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第5章 終わりと始まり






 その日は、雲も少なく

 気持ちの良い青い空が広がる日だった。


 私は、廊下を歩いて次の授業が行われる教室へと向かう。


 この学園には、選択授業というものがいくつかあり

 いつものクラスの仲間とは違う、その授業を選択した者達との

 授業となるため、教室を移動することになる。


 今日の選択授業で選んだのは

 『戦略・戦術研究』という授業だ。


 何でも、過去に起こった様々な戦いを題材として

 どういったことがあったのか。

 また、どうしていたら良かったのかという『もしも』を

 様々な視点で語るというものらしい。


 人の上に立つ機会が多い者には

 こういった授業は、有意義となるだろう。


 何より、どういった話が聞けるのかと

 興味があったので、これを選んだ。


 席は、自由だと聞いていたので

 教室に入ると、適当に窓側の席に座る。


 ちなみにセレナは『政策討論』という

 政治に関する授業を選択していたらしい。

 まあ、元帥の娘なら政治に関わる可能性も高いので

 そういう意味でもそれを選んだことに不思議はない。


 アリスは『武術・流派の歴史』という武芸に関する

 授業を選んだそうだ。

 勉強嫌いな彼女らしいと言えば、らしい選択だ。


「あら・・・アナタは確か」


 隣から声がして振り向くと

 そこには、以前に見かけた顔があった。


「これは、シルビア様。

 またお会い出来て光栄です」


「リシア=ナリアス・・・だったわね。

 私のことは、シルビアと呼び捨てで構わないわ」


「有名な元帥閣下のご息女を―――」


「そういうの、嫌いなのよ。

 不敬だと言う気も無いから、呼び捨てにして貰えるかしら。

 その代わり、私もアナタを呼び捨てにするわ。


 同じ学友同士、ということで構わないでしょう?」


「それでは、私が萎縮してしまいます。

 せめて『さん』をつけさせて頂けませんか?」


「そこまで淀み無く話しておきながら

 『萎縮する』と、よく言えたものだわ。


 ・・・まあ、そういうのも嫌いじゃないし

 アナタの意思も尊重してお互いに『さん』付け

 ということにしておきましょうか」


「そうして頂けると助かります『シルビアさん』」


「なら、これからよろしくお願いするわ『リシアさん』」


 互いにさん付けをわざと強調する。


 『優秀』と聞いていたが

 その評判に違わぬ堂々とした振る舞いを見ていると

 兄より優秀だという話も信憑性が高いと言えそうだ。


「皆さん、席について下さい。

 授業を始めますよ」


 ちょうど、挨拶が終わったタイミングで

 教師が入ってきて、授業が始まる。






第5章 終わりと始まり






 何の戦いを元にして

 どんな戦略・戦術が聞けるのかと愉しみにしていたのだが

 授業開始から数分経った頃。


 私の興味は、完全に無くなっていた。


「(はぁ・・・完全に失敗したな)」


 思わずため息が出る。


 何故、興味が無くなったのか。

 それは、実に簡単な話。


「―――ですから、あえてこのような形で

 部隊を配置した訳です。


 このような大胆な戦術を使った元帥閣下の軍は・・・」


 よりにもよって自分の過去の戦いが題材だったからだ。


 実際にその場に居て、しかも指揮をしていた張本人が

 その戦いからこれ以上、一体何を学べというのか。


 戦い自体を振り返って研究することが悪い訳ではないが

 そんなもの、とっくの昔に終えているので、今更感が非常に強い。


「さて、皆さんならこの橋を挟んだ睨み合いを

 どう切り抜けますか?

 別に閣下と同じ戦法でも構いませんが、必ず

 その理由もつけて下さい」


 気づけば、生徒達による『もしも自分が元帥の立場なら』という

 意見の発表になっていた。


「私でしたら、この川を渡って背後を急襲しますわ」


「(あの川は、川幅こそ狭いが

  深さも流れの速さもあって、相当の準備が必要なんだよ。

  そんな大規模準備なんてしてたら、妨害されるに決まってるだろ。

  隠れられる場所もない川辺なんだから)」


「私なら無理せず、矢による遠距離攻撃で

 相手を後ろに引かせ、その隙をついて橋を一気に渡りますわ」


「(そんな悠長なことしてたら

  援軍が到着して、逆に撤退するハメになってるよ)」


 1人、また1人と意見を言うたびに

 心の中で突っ込みを入れるリシア。


 そのあまりにも無謀な作戦や、机上の空論に

 『戦場を知らなければ、こんなものか』と呆れてしまう。


「では、次にシルビアさん。

 アナタなら、どうしますか?」


 そうしているうちに、シルビアの番が回ってくる。

 彼女は、どう答えるだろうか。


「私なら、元帥と同じく正面突破を仕掛るわ。


 時間をかければ敵に援軍が来る可能性があった以上

 この場での迂回や、時間をかけた戦い方は

 正直、論外。


 元帥の部隊は、想力者が多いのだから

 想力者を全員、最前線に配置して、想力による

 強引な突破で一気に敵を撃破するのが一番最善だったかと。


 そういう意味でも元帥の取った戦い方は

 理想的と言えるわね」


 さすがというか何というか。

 自分の意見の中に、周囲の残念な意見をバッサリと切り捨てる

 言葉も忘れないあたりが、『彼女らしい』と思えてくる。


「そ、そうですね。

 確かに、そういう可能性もありましたね」


 多少、引きつった笑顔を浮かべる教師。


「で、では、そうですね・・・。

 リシアさんなら、この場合、どうしますか?」


 まるで話題を変えるためのような切り替え方で

 こちらに意見を求めてくる教師の発言に

 思わず苦笑する。


 今、その話題を私に振ってもいいのかと。


「そうですね。

 私なら、そもそもこちらの道を選びます」


 そう言って地図を指さす。


 それは、戦いがあった場所の少し手前の分かれ道。

 険しい山道を進むルートだ。


「本来、軍隊が行軍するには

 不向きとされる細く狭い場所では

 事故が起こりやすいものです。

 特に奇襲などされては、壊滅する危険性も高い。


 ですが、相手が橋に全軍を向けていた以上

 この道で奇襲を受けることはなかった。


 つまりこちらを選んでいれば、相手の側面から

 奇襲出来ていたことになります。


 正面から戦うよりも、はるかに損害も少なかったでしょう。

 今のように結果論で語る討論なら

 このぐらいの後出しによる理想論ぐらいは、許容されると思いますが

 いかがでしょうか?」


 その言葉に周囲が、ざわつく。


 私も当時は、どちらを進むか悩んだ。

 だが結局、リスクが高すぎる山道を避けたという経緯がある。


 実際、全軍を橋に持ってきていた相手を見た時に

 山道を選んでおけばと後悔したことがあったため

 その時のことを思い出して、あえてこう答えたのだ。


「確かに、側面に回り込めれば有利ですわね」


「私、どう戦うかばかり考えていて

 地図をよく見ていませんでしたわ」


「根本的な道の選択からなんて、素晴らしい発想ですわ」


 やがて好意的な意見が聞こえてきて

 誰からともなく拍手が起こる。


 それに呼応するように拍手の数が増えていき

 教室が拍手の音に包まれる。


 まさかそこまで称賛されると思っていなかったので

 少し驚くも、最低限の礼として周囲に向かって一礼という形で

 拍手に応える。


「そ、そう・・・ですね。

 そういう、考えも・・・あ、あります、ね」


 もはや教師は、引きつった顔を隠そうともしていない。


 多少、意地悪だったかと思わなくもないが

 まあ、あの状況でこちらを指名した自身の運が無かったと

 諦めて貰うとしよう。


 少しだけ討論すべき道を示したこともあり

 次からの意見は、行軍する道の変更から

 編成部隊の変更など、マシな意見が出てくるようになった。


 それらを聞いているうちに授業終了の鐘が鳴り

 皆が教室を出ていく。


 それに合わせて荷物をまとめて立ち上がる。


「・・・さすがは、私と同じく

 学力試験1位といった所かしら。

 素晴らしい発想だったと思うわ」


 突然、隣の席だった

 シルビアが、立ち上がりながら声をかけてくる。


「いえ、偶然そういった考えが出ただけです。

 たまたまの意見をここまで褒められると

 申し訳なくなってしまうわ」


「あら、言わなかったっけ?

 私、そういうのが嫌いなの」


「・・・そうでしたね。

 では、素直に受け取っておきます」


「ええ、そうしなさい。

 少なくとも、あの駄犬には

 不可能な考えだったのだから」


 駄犬とは、おそらくセレナのことだろう。

 前回見た時もそうだったが、シルビアは

 セレナを犬扱いしているようだ。


「・・・駄犬、ですか。

 随分と、敵視されてるのですね」


「私がではなく、あのメス犬の方が敵視しているのよ。

 何かと絡んでくるのだから、困ったものだわ」


 ため息まじりに、そう言う彼女を見て

 思わず笑いそうになるのを堪える。


 私の記憶が正しければ

 この前、積極的に絡みに行ったのは

 むしろ彼女の方だろうと。


「今度は、ぜひ対戦形式の授業で

 アナタの実力を見たいわ」


「その時は、お手柔らかにお願いしますね」


 互いに軽く形式的な挨拶をすると

 シルビアは、教室を出ていった。


「・・・さて、そろそろ帰るか」


 いつまでもここに居ても仕方が無いので

 こちらも教室を出て、次の授業に向かう。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



「ああ、すっかり遅くなっちゃったな」


 アタシは、そう思いながら校舎を出る。


 『連続失踪事件』とでも言えばいいのか。

 そんな事件のおかげで放課後になると

 みんな一斉に帰ってしまうため

 少しでもこうして遅くなると、誰も居なくなってしまう。


「・・・あくまで噂だし、大丈夫だよね」


 最後に校舎を出た1人が失踪してしまうという

 噂を思い出して、少し怖くなってしまい

 急いで寮に帰ろうとした時だった。


 校舎の横を通る人影を見つける。


 一瞬、ビクっとしたが

 それは、どこか見たことがあるような

 感じでもあり、つい追いかけてしまう。


 するとその人影は―――


「あれ? リシアさん?

 そんなところでどうしたの?」


 やはり見知った顔だった。

 相手がリシアさんだったことに内心ホッとする。


「アリスさんこそ、こんな時間にどうしたのですか?」


「教室に忘れ物しちゃってさ」


 そう言ってわざわざ教室に取りにいった

 教科書を見せる。


 この教科書が無ければ宿題が出来ないからだ。


「・・・そう、ですか」


 そう言うと、リシアさんは

 真剣な顔で何かを考え始める。


 そんな仕草さえ、優雅に見えてしまうのだから

 私は、彼女に憧れたのだ。


「・・・アリスさん。

 少し、お付き合い頂けますか?」


 彼女に満面の笑みを浮かべながら

 そう言われて、断れる訳が無い。


 リシアさんの後をついていくと

 彼女は、学園の奥にある森に建っている教会に到着する。

 そして何の迷いもなく、その中へと入っていく。


 何か教会に用でもあるのかな?と思いながら

 アタシも中に入る。


 教会の中では、リシアさんが

 女神像の付近で何かを探しているような素振りをしている。


「何か忘れ物?」


「・・・いえ、どちらかと言えば探し物、といった所でしょうか?」


 そう言いながらも色々な場所を見ているリシアさん。

 探し物とやらが解らないが、アタシも手伝った方がいいのかなと

 思った時だった。


「・・・やっと見つけた」


 リシアさんの声に、そちらを向くと

 何かが動く音がした。


 近づいてみると、女神像の足元の床が外れて

 その下に階段が見えていた。


「何・・・これ・・・」


 こんなものがあるなんて、聞いたことが無い。


 だが、リシアさんは

 さも当然のように階段を下りていく。


 少し躊躇ったが、アタシもゆっくりと

 階段を下りることにした。


 薄暗い階段も下りた先に半開きの扉があり

 そこから強い光が漏れていた。


 ゆっくり近づくと、中から話し声が聞こえてくる。

 中を覗いた瞬間、思わず声を上げ―――


「―――!?」


「・・・静かに。

 今は、まだダメです」


 いきなり口を押えられたので驚いたが

 後ろから小声で話しかけてくるのがリシアさんだと

 確認すると、安心してため息が出る。


「・・・心臓に悪いよ」


「申し訳ありませんが、まだ声を上げられては

 困りますからね。


 それに、よく見ておいて下さい。

 アリスさんも証人になるのですから」


 そう言って彼女が指さす扉の奥を

 今度は、しっかりと見る。


 中には、見慣れない古代文明のものと思われるものが

 大量にあって、フォースの制服を着た少女達が

 それに繋がれている。


 部屋の中央でも鎖に繋がれたフォースの学生服を着た少女が

 抵抗するように動くが、手足を縛られているため

 どうすることもできない。


 その鎖の音に気づいたのか

 古代文明の装置を動かしていた人影が

 鎖で繋がれた少女にゆっくりと近づく。


「目を覚ましたみたいですね」


「―――メル先生っ!?

 こ、これは、どういうことですかっ!?」


 恐怖に顔を引きつらせながら声を上げる少女。

 その前に立っていたのは


 メル=バトン


 以前、ルナが挨拶をしていた

 この学園の教師であり

 学園内の教会を任されているシスターだ。


「何も心配しなくていいのよ。

 貴女も、もうすぐみんなと同じように

 素敵な眠りにつくのだから」


 そう言って何かの部品を持ち出し、女学生に迫る。


「い、いやぁ・・・・。

 嫌っ!!  お願いっ!! 助けてぇ!!」


「怖がる必要は、無いわ。

 さあ、安心して―――」


「そこまでよっ!!」


 私は、気づけば飛び出していた。

 どういうことか、未だに理解出来ないことも多いが

 解ることが1つだけある。


 それは、メル先生を止める必要があるってこと。

 それだけは、間違っていないはず。


「あらあら。

 誰かと思えば、2年のアリスさんじゃありませんか。


 勝手に人の部屋に入ってはいけませんと

 教えられなかったのですか?」


「メル先生っ!

 これは、どういうことですかっ!?」


「どうって、見たままですよ?」


 あくまで余裕そうな笑顔で答えるメルに

 苛立つアリス。


「先生が、失踪事件の犯人だったんですねっ!

 どうしてこんなことしたんですかっ!?」


「なぜ、そんなことが知りたいの?」


「えっ!?

 だ、だっておかしいじゃないですか!


 先生は、先生なんですよ!?」


「面白いことを言うのね、貴女。


 なら、教師は1人の個人として動いてはダメだとでも

 言うのかしら?」


「・・・そ、そういう訳じゃないけど」


「まあ、いいわ。

 教えてあげる。


 ・・・私はね、この世の中が憎かったの。

 どうして私だけが、こんなにも酷い目に遭うのかって。

 結婚を誓った恋人は、戦争で死んだ。

 彼との間に身ごもっていた赤ちゃんも流れた。

 両親は、流行り病であっさりと死んだ。


 そして何もかも失った私に、声をかけてくれた

 神父様に言われ、女神を信仰するシスターになったけど

 女神様は、私に何も救いを与えてはくれなかった。


 私が毎日、どんな想いで貴女達を見ていたと思う?


 何の苦労も知らない、生まれながらにして

 幸福を約束されたお貴族様達の日常。


 そんなくだらないものを見るために

 私は、こんな所に居る訳じゃないっ!!」


 最後は声を荒げて叫ぶ女。

 だが、スグに感情の篭っていない笑顔に戻る。


「・・・でもね、それももうどうでもいいの。


 だって、やっとっ!やっとよっ!!

 女神様が私の願いに応えてくれたのっ!

 あの方は、私に何でも願いが叶う方法を教えてくれたわっ!!


 それがこれっ!

 この娘達の『命』で、何でも願いが叶うのっ!!


 これで、私はようやく幸せになれるのよっ!!


 ・・・だから、邪魔はさせないわッ!!!」


 先生は、想力で出来た『輪』のようなものを手にすると

 それを投げてくる。


「―――契約を果たせ、暁の剣『フォルナ』よ」


 アタシは、咄嗟に剣を出すと

 その輪を打ち払う。


 だが。


「きゃぁっ!!」


 大きく後ろに吹き飛ばされる。


「いったぁ~ぃ・・・」


 スグに立ち上がるも、次の輪が既に飛んできていた。

 非常に狭い洞窟のような場所では、避けようがない。


 気合を入れて剣で防ぐも

 また勢いに負けて後ろに吹き飛ばされる。


「な、なんて想力なのよ・・・」


 こちらを大きく上回る威力だ。

 勢いが止めきれない以上、避けるしかないのだが

 避ける場所が無いのでは、この時点でどうしようもない。


「ふふっ。

 彼女達が、私に力を与えてくれるの。

 素敵でしょう?」


 アタシは、馬鹿だから意味がイマイチ理解出来ないが

 とりあえず状況的に不利だということだけは理解出来る。


「さあ、これで大人しくなさい」


 そう言って輪を先生が投げた時だった。


 少し手前で何かに当たって砕ける輪。


「・・・なら、これでどうかしらっ!!」


 先生が輪を3つ連続で投げてくるが

 またも何かに当たって砕け散る。


 よく見れば、それは

 想力で出来た壁。


「な、なんですか、その力はっ!?」


「別に驚くこともないでしょう?

 想力の特性なんて、人それぞれなのだから」


 後ろから聞こえてきた声。

 振り向くと、リシアさんが立っていた。


「確か、転校生・・・でしたね。

 どうして貴女まで?」


「何やら、面白そうな事件があると聞きましてね。

 私なりに色々と調べてみたのですよ。


 1つ

 被害者は、この学園フォースの生徒のみ。


 1つ

 初めに起こった事件は、3ヶ月前。

 被害者は、本校の1年生 サリー=テンプル。


 1つ

 被害者は、想力者・非想力者どちらも関係なく

 被害に遭っている。


 1つ

 街で、行方不明者の目撃情報が

 一切出てこない。


 1つ

 行方不明者全員に何かしらの要求も無ければ

 死体も出てきていない。


 これらから、私なりに推理してみました」


 そう言いながら、堂々と歩いてくるリシアさんに

 思わず見惚れてしまう。


「1つ

 被害者は、この学園フォースの生徒のみ。


 この情報で私は、学園に恨みを持つ者

 もしくは、学園でならなければならない事情があるのだと

 考えました。



 1つ

 初めに起こった事件は、3ヶ月前。

 被害者は、本校の1年生 サリー=テンプル。


 連続して起きる事件の場合。

 一番初めの事件ほど多くの情報が

 残っているものは、ありません。


 彼女を狙ったのは、恐らくその時に

 狙いやすかったからでしょう。


 彼女やその関係者に恨みがあったり

 彼女自身でなければならない理由があったとは

 考えにくい。

 何故なら、連続して身分や想力の有無に関係なく

 事件が続いているからです。



 1つ

 被害者は、想力者・非想力者どちらも関係なく

 被害に遭っている。


 これも、重要な話でした。

 確かに不意を突けば想力者であっても簡単に

 捕まえることは、可能です。


 ですが、学園の生徒限定で襲っていると考えると

 この部分は、正直どうでもいい。

 

 つまり事件を起こしている者にとって想力など関係ない。


 学園の生徒が『一番都合が良い』から

 学園の生徒を襲っているということです。



 1つ

 街で、行方不明者の目撃情報が

 一切出てこない。


 街で目撃情報が一切無いということは

 裏を返せば、『そもそも街に出ていない』と考えるべきです。


 馬車などを使って隠しながら移動するということも

 考えましたが、それだと『最近よく馬車を見かける』といった

 別の声が出てくるはずですからね。



 1つ

 行方不明者全員に何かしらの要求も無ければ

 死体も出てきていない。


 ・・・人が丸ごと消えるなんてありえません。

 生きているなら、大量の食料が必要ですし

 死んでいたとしても、それを保管する場所が必要です。


 それなりの施設を管理でもしていなければ

 誰かに簡単に見つかってしまいかねない」


 1つ1つ解説しながら

 リシアさんが、アタシの隣に並び立つ。


「全てをまとめると


 学園に恨みを持つか、もしくは

 学園でならなければならない理由を持つ者。


 学園の生徒を狙いやすい環境であり

 想力者であっても簡単に捕まえられる能力を持っているか

 そもそも相手に警戒心を抱かせない人物。


 そして街で一切目撃情報が無い以上

 消えた生徒達は、学園内の何処かに居る可能性があって

 その場所は、なるべく人の来ない場所であるか

 非常に見つかりにくい場所が望ましい。


 ・・・それらに当てはまるのは、誰なのか?と考えた訳です」


 その話を聞いていた先生の顔から

 先ほどまでの笑みが消え、いつの間にか無表情になっている。


「校舎や、闘技場などの生徒達が頻繁に利用する場所は、論外です。

 資料室などの部屋も、人が少ないとはいえ

 それなりに生徒が出入りしますからね。


 そう考えると、祈りの時間以外は

 解放されているといっても学園の奥であることもあり

 人が滅多に来ない場所で、しかもそこを

 たった1人で管理している人が居るというじゃありませんか。


 しかもその人物は、教師であり

 全学年の情操教育を担当している関係で

 全生徒と面識があり、シスターとして個人の相談にも応じている。


 教会でなくともいい。

 例えば学園の庭先で、一人になっている生徒に不意打ちをし

 捕らえた後、台車か何かに乗せて運べば

 誰もその荷物の中身を疑わない。


 何故なら学園内で、しかも運んでいる人間が教師なら

 教材か何かを運んでいるのだろうと、誰も不審に思いませんからね」


 アタシは、リシアさんの話を聞き入っていた。


 正直、何を言ってるのか

 全然わからない部分も多かったが

 今まで誰も見つけられなかった相手を

 こうもあっさりと見つけてしまう彼女の聡明さに

 思わず背筋に寒気が走る。


 何ていうか、こう『全てを見透かしている』というような

 そんな感じがしたからだ。


「・・・ふふっ。

 あははっ。


 あはははははははっ!!!」


 リシアさんが全てを語り終えると同時に

 先生が壊れたように笑い出す。


「凄いわ、貴女。

 貴女の命なら、さぞ神様も喜んでくださるでしょう」


 そう言って、また輪を作り出す先生。


「私が、アナタを護ります。

 想力の壁によって一切の攻撃を弾きますから

 アナタが、彼女の暴走を止めてあげなさい」


「・・・うん、わかった」


 リシアさんにそう言われて

 私は、剣を構え・・・そして先生に向かって走り出す。


 いくつもの輪が飛んでくるも、その全てが

 リシアさんの言う通り、想力の壁によって砕かれる。


「これなら、どうっ!!」


 先生は、巨大な輪を作って、それを投げてくる。

 少し怖かったけど、それでもリシアさんを信じて走り続ける。


 想力の壁にぶつかった瞬間、何かを削るような音がしたけど

 でも、想力の壁が輪を弾く。


 そのまま斬る訳にもいかないため、剣の腹が当たるように持ち直すと

 走り込んだ勢いのまま斬りかかる。


「はぁっ!!」


「ぐげぇっ!!」


 巨大な輪も弾かれるとは思っていかなかったのだろうか。


 驚いた表情で、防御する動作も完全に遅れていた先生に

 まともに一撃が入る。


 苦しそうな声をあげながら壁に激突して

 そのまま気を失って倒れる先生。


 スグにハッとして周囲を確認すると

 鎖で繋がれていた子を見つけて駆け寄り

 鎖をほどいて助けてあげる。


「・・・もう大丈夫だからね」


「ああ、アリスさまぁぁぁぁ!!!」


 鎖を外すと捕まっていた子は、アタシに抱きついて泣き出す。


「もう大丈夫だから」


 怖かっただろう、と思った。

 アタシも同じ立場なら、泣いていたかもしれない。


「・・・アリスさん。

 その子を連れて、人を呼んできて貰っても構いませんか?


 私は、彼女を監視しておきますので」


「ああ、うん。 わかったよ」


 泣いている彼女を連れて、人を呼んでくるため外に出る。


 幸い、泣き声を聞いて

 学園内を巡回していた警備兵が気づいてくれたみたいで

 スグに人を呼ぶことが出来た。



 ―――アリスが、外に出た頃。 


「・・・さて。

 寝たふりは、やめてもらおうか」


 そう言って私は、メル近づくと

 そのまま腹に蹴りを入れる。


「ぐっ!」


 腹を押さえて苦しむ彼女の髪を掴んで

 顔をこちらに向かせる。


「これだけの施設をお前だけで用意出来る訳がない。

 お前の後ろに居るのは、誰だ?」


「・・・教える訳ないでしょ、きゃははははっ!!」


 その後は何も答えず、ただ壊れたように笑うだけのメル。


 さすがに苛立ち、その顔を思いっきり殴るが

 それでも笑うことをやめないメル。


 ため息を吐きながら、髪から手を放すと

 横たわる彼女の頭を踏みつける。


「答えたくないなら、それでもいい。

 だが、簡単に死ねると思うなよ?」


 そう言って、もう一度

 腹に向かって蹴りを入れる。


 その一撃で、メルが気を失う。


「個人でこれだけの環境や古代遺産を用意出来る訳が無い。

 ・・・これは、思ったより大きな事件になりそうだな」



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 次の日。

 学園内どころか、都市全体が

 その話題で持ち切りだった。


「アリス様っ!

 あの話は、本当ですかっ!?」


「アリスお姉さま、素敵ですわっ!!」


「正義感のある方だと思っていましたが

 やはり、素晴らしい方ですねっ!!」


「あ、あははは・・・」


 同級生や下級生だけでなく、上級生にまで囲まれ

 もうどうしていいのか解らずに半ば放心状態のアリス。


 あの意味不明な装置に繋がれていた少女達は

 かなり衰弱していたものの、何とか一命を取り留めた。


 それ自体は、よかったのだが

 娘を助けられた貴族達が、ぜひお礼をしたいと

 学園に殺到したのだ。


 事情を知らなかった生徒達からすれば

 何事かと思うだろう。


 そこに追い打ちとばかりに

 アリスに抱きついて泣いていた娘が

 事件の一部始終を語ったのだ。


 『アリス様に助けて頂いた』という

 その話が、学園内を一気に駆け抜ける。


 そしてこの騒ぎには、尾ひれがつき

 『アリスが、その正義感で事件を調べ上げ

  真相を暴いて、捕らわれていた少女たちを助け出した』

 という、まるでおとぎ話のような壮大な物語が

 勝手に出来上がってしまったようだ。


 アリスは、何度もその噂を否定して

 私についていっただけだと説明するも

 時間が経つにつれ、壮大になっていく噂には

 勝てなかったようで、ついに考えるのをやめたようだ。


 その日の夜。

 寮の中でも、その話題ばかりだった。


「それで、英雄様は

 どんな気分なのかしら?」


「・・・もう、何も言いたくない。

 言っても誰も聞いてくれないもんっ!」


「あらあら。

 完全に、拗ねちゃってるわね」


「でも、少し興味がありますわ。

 実際は、どうだったのか」


 一日中、矢面に立たされたアリスは

 すっかり、やさぐれていた。


「アタシは、ただ

 リシアさんについていっただけなのに・・・」


「・・・私は、何もしてませんよ。


 相手を倒したのも、彼女達を助けたのも

 アリスさんでは、ありませんか」


「そ、ちがっ・・・け、結果的にそうだけど

 あの場所を見つけたのは、リシアさんじゃないっ!」


「あら? そうだったかしら?」


 あからさまに恍けて見せると

 アリスが、頬を膨らませて抗議してくる。


「・・・そう言えば、アリスに

 二つ名がついたみたいですね」


 そんな抗議を遮るように

 ルナが、そんな一言を言う。


「ええっ!?

 うそっ!?」


「二つ名、ですか?」


「そう、二つ名。

 フォースだと、優れた活躍をしたり

 優秀な成績を残した人とか、そういう人に

 二つ名をつけて呼ぶって風習があるのよ」


 こちらの疑問に、フランが答えてくれる。


「確か・・・『聖騎士』だったかしら」


 セレナがそう言うと、アリスが泣きそうな顔になる。


「聖騎士って・・・そんなの似合わないよぉ~」


 役職にも称号にも、聖騎士というものは

 存在などしない。


 はるか古代の時代に、不正を許さず

 弱き人々を護った正義感のある騎士を

 聖騎士と呼んで称えたとされる話がある。


 現在では、その聖騎士の話から物語を作ることが多く

 おとぎ話の主人公は、そのほとんどが聖騎士様だ。


 彼女の性格を考えると

 確かに聖騎士と言えなくもない。


 アリスは、嫌がっていたが

 この日から彼女の二つ名は『聖騎士』となり

 のちに『連続失踪事件』と呼ばれた事件が

 一応の終わりを迎えることになる。


 食堂での会話が終わり、部屋に戻ると

 早々に手紙を書き始める。


「失礼します」


 少しして、ミーアが部屋に入ってくる。


「ちょうど良い所に来た。


 ・・・その表情からすると

 そちらも何かあったようだな」


「はい。

 メル=バトンの身柄を引き取りに行ったのですが

 牢に着いた時には、既に自殺していました」


「・・・何をやっているんだか」


 死人が情報を話すことはない。

 この時点で大きな情報源を失ったことになる。


「申し訳ありません。

 こちらが、もっと早く手を打っていれば・・・」


「死なれた以上、どうしようもない。


 それより、これを頼む」


 封蝋を施した2通の手紙をミーアに渡す。


「2つともアイツらの所へ。

 こっちに関しては、陛下宛てだから

 取り扱いには、気を付けろ」


「わかりました」


「急ぎだから、スグに持って行ってくれ」


「では、スグに」


 そう言うとそのままミーアは

 部屋を出ていった。



 そして次の日の朝。


「・・・そうですか。

 よりにもよってメル=バトンとは」


「まさか学園の関係者が、犯人なんて・・・」


 学園長室で、事件の真相を報告すると

 マリエルとテリーヌが、驚きながら感想を口にする。


「残念なことに、もう1つ報告がある」


 そう言って、教会の下にあった施設について

 簡単に説明する。


 あれが、彼女個人で出来ることではないという意見と共に。


「そうなると、一度学園内を含めた

 都市全ての人間を調査する必要がありますね。


 ・・・テリーヌ」


「はい。

 スグに手配します。


 徹底的に行いますので

 しばらく時間がかかってしまいますが―――」


「それは、仕方が無いことです。

 徹底的にやりなさい」


「では、スグに動きます」


 一礼するとテリーヌが外へと出ていく。


「・・・この度は、閣下にも大変な

 ご迷惑をおかけ致しました」


「いや、構わん。

 それに、まだまだ学園では

 世話になるのだからな」


「おや、てっきり

 もうお帰りになられるのかと」 


「・・・まあ、気になることなど

 色々あるからな。


 もう少しぐらいは、世話になる」


「・・・そうですか。

 それでは、今後もよろしくお願いします」


「ああ」


 それから数日後。


 陛下からの返事は、予想通り。


 本当なら、もうこの生活を辞めてもよかったのだが

 色々と調べたいことが出来てしまった。


 そのため以前から勧められていた休暇を

 取るということと、偽装とはいえ転校生が

 また短期間で転校するのもおかしな話だということで

 このまま学園に通い続けることにしたのだ。


「さて、行くとするか」


 気持ちを切り替えて、良家のお嬢様になると

 部屋を出て食堂へと向かう。


「おはようございます、皆さん」


 そう言って食堂の中へと入っていく。


 学園に残るという、この判断が

 彼の人生を大きく変えることになることを

 まだ誰も知らなかった。






第5章 終わりと始まり ~完~







まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。


ようやくプロローグ的な部分が終わりました。

この時点で、超大作になる予感しかしません・・・。


これから更に登場予定キャラに

学園生活での、それぞれの話など

本編に突入予定ですので、気長に読んで頂けると

ありがたいです。

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