第6章 騎馬戦(ジョスト)
ある日の午前。
学園の廊下を歩くリシアだが
その表情は、あまり良くなかった。
「(・・・やはり、こうなったか)」
思わずため息が出る。
メル=バトンの死後、共犯者の調査を本格的に実施しているが
何の情報も出てこない。
メル=バトンが自殺した時点で嫌な予感はしていた。
『女神様が私の願いに応えてくれたのっ!』
彼女は、あの時そう言った。
つまり神を名を使って彼女の背中を押した人物が居るということ。
それがあの施設を作った人物と同一人物なのか不明だが
間違い無く彼女の単独犯ではないことだけは、断言出来る。
だが、恐らくこうなってしまっては
もう事件の真相に迫ることは、不可能だろう。
調査も進展しなければ、あの施設からも
共犯者の手がかりは出なかった。
唯一、解ったことといえば
あの古代文明の施設は、人間の命そのものを
純粋な『力』に変換するという恐ろしいものだった。
だからこそ、あの時メル=バトンの想力は
アリスを吹き飛ばすほど強力になっていたのだ。
「(とりあえず、あの施設は完全解体すべきだな)」
下手に施設を残したり、仕組みを調べたりすれば
悪用される危険性が出てくる。
それを考えれば、多少もったいない気もするが
完全に破壊してしまうのが一番だ。
事件から既に1週間以上経過しているが
未だに事後処理に追われている。
色々と考えながら歩いていると
向こうの方から、華やかな声が聞こえてくる。
「きゃ~!
アリスお姉さまよっ!」
「アリスお姉さま、お会い出来て光栄です」
「聖騎士様・・・今日も素敵ですぅ」
何事かと思えば、下級生に囲まれているアリスの姿。
彼女も私とは違う意味で、事件後から忙しい身だ。
今までは『大商人の娘』という肩書で見られていたことも
多かったはずだが、今では完全に憧れの対象となっている。
それ自体は、彼女からすれば嬉しいことなのだろうが
今までに無い経験故に、どう対処していいか解らず
困っているといった感じだ。
「・・・こんなところに居たのですか、アリスさん。
皆さん、探していらっしゃいましたよ?」
「へ・・・あ、リシアさん。
誰が探してるって?」
「ですから皆さんが、です。
何か約束をしていらっしゃったのでしょう?」
「・・・あっ!
あ~・・・そうだったねっ!」
心当たりなどなかったが、リシアの表情を見て
何が言いたいのかを理解するアリス。
「みんな、ごめんね。
そういう訳だから、アタシ行かないと」
そう言って下級生達の中から出ると
そのままこちらに歩いてくる。
第6章 騎馬戦
そしてそのまま、しばらく廊下を歩いた後。
「リシアさん、ありがとう。
助かっちゃった」
「いえ、差し出がましいことをして
申し訳ありません」
「いやいや、ホントに助かったよ。
アタシ、こういうことに経験無くってさ。
正直、どうしていいのか解んないんだよねぇ」
「そんなに気にする必要は、ありませんよ」
「アタシもそう思うんだけど―――」
「おや? そこに居るのは
噂の聖騎士どのではありませんか」
こちらの会話に割り込むような言葉が後ろから聞こえてきて
思わず振り返る。
するとそこには、2人の上級生の姿。
「誰かと思ったら、メビア会長じゃないですか。
からかわないでくださいよ~」
「ふふっ、ごめん、ごめん。
つい・・ね」
「アリスさん、御機嫌よう。
貴女の噂は、私も聞いたわ。
大活躍だったそうじゃない」
「コネル副会長も、お久しぶりです」
きっと知り合いなのだろう。
2人の上級生と気軽に話をするアリス。
途中でこちらに気づくとアリスが申し訳なさそうな顔をする。
「ああ、ごめん。
紹介しないとね。
こっちがメビア=ハベルト学生会長。
で、こっちがコネル=ワーレント副会長」
「あら・・・そうでしたか。
私は、リシア=ナリアスと申します。
以後、お見知りおきを」
「キミが噂の転校生か。
私は、メビア=ハベルト。
学園では生徒会長をしている」
メビアと名乗った少女は
背が高く、胸も大きいが
何よりその堂々とした態度が歴戦の騎士を思わせる。
背中ぐらいまである長い髪を左側にまとめて
サイドテールのようにしているのも、よく似合っていた。
男性的な話し方をするのが印象的でもある。
「私は、その手伝いをしている
コネル=ワーレントよ。
私も、貴女の噂は色々と聞いているわ」
コネルは、髪を首の後ろで団子のように丸め
それをリボンなどで器用に止めている。
身長は平均的だが、少しだけ小柄で女性らしい仕草が目立つ。
「まあ、一体どんな噂が流れているのでしょう?」
「良い噂ばかりだね。
とても素晴らしい転校生だって」
「あとは『どんな二つ名でお呼びしましょうか』なんて話も
聞いたことがあるわね」
二つ名と聞いて、思わず苦笑する。
そんなもの、女学園で欲しいとは思わない。
「・・・失礼ですが、学生会長は
ロドル=ハベルト宰相閣下の?」
あまりこの話題に興味は無いので
聞きたい話に話題を変えてみる。
「おや、よく知っているね。
私は、その娘さ。
でもまあ学園では気にすることはない。
気軽に声をかけてくれると嬉しい」
サイドテールを靡かせながら、自信溢れる態度で
こちらに返事をしてくるメビア。
そしてワーレントと言えば、確か子爵だったか。
何代か前に領地の大半を失ったと聞いたことがあるが・・・。
「何か困ったことがあったら
いつでも声をかけてくれて構わないからね」
対照的にコネルは、先ほども思ったが
女性らしいお淑やかな仕草が多い。
「それで先輩たちは、こんなところでどうしたんですか?」
「おっと、そうだった。
こちらから声をかけたのに申し訳ないが
これから学生会の仕事でね」
「そうなの。
だから、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ
わざわざ挨拶頂きありがとうございます」
挨拶もそこそこに、風のように去っていく2人。
「・・・何だか嵐のようでしたね」
「あの先輩たち、ホント凄いんだよ」
「そうなのですか?」
「うん。
学園都市のジョスト大会で2回も優勝してるんだよね。
コネル先輩も去年は
予選を勝ち抜いて本大会に出場してたんだ。
2人とも馬術が凄いんだ」
「・・・そうですか」
学園都市のジョスト大会とは、学園都市にある
全ての騎士学校合同で開かれるジョストの大会のことである。
予選を勝ち抜いた精鋭のみが出場出来る大会で
学園都市の最強を決める戦いの1つだ。
ジョストとは、1対1で行われる馬術競技の1つで
最も人気のある競技だ。
昔、宰相の娘は
宰相が年老いてから生まれた子供ということもあり
大事に育てられたと聞いたことがあるが・・・。
「もしかしてジョストに興味が、おありでしょうか?」
いつの間にか隣には、いかにも貴族令嬢といった感じの
真っ直ぐに伸びる長い髪に整った人形のような顔。
有名貴族の娘であるのがスグに解るほど『貴族令嬢』という
雰囲気をまとった姿が印象的な色白で小柄。
そして細身の美しい娘が立っていた。
「・・・えっと。
確か・・・『黒姫』さん、だよね?」
「どなたかと思えば『聖騎士』様ではありませんか。
お会い出来て光栄です」
「・・・もしかして、お2人は知り合いですか?」
そう尋ねると2人とも首を振る。
「いや、こうしてちゃんと会うの初めてだよね?」
「はい。
このような形でお話しさせて頂くのは、初めてです。
そう言えば自己紹介を忘れていました。
私は リリス=ラングベルズと申します。
よろしくお願い致しますね、お姉さま方」
「彼女は、1年生なんだけど
1年生の中で全科目を首席っていう子でさ。
いつの間にか『黒姫』って二つ名が付いた子なんだよね」
こっそりと耳打ちしてくれるアリスに感謝しながら
リリスに向き直って挨拶を返す。
「私は、リシア=ナリアスと申します。
こちらこそ、よろしくお願いしますね」
ラングベルズ辺境伯は、東側の最前線の一部を任せている人物で
普段から色々と繋がりを持っている相手だ。
娘が居るとは聞いていたが、まさかここで出会うとは。
「アタシも自己紹介した方がいいかな?」
「いえ、聖騎士様のことは存じておりますので
そのようなお手間は取らせません。
・・・それでお2人は、ジョストの話をなさっていらっしゃいましたが
興味が、おありなのでしょうか?」
「え? ・・・いや~、アタシは興味ないかなぁ」
ボソッと『馬って乗るの苦手だし』と
呟き声が聞こえて思わず苦笑する。
「私は、興味があるわね」
「本当ですかっ!?」
先ほどのお嬢様っぽいオーラが一気に無くなり
急に子供っぽい感じになる。
その雰囲気の急激な変化に思わずたじろぐ。
「え、ええ。
私も少しジョストは、やるものだから」
「なら、ぜひ放課後に
ジョスト練習場にお越し下さいっ!
お待ちしておりますっ!」
学園の闘技場の横にジョスト専用の場所があり
厩舎まで併設されている。
専用の調教師まで居るというのだから
さすがお嬢様学校とでも言うべきか。
ジョストとは、一対一で戦う馬術競技だ。
昔は、騎士達の練習の1つだったのだが
今では国民誰もが知っている、とても一般的な競技となっており
ジョスト専門の騎士まで存在する。
「ええ。
機会があれば、寄らせてもらうわね」
「・・・冗談ではなく、本当に来て下さいね?
でないとこちらから押しかけてしまいますよ?」
「・・・ええ。
近いうちに必ず寄らせてもらうわね」
適当に相手に合わせて返事をしたら、即座にそれを見抜かれた。
ただの天真爛漫なお嬢様ではないようだ。
その後も、それとなく続く熱烈な招待を何とかやり過ごし
リリスと別れて教室に帰ると
次の授業のため、また教室を移動することになる。
次の授業は、料理実習だ。
本来、貴族の娘が多いため
そういうものは全て使用人の仕事になる訳なのだが
学園の方針で『淑女の嗜み』として、家事全般を必修科目としている。
調理室に着くと、教師が適当に生徒を振り分け
いくつかの班が出来る。
「あら、同じ班なのね」
「これは運が良かったですわ」
フランとルナが同じ班のようだ。
「あら、どうして運が良いと?」
「だってリシアさん、お料理が上手なんですもの。
任せておけば完璧、でしょう?」
「ふふっ、少しは手伝って下さいね?」
料理に関しては、まだ将軍にすらなっていない頃に
振舞ったことがあるが、部下たちから
『微妙だ』『正直、まずい』など散々に言われたことがある。
それが悔しくて練習しているうちに、いつの間にか
熱心に取り組む趣味の1つになってしまっていた。
手早く食材の下処理を済ませる。
「相変わらず、お料理が上手ですね」
せっせと食材を水で洗っているルナが
感心するように言ってくる。
彼女は自分が料理が出来ないことを自覚しているようで
道具を一切使用しない下準備を担当してくれていた。
「まあ、出来て困るというものでもありませんからね」
「そう言えば最近、手料理が流行っているみたいじゃない」
ルナとの会話に入ってくるように
フランが話を振ってくる。
「流行っている? 手料理が、ですか?」
「男性は、女性の手料理に強い関心があるみたいよ。
実際に手料理を食べさせて相手を虜にしたって話もあるみたい」
まあ料理が上手い女性というのは
何も出来ない女性より、はるかに魅力的だと思わなくもないが・・・。
「へぇ~」
あまり興味が無いというような返事をするルナだが
食材を洗う手が完全に止まっている。
「私でよければ、教えましょうか?
今なら練習も出来る訳だし」
「・・・なら、お願いしようかしら」
意外と興味を示したルナが
フランに付いて食材を切る練習を始める。
何やら微笑ましい光景を眺めていると
殺気のようなものを感じて、思わずその方向を見る。
すると何故か、包丁を大上段で構えるセレナの姿。
「はっ!」
気合の入った良い声で振り下ろされた包丁によって
魚の頭が宙を舞い、まな板が綺麗に真っ二つとなる。
「さすがセレナ様、お見事ですわ」
「私にかかれば、この程度余裕よ」
あの班だけ剣術の授業でもしているのかと
突っ込みたくなるほど、酷い状況だ。
同じ班なのだろうか、アリスも苦笑しながら
その様子を見ている。
「この頭って、何かに使えると思う?」
「さあ?
でも、お料理で魚丸ごと出てくる時は
頭も頂きますわね」
「なら、これもスープで煮込めばいいのかな?」
そう言ってセレナは、切った魚の頭を
そのままスープらしき鍋の中に入れてしまう。
「・・・流石にあり得ない」
世の中には、日々の食事ですら満足に食べられない民も
大勢居るというのに、食材を台無しにするなんてあり得ない話だ。
「フランさん。
申し訳ありませんが、少し席を外します」
「・・・ああ、そういうことね・・・解ったわ。
それと、少しは手加減してあげなさい」
「それは彼女次第、といった所でしょうか」
そんなやり取りをしてからセレナの班へと向かう。
「さて、あとは煮込むだけっと」
「そんな訳無いでしょう?」
「きゃっ!?
・・・って何だ、リシアさんか。
脅かさないでよ」
突然、後ろから声をかけられて驚くセレナ。
「そのセリフは、こちらです。
この料理ですらないものは、一体何ですか?」
「何って、魚の煮物よ?
見たことない?」
「・・・はぁ」
ため息を吐きながら、その煮物と言い張る鍋から出汁を少し小皿に入れ
セレナの前に突き出す。
何やら納得してない顔をしながらも、差し出された小皿を受け取る。
そして出汁を一口。
「ぶぉぁっ!!」
お嬢様らしからぬ声と共に、盛大に出汁を吐き出すセレナ。
「何よこれっ!?
何でこんな味になるのよっ!?
全然、まずいじゃないっ!!」
「何の下処理もせず頭を切っただけの魚を鍋に入れ
適当に水と調味料を入れただけのものが、美味しい訳が無いでしょう?」
中の魚を取り出して、新しいまな板の上に乗せると
勿体ないが、もはやどうしようもないので
変な色をしている出汁という名の液体を投げ捨てる。
「ちゃんと魚の下処理からしましょう」
「下処理って何よ?」
「・・・どうしてそんなことも知らずに魚を選んだのですか」
思わずまた、ため息が出る。
「とりあえず鱗ぐらい取って下さい」
さっと鱗の取り方を教えてから
セレナに包丁を持たせる。
「何か、生暖かいんだけどっ!?
それにプルプルって変な弾力もあるんだけどっ!?」
そりゃ中途半端に煮込もうとしたからだよと心の中で突っ込みを入れながら
ゆっくり丁寧に作業をさせていく。
「・・・まあ、そんなことも知らないなんて」
「セレナ様も困ったものですわ」
かなり控えめだったが、クスクスとした笑い声と非難の言葉が確かに聞こえた。
やはりどんな場所でも、こういう下らない奴は居るものだなと思ってしまう。
「・・・今、彼女を笑った方。
その方は、魚を綺麗に捌けるのでしょうね?
それならぜひ、この私の目の前でやってみて頂けますか?」
周囲を見渡すように振り返ると
あくまで笑顔で
でも語気を多少強めて
私は、言葉を発する。
「・・・出来ないのでしたら何故、笑われたのでしょうね?
この学園では、他人の失敗を笑うような程度の低い人間が居るのですか?」
その言葉で周囲が一気に鎮まり返る。
「周囲の人間に手を差し伸べることが出来る慈愛の心。
他者との違いを容認出来る寛容な精神。
より高みを追求し、より完璧な淑女を目指すという自己研鑽。
それらが、この学園の校風だったはずです。
それを私達が、忘れてはなりません」
思い当たることでもあるのだろうか。
何人もの生徒が下を向く。
「・・・では、せっかくですから
本日は、皆さんで作った料理全てを並べて
全員で食べることにしましょうか。
班ごとで、ただ食べるだけというのも勿体ない気がしますからね」
「・・・それでしたら、色々なものが食べられますわ」
「皆さんで料理を囲んでというのも愉しいですわね」
「素晴らしい提案ですわ」
重苦しい空気を変えるために提案した話に
クラスメイト達が乗っかってくる。
彼女達も暗い話題を何とかしたかったのだろう。
「皆さんで食べるのでしたら、もう少し量を作らないとっ!」
「そうですわ。
私の所も、せっかくですから少し手を加えましょう」
全員に評価されることになるためか
ゆったりしていた生徒達も、時間に追われるように急ぎ出す。
「さあ、セレナさん。
頑張って美味しい魚料理を作りましょうね」
「リシアさん・・・。
うん、ありがとっ!」
「お気になさらないで下さい。
それよりも早くしなければ、料理が間に合いませんよ?」
その後、苦労の末に何とかまともな料理を完成させたセレナは
とても機嫌が良かった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
その日の放課後も、元気の良い少女達の声が聞こえてくる。
『連続失踪事件』が解決したこともあり
学園内には、生徒達がたくさん残っていた。
放課後は、各種の施設が解放されることもあり
居残り練習する生徒達が数多く居るらしい。
練習する少女達の声を聞きながら、私は目的の場所へと向かう。
少しして、騎馬の駆ける音が聞こえてくる。
目的の場所には、非常に立派な試合会場や更衣室。
そして厩舎などが揃っていた。
「まあ、本当に来て頂けたのですねっ!」
一人の馬に乗った騎士がこちらに声をかけてきたと思えば
馬から降りて兜を脱ぐ。
すると、見覚えのある顔が現れた。
「ええ、アナタがあんまりにも勧めるものだから」
「こ、これは・・・お恥ずかしい」
顔を赤くして萎縮する姿は
まるで悪戯を咎められる子供のようで
なんとなく可愛いと思えてしまう。
「良ければ、見学してもいいかしら?」
「それはもうっ!
何でしたら、ぜひ体験して頂いても良いぐらいですっ!」
リリスに背中を押されるように
ジョストの練習をしている中に入れられる。
ジョストには、ちゃんとしたルールがある。
まず鎧からして普通の鎧ではない。
必ず左肩を覆う肩盾を装着し
兜は、必ず頭全てを覆えるものであること。
そして兜に羽飾りを付けることが義務となっている。
馬に乗り、右手に槍を持つと
縦に長く設置されている柵の右側に馬で移動する。
ここがスタートラインだ。
互いにそのまま柵に沿って走れば、相手と柵越しに交差する。
その瞬間に攻撃を放つのだ。
攻撃出来るのは、上半身のみ。
腕に当たれば1点。
胴に当たれば2点。
相手が落馬すれば3点。
となり、合計3点以上を取った側が1本先取となり
2本先に取った側が勝利となる。
また試合中、2点-1点の勝負で
2点側が腕に当て、1側が相手を落馬させると
3-4となり、3点以上のため1本が決着となるが
点数の多い4点側の勝ちとなる。
こう考えると落馬は、非常に痛い。
そしてこういった相手の攻撃を回避するために肩盾がある。
肩盾に当たると防御という判定になり点数は、入らない。
槍を避けるだけではなく肩盾をいかに上手く使うかというのも
大きな要素となってくる。
そして注意したいのは、頭部や喉への攻撃と羽飾りを落とす行為だ。
頭部や喉への攻撃は、危険とされており
その気が無くとも槍が兜に当たれば反則となり
1点ではなく1本丸ごと、相手に奪われてしまう。
しかしそんな頭部を狙う瞬間がある。
兜には、羽飾りを付けなければならない。
その羽飾りを槍で突いて落とすと、なんとその時点で3本取得となり
問答無用で勝利となる逆転要素が存在する。
だからどんな状況でも羽飾りには十分注意しなければならない。
しかし、当然リスクもある。
もし頭部へ攻撃して、兜に攻撃が当たるも
羽飾りが落ちなければ、その時点で反則となってしまう。
大抵は、頭ごと相手が回避してくれるので失敗して兜に攻撃が
当たってしまうことは少ないが、まったく無いという訳でもない。
それに一瞬の交差で、羽飾りだけを的確に落とすのは至難の技であり
普通に狙えば出来るというような簡単なものではない。
また、他にも反則行為として
後ろから攻撃を行う
馬が止まってしまう
騎士以外への攻撃(柵や馬など)
など色々とあるので注意したい所だ。
このように最後まで逆転の要素があるのが
ジョストの醍醐味でもあったりする。
「体験と言っても、専用の装備を持っていないわ」
「それでしたら学園の備品が更衣室にありますので、それをお使い下さい」
何ともまあ用意の良いことで・・・と思いながらも
久しぶりに馬に乗りたいということもあり、更衣室へと向かう。
中で着替えている少女達をなるべく見ないようにしながら
ジョスト用の装備を付けて練習場に戻る。
「―――誰か、そいつを捕まえてくれっ!!」
女学園で聞くことは無いと思っていた男の声が周囲に響く。
よく見ると練習場を走る1頭の馬。
手綱や鞍は付いているものの、その上に騎乗している人の姿は無かった。
興奮して暴れまわる馬に巻き込まれぬよう、少女達は悲鳴をあげながら逃げ惑う。
どうしようかと思っていると、その馬がこちらに向かって走ってくる。
私は勢い良く正面に出ると、通り過ぎる瞬間に手綱を掴みながら馬の上に飛び乗る。
綺麗に飛び乗ると、そのまま人の居ない方向へと走らせながら
声をかけて落ち着かせる。
馬は、とても賢い生き物だ。
相手を見て態度を決めることも多い。
だからこそ、精一杯の気持ちを込めて落ち着かせる。
するとスグにゆっくりとした足取りになり
最後には落ち着いて、その場で止まった。
「よし、偉いぞ」
馬を軽く撫でると、常歩で厩舎へと向かう。
その姿に周囲で逃げ回っていた少女達は
呆然とした表情でリシアを見送った。
「いや~すまなかったな、お嬢ちゃん」
厩舎の前まで来ると、それなりに雰囲気のあるオッサンが出てきた。
「俺は、この厩舎を仕切っているダッツ=ダルヴァンってもんだ。
飛び乗った所を見てたが、良い腕してるじゃないか」
「私は、リシア=ナリアスと申します。
馬については、たまたま上手くいっただけのこと。
それにしてもどうしてこんなことに?」
「いや、ホントにすまねぇ。
どうも若い連中が、浮ついてやがってな」
そういうと後ろを指さす。
そこには、いつの間に集まってきたのか
違う学園の制服を着た数人の男子生徒の姿。
「ウチに研修に来てる連中なんだがね。
アイツら、女学園に来てるってだけで興奮してやがるんだよ。
まあ若いもんからすりゃ、色々と目に毒ではあるから
多少は仕方がねぇ話なんだが・・・」
「・・・なるほど、そういうことですか」
どうやら研修生がミスをして、馬が暴れて脱走することになったようだ。
「馬の世話も大変でしょうが、ミスの無いようお願いしますね」
まあ、事を荒立てても仕方が無いので
男子生徒達には笑顔で注意を促す。
「は、はいっ!
お任せ下さいっ!」
「このようなことは、二度と致しませんっ!」
「本当にすいませんでしたっ!」
元気良く返事をする男子生徒達。
そんな彼らに、もう一度微笑みかけるリシア。
「おい、すっげ~美人だぞ」
「くそ、誰か名前を聞けよ」
「さすが、お嬢様学校だ。
可愛い娘が多いよな」
「でも目の前の娘、他の娘より飛び抜けて可愛いぞ」
「ああ、ぜひともお知り合いに―――」
「・・・ほう、まだそんなこと言う元気があるのなら
さっさと厩舎の掃除を始めろ、このバカ者どもがっ!!!」
こそこそ何やら話していた男子生徒達に
厩舎の主が、一喝する。
すると男子生徒達は、蜘蛛の子を散らすように
厩舎の中へと逃げていった。
「そう言えば、ジョスト用に馬をお借りしたいのですが
よろしいですか?」
「ん? ジョストをやるのかい?」
「ええ、そういう話になってしまって。
生憎、馬を預けていないものですから」
この学園では、ジョストをする生徒は
厩舎に自分の馬を預けている。
馬を飼うのは、かなりの手間と金がかかるのだが・・・。
そのあたりも、さすがお嬢様学校とでもいうべきか。
「・・・そうだなぁ」
どの馬にしようかと悩んでいる様子のダッツ。
すると先ほどまで大人しかった馬が、歩き出す。
乗ったままだったので、そのまま移動させられるのだが
ダッツの横まで行くと、馬はダッツに鼻息でアピールをし始める。
「なんだなんだ。
何が言いたいんだ、お前?」
何かをアピールする仕草にダッツが、ハッとした表情になる。
「まさかお前、ジョストをやろうってのか?」
そう言うと、まるで返事をするかのように、荒い鼻息を1つ。
「・・・どうやらやる気十分といった感じですね」
「こりゃ参ったな」
馬のやる気に2人は、思わず苦笑する。
「あまり調教出来てないが、まあお嬢ちゃんなら大丈夫だろ」
「解りました。
では、この子をお借りしますね」
「よし、じゃあちょっと待ってな」
そう言うと手早く馬にジョスト用の馬鎧を装着するダッツ。
あまりにも見事な手際に、思わず見惚れる。
「まあ、初めてのジョストだ。
ビビるんじゃね~ぞ?」
そう言って馬の顔をダッツが撫でると
大きなお世話だと言わんがばかりに反転して
ジョスト練習場に歩き出す馬。
「お帰りなさいませ、リシアお姉さま。
先ほどは、お見事でした」
帰ってくるなり、リリスを筆頭に数人の少女達が集まってくる。
「ええ、凛とした表情で手綱を引く姿は
本当に一枚の絵のようでしたわ」
「あのように見事な馬術が見られるなんて
何て幸運なんでしょう」
「いえ、たまたま運が良かっただけです」
「そんなことはないわ。
素晴らしい馬術だったと思うわ」
横から会話に入ってきたのは、馬に乗った騎士。
兜のフェイスガードを上にあげると、ようやく誰かを理解する。
「副会長もいらしたのですね」
「ええ。
ジョストは、私の日課だもの。
リシアさんは、どうしてここに?」
「熱心な招待を受けましたので」
そう言ってリリスの方を向く。
「リシアお姉さまが、ジョストをおやりになると聞きまして
ここは、ぜひにとお誘いしたのです」
「なるほどね。
じゃあ、一戦お相手頂けるかしら?」
「ええ、喜んで」
コネルと試合をすることになり、互いにスタート位置へと向かう。
「どうぞ、リシアお姉さま」
後ろを付いてきたリリスが、競技用の槍を手渡してくれる。
「ありがとう」
礼を言って槍を受け取る。
競技用の槍は、そのほとんどが木で出来ており
槍先も事故防止のため壊れやすくなっている。
そのため戦場で使用する槍と比べれば格段に軽いが
それでもかなりの重量がある。
簡単な練習試合程度に考えていたのだが
ジョストの練習をしていた生徒達が全員、集まってきていた。
そして審判役を買って出る生徒も現れ
いつの間にか完全な試合形式となってしまっている。
「・・・それでは、はじめっ!!」
審判役の合図と共に両者が馬を走らせる。
そして丁度、真ん中付近で2人が交差し
金属音が周囲に響き渡る。
「・・・肩盾による防御で無効点!」
その言葉を聞きながら、2人はスタート位置へと戻る。
コネルの攻撃は、こちらの肩盾で防御した。
基本に忠実な突きだったと思う。
今回は様子見のため、あえて相手の槍を狙って突きを出し
相手の槍に干渉してわざと、こちらの肩盾に攻撃が当たるように仕向けた。
「・・・では、はじめっ!!」
2回目のスタート合図。
同じく互いに速度を上げながら駆け抜け、丁度真ん中付近で交差する。
「・・・肩盾による防御で無効点!」
周囲から『おおっ!』という驚きの声が聞こえてくる。
2回目もあえて、防御に徹した。
コネルは、1度フェイントを挟んできたが
そのフェイントに惑わされることなく、的確に相手の突きを見切って
こちらの槍で干渉して肩盾に攻撃を流す。
「・・・3回目、はじめっ!!」
3度目のスタート合図で互いに走り出す。
2度も同じ手で攻撃を回避されたコネルは
次こそは、と気合を入れて向かってくる。
だが―――。
互いが交差して、駆け抜けていった後。
1枚の羽根が宙を舞う。
「・・・リシア様の羽落とし(フェザーブレイク)により
リシア様の勝利です!」
その瞬間、一斉に歓声が巻き起こる。
その歓声に乗っていた馬が
頭を上げて尾を高く振り回し、勝利をアピールするかのように嘶く。
「まさか羽落としを決められるなんてね」
勝負が終わり、ゆっくりとこちらに常歩で近づいてきたコネルが
少し悔しそうに声をかけてくる。
「たまたま、上手くいっただけです」
「そんなことはありません。
素晴らしい一撃でした」
リリスが駆け寄ってきながら称賛してくる。
「よかったら、また相手をしてくれないかしら?」
「ええ、私でよければ」
「リシアお姉さま、私もお願いします」
「もちろん、私からもお願いするわ」
こうしてコネルとリリスの2人と
またジョストで対戦することを約束する。
リシアがジョストの勝負でコネルに勝ったという話は
数日かけて学園中に広まることになる。
それが何を意味するかを、まだリシアは知らなかった。
―――その日の夜。
「お茶が入りました」
「ああ」
ミーアが入れた紅茶を飲む。
「・・・何か、良いことがありましたか?」
「どうしてそう思う?」
「何となく、そう見えましたので」
「・・・久しぶりに馬に乗ってな。
ジョストも久しぶりだったが、もなかなか良いものだった」
「か・・・お嬢様が本気を出されたら、誰も敵わないかと」
「まあ全力でやるようなことにはならんだろう。
・・・ああ、そう言えば頼みたいことがある。
そのジョスト用の装備と馬の手配を頼みたい」
「数日中には、手配致します」
「ああ、頼んだ」
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
それから数日後。
寮の前に運ばれてきた馬を見て
思わずため息が出た。
「何でウィンニートを連れてきたんだ?」
見慣れた黒毛の馬。
それは、紛れもなく数々の戦場を共に駆け抜けた相棒であり
古代語で『一陣の風』という意味の名を持つ馬だ。
「ジョストをされるとのことでしたので
乗りなれた馬が宜しいかと思いまして」
さも当然のように言うミーアに
思わず頭を抱える。
どうしてジョスト用の鎧は、女性用なのに
こういう所だけ気が回らないのかと。
「・・・別の馬を用意いたしますか?」
「もう連れてきた以上、仕方が無い」
そう言って愛馬を学園の厩舎へと連れていく。
「よう、お嬢ちゃん・・・って
どうしたんだ、この馬は?」
「私の馬です。
こちらで預かって頂こうと思いまして。
既に申請は、済ませてあります」
馬の手配の段階で、既に学園長からは許可を貰っている。
「ほ~ぅ。
こいつぁ~見事な馬だ」
「あら、解りますか?」
「当たり前だ。
俺は、もう何十年と馬と一緒に生活してるんだからな。
・・・それにしてもこんな名馬に出会えるなんて思っちゃいなかったぜ」
そう言いながらウィンニートを隅々まで確認するダッツ。
「いや、ホントに良い馬だ。
国王陛下の騎乗する馬だって言われても信じちまうぐらいさ」
「そこまで言って頂けるなんて、思いませんでしたわ。
この子は、ウィンニート。
ほら、挨拶なさい」
軽く促すと、ダッツの正面に立ち
顔を近づけて挨拶をするウィンニート。
「ほぅ・・・『一陣の風』とは恐れ入った。
良い名前じゃないか。
おまけに賢いな。
ますます気に入った」
そう言いながらウィンニートの頬を撫でるダッツ。
「こいつは、俺が直接面倒見させてもらうよ。
これだけの名馬を他人に任せるなんて勿体ねぇからな」
「ありがとうございます。
それでは、よろしくお願いしますね」
そう言って馬を預けると教室へと向かう。
そして教室に入った瞬間だった。
「リシアさん、ジョストでコネル副会長に勝ったんですって?」
いきなりそんなことを聞いてきたのは、クラスメイトのサーヤだった。
「・・・え、ええ。
一応、そういうことになりますね」
少し驚きながらも別に隠す必要もないので答える。
「やっぱり噂は、本当だったのね!」
「さすがリシア様、素晴らしいですわ!」
こちらの答えを聞いて周囲のクラスメイト達も騒ぎ出す。
「これで、今年の大会の騎馬部門代表に
きっと選ばれますわ!」
「ええ! 間違いありませんわね!」
「私、応援致します!」
次々と盛り上がっていくクラスメイトに意味が解らず困惑するリシア。
「簡単な話よ」
後ろから聞き慣れた声がして振り返ると
そこにはセレナの姿があった。
「副会長は、この学園都市で有名な選手の1人なの。
その副会長を倒したってことは、つまり学園都市で
上位の実力者であるという証明になると思わない?」
その言葉でようやく意味を理解する。
つまりジョストでいきなり上位勢の一角を倒してしまったのだ。
この出来事で、リシアは嫌でも目立つ位置へと
押し上げられていくことになるのだった。
第6章 騎馬戦 ~完~
まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
任務も終わり、別にバレてもある意味問題無くなった
元帥閣下が自由に暴れる・・・もとい活躍出来るようになってきました。
ジョストに関しては、当初適当な一騎討ちにしようかと思ってましたが
やはり面白さを出そうとするとしっかりとルール作った方がいいと思って
様々なスポーツやジョストの記述を参考にさせて頂きました。
本当のジョストには、斧や剣を使ったものもあるそうですが
やはり槍が一番ジョストらしいと思うのは、きっと私だけじゃないはず!
また新キャラなども多く登場させてみました。
彼女達の今後にも注目!という所ですかね。
**爵位に関する説明文を全て『その他設定』に移転させました**
また感想などもお待ちしていますので
モチベーション維持のためにも頂けると嬉しいです。