09話 2D:夢見2
8/29 修正しました。
9/17 1話から5話の修正に伴いこの話を分割と修正しました。
2日目、ログインから2時間10分。
その後、ユリスティアに3人とも『様』付けをなしないようにお願いして、ユリスティアからも『さん』付けをしないよう言われてしまった。
そして友美が昨日話し合った結果をユリスティアに話している。
「ユリスティア、私たちで良ければ助けたいと思います。ただ、私たちは1日4時間しかこの世界に来ることが出来ません。それに私たちは戦闘のプロでもなければ、冒険者でもないのですが、それでもお手伝いすることが出来るでしょうか?」
ユリスティアは友美の話しをしっかり聞いているようだ。暫く考えているようだったが結論が出たみたいだ。
「もしかしたら大人の方が戦力として良いのかと思いました。しかし、アリアが連れてきた事と、多分大人達だけで砦を守るという時期は過ぎてしまったと私は思います。柔軟な発想を持った方の力が必要となったのでしょう。このタイミングで友美達と私が会えたのはそう言う事だと私は考えます。ですので、これからよろしくお願い致します」
そう言ってユリスティアは深く頭を下げる。
「それじゃ、さっそくだけどさっきの黒豹やいろいろと聞きたい事があるんだけど、今聞いてもいい?」
友美は、俺たちを代表してそう切り出してくれる。
「あ、そうですよね。砦のことも何もお話していませんでしたよね。だけど私より詳しいお祖母様を交えて、説明をした方がより詳しくお話出来るので、一度砦に来て貰えないでしょうか?」
「どうする? トシヤ、直人」
「俺は、砦に行ってからの説明でいいよ」
「僕もいいよ」
「じゃあ、ユリスティア、砦に案内して下さい」
「はい、それでは私と一緒に付いてきて頂けないでしょうか」
そう言いながらユリスティアは、神殿の庭を回って神殿の裏山に向かい始める。俺たちも一緒に歩き始める。
俺は、歩き始めて直ぐにユリスティアの歩き方が、背筋を伸ばし規則正しい綺麗な足捌きであることに気がつく。テレビで見たファッションショウのモデルの歩き方とは違ったバランスと柔軟性がある歩き方だ。イメージ的には、背筋を伸ばして歩いている猫のようと言ったらいいのかな。うーん、ちょっと違うか。
「ユリスティア、歩き方が綺麗だね。やっぱり先程の剣技とも関係しているのかな?」
前を歩くユリスティアは、ゆっくりと歩きながら御礼を言ってくる。
「トシヤ、褒めてくれて嬉しいです。私の剣技は、幼い時からお祖母様に教わったものです。お祖母様がお若いときは、剣術で敵う人はいなかったと聞いています。その基礎に常に歩く姿勢も重要という教えがあり、常に歩き方に気をつけていますから」
「だけど、さっきの剣捌きは、目で追うことが出来ないほど早かったけれど、いつもあんな感じなの?」
友美も興味を示してユリスティアに聞いてくる。
「いいえ、あの速度は、この肉体のない世界だけでできる戦い方です。砦では肉体の枷によって私は100分の1ほどの遅さになってしまいます。それでも砦の皆より速いほうですが」
「それでも、私たちの世界でもあんなに速く動けて、綺麗な剣技を見たことがない。なんか悔しいわ。 …… 私にも教えてくれないかしら?」
友美のお願いに、少し悩みながらユリスティアは返事をしてくる。
「そうですね、私には砦を守る事が第一ですが、友美達にも何か御礼をしなければなりませんね。……分かりました、それほど多くの時間を取れませんが、お祖母様の許可を貰って問題なければ、少しずつ教えて行けると思います」
「やった! ありがとう」
嬉しそうに手を上げて喜ぶ友美の猫耳と尻尾が元気に揺れている。
「俺たちもいいのか? ユリスティア」
「ええ、構いませんよ」
ユリスティアは、俺の問いに笑顔で答えてくれる。そう話して歩いている内に、神殿の裏山に着く。そこには3本の巨木が複雑に絡み合って巨大な1本の大樹のように形作った木々が茂っていた。
「ここです。 ここから私たちの世界に行くことが出来ます」
ユリスティアが、そう言って示した場所は、3本の巨木が絡み合った根元の小さな洞だった。
「この先が、ユリスティアの砦なの?」
俺も驚いたが、友美も驚いたように確認を取っている。
「はい、この先に入って頂ければ砦に友美達が行くことが出来ます。そうお祖母様から聞いています」
「ユリスティアは、ここから帰るの?」
「いいえ、私は、この世界ならこの近辺の何処からでも戻ることが出来ます。……友美達は心配しなくても大丈夫ですよ。この洞の場所は、大昔に使われていたそうですから」
そう言うとユリスティアはニッコリと微笑んでくる。暗いところが怖い友美はまだ尻込みしている。仕方が無い俺から行くか。
「直人、念のため一番後ろを頼む」
直人が頷くのを確認して、俺は1人がようやっとくぐれそうな洞に入っていく。
真っ暗かと思ったが、周りが光苔によって緑色に薄らと光っているので照明はいらない。
入って直ぐ大人が立って歩けそうな地下に続く階段がある。
「友美、中は明るいから大丈夫だぞ」
外にいる友美に声をかけると、不安そうな顔をした友美が入ってくる。
明るい場所から暗い場所に入ってすぐには目が慣れない友美は、俺を探してキョロキョロしている。
「こっち、こっち」
俺がそう言うと直ぐに暗さに慣れた友美が寄って来て俺の服の裾を掴む。やっぱり暗がりは怖いか、それなら手を繋げばいいのに。俺はちょっと残念に思ったが、俺から手を繋ぐのも恥ずかしいしこのままでいいか。
ユリスティアと直人もすぐ続いて入ってくる。
「トシヤ、この先の部屋まで進んで下さい」
「ああ、分かった」
ユリスティアの指示に返事をする。
俺たちは樹の根で出来ている階段を暫く降りていく。その先に10畳程の広い空間に出る。その天上、壁、床も全て樹の根で覆われていた。その部屋も通路と同じ光苔で満たされて薄らと明るかった。
しかし部屋の中の光苔は、薄く光る部分と強く光る部分があって、部屋の入り口から見ると薄らと光る天の川に強い光を放つ星が輝いているように見える。
「わあぁぁ!夜空の星の中みたい」
部屋に入ると友美は俺の服から手を離して、部屋の夜空のような光を見て驚きの声を上げる。友美は天上に手を伸ばして星のように見える光を掴もうとジャンプし始める。
「本当だ。すごい綺麗だ」
「光の強弱が天の川に見えるね」
俺と直人も部屋の幻想な的な輝きに感動しながら友美に返事をするが、友美はジャンプしても天上には届かないことに悔しがっている。
「友美の背じゃ、ジャンプしても天上には届かないから、床か壁の光を取って見たらどうだ?」
「トシヤ、それじゃロマンチックじゃないでしょ。星と思って手を伸ばしてるんだから天上から取らないとダメなの」
ロマンチックと言っても床も壁も天上と同じように夜空の星が輝いているんだから、何処から取っても同じだろうと俺は思ってしまうが、友美がまだ上を見上げているのを見ると、ちょっと願いを叶えてあげたくなる。だけど俺がジャンプしても届かないほどの高さに天上がある。暗くて遠近感がよく分からないが3メートルほどの高さがありそうだ。
「直人、ちょっと膝を貸してくれないか?」
俺は直人にそう言いながら天上を指さす。俺が何をしたいかすぐに分かってくれた直人は、左足の太股を水平になるように右膝を床についてくれる。
「トシヤこれでいいかな」
「サンキュウ、悪いな膝を借りるよ」
そう言って俺は少し助走を付けて直人の膝を蹴って、天井に向けてジャンプすると、天上の光苔を少しむしって降り立つ。
「ほれ、俺と直人からだ」
そう言って、天上から取った光苔を友美に渡す。それを受け取った友美は、狐につままれたように驚いている。感謝の御礼でも言ってくれるかなと俺は期待したが、友美から出た言葉はちょっと違っていた。
「トシヤ、どうしちゃったの? ちょっと格好いいけどトシヤらしくないわ。だけと取ってくれてありがとうね。トシヤ、直人」
手元で薄らと光る光苔を見て友美は笑顔になった。
そんな事をしていた俺たちを、ユリスティアは少し羨ましそうに笑みを浮かべる。
「友美達はとても仲がいいんですね。……私にも同年代の友達がいれば、同じようになったんでしょうかね。あ、私何言ってるんだろ。今のは忘れて下さい」
ユリスティアはいままで同年代の友達がいなかった。一番の親友は3歳年上のアリア姉様だけだったし、砦では大勢の人達がいたので同年代の友達を持つことを考えた事もなかった。しかし、トシヤ達の仲の良さを見てポロッと、今まで思っていなかったことが口から出てきてしまった。
ユリスティアのその言葉を聞いた友美は俺と直人を見てくる。俺たちは友美が何をしたいか直ぐに分かったので頷いておいた。
「ねえ、ユリスティアって何歳なの?」
突然、友美がユリスティアにニッコリと笑いながら聞いている。
「え?私ですか。私は14歳ですよ。もうじき15歳になりますが?」
それを聞いた友美は、小さな声でラッキーと言って手を握っている。
俺は14歳と聞いて驚いてしまった。俺たちと同じ14歳で砦で戦っているのか。
「それじゃ、同年代の友達が欲しいって言ったわよね?」
「ええ、そう言いましたが、それは忘れて下さい。砦ではそんな友達を作っている時間もありませんから」
「あれ? 私たちが最初に会った時、私が何て言ったか覚えている?」
「えっと、あ、友達になって下さいって」
「そう、もう私たち友達だし、それに私たちも14歳なんだ。だから同年代の友達でもあるんだよ。だから羨ましがることないよ。これから仲良くなっていけばいいのよ。ユリスティア」
「あ、そうなんですね。まだ実感が湧かないのですが、なんか嬉しい感じです」
ユリスティアは嚙み締めるようにそう言うと笑顔になってくれた。
「ところでこれからどうするんだ?」
ユリスティアに悪いと思いながら俺は声をかけると、慌てて返事をしてくれる。
「あ、そうですね。ちょっと待っていて下さいね。確認したいことがあるので」
そう言うとユリスティアは部屋の中に歩いていく。
部屋の床を見ると、大きな樹の根が腰の高さほどに盛り上がって、丁度大人が横たわれるサイズの凹みが出来ていた。その中に透明な液体が満たされていた。
規則正しく6カ所盛り上がっている樹の根に歩み寄るユリスティアは、鼻を近づけて液体の匂いを嗅いで頷き、そして液体を指に掬ってペロリと舐めてしまった。見ていた俺はその行動に驚くが黙って見ている。しかし、今のユリスティアの仕草は年相応に可愛かったと俺が思っていると、横で友美は何故か「美味しそう」と言っている。
ユリスティアは、頷いてから俺たちに話しかけてくる。
「この液体の中に入ることで、私の世界に行けます」
「そんなことをして窒息はしないのか?」
ユリスティアの突然の指示に、俺は驚きながら確認してしまう。
「大丈夫です。『夢見の世界』では生物的な呼吸はしていませんから、溺れる心配はありません」
ユリスティアは、この液体を飲み込んでも、直ぐに体に溶けるように浸透して行く感じになるだけと、説明してくれる。
「それにミント味で飲んでも美味いですよ」
と、教えてくれるので俺たちも掬って舐めてみる。
口に入った瞬間はトロッとした液体が、口の奥に運ばれるまでにスーとミント味を感じると、同時に消えてなくなる。ただそれだけだった。満腹感もない。
ただ、この液体を飲んだだけでは、ユリスティアの世界には行けないみたいだ。俺は覚悟を決めて、液体のベッド(?)に歩み寄る。服を脱いで液体に入るか迷っていると、そのまま入って大丈夫とユリスティアが教えてくれた。せめて靴は脱いで入るべきかと思ったが、それも不要と言われたので、足首まで入れて直ぐに引き上げてみると、濡れた様子も何の変化もなかった。
俺は、ゆっくり風呂に入る要領で浅い液体のベッドに体を横たえる。
友美と直人も隣のベッドに横たわっていく。
液体が口から鼻から入ってくるが、息苦しくなく呼吸が出来たのには驚いた。
液体の中から外の様子を見ると、水中から見ているように揺らいで見える。
ユリスティアが、心配そうにこちらを見ているのが分かった。
目を閉じると直ぐに眠気が襲ってきて、意識が闇に閉ざされる。
それと同時に、先程まで液体だったものが、見る間に固まっていく。
ユリスティアは、トシヤ達が入った液体が氷のように固まったことで、眠りについたことを知った。
そうしてユリスティアも急いで、夢見の世界からログアウトする。
ユリスティアのログアウト方法は、ただ念じるだけで済む。
地下の広い空間には、トシヤ達の3つの固まったベッドと、3つの液体のベッドが残るだけとなった。
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