10話 2D:スフィア1
8/30 話を分割修正しました。
9/17 1話から5話の修正と8話分割に伴いこの話も修正しました。
2日目、ログインから2時間40分。
俺は、あの液体に潜って直ぐに目を覚ましたつもりだった。
しかし、目を開いているはずなのだが、視界が霞んでよく見えない。
俺は、目を擦ろうとして手を動かそうとするが、今度は腕が何かに縛られたように動かない。
グッと力を入れて腕を動かそうとすると、ギシッ、ギシッと軋むような音が聞こえるが固まったように動かない。
なぜ腕が動かないのか霞んだ目で見ようとするが、今度は首が動かない。
部屋が薄暗いのか、それとも霞んだ視野なためか、周りの様子がよく見えない。
俺は焦ってしまった。
もしかしたら、ユリスティアに騙されて、どこかの暗い部屋に監禁されているのか?
いや、しかし、ユリスティアがそんな事する人だと思えないし、それにそんな事をしても意味がないだろう。
だけど、この状況はどうしたんだ。誰か説明してくれ!
俺は、どうにも動けない状態にパニックを起こしそうになった。
その時、俺の耳にバタンと扉が開く様な音が聞こえた。少し周りが明るくなるが、それでも霞んで見えない。
何が起こったんだろうと思っていると、タタタと人が走ってくる音がする。
「大丈夫です。落ち着いてください」
どこかで聞き覚えのある声が、ちょっと籠もった感じで俺の直ぐ耳元から聞こえてきた。
「どうなっているんだ?」
俺は、そう声を出そうとしたが、木を引っ掻くようなガリッ、ガリッとした音しか出なかった。
ーー なんだこの声は?
俺は、自分の声に驚いてしまった。
耳を澄ますと少し離れたところからも、同じようにガリッガガガと音が聞こえてくる。
「落ち着いて下さい。大丈夫ですから。私の声は聞こえますか?」
俺は、パニックになりかけたが、優しく話しかけてくる声を聞いて少し落ち着いた。
動かせるのは霞んだ視界の眼球だけだ。
俺は、霞んだ視線をゆっくりと声が聞こえた方に動かしていく。
ボンヤリと見える金色と白色の何かが動いている。
「ユリスティアです。分かりますか? 落ち着いてください。」
「体が悪くなったわけではありませんから、心配はありません」
「今から目を拭きます。驚かないでくださいね」
ようやくこの声の主が、夢見の世界で聞いたユリスティアの声と分かった。
俺は少しホッとした。
そう思っていたら、右目を湿った布か何かで撫でられる。
俺は、ビクッとして反射的に目を閉じようとしたが、布が邪魔して出来ない。
しかし、目を布で拭かれても痛い感覚はない。
直ぐに湿った布が右目から離れる。
そして同じように左目の方も拭き始める。
それも終わると、先程の霞んだ視野が若干見やすくなった。
だが、まだ黒い付着物が目の前にあって見難い。
俺の目はどうしてしまったんだ。
まるで車の汚れたフロントガラス越しに、外を眺めているようだ。
それでも先程より見やすくなった目の前に、女性の顔が覗き込んでくる。
「私が見えますか?」
よく見ると、さっきまで夢見の世界で見ていた同じユリスティアの顔であった。
長い金髪で青い瞳のユリスティアが心配そうに、布を持って見上げていた。
俺は、声が出せないので、グッと首に力を入れて少し頭を縦に振る。
するとユリスティアは、安堵したようだ。
「他の方も見てきますね」
そう言って白いシャツと紺色のズボンを穿いたユリスティアは、金色の髪を揺らしながら駆けて離れていく。
俺は、視線だけを動かしてユリスティアが駆けていく先を見る。
その先には、人の形をした白い木の棒が立っていた。
頭、胴体、2本の腕、2本の足と思われる6個のパーツからなる白木の丸太が、それぞれ木の関節によってくっつき、どうにか人の様に見える。
しかし、子供が作った出来の悪い木の人形としか見えない。
白木の人形の顔は、木肌で出来ていて俺のとこからだと、どこに目や鼻や口があるのか分からない。
それに手と思われる腕の先を見ると、短い白木の根が5本伸びているだけのようだ。
俺は目だけを動かして、自分の身体を見てみる。
ーー なんてことだ。
俺も同じような白い木の人形になってしまった。
ユリスティアが、先程から2体の人形に話しかけて、目の部分と思われる所を布で拭いている。
俺以外に、あと2体の出来の悪い木の人形が立っている。
多分、あの2体には友美と直人が入っているんだろう。
つまり、ユリスティアの世界にはこの出来の悪い木の人形を操らないとならないわけか。
これじゃ、ユリスティア達を助けることなんて出来そうにないかも知れない。
偉そうに「助ける」なんて言ってしまったのは失敗だったかも。
こりゃ、前途多難だな。
俺はそう思いながら、少し薄暗い部屋の中を視線だけを動かして見渡す。
部屋は四方が石作りの壁で囲まれた窓のない倉庫のようだ。
部屋の壁には、窓がない代わりに壁に掛かっている数個の光る玉が、部屋の中を照らしている。
俺たちの人形以外に、あと3つ松ヤニの様な琥珀の中に閉じ込められている木の人形が薄らと見える。
まるで琥珀に閉じ込められた蜂や蚊のようだ。
どうやら、『夢見の世界』の地下で6つあったベッドと、ここにある人形6体とが対になっているようだ。
俺や友美達の足下には、琥珀色の割れた破片が散らばっている。
俺は、声が出せないことで困ってしまったが、ふと思いついて試しに友美と直人に、フレンド通信が出来ないだろうかと考える。フィールゲームの時は手を使ったメニュー操作が必要だったが、今も視野の隅に時間と俺のステータスやアイコンなどが小さく表示されている。
う~んと、何だったかな、なにか他の操作方法があったような。
音声操作は、普通に話している時に変な反応するからOFFにしていて今は使えない。
あと……、そうだ! 視覚操作ってあった。
確か、2秒間アイコンを注視するとクリックと同じ操作が出来るってことだった。
普通は、アイコンをジッと2秒も注視することがないから忘れていた。
俺は、視野の片隅にある緑色の通話アイコンを注視する。
待つこと2秒でフレンド通信が始まる。
『どうなっているの! 何も出来ない』
『困ったな、体が動かないし話しも出来ない』
やった! 友美と直人の声が聞こえてくる。
『友美、直人、聞こえるか?』
『え?なぜ急に? 聞こえるわよ。トシヤね?』
『ああ良かった。トシヤ、聞こえるよ』
驚く友美と安堵する直人の声が俺の耳に聞こえる。
『視覚操作でフレンド通信が出来た』
『そうか、僕は忘れてた。視覚操作ってあったね。だけど良かった。動けないし誰とも話しが出来ないんで困ってたんだ』
『話しが出来るだけでも違うからね。ありがとうトシヤ』
直人と友美が話せて嬉しそうに言ってくる。
ユリスティアの方も友美と直人の目を拭き終わったようで、俺たちの人形から少し離れる。
「友美、トシヤ、直人、先ほどよりは見えるようになったと思いますが、まだ喋れませんよね?」
「ガ…カリッ『ユリスティア』」
友美が声を出すが、ノイズ音しか出ない。
「分かりました。お祖母様がもう直ぐ来ますので少し待って頂けないでしょうか」
『参ったね。こんなじゃ僕達がユリスティア達を助けるどころじゃないね』
『そうだな、こんな木の人形じゃなくて、どうせならもっと格好いいサイボーグみたいなのが良かったなぁ』
『トシヤ、なに言ってるのよ。今はエコの時代よ。木製人形だっていいじゃない』
『……友美、エコはこの世界じゃ違うかも。僕は、この木の人形がどうして動くか凄く興味があるんだけど、現実的に人より速く動けそうには思えないね』
『直人も、やっぱりそう思うか。ユリスティアに今のうちに謝っておいた方がいいかな?』
そんな弱腰の話しを俺たちが喋っていると、入り口から白髪で初老の女性が入ってくる。
片足が悪いのか杖を突いている。顔に少し皺が見えるがユリスティアと同じ青い澄んだ瞳は、強い意志が現れている様に見える。若いときはユリスティアのように美人だったと思える顔つきだ。
「ユリステア、どんな感じかね?」
「お祖母様、それが声が上手く出せないようです。それに関節が殆ど動かせないようです」
ユリスティアは、少し緊張して答えている。
「そうかい。では、これを飲ませてごらん」
そう言うと、お祖母様と呼ばれた女性は、ユリスティアにクルミの実のような丸い物を3つ見せてくる。
「お祖母様! これは聖樹の実ではありませんか!? それも3つも! 良いのですか?」
「長い年月殻に包まれた聖樹の御神体を動かすには、この実が必要と伝えられているのさ。それに御神体の中には異世界の子供達が憑依しているんだろう? 不自由をさせてはいけないよ」
女性はユリスティアを諭すように話す。
「貴重な聖樹の実を、ありがとうございます」
そう言って、ユリスティアは実を丁重に受け取る。
3つの実を受け取ったユリスティアは、俺たちに向き直って話しかけてくる。
「話しを聞いて頂いたと思いますが、今から、この聖樹の実を飲んで頂きます。飲んで頂くと徐々に動けるようになるそうです」
そう言いながらまずは、俺が憑依している人形の顔にクルミのような実を1つ口元に持ってくる。
俺は話を聞いていたが、口が無いのにどうやって実を飲み込めばいいのか迷ってしまう。
そんな俺の悩みが分かったのか、ユリスティアが助けるように話しかけてくる。
「口をあ~と、開けるのをイメージしながら、自分の口を開けてみて下さい」
ユリスティアが、自分のピンク色の口を可愛く「あ~」と開けてる。
俺は「あー」と自分の口を開けてみた。
すると「パキン」と音を出して木の幹のような顔の下側に、横一文字に裂け目が出来て口の様に分かれた。
「そのままでいて下さいね」
そう言うと、ユリスティアは実を口の中に差し入れてくれた。
口に入った実は、コロンと口の中を転がる。
その感覚は俺の口の中にちょっと大きめの飴玉が入ってきた感じだった。
若干甘味も感じる。
この御神体と呼ばれる白木で味を感じる事に俺は驚く。
そこで更にフィールゲームのアバターと、この白木の人形アバターを経由して味覚を感じる事が出来ると事に、再度驚いてしまった。味覚の伝達が出来るなんてこの新しい世界もすごい仮想世界じゃないのかと俺は思ってしまう。
コロコロと口の中を転がった実は、コン、コン、コーンと音を立てて喉からお腹に落ちていく。
『この御神体って中身は空洞なのか?』
余りにもお腹の中でなる音が軽いので、俺は、吹けば飛ぶような御神体じゃないだろうかと、ちょっと不安になってくる。
だけど直ぐにお腹がホンワカと温かくなってくると、その温かさが全身に広がってくる。
ここまでお読み頂誠に有り難うございます。




