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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
タムルの砦
17/38

16話 3D:スフィア2

2015/10/25 一部誤字修正を行いました。


 3日目、ログインから1時間20分。


 子供達は、白い木の人形が動くことに怖がる様子も見せずに、ペタペタと俺たちに触ってくる。今まで動くとは知らずに御神体を見てきた子供達が、動いて目の前にいることに興味で触ってくるという感じだろう。

 俺は、自分のアバターとなった御神体と言われる木の人形を、もう一度見てみた。腕、胴体、足の表面は樹皮のように凸凹だが、子供達に触られると、その手の感触と手の温かさを感じることができる。俺は自分の木の手で、顔や腕を触ってみると少しザラザラした皮膚を感じるが、木の感触ではなく温かみのある人の皮膚を触っているように感じる事が出来た。


顔の作りがどうなっているか興味が湧いた俺は、子供と遊んでいる友美と直人の御神体を観察してみた。2体共に全体が白木で出来ていて体長は2メートルほどで、頭部の瞳がある位置には大豆ほどのブルーの石が2つ埋め込まれて、それが瞳として機能している様だ。その瞳の真ん中より少し下に盛り上がった部分が鼻で、更にその下に横一文字にひび割れた亀裂が口である。顔の横には耳はないが音は聞こえるので、聴覚機能はあるようだ。一通り五感は備わっている様だが、この姿はまるでハロウィンのモンスターだ。よく子供たちは怖がらないものだ。


 暫くして俺たちが出てきた部屋からライナたち3人が、籠一杯になった琥珀色の殻を持って通路に出てきた。俺たちの周りにいた子供達がライナたちを見つけると、嬉しそうに駆け寄っていく。ライナたちも駆けてくる子供達に気が付くと嬉しそうに声をかけている。そうして合流した子供達は、俺たちに挨拶した後、重い籠を助け合いながら持って通路の向こう側に行ってしまう。それを見送った後、俺たちはユリスティアの先導でフィシスの所にゆっくり歩き始める。


 歩いている途中で通路が途切れた場所に出た。そこは裏の斜面から生えた様に見えていた巨木が、ここで大きな岩盤を抱え込むように根を張っている場所だった。先程中庭を見た時に、巨大な樹の枝が砦を覆うように茂っていたが、その根元がここの場所だ。非常に大きな巨木だ。幹は大人が両手を広げて数十人でようやっと囲えるほど太い。通路が途切れているのは、この巨木の生長を邪魔しないために取り除かれたためのようだ。根元は柵で覆われて簡単には巨木を触ることが出来ないようになっている。


 その巨木を見ていた俺は、何かに呼ばれたように感じて吸い付けられるように、その根元に歩いて行くが、ユリスティアは俺が通路を逸れたことに怒りもせずに、友美達と一緒に俺の後を付いてくる。


 「ユリスティア、この大きな樹は何?」


 友美も砦を覆うように茂るこの巨木が何なのか興味深そうに、ユリスティアに聞いている。ユリスティアはこの巨木について質問してくれた事が嬉しそうに話し始めた。


 「これが聖樹と言われる私たちを支えてくれる樹です」

 「この樹が、何度も話しに出てきた聖樹なんだ。見た目は普通の大きな樹に見えるけど、この樹から聖樹の実が採れるのね?」

 「そうです。『聖樹の実』は、万能の実と言われて数年に2個ほど取れる貴重な実です。それ以外にも1年に数個採れる『知識の果実』や、葉に溜まった朝露を集めて蒸留してできる『聖樹の雫』など、色々と私たちを助けてくれるとても大切な聖樹ですが、その聖樹もセイリル王国内ではここ以外に6カ所あるだけとなってしまいました」

 「知識の果実? 聖樹の雫? それは聖樹の実とどう違うの?」

 「違いですか? 知識の果実は、子供に食べさせると記憶力が良くなったり、考える力が向上するなどの能力を高めてくれますね。大人も効力は薄くなりますが同じように働いてくれる果実です。それと聖樹の雫は、飲むと体内の傷や病魔を治してくれるのと、傷に振りかけると傷の治りを早めてくれる効能がありますよ。聖樹の実は果実と雫の効能以外に、精神的な疲労や個人の能力を高めてくれる作用があったり、今回のように御神体を動かす時の栄養とすることも出来ますね」

 「ふ~ん、そうなんだ。だけどそれなら薬草やキノコでもそんな効果がありそうだけど、そう言う植物はこの世界には無いの?」

 「薬草やキノコにも同じ様な効能がある物もありますが、それらは短期間で効果が切れてしまいます。しかし、この聖樹の物は一生効果が続く事が違います。それに友美達の御神体も元はこの聖樹の木が利用されていると伝えられていますし、この砦を覆う様に伸びた枝は、砦の皆に安心感を与えてくれてくれます。それなのでこの樹を聖樹として私たちは崇めています」


 そんな友美とユリスティアの話しを聞きながら、俺は聖樹を見上げていた。山に挟まれた谷間の砦であるに関わらず今の時間帯には太陽の日差しが、聖樹にも降り注いでいる。キラキラと太陽の日差しが葉の隙間から降り注ぐ様子を見ていた俺は、白い羽がクルクルと回りながら落ちてくるのに気が付いた。


 その白い羽は、少しそよ風が吹くだけであっちに行ったり、こっちに来たりとフラフラと飛んでいるが、どうやら俺の所に飛んでくるようだ。右手を上げてその白い羽を掴もうとするが、掴む瞬間に羽はスルリと手を抜けて、腕を伝わって右肩に止まった。


 俺は動作が遅い頭を動かして右肩に止まった白い羽を見ると、羽の先端に小さな種が付いていた。その種は瞬く間に根を出して俺の肩に根を伸ばしてきた。慌てて振り払おうとするが、小さな種は、表皮の凹みに入り込み、根は溶け込むように右肩に入ってくる。


 「トシヤ? どうしましたか?」


 俺のおかしな動きに気が付いたユリスティアが聞いてきた。


 「白い羽を持った種が、上から振ってきたと思ったら俺の肩に止まって根を張り始めたんだ。これは何だ?」

 「白い羽を持った種ですか? ちょっと見せて頂けますか?」


 俺は、ユリスティアに見えやすいように、前屈みになって右肩を見せた。その時にはもう種は、緑色の双葉を出していた。このまま急激に生長して行くのか心配になったが、小さな双葉から成長する様子はなかったので、少しホッとしながらも寄生した植物をユリスティアに見せる。


 ユリスティアは双葉や種から抜け落ちた白い羽を調べ始めてくれる。一緒に友美と直人も見てくれている。


 「トシヤ、この植物は私も今まで見たことがありません。ルナ医師やお祖母様なら何か知っているかも知れません。植物の生長は止まっているようなので急ぐことはなさそうですが、一度お祖母様に見せた方が良いですね」


 ユリスティアも見たことがない植物が俺の肩に根付いたことに、ちょっと驚いてしまうが飛んでくる時の綺麗な白い羽を見たためか、不思議なことにこの寄生植物に恐怖を覚えなかった。それに巨木を見た時に木の根元に引き寄せられるように感じたことも関係しているのかも知れない。



 <……マ…シ…ター>


 フレンド通信や念話とは違う声が俺の頭の中に直接聞こえてきた。


 <……マシュター、…マシュター、マシュターご返事を……>


 言葉を覚えたての様な幼い子供が話しかけてくる声が聞こえてきた。急に何処からか声をかけられた驚きや、幼い子供の声であることに恐怖を感じることはなかった。「さしすせそ」が上手く発音が出来ないみたいだ。


 <俺の事か?>


 俺も声を出さずに頭の中で問いかけに答えてみる。


 <はい、マシュターを……と登録しゅましゅ>


 やはり声が聞こえてきたのは右肩に寄生した双葉の植物の方からだった。


 「トシヤ、どうしたの? どこか変なの?」


 寄生植物をユリスティアに見せている姿勢で固まったように動かなくなった俺を心配して、友美が声をかけてくる。俺は、友美達に寄生された植物から話しかけられていることを説明すると、友美や直人は驚いてきたが、ユリスティアも驚いている。


 「ユリスティア、俺たちの世界には話す植物はいないけど、この世界も話しが出来る植物っていないのか?」


 ユリスティアの驚きように俺は確認してみた。


 「はい、話しができる植物は神話の物語に出てくるくらいで、実際にいないはずです。……だけど、その植物が話せるとしたら……」


 俺はユリスティアの話しを聞きながら、木の指先で優しく双葉の植物を触ってみる。


 <やめて下しゃい。マシュター。生まれたばかりでつぶれちゃうでしゅ。マシュター>


 <どうして俺に付いたんだ? この聖樹とお前は関係は何かあるのか?>


 <はい、……が助けてあげなしゃいって、送り出しゅてくれたのでしゅ>


 <誰だって?>


 <……でしゅ、……でしゅ? ……で…しゅ>

 生まれたてで上手く話せないのか、一生懸命話そうとしているが発音できないようだ。発音が出来ないことにショックを受けているのか、話す声に力がなくなっていく。


 <分かった、まだ話せないようだね。なら何が出来るんだ?>


 <まだ話しゅ以外に何も出来ないでしゅ>


 話すだけって言っても発音が出来ない部分もあるから話せないよね?と突っ込みを入れそうになったが、幼い子供のように話す生まれたばかりの植物にそれは酷いと思って言葉を飲み込んだ。それに「まだ」って言ってたから将来何か出来るようなるかも知れない。そこで俺は、長い付き合いになりそうな寄生植物に名前がないと不自由だと気が付いた。


 <なあ、きみには何か名前はあるのかい?>


 俺の問いかけに少し考えていたが。


 <わたしゅには、まだなまえはないでしゅ。マシュター>


 <それじゃ、俺が名前を付けてもいいかな?>


 <はい、お願いしゅましゅ>


 俺は、右肩に生えた寄生植物を見詰めて考える。いろいろな名前が浮かぶかシンプルな名前にしようと思った。


 <じゃあ、フタバって名前でいいかな?>


 <フタバ……いい名前でしゅ、ありがとうマシュター>


 俺が名前を付けてあげると喜んでいる。話している内に植物と話していると言うより、幼い人間の子供と話している感覚になっていた。その喜ぶ声を聞きながら俺は、フタバとの会話の内容をユリスティアと友美達に話して聞かせる。


 俺の話しに驚いて聞いていたユリスティアだったが、いつの間にか聖樹の下で長居をしていたみたいでユリスティアは、その事についてもお祖母様に話したいのでお祖母様の所に移動したいと言ってきた。


 「分かった。ここから移動しよう」


 そう言った俺をフタバが引き留めてくる。


 <マシュター、待ってくだしゃい。移動しゅる前にこの木に登ってくだしゃい>


 <この木って、聖樹のことか?>


 <はい、この木をしゅこしゅ登ったところに、……が溜まったとろがありましゅ。そこまで登ってほしゅいでしゅ>


 フタバの話しで聖樹を登ることが出来るか、聖樹を観察するともっさりと動く御神体でも登って行けそうな足がかりがあることが分かったが、さっきもユリスティアから聞いたが、この聖樹は砦の人達に多大な恩恵を与えているし、心の支えでもあるはずだ。その樹に登ることが出来るだろうか?

 俺はユリスティアにフタバの言葉を伝えたが、ユリスティアも登ることを許可して良いか決めかねている。


 「ユリスティア、この聖樹に登って良いかフィシスにも確認を取ろう。それで許可が取れれば一度登ってみるよ」

 <フタバ、この木に登るのに人の許可がいるんだ。それで許可されたら登ってみるよ>


 そうフタバに話しかけたが、納得してくれないようだった。

 <フタバがいいって言ってるんだから、登ってもいいでしゅよ>

 <早くマシュターのガーディアンを……しゅたいのに>


 <悪いなフタバ、俺も頼んでみるからもう少し待ってくれ>


 <分かった。マシュターの言うとおりに待つでしゅ>


 そう納得してくれたフタバを肩に生やしたまま俺は、ユリスティアの先導で再びフィシスの所に急いで歩き始めた。御神体の歩き方も大分ギクシャクしなくなったが、まだ、子供の歩きよりも遅い状態だった。







ここまでお読み頂誠に有り難うございます。

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