19話 3D:スフィア5
本日2つめの投稿です。
11/2 一部修正しました。
【友美視点】
『友美、直人、…たす…けて』
トシヤが私たちに苦しそうな声で、助けを求めることは今までなかった!
トシヤの苦しそうな声を聞いた途端に、私は聖樹の根元に駆け寄ろうとする。
しかし、木人形の動きが遅い。まるで重りや鉛の拘束具を付けられたように手足が動かない。大人の歩きより遅い歩みに、私はトシヤへの不安と不自由な行動へのストレスを増してくる。一秒でも早く、一歩でも先に、トシヤの元に駆けつけたかった。一秒でも早くトシヤを助けたい!
遅い木の人形はいらない!不要な人形はいらない!早くしないとトシヤが苦しんでいるのに!!不要な物はいらない!!早くトシヤの所に行かなければ!急げ、早く!早く!!早く!!!
自分が大怪我をした時の記憶が今のトシヤと重なる。元気のなくなった痩せ細ったトシヤ!トシヤを助けるのは私だ!今度は私が助ける!!
早く!早く!!早く!!!
「……み!、と…み!、友美!友美!!落ち着いて!!」
直人が私を支えて呼んでいることに漸く気が付いた。ユリスティアはここにはいない。
「友美、落ち着いて!」
「ああぁ、直人、大丈夫よ」
「大丈夫な分けないよ。その姿を見て!」
そう直人に言われて私は自分の手と体を見ると、白い木肌がボロボロと剥がれ落ちている。剥がれた下にはきめ細かい真っ白い木の素肌が現れている。2メートルある身長は変わらないが、全体を覆っていた凹凸の外皮が干からびて剥がれ落ちていく。それは急速な変化だった。あっと言う間に外皮が剥がれて体はきめ細やかな白い木の素肌が露わになった。その全体の姿は外皮を纏っていた時の化け物の風貌はなくなり、ほんの少し人の形に近づいていた。
「な!なに! やだ!体がスースーするわ! ま、まるで裸で立っているみたいよ!」
私は露出の趣味はないわ。こんな外で裸になった感じには耐えられない。
私は、木人形の腕で無意識に性別も無い胸を隠す動きをした。スッと違和感なく木の腕が動いた。
「え!」
その腕の動きに驚いて私は、自分の腕を振り回してしまったが、さっきまでのゆっくりとしか動けなかった動作ではなく、素早い動きになっていた。もしかしたら現実の自分の腕より動くスピードが速いかも知れない。そう感じさせる速さだった。
「直人、動きが軽くなってるわ!」
そう喜んだのも束の間で、きめ細やかな白い木肌は、また以前の外皮の様に凸凹の皺が少しずつ現れ始める。
「友美、木肌が元に戻り始めてる。理由は後で考えよう。それより元に戻る前にトシヤの所に行って!」
「直人も一緒に連れて行くわ! その間に念話でシラブルさんに状況を話しておいて!」
「分かった。連絡しておく」
私は軽くなった足で直人に近づくと、背を向けて直人の木人形を背負った。木人形の重さを感じるが動きに支障はないようだ。
「直人、しっかりと掴まっていてね!登るわよ!」
「友美に負ぶさるのは、ちょっと情けないけど、よろしく!」
直人の返事を確認して私は、聖樹の瘤を足場に跳ねるように駆け上がる。足の吸い付きがさっきよりいいみたい。まるで滑り止めがコーディングされた階段を駆け登るようだ。一気にトシヤが居たところまで登ってしまった。
直人を木の穴の縁に下ろして私は、穴の中を覗き込むが、底は暗くトシヤがどこにいるか見えない。
私は自分の木肌がまた固くなり始めてくるのが分かった。
「直人、後を任せるわね! 今のうちに潜ってトシヤを探してみるわ!」
そう言って直人の返事を聞かずに、私は穴にダイブしていた。思った以上に深いみたいだ。まだ潜れる。登ってきた高さを考えるともうそろそろ底に着くはず。私は潜るスピードを落として手探りで周りを探すけど、真っ暗で殆ど何があるか見えない。
ダイブした時には裸で飛び込んだように感じていたけど、段々と木肌が水を吸ってきたみたいだわ。さっきより動きが重くなってきたみたい。早く探さなきゃ。
下に手を伸ばしていた私は何かに触った。ようやっと底に来たみたい。チラッと上を見ると高い位置に穴からの光りが見える。底の広がりは分からないけど、腕を左右に伸ばしても何も触れない。少し進むと壁に触ったから直径2メートル以上はありそうね。
『友美、トシヤはいた?』
『まだ見つからないわ、真っ暗で見えないの!』
『いま連絡は終わったから、直ぐに誰か来るよ』
『分かったわ、それまでにトシヤを探すわ』
『トシヤ、聞こえたら返事して!トシヤ!』
私の呼びかけにトシヤは答えてくれない。不安になるが、もしかしたら現実に戻っているのかもと、少し冷静に考えることが出来るようになってきた。だけどトシヤの木人形だけでも探しておきたい。少し息が苦しくなってきた。
その時、暗がりに目が慣れたのか微かに光る物体を見つけた。私は泳いでその薄らと光る物体に近づくと、それはトシヤの木人形だった。
『直人、トシヤの木人形を見つけたわ!トシヤの意識はなさそうだから、ログアウトしたのかも知れない』
私は急いでトシヤの木の腕を掴むと穴の出口に向かって泳ぎ始めたが、トシヤの木人形が固定されたように動かない。いくら引っ張っても動こうとしない。息が苦しくなって一度息をするために穴の出口に向かおうとしたが、今度はトシヤの木の腕を掴んだ手がなぜか離れない。
『直人、トシヤの木人形が動かない。それに私の手がトシヤの人形にくっついたようになって、離れないの。息も苦しくなって、このままじゃトシヤと同じになりそう』
『分かった。今から僕が助けに行くよ!』
『だめよ!直人も同じになっちゃう!』
”ドボン”
私が答えきる前に直人が飛び込んだ音が上から聞こえた。もう直人もトシヤと同じで無茶ばかりするんだから!
私は息苦しさを我慢して直人が潜ってくる様子を見ていた。
その様子を見てふと思ってしまった。
直人は私たちと一緒に楽しんでるのかな?
トシヤのように何かに苦しんでいないよね?
ちょっと意地悪されることもあるけど、頭が良くって優しい直人。いつも私とトシヤの話しを聞いて私に見えないと思って、苦笑いしていることはもう知ってるんだよ。
だけど、そんな直人もいつか誰かを好きになって、私たちと遊ぶこともなくなるんだろうな。トシヤも同じように誰かを好きになって……。
私は想いを振り払うように木の頭を振る。凄く息苦しくなってきたから、変なことを考えてしまうんだ。この頃、トシヤと直人の周りに可愛い女の子や美女が現れ始めてきたら、そんな事を考えてしまうのかも知れない。
……苦しい。……それは息が?それとも心が?
今はその事を考えるのはやめよう。
『友美、まだそこにいるの?』
直人が私の側に降りてくる。
『ええ、結構苦しいけどもう少し頑張れそうよ』
『じゃあ、僕が友美を引っ張って見るから。腰を掴むよ』
『ええ、いいわよ』
直人は私の腰を両手で掴んで一緒に引っ張ってくれたが、トシヤの木人形は動くことはなかった。それどころか今度は直人の手が離れなくなった。何となく結果は分かっていたけどね。私は苦しくなって息を吐き出してしまった。流れ込む液体がお腹の中を満たしていくと同時に意識が薄れてくる。
『直人、もう私もダメみたい。先にログアウトしてるね』
『ああ、分かったよ。また後でね』
薄れいく意識の私は、やはりどうしても聞きたい事を聞いてしまった。
『ねえ、直人は楽しい?』
突然の私の質問に、回転の速い直人はすぐに何を聞いてきたのか分かったみたい。驚いたように息を少し吐き出しているけど、直ぐに答えてくれた。
『友美、何を言い出すんだよ。楽しいに決まってるよ。僕がトシヤと友美と一緒にいるのは、親友ってこともあるけど、友美とトシヤの掛け合い漫才はテレビを見るより遙かに面白いからね。そんな友美達と一緒にいて楽しくないってことないよ。これからも面白い漫才を期待しているよ』
『……それ、酷いわね。……だけどありがとう。……これか…らも……よろしくね』
直人の茶化しか分からない話し方だったけど、その奥に一緒に居てくれるという感情が含まれているように私には感じられて、それは嬉しかった。そうして私はログアウトした。
◇
私は夢を見た。
このフィールゲーム世界で遊ぶことは楽しい。ラビットモンスターと瓜坊モンスターがモフモフの毛で私に懐いてくれている。可愛い!ギュッと抱き締めると、とても幸せになった。更にギュッと抱き締めるとサラサラの金色の毛に変わった。ああいい匂い。抱き締めていたモンスターを見ると、いつの間にかユリスティアに変わっていた。
「わ! ユリスティア!」
驚いて私はユリスティアを解放してあげると、ユリスティアは嬉しそうにペロッと頬を舐めてくる。
「ユリスティア、ど、どうしたの!やめっ!やめて!」
そう言ってもまるでイヌのように頬を舐めてくる。
「あははは、やめて下さいよ。ルナさん」
突然、私の背後でトシヤの声が聞こえた。驚いて振り返るとトシヤの首に腕を回してルナ医師が、トシヤの頬にキスしている。
「と、トシヤ!なにしてるのよ!」
「え?見て分かるだろう。俺のルナさんだよ」
「い、いつの間にそうなったの!?」
「何言ってるんだよ。友美はユリスティアと友達になったから、俺はルナさんたちと友達になってて友美が言ったんだよ?」
「え!?私そんな事言ったことないわよ!!」
そう言う私にまたユリスティアが抱きついて頬を舐めてくる。
「ちょ!やめて!ユリスティア、今はトシヤと話しているの!ちょっと待って!」
何とかユリスティアの舐めの攻撃をかわして、もう一度トシヤを見るとルナ医師以外にフィールゲームで会った美人のエルフやシラブルさんやエディちゃん達までトシヤに抱きついている。
トシヤは締まりのない笑顔で笑っている。トシヤが本当の笑顔になってくれることが、私の一番の思いだが、こんなの笑顔じゃない!
「だけど、笑顔を作るのはだれ?」
目の前のトシヤが私に語りかける。その言葉に私の心が乱さされる。
「笑顔を見たいって、それは友美が満足するためだろう?」
「ちがう!」
「じゃあなぜ、いつまで経っても俺は友美が満足できる笑顔が作れないんだ?」
「それは……私のせいだ!……私が傷跡を見せたから!」
「そう、じゃあどうすればいい?」
「私が、……私が……」
ーー 私がトシヤにもう会わなければ……
私はその想いを言葉に出来なかった。それを言葉にしたらトシヤに会えなくなる!
私は俯いて涙を流す。ユリスティアがペロペロと涙をなめてくるが、撥ね除ける力が出てこなかった。
私の大切な親友である直人、そして親友であり大好きなトシヤ。私は我が侭だ!
トシヤのトラウマを直す振りして、いつまでも一緒にいようとする。
だけど、だけど!トシヤが大好きなんだ!!
◇
そこで目が覚めた。
まだ、誰かが頬を舐めている。
私は目を開いた。
目の前に小型の柴犬のシバさんが私の涙を舐めてくれていた。ユリスティアのペロッはシバさんが原因か。
私はフィールゲームのヘッドギアを外して、シバさんをギュッと抱き締める。
少し夢の不安が減ったが、何も解決していない。
シバさんがまた私の顔を舐めてくる。
いつもなら抱き締め殺さないようにするのに大変な私だけれど、今はそんな気持ちになれない。
暫く俯いているとスマフォが鳴った。
トシヤからだった。
すこしスマフォを見詰めた私は、シバさんを脇に置いて自分の頬を叩いた。
「はい、トシヤ? 大丈夫だった? ……そう、じゃあこれからまたトシヤの家に集合ね!直人に電話して貰える?私も急いでそっちに行くわね!じゃあね」
いつも通りに明るく言えたかな。
まだ、もう暫くこのままでいいよね。お願い。
ここまでお読み頂誠に有り難うございます。




