20話 3D:地球1
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「すうぅぅぅぅー、…… はぁぁぁぁーー」
俺は目覚めと同時に、息を大きく吸い込み、吐き出した。
死ぬかと思った。
フィールゲームを始めてまだ3日しか経っていないが、溺れてログアウトになるなんて初めてだ。
ーー そう言えば、どうしてログアウトしたんだ?
HPやMPを気にしていなかったが、ポイントがゼロになって死んでいたのならその場所で人魂になっていたはずなのに、そうならなかった。
俺は息を整えヘッドギアを外して机の時計を確認すると、まだ午後3時5分だった。正午頃にログインしたからゲームは3時間プレーしていたことになる。強制ログアウトまではまだ1時間ほど余裕があるな。
意識を失う直前にフタバが「ガーディアンから離れて下さい」とか言っていたが、それでログアウトさせられたのか?フタバにそんな力があるのか?それとも息苦しいと感じたことでセーフティ機能でも働いたのか?
しかし今は、友美達が心配しているかも知れない。
直ぐにスフィアの世界に戻ろうとヘッドギアを持ち上げるが、その前に友美がもうログアウトしていなか一度電話を掛けてみることにした。5回ほど呼び出し音を聞きながら、まだログアウトしていないと思い電話を切ろうとした時、友美が電話に出た。
友美との話しは直ぐに終わったが、ちょっと元気がないようだった。どうしたんだろうか、俺がログアウトした後に何かあったのか。それとも俺がログアウトする前に何か言ってしまったのだろうか。あの時は焦っていたから何か口走ったかも知れない。
俺は気を取り直して直人に電話を掛けると、すぐに直人は出てくれた。俺の家に集合することを伝えて、直人からは、俺がログアウトした後の事を話してくれた。それで俺が苦しそうに助けを求めたことや、その事で友美と直人も溺れてログアウトしたことを知った。俺は直人に助けてくれようとした事に御礼を言ったが、俺は無意識であろうと、友美に助けを求めてしまったことに、強いショックを受けてしまっていた。
今まで友美を助けるために頑張ってきたつもりだったが、例えゲームであろうと友美に助けを求めてしまったことで、きっと友美の元気を奪ってしまうようなことをしてしまったんだ。しかし、どうして友美は元気がなくなってしまったんだろう。
そこで俺は先程の電話で友美が少し元気がないことを直人に話すと、直人も友美から一緒にいて楽しいか聞かれたそうだ。やはり何かに悩んでいるのかも知れない。
◇
友美は直人より遅れて家に来た。
「遅れてごめんね。ちょっと汗を流したかったからシャワーを浴びて遅れて来ちゃったわ」
済まなそうに手を合わせる友美の目元が、ほんの少し赤いように俺には見えた。
「友美。あの……」
ーー 溺れた俺を助けてくれようとしてありがとう。それと何か悩んでいなか?
そう御礼と悩みを聞こうと口を開きかけて、友美の顔のある部分を見た瞬間に口が強張って言葉が出なくなってしまった。
シャワーの後にTシャツとジーンズを着て急いで家に駆けてきた様子の友美は、少し髪は乱れているがスレンダーな体型と整った綺麗な顔つきで俺と直人を見詰めている。しかし、俺は友美の乱れた前髪の生え際に、肌色とは違う薄らとピンクに見える傷口を見て固まってしまった。
「…… どうしたのよ?……あ!」
俺の視線に気が付いた友美は、直ぐに前髪を下ろして傷口を隠してしまったが、叱られた子供のように友美は俯いてしまう。
そんな友美の様子を見て俺は、友美に何か声を掛けようとするが口が強張って言葉が出てこない。
暫く無言の時間が過ぎるが、すぐに直人がフォローの言葉を出してくれた。
「友美は、髪が乱れてもトシヤが見とれるくらい美人になったね。そんな入り口に立ってないで、入ってきたらどう?」
「え?……あ。ありがとう! そうよね!私って自分で言うのも何だけど、結構良い線いってるでしょ? あははは。じゃあ、お邪魔しまーす」
直人の言葉で、友美は気まずい雰囲気を吹き飛ばすようにテンションを上げてモデルのような足取りで、俺の部屋に入ってきた。そんな友美の笑顔を見て少し俺の口が動かせるようになった。
「友美、……ありがとう。穴に落ちた俺を助けようとしてくれたんだって?」
「なによ。当たり前じゃない!だけど結局私も溺れちゃったから、助けられなかったのよね。失敗、失敗。今度からは状況を見定めてから動かないと行けないわね」
俺に向かって元気に話す友美は、もういつもの友美に戻ったようだ。しかし、その笑顔を見た俺は、友美が何に悩んでいるか聞くタイミングは今じゃないと思ってしまった。
「そうだね。友美ったら凄かったよ。僕を負ぶってあの聖樹を登ったと思ったら、直ぐに穴に飛び込ぶだもんね」
「あははは。いゃ〜、ちょっとトシヤが初めて情けない声を出したから、慌てちゃったわ。トシヤも溺れかけたくらいで、情けない声出さないように気をつけてよね」
「ぐっ!情けない声か……分かった。気をつける」
友美がふざけるように俺に話しかけてきたので、俺も心臓を抉られたようにふざけたポーズを取りながら返事をしたが、本当に抉られているとは知らないだろうな。心が痛いよ。
俺の隣にいる直人は、友美に見られているのにも拘わらず、珍しく大笑いしているし。
だけど待てよ。友美の悩みは俺が助けを求めたことが原因だと思ったけど、今の口ぶりだと違うのかな。それじゃ何が原因で悩んでいるんだろうか。
何にしても一度友美が何に悩んでいるか、タイミングを見計らって聞いてみる必要がありそうだ。
◇
直人がログアウト直前にシラブルへ伝えた内容は、「僕達は聖樹の穴に落ちて、そのまま元の世界に戻ります。それをユリスティアに伝えて欲しい」と言っただけだったようだ。
そこで、3体の木人形が液体に浸かってしまったが、まだ3体が御神体の保管部屋にあるのと、今日のフィールゲームの強制ログアウトまでは、まだ、55分残っていると言うことで、もう一度ログインして御神体を3体も動けなくしてしまったことを、ユリスティア達に謝っておく方が良いだろうとなった。
そう話し合って急いで帰ろうとしている友美と直人を俺のお母さんが「外は暑いからアイスを食べていきなさい」と勧められてしまった。それに対して、友美は相変わらずなぜか緊張して、直人は自然体に「「はい」」と答えて、かき氷を食べてから帰って行った。ちなみに友美はイチゴシロップと抹茶シロップの2杯、直人はメロンシロップとブルーシロップの2杯、俺はカルピスを掛けた1杯を食べた。俺が1杯なのは皿の大きさが大皿で違ったからだ。
そんなことをしていた為に、フィールゲームのログインは遅くなってしまったが、再度時間を合わせて俺たちは南部の森林地帯に立っている。なぜ南部かというと、ゲートを開くために人目を避けたいがあまりフィールゲームの中をウロウロすると、また美人のエルフに掴まってしまうと思って、比較的隠れやすい森を選んだのだ。
ログインゲートに立った俺たちは、早々に美人のエルフが現れるかと身構えていたが、町から森の中まで来てもまだ会うことはなかった。流石に常時このゲームにログインしているわけにもいかないのだろう。俺たちは少し緊張を解きながら人目がない更に森の奥に入っていく。
森に入って何匹かのモンスターが現れたが、ラビットモンスターや瓜坊モンスターではなかったので、友美がサクッと瞬殺で倒してくれた。けれど大量にモンスターを倒すと、あのエルフの女性が運営の人ならその監視網に引っかかるかも知れないと直人が言うので、プレーヤーも周りにいなくなったこの近辺でゲートを開くことにした。そこで俺たちは茂みの先に見えた小川の岸に降り立った。ここなら茂みに隠れて他のプレーヤーからも見られ難そうな場所だ。
俺はメニューから『接続』を指でタップした。
しかし、あの火花を散らす光点が現れなかった。
「あれ? おかしいぞ、『接続』を押しても何にも始まらない」
メニューには『接続』が表示されているから、ユリスティアたちの世界が夢だったと言うことはないと思うが、押しても何の反応もない。
「ミュウ達も同じか?」
「私は、相変わらずグレー色で押しても反応しないわ」
「僕も同じだよ」
「じゃあなぜ、接続出来なくなったんだろうか?」
暫く俺たちは急にゲートが開かなくなった原因を見つけ出そうと考え込んでしまった。
「……ねえトーヤ、あの聖樹の穴に落ちた後、フタバに何か言われなかった?」
暫くして直人が俺にそう聞いてきた。
「そう言えば、意識を失う直前にフタバが『ガーディアンから離れて下さい』と言ってたけど、それとこの事が関係するのか?」
「憶測になるけどフタバがガーディアンに何かをするために、一度僕達をログアウトさせたんじゃないかな。そして暫くログイン出来ないようにしているんじゃないかな?」
直人の憶測でフタバの最後の言葉を思い出した。
「そう言えば、『明日まで』って言ってたと思う」
「じゃあ、明日までゲートを開くことが出来ないって事なのかな?」
「そう言うことになりそうだね。もし明日もゲートが開かなかったら他の原因となるけど」
友美の確認に直人も頷いている。
「そっか、それじゃ今日はもう何もすることがなくなったね。どうしようか、何かしたいことある?」
友美の質問に俺は、フィールゲームを始めてまだ3日だけど、初日以外はほぼユリスティアの世界に行ってたために、このフィールで遊んでないことを思い出した。最初の町である『境界の町』の東部は、地中海でエメラルドグリーンの海が魅力的だけど、町の南部は巨大な樹が生い茂り、高い位置にある太い枝にツリーハウスがあって、一度は登ってみたいと思っていた。それに西部と北部はまだ行ったことはないが、西部は砂漠イメージで夜は満天の星が綺麗に見られるらしいし、北部は白雪のイメージで、現実が夏の今だと涼しくてとても過ごしやすそうだ。俺は次々と行ってみたい場所を考え出していた。
そう考えるとフィールゲームをまだ満喫していな事がとても残念なことに思えてきてしまう。
「じゃあさ、まずは一番近い場所の町の南部でツリーハウスに行ってみないか?」
俺が色々と考えた結果を友美達に話しているのに、友美と直人は、俺を見ずに俺の後ろの方を驚くように見ている。何だよ折角暇になったのに、そんな驚いた顔をして、俺が後ろを見たら大きな声を出して俺を驚かそうって魂胆か?
俺は友美達に驚かされないように用心深くゆっくりと振り返る。
そして、俺は見てしまった。俺の直ぐ後ろの空間が裂け、その暗い裂け目から、手と足がニューと出てくるのを。
俺は驚いて一歩下がろうとしたが、足下の石に躓いて倒れそうになった。反射的に俺は倒れるのを防ぐために何かを掴んだが、それは布のようだった。その布が後ろに倒れる俺に覆い被さるように一緒に絡みついてくる。背中と頭が川砂利に打ち付けられたが、顔と胸に柔らかい感触が覆い被さってきた。
俺は慌てて覆い被さってきた布を払いのけようと手を振ると、メロンのような大きさで、しかし堅さは全然違って弾力のある柔らかい物がすっぽり手の中に入ってくる。生まれて初めて触る感触で嫌な気持ちはしない。少し力を入れるとその柔らかい弾力は潰れて「いやん!」と声が聞こえる。
「何やってるのよ!!」
友美の怒った声と共に、俺に覆い被さっていた布が取り払われる。それと同時に手に収まっていた柔らかい弾力もなくなった。
俺から取り払われた布を、俺は倒れたまま見上げた。どうも人のようだが胸が邪魔して顔が見えない。胸が邪魔?じゃあさっき触っていた物って、あの大きな胸だったのか! グッタリしているのかその女性は俺の腹の上に座り込み、友美と直人が両腕を持ち上げ様としている。ようやっと大きな胸の向こうに女性の顔が見えるようになった。白いユッタリとした衣を着たあの俺たちを追いかけてくるエルフ美女が、顔を真っ赤にして力なく友美と直人に腕を持ち上げられていた。
以前会った面影のあるエルフの美女は、今は何か思い詰めたように小さな声で呟いて、顔を真っ赤にしていた。
(触られた。触られた!始めて男の人に触られてしまった。……これは……運命?……いや違うわ…出会いよ……そう、運命の出会いよ!)
何か囁いているが、聞かなかったことにした方が良さそうだ。俺は努めて冷静になってまだ俺の腹の上に座り込んでいる女性に声を掛けた。
「あの……すみません。もうそろそろ退いてくれませんか?」
俺の声に驚いたように自分の世界からこちらに戻ってきた美人のエルフが、俺をジッと見た後に自分がどの様な状態か理解して、また真っ赤になって慌てて立ち上がってくれた。
「ご、ごめんなさいね」
俺より年上に見えるエルフの女性が、真っ赤に成りながらも謝ってくるので、俺も謝っておく。
「いいえ、こちらこそ驚いて倒れそうになった時に服を掴んでしまったみたいで、申し訳ありません」
「いえ、いえ、こちらこそ。ごめんなさいね。こんなに近くにゲートが開くなんて思ってなかったら」
モジモジとエルフの女性が謝っている所に、友美がなぜかキレた様子で猫耳と尻尾を立てて、俺とエルフの間に割り込んでくる。
「トーヤ! もう行きましょう!」
「お、おお、そうだな」
友美の怒った様子に少し怖くなって俺は、エルフの女性がまた俺たちに話しかけることを思い出す前に、逃げ出そうと直人に目で合図を送る。直人ももう分かっているという感じに頷いてくる。
「じゃ」
そう俺は素早くエルフの女性にそう言って、友美達と駆け出そうとした。まさにその瞬間、何処から現れた分からない速さで、複数のチェーンが俺たちの体に巻き付けられてしまった。チェーンの太さは腕より太く、重さも結構ある。体を動かそうとするがチェーンの先は地面に潜り込み、縫い付けれたようにビクともしない。
「ふぅ〜、危なかったわ。予定外なアクシデントでもう少しで取り逃がすところだったわ」
安堵したようにエルフの女性が、俺たちに話してくる。
「もう貴方達は逃げられないわよ。そのチェーンは最上位権限を持った管理者でも拘束できるオブジェクトだから、それを壊すことは不可能よ」
「私たちが何をしたのよ!」
「貴方達が私の話を聞こうとせずに逃げるからよ」
「なにそれ!頭にきた! なぜあなたの話を聞かないといけないのよ!!!」
友美が猫耳と尻尾の毛を逆立てるように怒って、チェーンを力任せに怖そうとしている。
「ふん!もうそのチェーンからは逃げられないわ、この世界で誰も壊すことが出来ないオブジェクトなのよ!諦めて私と話しをしなさい!」
そのエルフの忠告が終わらないうちに、友美を拘束しているチェーンがピキーン、ピキーンと何かが壊れ始めたような嫌な金属音の悲鳴を出し始める。
「バ、バカね。そんな事しても壊れないはずよ」
エルフは壊れないと言う自信がなくなっているのか、さっきより自信がなさそうに弱腰に話してくる。
「や、やめて! お願い私の話しを……」
「ふっにゅ!!!」
エルフの言葉を聞いていない友美が、力が抜けるような声と共に絶対に壊すことが出来ないと言っていたチェーンを引き千切ってしまった。
「勝った!!」
エルフに勝ったのか、壊れないと言われたチェーンを壊したことに勝ったのか、よく分からないが友美はガッツポーズをとって直ぐに俺たちにも指示を出してくる。
「トーヤ、ジンならちょっと力を出せば、こんなの簡単に壊れるわよ。さあサッサと壊して行きましょう」
そう聞いた俺も仕方がなく両腕に力を入れてみると、ビキビキっと嫌な金属音を出しながら腕より太いチェーンの輪が引き千切れていく。ふん!と力を入れるとパキーンと心地よい音と共にチェーンは、吹き飛んでしまった。
直人の方も同じように直ぐに解放されたようだ。
「じゃあ行きましょう」
そう言うと友美の姿が霞んだと思うと、遙か彼方に飛び上がって行く。
俺もそれに続こうとしたが、ちょっと気になってエルフの女性を見ると、両手を地面について頭を項垂れ、翠の長い綺麗な髪が地面に着いてしまっているのも気にしないほどに、落ち込んでいた。
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ここまでお読み頂誠に有り難うございます。




