15話 3D:スフィア1
2015/10/25 一部誤字修正を行いました。
3日目、ログインから20分。
俺たちは、夢見の世界に入った。
急いでゲートを閉じた後に、友美になぜ逃げ出したのか聞くが、歯切れが悪い。
「う~ん、何て言うのか、私にとって危険な人だなぁって直感的に思ったの。それに私たちに声をかけてくるなんて、多分ゲーム運営側の人だろうと思ったのよ」
「友美にとって危険って何だよ? 俺には危険な人とは思えなかったけど、それにもしあの人が運営側なら今の状況を話しておいた方がいいんじゃないか?」
「バカね、そんな事すると私たちが勝手に開発環境に入っていることが分かって、下手するとアカウントが没収されて、ユリスティアに会えなくなっちゃうじゃないの」
友美は危険な部分について答えてくれなかったが、実害があったわけでもないし暫く綺麗なエルフの人については放置しておいてもいいか。そう思った俺はユリスティアについて聞いて見ることにした。
「それは困るけど、やっぱりユリスティアや砦の人達って、NPCなのかな?」
「私にはNPCの様には感じないけど、私たちのためのエキストラという感じもしないのよね。直人はどう思う?」
「僕は、この夢見の世界や砦のあるスフィアの世界が、開発環境の中にある仮想世界ならユリスティア達は、高度に洗練されたAIの人格かなって思うけど、まだそう断定するには情報が不足しているから僕としては一度、運営側の人と会って話してみたいな」
「そうだよな、俺もこの夢見やスフィアが開発環境の仮想世界だって思っているけど、いつまでも無断でアクセスしていいて訳にもいかないよな」
「私は、ユリスティアと会えなくなるのは嫌よ」
「まあ俺もユリスティア達と会えなくなるのは嫌だし、せめてこのシナリオイベントはクリアしたいしな」
ユリスティアがプレーヤーかNPCか判断するにも、結局のところ一度運営側の人と会って見ないと分からないって事か。そうなるとあの優しそうに見えたエルフの女性が、運営側の人であるといいなと俺は思ってしまう。話しやすそうな人だったし。
俺たちはそんな事を話して神殿から裏手の巨木のところまで歩いて行く。その際、昨日のように黒豹が襲ってこないか注意していたが襲ってくることはなかった。
そうして巨木の洞に入っていく。地下の部屋は昨日と同じに光苔が夜空の星のように光っていてとても幻想的だ。
「昨日とは違う場所に入ればいいんだよな?」
「そうだね、どの場所がいいかな。あ、私は真ん中のベッドね」
そう言って友美は昨日とは違う真ん中の根のベッドに入っていく。俺と直人はその左右のベッドに入って直ぐに意識が闇に沈み込む。
◇
そうして直ぐに目覚めるが、昨日と同じように霞んだ視野となる。体も昨日のように動かない。直人が直ぐにシラブルへ念話しようとするが、ガサガサと音がして霞んだ視野で何かが動く。部屋に誰かがいて話しかけてきている様だ。
『直人、部屋に誰かいるみたいだ』
『あ、この声は、リリアナちゃん達だわ』
俺も集中して声を聞いてみる。
「リリアナです。聞こえますか?ユリスティア様から伝言があります。ユリスティア様達は昨日の夜にメテ砦を襲ってきた魔獣の後片付けがあるので、少し遅れるそうです。次はトリティね」
「トリティです。それで私たちが友美様たちをお迎えするように言われました。それで友美様たちが来たらこの実を飲ませて欲しいと預かっています。今から私たちが実を口に持って行きます。次はライナの番ね」
「…分かった。……ライナ…です。この実を…食べてもらってから…目を拭いて……御神体の殻を集める…そう言われた」
少女達は俺たちが来た時に、何を順番に言うか決めていた様だ。ライナは話し下手の様だが大体今の状況が分かった。少女達は俺たちの御神体が腰掛けている小さなベンチを足がかりにして、腕を伸ばして小さな手に持った聖樹の実を口元に持ってくる。
「口…あけて」
俺の口元に実を差し出しているのは、ライナの様だ。俺は昨日のように口を開けると、ライナが優しく実を口の中に入れてくれた。
「次…目を拭く……痛かったら言って」
まだ発音が出来ない俺にライナの話し方は無愛想に聞こえるが、目を拭く時には優しく綺麗に拭き取ってくれた。視野がハッキリして、もう片方の目を拭いてくれているライナの幼い顔が間近でよく見える。黒髪で黒い瞳であるが、顔つきは日本人とは違い西洋人のハーフの顔つきだ。昨日はまだ少し青白かった顔色だったが、頬は少し痩けているが今はピンク色で健康的に見える。一生懸命目を拭くのに集中しているのか、薄らと汗をかいている。
「…終わった。次は…殻集め」
ライナは大仕事を終えたという感じに額の汗を拭きながら、次の作業を言って琥珀色の殻を籠に集めていく。友美達を担当していたリリアナとトリティは、既に殻集めを始めている。
『トシヤ、友美、聞いていたと思うけど、さっきシラブルさんに僕達が来たことを話しておいたから』
『サンキュウ直人、ユリスティアはもう少し遅れて来るって事か』
『昨日の夜に夜襲が遭ったみたいだけど、ユリスティアたちは大丈夫だったのかな』
『シラブルさんに聞けば教えて貰えそうだけど、忙しそうだから僕達はユリスティアから直接聞いた方が良いかもね』
『そうだね。それまでリリアナちゃん達に色々と聞いてみましょう』
暫くして声が出る様になって俺たちは、少女達に御礼を言ってから色々と聞きたい事を話しかけてみた。俺たちが話しかけると殻集めの手が止まって、一生懸命考えて答えようとする態度が可愛いのだが作業が進まないのは申し訳なく思ってしまう。
「殻を拾う作業を止めてごめんね」
「いいえ、友美様たちの質問にもなるべく答えるように、ユリスティア様からも言われているので大丈夫です」
友美が謝るが、リリアナが嬉しそうに答えてくれる。ユリスティアのお手伝いが出来て嬉しいリリアナ達だが、言葉遣いが大人っぽい。多分砦で暮らしていると周りの大人達の影響で、大人っぽい話し方になるんだろう。ちなみに先程、話しながら年齢を聞いたところリリアナは6歳で、トリティとライナは7歳だった。一番元気が良いリリアナが6歳というのは驚いたが、リリアナ達が知っている事は少なく、砦の配置と襲って来る魔獣の容姿くらいだった。
砦の配置は、今俺たちが居る場所が「本砦」で、本砦の左右には大きな山がある谷間に建てられていて、その谷の真ん中にも高い山があるそうだ。本砦から左右に分かれた谷に沿ってカーブした先に、右に「メテ砦」があって、左に「ユンデ砦」が建てられているそうだ。ユリスティア達は今はメテ砦にいるそうだ。
リリアナ達は生きた魔人や魔獣を見たことはないらしい。大人達でも魔人を見ることは中々ないらしいが、魔獣については大人達から聞いた話では、その容姿は角の生えた熊だとか、牙の生えた鹿だとか、岩のように固い皮膚を持つ獣などらしい。イマイチ俺にはイメージが出来ないが、魔獣に共通しているのは、緑色の血を持っていることと、魔核という石を体内に持っていることらしい。
そんな事を聞いている内に、エリスティアが部屋に入って来る。
「あ、ユリスティアが来た。……ユリスティア、大丈夫?」
目敏く部屋に入ってくるユリスティアを見つけた友美が、ユリスティアの様子を見て心配そうに声をかける。ユリスティアは青ざめた疲れた顔つきで部屋に入ってきたが、友美が声をかけると笑顔を見せてくるがそれでも元気がない。
「友美、大丈夫です。少し疲れただけですから。それより来てくれてありがとう。リリアナ達もお手伝いありがとうね」
ユリスティアはそう言いながらライナ、トリティ、リリアナの頭を優しく撫ぜていく。
「ユリスティア様、これ舐めて下さい」
トリティが綺麗に拭いた琥珀色の殻の破片をユリスティアに渡してくる。
「ありがとうね。じゃあ1つもらうね」
そう言ってユリスティアは口の中に殻を入れて舐め始める。それを嬉しそうに見てトリティ達は殻拾いに戻っていく。
「ユリスティア、昨日の夜に襲撃があったそうだが、大丈夫だったのか?」
俺は、嬉しそうに殻を舐めているユリスティアに、昨日の襲撃状況を聞いてみた。
「ええ、負傷者が少し出たのですが、それ以外にはメテ砦の外壁が壊れたくらいで済みました。先程まで魔獣の処理と外壁の修理を行っていましたが、次の奇襲攻撃もなく終わることができました。今は交代で仮眠を取るために皆さん戻ってきていますよ」
殻を舐め始めて見る間に疲れが取れた様子で、ユリスティアが話してくる。俺はその回復の様子を見て、この殻をもし日本で売ったら大儲けできるんじゃないかと、ちょっと欲を出して考えてしまったが、ここがゲーム世界かも知れないと思い出して諦めてしまった。
「友美達は、動けるようになしましたか?」
「ええ、まだギグシャクするけどゆっくり動くことが出来るようになったよ」
友美はそう言いながらゆっくりと御神体の腕を動かして、ユリスティアに手を振って見せている。
「そうですか、それじゃこの部屋から出てお祖母様の所に行ってみますか?」
「ああ、やっと外に出られるね」
動けるようになった俺たちはいつでも部屋から外に出る状態だったが、幼いライナ達を置いて出て行くわけにもいかず、ユリスティアが来てから出ていいか聞く予定だったが、ユリスティアからのそう提案されて喜んでしまった。
「リリアナ、トリティ、ライナ、済みませんが、殻を集め終わったら、昨日のようにルナ先生に半分渡して、残りの半分は皆で分けて下さいね。これから友美達をお祖母様の所に連れて行きますからね」
「「「はい、分かりました。ユリスティア様」」」
元気に答えるリリアナ達を見てユリスティアは俺たちの方を見て話しかけてくる。
「友美たちはゆっくりでいいので、私に付いて来て下さい」
「分かったわ。遅れないようについて行くわね」
そうして辿々しい足取りで部屋から出た俺たちが見た風景に、驚きの声を出してしまった。
「うそ、すごい景色だよ。テレビでも見たことが無いよ」
そこに見える風景は、左右に500メートル程離れた場所から、切り立った険しい絶壁となっている非常に高い山脈に挟まれた谷の中に俺たちはいた。山脈の頂は雲に隠れて見えず、山がこちらに伸し掛かるような壮大光景だった。左右の山脈の中腹から水しぶきを立てながら滝が降り注いで、その水は砦の前までゆっくりと流れてきている。砦の前にも左右の山脈より低い山が砦から陸続きに繋がっており、左右から流れてきた川の流れは砦の左右で更に数メートルの段差がある下に落ちて、溜め池に流れ込み、溢れた水が真ん中の小さい山の左右を迂回して谷を通って奥へ緩やかに流れ出している。
砦の後ろは傾きが緩やかな登り斜面が数十メートル続いている。そしてその斜面と砦の間に、砦を覆うように巨大な樹が3本絡み合って太い幹を延ばしていた。
砦の周りは谷間であるのにもかかわらず緑豊かに植物が繁茂していた。
「確かに凄い景色だ。ユリスティア、ここが君の砦なのか?」
俺たちが見ている風景を見ながら、ユリスティアも話してくれる。
「ええ、そうです。本当かどうか分かりませんが、伝説ではこの谷は巨大な魔獣によって、左右の高い山脈がつながっていたのを、2本の爪で削って出来たと言われています。その巨大な魔獣は英雄によって滅ぼされて、この砦を建てられたと語り継がれています」
ユリスティアの説明に耳を傾けていた俺に、ユリスティア以外の人の話し声が聞こえてくる。この御神体に慣れて来ると、人の耳や目より少し性能が良いことが分かってきた。聞こえてきた人の声の方を見ると、学校のグラウンド半分程の砦内の中庭で、大勢の人達がこちらを見上げていた。その中の何人かの老人達は、俺たちを拝んでいるようだ。
ユリスティアも中庭の騒ぎに気が付いたようだ。
「友美、直人、トシヤ、砦の皆がこちらに気が付いたようです。ここで友美達の事を簡単に説明したいと思いますが、全てのことは言いません。知恵を貸してくれる方が、御神体を通して来てくれたと説明しますので、驚かないで下さいね」
まあそうだろうな、砦を助ける人が来たと言っても辿々しい足取りで、中身が14歳の俺たちでは何しに来たって言われそうだしな。
俺たちが頷いたことを確認すると俺と同じ14歳のユリスティアは、領主の顔つきになっていく。
「砦の皆さん」
ユリスティアの澄んだ綺麗な声で中庭の人々に話しかける。その声に、中庭で作業していた男達もユリスティアの方を見上げてくる。
「昨夜の夜襲に砦の皆さんも頑張って頂きありがとうございました。先程、メテ砦の外壁の修理も無事終わりました。これも本砦の後方支援があって出来る事です。砦の皆さんには感謝しております。今日はまだ日が高いですが、休憩を取れる人達は休んで下さい。疲れが酷い方はルナ医師に会って、御神体の殻を貰って下さい。それで疲れが少し取れます」
ユリスティアはそこまで話して、一度中庭の様子をうかがう。
「ユリスティア様、いつも感謝しているよ」
「ユリスティア様も休んで下さいね」
中年の女性と見られる何人から御礼の言葉がユリスティアにかかる。
その言葉を聞いてユリスティアも少し安堵した表情で、話しを続け始める。
「また後で説明しますが、ここにいる御神体について話しておきます。この御神体は、この後ろの御神体の部屋に祭られていた物ですが、数百年ぶりに私たちの窮状を解決するために、知恵を貸してくれる人が憑依してくれています。昨日の殻はこの御神体の物で、今もライナ、トリティ、リリアナが殻を集める作業を行って貰っています。まだ、御神体の動きがぎこちないですが、見かけても怖がらないで下さい」
「ユリスティア、その御神体に憑依している人達は少年や少女と聞きいたが、そんな子供達の意見がこの砦で重要になるのか?」
そう厳しい意見を言ってきた方を見ると、少し生意気そうな一人の青年であった。
「キトラ、貴方の心配も分かります。ですので砦での戦法とは別の戦い方を、この御神体の方々に見つけ出して頂こうと思っています。そのためには砦の状況を見て頂く事になります。その際にはキトラも支援をよろしくお願いします」
そう言ってユリスティアは、キトラと呼ばれた青年に頭を下げる。
「お、おう、ユリスティアがそう言うんなら、まあ大丈夫だろう。よろしくな。御神体の子供達」
ユリスティアの真摯な態度に、青年が折れるように俺たちに挨拶してくる。俺たちはユリスティアをまねてゆっくり白木の頭を下げることで、挨拶してみる。キトラは周りの大人達に軽く頭を小突かれている。
ユリスティアは、頭を上げてゆっくりと中庭を見回して、他に意見がないか確認している。
「それでは、また詳しい話しは改めて行います。今日のところはこれで終わります。お忙しいところお時間を取って申し訳ありませんでした。作業に戻って下さい」
ユリスティアの締めの言葉を聞いた大人達は、それぞれの作業に戻っていく。老人の何人かは相変わらず俺たちに向かって祈りを唱えているようだが。
俺たちは中庭から見えない通路の反対側に移動して、ゆっくりとフィシスの所に向かって歩き始める。
「ユリスティア、格好良かったよ。いつもあんな感じなの?」
「はい、いつも緊張して上手く話せませんが、小さい時からお祖母様やお父様の話し方を見ていたので、それを真似しているだけです。お祖母様から見ると、まだまだ話し方が成っていないそうです」
「そうなんだ、だけど私から見ると堂々としていたよ」
「そんなに褒めないで下さい。一生懸命話すのに精一杯で常に不安だらけなのですから」
そうユリスティアは謙遜しながらも少し嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
そんな事を話しながらゆっくりと歩いていると、通路の角から数人の子供達が顔を出して覗いていることに気が付く。
「ユリスティア、あの通路の角から顔を出している子供達は?」
俺の言葉にユリスティアも気が付いたようで、子供達の方を見る。
「どうしたの? 大丈夫だからこっちにいらっしゃい」
ユリスティアの言葉に下は4、5歳から上は10歳ほどの7人ほど子供達が集まってくる。
ライナの3人に比べて少し健康的に見える。
「この子供達は?」
「この砦で働く親たちがいる子供達です。本当なら里に預けてくることになっていますが、里が不作なためこの本砦で預かっている状態です。リリアナたち3人に比べて親がいるので、食料面ではまだそれほど不自由ではないはずですが、リリアナ達を見習って余り食事を取らなくなって困っています」
俺の問いにユリスティアがそう答えてくれる。そんな話しをしている最中にも、初めは御神体に驚いていた子供達も友美の優しい声を聞いて、御神体を触ってくる。
5歳ほどの少女が俺の前に歩いてきて「ありがとう」と言ってくる。それを切っ掛けに子供達に俺たちはまとわりつかれてしまった。
どうして少女にありがとうと言われたの分からないが、どうやら御神体の姿を恐れていないようで、俺はひとまず安心して子供達の相手をし始めた。
ここまでお読み頂誠に有り難うございます。




