配線がズレていたから修正したって感じかな?>
<はい、マスターのイメージに近いです>
<フタバ、俺以外に友美や直人と話すことは出来る?>
<はい、友美様たちのガーディアンを修復したのと同じようにフタバも念話を行う事は可能ですが、マスターの承認が必要になります>
<じゃあ、さっきの息苦しくなくなったことや現状の説明をして貰えるかな?>
<了解しました>
そうしてフタバが友美達と念話を開始した。
『あら、フタバちゃんてこんな声しているんだ。可愛らしい声ね。これからよろしくね』
《はい、友美様、直人様。ヨロシクお願い致します》
あれ、フタバが少し訛ったか?緊張しているのかな?
<マスター、小さなことを指摘しないで下さい///>
<あ、ごめん>
少し恥ずかしかったのか。
それにしても周りが暗いな。
もう少し明るくならないかな。
<マスター、光球を作りますか?それとも暗視拡張を行いますか?>
<お、そんな事も出来るか。それじゃ暗視拡張って言うのを俺たちにして欲しい>
<はい、マスター>
フタバがそう言うと、途端に昼の光りの元に立ったように周りが明るくなった。
「わ!明るくなったわ、どこかにLEDでもつけたの?」
そう言って友美と直人は辺りを見回すが、フタバが説明をしてくれている。
「へ~、この木人形って色々と便利な機能があるのね」
そして始めて『聖樹の室』と言われる全体を見渡したが、それより前に俺たちの木人形が変化していたのには驚いた。
友美と直人の木人形を見ると、2メートル程あった身長は少し縮んで1メートル70センチほどになっているが、それ以外に凸凹だった木肌が人の肌のようにツルツルになっている。
それに、全体的に人の形に近づいたようだ。
根っこの様だった指は、より人の指のように、顔も木の幹だった物が人の顔の形に近づいている。
俺の肩に着いているフタバは、以前のままの小さな緑の双葉がチョコンと生えている。
<フタバ、木人形が人の姿に近づいたみたいだけど、何かしたのか?>
<はい、マスターの基礎データを元に最大限の力が出るように変化を行っています。現在、進捗状況は30パーセントまで完了しています。友美様、直人様も同じように構築中です>
<えっと何の基礎データを使っているんだって?>
<ユリスティア様たちが『夢見』と言っている世界での生体情報データです>
つまりフィールゲームからのアバター情報も利用しているって事か、そう聞いた俺は、友美と直人の木人形を見ると、確かに友美の木人形に猫耳のような突起が頭に出来はじめているし、尻尾らしいものが付いている。
身長もアバターと同じ位になっているって訳か。
直人も巨漢の剣士に近い体型になり始めているようだ。
と言うことは、俺も忍者のアバターに似た変形を行っているのか?
<フタバ、どうして夢見での人型に変化しているんだ?>
<はい、現状のガーディアンの形状ですと、身長差などからミリ単位で思考と動作に差が発生します。その差を無くすために親しみ慣れた人の姿に変化するようにしました。この変化を止めますか?>
<いや、そのままでいいよ。フタバが必要と思ったんだろう?>
<はい、マスターの助けになればと思いました>
<そうか、ありがとう。この変化はいつくらいまで、かかりそうなんだ?>
<2日ほど続きます。正確には44時間25分の予定です。マスター>
<それまでに服が必要になりそうだな>
<それなら大丈夫です、この室にある木片を利用してガーディアン専用の衣服を自動作成中です。明日までには作り終わります。マスター>
そうか、それは心配しなくていいか。
<じゃあ、今まで話した内容を友美達にも話しておいてくれる?>
<了解しました。マスター>
改めてこの穴の中を見ると、白い木の枝や幹などが色々と落ちている。
ちょっと見ると骨のようにも見えるが、白化した枝珊瑚の様にも見える。
いや友美が怖がると思うから骨とは言わないけどね。
それより今はこの木人形ーーガーディアンーーについて聞いた方が良いかな。
<マスター。ユリスティア様たちが非常事態のようです。支援を行いますか?>
<どう言うことだ! あ、ちょっと待った。今からの会話は、友美と直人も同時に念話出来るようにして欲しい>
<了解しました、マスター>
「友美、直人、フタバがユリスティアたちが非常事態と知らせてきた。今からフタバから報告してもらうから聞いて」
『分かったわ』『了解』
<じゃあフタバ、話してくれ>
<はい、マスター。30分前にシラブル様の念話を受信しました。そこでユンデ砦に「蒼い風」と言われる狼の魔獣20体の攻撃が発生したと言うことです。先程まではユリスティア様たちが優勢で戦っていましたので、フタバも静観していましたが、1分前に「炎の熊」と言われる魔獣が5体現れたそうです。「炎の熊」の戦闘能力は「蒼い風」の5倍になります。そのためユンデ砦の兵士だけでは、危機的状態になります。至急増援が必要と念話が流れてきました>
『状況は分かったわ!私たちも何が出来そう?フタバちゃん』
<マスター、友美様の質問にご回答をして良いでしょうか?>
「OK。何が出来る?」
<はい、友美様たちに出来る事があります。今回は緊急事態なのでフタバの指示に従って頂きたいのです。それは可能でしょうか?マスター>
「人に危害が無ければ従うよ。後で時間があれば説明してくれ」
<マスター、ありがとうございます。では友美様、直人様も視野に示された物を取り上げて下さい>
フタバの指示で俺の視野に表示されたマーカーは、穴に落ちている縦50センチ、横4センチの木の棒を指していた。
それと縦10センチ、横5センチの円筒状の木の棒だ。
友美は1メートル50センチの細い棒。直人は縦横10センチの四角い板を5枚。
<それをガーディアンが動いた時に邪魔にならないところに押し当てて下さい。そうすると磁石の様にガーディアンにくっつきます。それで移動が楽になります>
俺たちはそれぞれ拾った木の破片を木人形に押し当てると、磁石がくっつくと言うより体に同化してきた。
再度掴むとすぐに外れる。
これは面白い。
同化すると体を曲げても柔軟に変形して一緒に曲がってくる。
これなら動作に支障が出ることはなさそうだ。
<では、この室から出ます。この液体の中では浮き上がるイメージをすると浮き上がり、沈むイメージで沈みます>
俺が浮き上がるイメージをすると、木人形が浮上し始める。
穴の出口が近づく程に暗視拡張が徐々に解除されていく。
出口の縁を掴んで体を引き上げると、軽い力で飛び出すように木の身体は穴の外に出た。
昨日のように滑ることもなかった。
池から出ると体が軽い。
それに視力がくっきりして周りの風景が鮮明に見える。視野が格段に良くなっている。
それに木人形が昨日の重りを着けた様な感じがなくなって思った様に動ける。
木人形の表皮はツルツルになっているが、ふやけていると言う感じではない。人のしっとりした肌になったと言う感じだ。
ただ、お腹の中に液体が溜まっているのか、動くと少しタプタプと水の音がするが、行動の邪魔にはならない様だ。
「フタバ、まずは何処に行けばいいか教えてくれ」
<はい、マスター。まずはフィシス様の執務室に行ってユリスティア様と合流して下さい>
「分かった。友美、直人、急ごう!」
「そうね。急ぎましょう」
「了解」
聖樹を囲む柵はしまっていたが、少し力を入れたら錠が壊れて外に出られた。錠を壊したことは後で謝ろう。
通路に出た時、駆けてくる通信兵のエディにぶつかりそうになった。
「おっとごめん。大丈夫か?」
俺は慌てて倒れ込もうとするエディを支える。
「あ、ありがとうございます。あれ?御神体様ですか?雰囲気が違ってますね。あ、今こんなことしている場合じゃないわ。急いでユリスティア様の所まで行かないと」
「ユンデ砦の攻撃されていることに関係ある?」
「あ、はい。ユンデ砦の増援について報告に行くところです」
「分かった、俺たちもユリスティアにその事で会いに行くところだ。一緒に行こう」
「はい!」
ここまでお読み頂誠に有り難うございます。




