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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
プロローグ
2/38

02話

8/27 修正を行いました。

9/17 今まで読んで頂いた方には申し訳ありませんが、1話から5話までを大幅修正しました。


 ログインから2時間。



 「ふっかっつ!!」


 5分間の人魂状態からアバターに復活して、友美が嬉しそうに拳を上げる。

 火の玉の人魂状態だと、動けないし手も足も出せない。その上存在感も希薄になったようでとても心許ない感じがする。そんな状態から解放されて俺も一安心する。


 「じゃあ、今度はどっちに行く? あ、でもあそこの場所が面白そうだよ! あそこに行こう」


 友美は俺と直人に聞いてくるが、俺たちが答える前に自分が行きたい方向を指さして駆け出す。

 駆け出す友美を慌ただしい奴だなと思いながらも、俺はゆっくり歩いて友美を追う。


 初めてのゲームのためか、いつもの天然の陽気さに磨きがかかったように動き回る友美を見て、俺は昔の事を思い出してしまう。


 幼い時から友美は元気一杯な奴だった。

 幼稚園に上がる前から一緒に遊ぶことは何度もあった。その時は可愛い子だとは思っていたが女の子とは思っていなかった。幼稚園に上がる前の友美は、短い髪で半ズボンにTシャツの男の子のような格好で、公園や神社で泥んこになって元気に遊んでいたからだ。半ズボンTシャツ以外を着ているのを見たことがなかった。

 友美を初めて女の子と思ったのは、俺が幼稚園に上がる直前だった。


 その友美が幼稚園に入学するために制服を着て、恥ずかしそうにスカートを押さえながら俺と直人の前に現れたときに、俺は初めて友美を可愛い女の子と意識した。


 入園式が終わった翌日には、友美はスカートは止めてしまったが俺の中では、友美の騎士ナイトになったつもりだった。


 あの頃は、直人も俺と一緒に友美の騎士になろうと争っていたが、あの事故があった後から直人は騎士で争うこともなくなった。俺もあの事故から騎士にはなれないと諦めた。


 そう、あの事故で幼い俺と友美と直人の関係が、一時期ぎくしゃくしたが友美が持ち前の元気と陽気さで何とか前の状態に戻ることが出来た。



 あの事故。


 幼稚園に入った後の夏休み、俺の爺ちゃんが居る田舎に友美達と一緒に遊びに行った。

 家の裏山で崖の近くを通ってカブトムシが取れる秘密の場所へ、親達に黙って俺が友美達を案内している時だった。

 崖の上を歩いている時、カブトムシを見たくて元気よく歩いていた友美が滑った。

 咄嗟に俺は友美の腕を掴んで助けようとしたが、引きずられてそのまま俺は友美を庇いながら崖を落ちてしまったのだ。


 あの時の感覚は今でも覚えている。

 崖を落ちながら友美を庇った時、周りの風景が止まったようにゆっくり進む感覚。

 ああ、いま崖を落ちているんだな。と、風景を見ながら思うことが出来た。

 今なら分かるが、あの感覚は生命が危険になった時に起こる走馬燈だろう。


 数メートルの崖を転がるように落ちていく俺と友美。

 ゆっくり動く周りの世界で、俺は友美を庇い転がっていく。

 転がりながらも俺は崖の所々に、鋭い切り株が何カ所もあることが見て分かる。

 殆どの鋭い切り株は、友美と俺を傷つけないと何となく分かったが、崖の中腹に生えている切り株に近づくと、丁度その切り株の上で俺たちが弾む事が幼い俺でも分かった。


 俺は何かを掴んで方向を変えようと友美を抱えている腕を解こうとするが、友美が離れていきそうになった。

 見ると友美は気を失っているようだった。

 もう方向を変えることが出来ない。

 俺は少しでも友美が傷つかないようにギュッと友美を抱き締めて、目を瞑ってしまう。


 『ドサッ』


 俺と友美は崖の下で止まっていた。

 長い年月に枯れ葉が積もった崖の下は、クッションのようになっていた。

 俺は腕や足が少し痛いくらいで大きな怪我はなかった。

 崖の中腹の切り株は、先程の俺と友美が少し動いたことで避けることが出来たと思った。

 助かったと思った時、俺は温かい赤い液体を握っていることに気がつく。


 その後の事は思い出したくない。

 あの後の事は、痛烈なトラウマとして今も強く残っている。


 病院に運ばれた後、退院した友美は俺を責めることもなく、今も親友として遊んでくれる。

 友美が生きていてくれて良かった。

 どうして友美は俺を責めないのか本当なら聞くべきだっただろうが、怖くて聞くことが出来なかった。

 友美が責めないことで、それ以上聞くことが出来なくなってしまった。

 聞いたことで友美との幼馴染みとして、友達として、この関係が崩れてしまうことが怖かった。

 いつしか俺は、あの時の事を思うと口が強張り上手く話しが出来なくなってしまった。


 そうして俺と友美は、あの時の事を話し合うこともなく、今は無かった事のように振る舞っている。

 直人もこんな俺たちの関係を考えてか、あの事故について何も言わなくなった。


 しかし、友美の脇腹と髪で隠れている額には、大きな傷がある。

 友美は目立たないように上手く隠しているけど。

 その傷を付けたのは、…… 俺だ。


 だから俺は責任を取らなければと思っている。



 ◇



 「トーヤ、何やってるのよ! 早く来てよ」


 ゆっくり歩いていた俺に、痺れを切らした友美が笑顔で手を振りながら大声で呼んでいる。


 「分かった。今行く」


 獣道のような細い道の曲がり角で待っている友美と直人に俺は駆け寄っていく。


 「あそこに空き地があるわ、あそこに行ってみましょう」


 友美が指し示した先は、木々が生い茂って薄暗い森の奥に巨木が朽ちて出来たような大きな空き地だった。

 その空き地だけ光が降り注ぎ、まるで俺たちを誘っているように明るい場所を見つけた友美が飛び込んでいく。慌てて俺と直人もその後に続く。


 空き地の中央に、高さが4メートルほどの苔むしたドーム状の巨大な岩があった。


 空き地に入った瞬間、俺には雰囲気ががらりと変わった様に感じがした。

 飛び込む前までは、特に異変もない自然な森の中という感じが、今は神秘的な雰囲気が漂う場所に立っている感じがする。


 感覚的な説明になってしまうが、まるで神社の奥深くで時折感じられる神域に足を踏み入れたようだ。

 木々の間から空き地に降り注ぐ光も、清浄な輝きを放ちながら、大岩に生えている苔を霊妙の生き物のように照らしている。


 「なにか変な感じがする場所ね」


 猫耳少女になって第六感が鋭くなっているのか、友美が直ぐに異変を感じて、少し不安げに周りを見渡しながら俺の側に寄ってくる。


 「僕も何となく不思議な感じがする場所に思えるけど」


 直人も何かを感じているらしい。


 「何かのイベントが発生するのかな?」


 直人は、そう言いながら周りを観察している。


 俺はふと気がつく。

 大岩の前に人影のような薄暗いシルエットがボンヤリと見える。

 そのシルエットは、徐々に淡い光と色彩を付けてくるがそれでも後ろの大岩が透けて見える。


 「な、なに? あれって幽霊なの?」

 暗がりや幽霊、お化けの話しを人一倍怖がる友美が俺の服を掴んでくるが、俺はそれに気がつかなかった。


 淡い光で出来たシルエットが、少女の形になっていく。

 燃えるように赤い髪に青い瞳の少女は、動きやすそうな軽装鎧を身にまとっているが、何かに追われているのか疲労が濃い顔であたりを見回している。


 俺たちが見えないのか、俺たちを気にする様子もない。

 俺たちも幽霊のように淡く薄らと光る少女にどう接していいか躊躇していた。


 その少女が驚いたように急に後ろを振り返る。

 大岩の方を見ながら怯えたように後ずさり始めると、大岩の後ろから全身白い鎧をまとった女性がゆっくりと現れる。

 その女性も少女のように透き通っているが、少女とは違って白の髪に白い肌それに銀色の瞳、その整いすぎる美しい顔立ちは表情もなくマネキンのようだ。その女性で唯一色彩があるのは、額のルビーの様に赤く輝く石だ。


 少女が勇気を出して女性に話しかけているが、その声は俺たちには聞こえない。


 「トーヤ、あの2人は幽霊なの? それもと何かのイベントが発生したの?」

 不安な表情で友美が聞いてくるが、俺も何が起こっているか分からないので答えようがない。直人を見るが直人も分からないと首を振っている。


 その間にも少女は必死に女性に話しかけているが、女性は無表情のままスラリと腰の剣を抜き始める。それを見た少女は表情を強張るが、急いで自分の剣を抜いて構える。

 女性が無表情のままに少女に向かって上段から剣を振り下ろすが、少女はその攻撃を自分の剣で斜め下に受け流す。しかし、余程女性の剣が重かったのか少女がバランスを崩して一歩後退する。それを見越したように女性の剣が、下段から少女を襲うが少女も瞬時に剣で受け止めている。


 俺たちの前で繰り広げられる戦いは、声も剣が交差する音も聞こえない無音の状態で進んでいく。

 まるでサイレント映画の戦闘シーンのようだった。

 相変わらず少女達は俺たちが見えないのか、戦いながらこちらに近づいてくる。


 俺の性分で、か弱そうな少女を応援したくなるが、戦いを見ていると少女の方が負けそうだ。その時、俺の服の裾が少し引っ張られる。見ると友美が俺の服を掴んでいたが、友美は真剣に半透明の少女達の戦いを食い入るように見詰めて、服を引っ張ったことに気がついていない。友美の表情からも少女が負けて欲しくないと思っているみたいだ。


 俺が少女達の戦いに顔を向けた瞬間に戦いが大きく変わった。少女の剣が折られてその破片が俺の方に飛んでくるのが同時だった。俺は避けることも出来ずに破片が、友美がいない俺の左腕をかすめて後ろに飛んでいく。

 

 「トーヤ! 大丈夫!?」

 友美が飛んできた破片に驚いて聞いてくるが、平静を装って大丈夫だと答える。しかし、俺の左腕の切られた部分が痺れてくる。淡い光の剣の破片が俺を傷つけたことに驚く。俺は陽炎のような少女達に干渉出来ないと勝手に思っていたが、もしかしたらと思い俺は懐からある物を取り出す。


 剣を折られた少女は、まだ攻撃を防いでいるが勝敗が決まるのは時間の問題だ。


 俺は少女と女性の表情を見詰める。少女は疲労と苦痛と悲壮が混ざったような苦しい表情をしている。一方、女性の方は無表情のままだ。いや、無表情の女性の口元が少し上がっている。それはほんの微かな変化だったが、俺には少女を見下した嘲りあざけりのように思えた。

 そう思えた時、俺はゲームのシステム補正を利用して懐から取り出した手裏剣を、無表情の女性で唯一色がある額の赤い石に投げつけた。女性の注意を逸らさせて、少女が反撃できるように助けるために投げた手裏剣だった。


 「パリンーーーー!!」

 

 俺が投げた手裏剣が、淡い光で出来た女性の額の赤い石を砕く音が聞こえた。無音で戦っていた少女達から初めて音が鳴り響く。少女に止めを刺そうとしていた女性が、初めて無表情から驚愕の表情になって俺を見つける。何かを言う前に女性の姿は、光の姿が弾けて消えてしまった。


 ーー 少女への攻撃を妨害するつもりだったが、女性を撃退してしまったようだ。まあ結果オーライって事でいいか?


 俺が少女を助けられたことにホッとしていると、少女は自分が助かったことに驚き、そして初めて俺たちが居ることが認識できた様子で更に驚いている。

 赤毛の少女は、俺たちを見て何か話しかけてくるが、相変わらず声が聞こえない。俺には少女の光が少しずつ弱くなり始めている様に見えた。俺たちが無反応であることに少女は焦るが、すぐに何かを決意したようだ。


 両手を胸元で組んだ少女は、何か唱えているようだが直ぐに3つの小さな光球が少女の前に現れる。その光球を見た少女は両腕を広げて更に何かを唱えたようだ。それと同時に3つの光球が俺たちに向かって飛んでくる。避ける暇も無く俺にぶつかった光の玉は、俺のアバターを一瞬光の膜の様に全身を覆って光った後、すぐに消えてしまった。


 俺は驚いて自分の体を見るが、特に変わったところもない。友美や直人の方も見るがアバターが変わったような箇所もなさそうだ。


 ホッとしてどう言うことか少女の意思を確認しようと見ると、少女は虹が消えかかっているように薄らと見えるだけの状態となっている。

 不思議なイメージが俺の頭に湧き上がった。そのイメージは、喜び、お願い、謝る、心配、それらが混ざった言葉では言い表せない複雑な感情のイメージだった。

 そして少女は消えてしまう。


 俺は少女が消えてしまった場所を暫く見詰めていたが、もう現れる様子はなかった。


 「ねえ、さっきの光の彼女たちは何だったの? やっぱり幽霊?」

 友美が不安そうに周りを見ながら聞いてくる。


 「分からない。分からないけど何かイベントが発生したのかも知れない」

 俺にも彼女たちが何をしていたのか、何を俺たちにされたのかよく分からなかった。それでもフィールゲームの出来事だから何かのイベントが発生したと思った。直人も同じ考えのようだ。


 「何かこの空き地にいると、鼓動が速くなってくるわ。嫌な感じがする。一度この空き地を出た方がいいかも」


 そう言って、不安の表情を隠そうとせずに友美は、俺と直人の手を取ると急いで出て行こうとする。

 空き地を出ようと急ぐ先頭の友美が、来た道への繁みに足を踏み込もうとしたとき、ポヨンと弾き返された。


 「あれ?」

 

 友美はそう言うと、今度は繁みの上の何も無い部分に手を出すと、その手がポヨンと押し返されてくる。


 「どう言うこと?」


 友美は不安と混乱でどうしたらいいか迷っている顔で、俺を見詰める。

 俺と直人は急いで見えない壁を触ってみる。


 「見えないゴムの様な壁があるね」


 冷静に調査を行う直人に、俺も足下にある小石を拾って木を超える高さに投げてみる。

 小石は木を超えずに見えない壁に弾き返されて、空き地に戻ってくる。


 「木の上の方まで、ドーム型に何かに覆われているって感じかな?」


 俺もそう判断を出して考え込む。


 「なにか分かった?」


 心配顔で友美が聞いてくる。


 「この空き地に入った僕たちを、外に出さないように結界が張られたって事だと思う」

 「何かのイベントが発生したってこと?」


 直人の考えに、友美が疑問で答えてくる。

 そこで3人同時に結論に達した。


 「「「フィールド・モンスター(のエリアか?)」」」

 

 見えない壁を触りながらそう声を出したとき、後ろの空き地で重々しい音が響いた。






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