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1D4Hの木製勇者  作者: 神楽野 鈴
タムルの砦
12/38

11話 2D:スフィア2

9/17 1話から5話の修正と8話分割に伴いこの話も修正しました。



 2日目、ログインから3時間10分。



 ユリスティアは、俺に実を飲ませると友美達にも同じように飲ませている。

 俺は腹を中心に身体全体が温まって、身体の緊張がゆっくりと溶けていくように感じた。


 「ようこそスフィアに来て下さった。声は直ぐに出ると思うが、その前に自己紹介しておくよ」


 ユリスティアにお祖母様と呼ばれた初老の女性は、杖をつきながら俺たちの前に来ると、そう話しかけてくる。

 優しそうに話しかけてくるが、部屋に入って来た時より瞳が鋭くなっている。眼力が半端ない感じだ。


 「私はユリスティアの祖母で、フィシス・ビオ・タムルだよ。名の通り『タムルのフィシス』で、このタムル領地をユリスティアが領主としているが、その補佐をしておるよ」


 俺は、フィシスと聞いてあの黒豹も『フィシス』と言っていたことを思い出した。

 『フィシスって、あの黒豹が言ってたフィシスと同じなのかな?』

 直人が同じように思ったようだ。

 『直人、フィシスさんとの交渉は任せるわ。私なんか苦手かも』

 珍しいことに物怖じしない友美が、フィシスさんを怖がっている。感の鋭い友美は何かフィシスさんから感じ取っているのだろうか。


 「ここは、タムルの砦にある聖樹の保管室だよ。スティア、砦の話しはしたかい?」

 「いいえ、お祖母様も一緒に話しをした方が良いと思い。まだ話していません」

 「そうかい、それは後で話すとしようかのぉ」


 ◇


 1分ほど経ったあと、フィシスが尋ねてくる。

 「どうだい、そろそろ話せるようになったかい?」


 「ガリッ…ア、ア、…ハイ。ナントカ、話せるようです」

 直人が俺たちを代表して喋り始める。


 直人が話す言語は、やはり日本語ではなかった。直人が話すと声として出てくるどこか途中で、この世界の言語に変換されているようだ。ユリスティア達の話しも、同じように耳が音声を聞いてから理解する途中で変換されている。


 「そうかい、それは良かった。動くには、もう暫く時間がかかるだろうがね。それまでいろいろと聞かせてくれないかい?」

 「はい、僕達で分かることなら。それに僕達もお聞きしたいことがあるので」


 「ああ分かったよ。その前にちょっとこちらの用件を片付けてしまおうかね」


 そう言うとフィシスは、入り口に向かって優しく声をかける。


 「入っておいで」


 入り口の直ぐ側で待っていたのだろう。痩せて青白い顔をした3人の幼い少女達が、手に籠を持って少し緊張した面持ちで部屋の中を見回しながら入ってくる。俺たちは、痩せ細っている幼い少女達を見て驚く。明らかに栄養失調になりかけている。


 「ライナ、トリティ、リリアナ、床に落ちている聖樹の殻を集めておくれ。」

 「「「はい」」」

 フィシスの指示に、3人の少女達は返事をして琥珀色の殻を手に持った籠に集め始める。


 「それから、今すぐ2、3個の殻の欠片をよく拭いて食べなさい」

 「フィシス様、これは食べられるのですか?」

 驚く3人の少女の中で、比較的に元気に見えるリリアナという少女が聞いてくる。


 「ああ、この殻にはとても高い栄養分が含まれているのさ」

 「栄養分って?」

 不思議そうに首を傾げて一番幼く見えるトリティが聞いてくる。


 「そうだね。体に力を与えてくれるお菓子と思っていいよ。よく拭いて食べてごらん」

 そう聞いた少女達は、琥珀色の殻を籠の中の布でよく拭いてから、小さな口を開いて食べる。


 暫くコリコリと口の中で転がしていると、少女達が段々と笑顔になってくる。

 「フィシス様、とっても甘いです!」

 「フィシス様、美味しいです」

 「フィシス様も、ユリスティア様も、これを食べて下さい」

 リリアナ、トリティ、ライナの美味しそうな笑顔にフィシスとユリスティアは安堵して笑顔になる。

 すると、先ほどまで少女達の青白い顔が、見る間にほんのりと桜色になっていく。

 すこし血行が良くなったようだ。


 『少し元気になったみたいで良かった』

 友美も顔色が良くなった少女達を見て少し安心したようだ。


 「殻を全部集めたら半分は他の子供達皆で分けて、残りの半分はルナ医師に渡しておくれ」

 「「「はい」」」

 初めの時とより元気に返事をして、少女達は殻を集め始める。

 

 ◇


 暫くして少女達は殻を、籠に山盛りとなるほど集め終わる。


 「ありがとうよ。とても助かった」

 そうフィシスが言いながら少女達の頭を撫ぜていく。

 少女達は、役立てたことが嬉しいのか笑顔を見せる。

 ここに入ってくる前と比べると、かなり元気になっている。


 「よし、それじゃスティア、この子達をルナ医師の部屋まで連れて行っておくれ」

 「はい、お祖母様。それでは、ライナ、トリティ、リリアナ、行きましょうか」

 「「「はい、ユリスティア様」」」


 ユリスティアは籠から殻がこぼれ落ちないように、少女達を助けて外に出て行く。


 ◇


 その様子をフィシスは見ながら、俺たちに少女達のことを話してくれる。


 「3年ほど前かね。あの子供達の両親は、この砦を守って亡くなっているんだよ。最初はこんな危険な砦に子供達を置くよりは里の方がいいと思ったんだが、ここ数年、各地で大凶作が続いて里も食糧難でどこも引き取り手がなかったのさ」


 「しかし、この砦も半年前から物資の補給が滞るようになってきてね。かといって兵士の食料を削るわけにも行かない。そんな中でも兵士達が自分の分を減らして、子供達に食べ物を渡そうとするんだが、笑顔でお腹いっぱいだよって言って余り食べないのさ」


 「どうして食べないか聞いてみても、子供達は教えてくれなかったけれど、どうやら自分達はこの砦で戦えない厄介者と思っているようだね。そんな事ないって言っても食べてくれないのさ」


 「日を追って身体が痩せていくから、どうしたものかと悩んでいたところ、丁度お前さん達が夢見の世界からこっちに来ることになったから、早めに聖樹の殻を砕いてもらったのさ。この殻の栄養価は知っていたんだが、御神体を包んだままだと、剣も斧も全く太刀打ちできない強さになっているからね」


 「これで暫く子供達は、元気になってくれるだろうが、物資がなくなる前に何とかしないと……おっと話しが長くなったね。戻そうかい」


 フィシスは、そう言って俺たちに話を戻してくる。


 『思った以上にこの世界は過酷な状況かも知れないな。俺たちでどうにか出来るのか?』

 『そうね。ただ単に砦を守るだけじゃなく、食料の調達も必要そうだし』



 俺はユリスティアが連れて来たこの新しい世界も開発中の仮想世界だと思いながらも、先程の痩せ細った少女達を何とか助けたい気持ちになっていた。

 そう思ってしまうのは、この世界を作ったゲーム会社のリアル性が上手いのかも知れない。


 「スティアから名前を聞いているが、もう一度自己紹介をしてくれないかのぉ」

 直人が代表となって俺と友美を順に紹介して、日本のこと、ゲームでここに来られたことを簡潔にフィシスに話していく。


 「そうかい、聞きたかったことは大体分かったよ。直人達は日本という国からゲームという遊びからここに来たのかい。科学や自動車とはよく分からない部分もあったが、豊かそうな国だ。よく来て下さった」


 そう言ってフィシスは、鋭い瞳を少しほころばせてくる。

 少しは俺たちに対して警戒が解けたのかな?


 「僕達からもお話をお聞きしたいのですが、異世界人と先ほど言われていましたが、この世界に異世界人が他にいるのですか?」



 「異世界人は直人達以外に会ったことも聞いたこともないよ。そもそも異世界の人が来ると言ったのがスティアだったからね。初めはアリアが死んでスティアが精神的に憔悴していた時に、アリアに会ったとか、砦を救うかも知れない人が来るとか、昨日には異世界人に会ったとか言い始めて、変なことを言い出したと心配したんだが、直人達を連れてきたから本当に異世界人かと思っているところだ」


 「そうでしたか」


 俺たちこの世界に呼ばれた理由は分かったけど、それでもなぜシナリオイベントがフィールゲームではなくて、夢見の世界やこの世界で起こってしまったのか、それともこの世界もフィールゲームの世界の一部なんだろうか?しかし、公式サイトにはそんな事は書かれていなかった。考えれば考えるほどに色々な可能性が出てくる。

 だけど、分からない事はゆっくりで良いから一つ一つ潰して行くしかないか。なんせ俺たちは夏休みが始まったばかりだし。


 『直人、夢見の世界についてもう少し詳しく聞いて欲しい』

 『あ、私はこの世界をどう呼ぶのか知りたい』

 『分かった。聞いてみる』


 「それから、この世界って何と呼ばれているのですか? それにあの夢見の世界は何ですか?」


 矢継ぎ早に直人が質問をしていくが、フィシスは丁寧に答えてくれている。

 それに俺たちが大人でないと分かっていても、フィシスは俺たちを見下げるようなこともせず、対等の人と話してくれる。


 「この世界かい? 私たちはスフィアって呼んでいるよ。あと夢見の世界の事かい。夢見については、代々受け継がれている口伝と、少しばかりの伝記があるだけだよ。それによるとあの夢見は遙か昔から存在していてそうだ。私も7年ほど前まで入る事が出来たが、今はこの領地でスティアだけが入れる世界になってしまった。大昔はこのスフィアの多くの人が入って情報交換や精神治療や鍛錬をしていたそうだよ。直人達がいま憑依している御神体も大昔には、多くの人が利用していたそうだよ」


 「この御神体を? 何に使うんですか?」


 「今では聖樹の御神体と呼ばれているが、大昔は防人さきもりとか御楯みたてと呼ばれていたらしい。本当の呼び名は今じゃ分からないけどね」


 「その御神体は、夢見の世界を通して遠くの場所で、活動するときに使っていたそうだよ。ただ、その御神体を使える人は、王族や貴族、その護衛くらいだけだったみたいだ。多分、外交を生身で行くより危険がないのと、移動の時間が少なかったからそんな使われ方をしていたんだろうね」


 「そうなんですね。そんな御神体をお借りしているんですね」


 「なあに、この砦が落ちたら人々も聖樹も御神体も潰されて、何もなくなってしまうからね。食料不足もそうだが、魔人族との長い戦いで私たちは種族としても辟易へきえきと衰弱で滅びかかっているのさ。もう悠長なことは言ってられないんだよ」


 フィシスは俺たちに笑いながらそう言ってくるが、その瞳は悲壮の決意をしている様にも俺には見えた。


 「最後に、夢見の世界にいた黒豹は何ですか?」

 最後に直人が質問した黒豹と聞いたとき、フィシスは怒りと嫌がる様な複雑な顔をした。


 「あの黒豹かい。あれは頑固で嫌な奴さ。夢見の世界で主気取りの偏屈者さ。あいつには関わるな」


 フィシスは落ち着いて話しているが、しかし静かな怒りの感情から何か因縁がありそうだ。


 「分かりました。黒豹には注意してみます」

 直人もそれを感じたのだろう。同意している。




ここまでお読み頂誠に有り難うございます。

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