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第4章 実戦訓練






 快晴の青空の下で、少女達の声が響く。


 それは、愉しそうに雑談をする声ではなく―――


「はぁっ!!」


 気合の入った声で剣を振る少女。

 金属同士がぶつかり合う独特な音と共に

 相手の少女が、その一撃を受け止める。


 ・・・そう。

 今日は、実戦訓練の日だ。


 本来は、騎士学校であるため

 ほぼ毎日のように実戦形式の授業があったのだが

 この闘技場のような施設を修繕していたため

 場所が無く、少しの間だけ中止されていたそうだ。


 再開しているということは、修繕が終わったということ。

 新たに様々な施設を併設したらしいので

 今後、訓練の幅が広がるようだ。


 お嬢様学校ということもあり

 もっと手緩い訓練をしているのかと思いきや

 意外と皆、真剣に取り組んでいる。

 その辺の騎士学校と比べても頑張っている方だ。


「リシアさん。

 まだ顔が赤いけど、大丈夫?」


 セレナが心配そうに声をかけてくる。


「・・・本当だ。

 体調が悪いのなら、先生を呼ぼうか?」


 更にアリスまで近寄ってきて

 声をかけてくる。


「え、ええ。

 ご心配をおかけして申し訳ありません。


 このまま少し休めば大丈夫ですので・・・」


 そう言って2人と距離を取る。

 我ながらもう少し上手く出来ないものかと思うが

 2人の顔を見るたびに顔が熱くなる。


 どうしてこんなことになったのか。


 そんなもの、私の経験不足としか言いようがない。

 やはり女装は、難しい・・・。






第4章 実戦訓練






 ―――それは、数時間前の話。



「今日の午後から訓練が再開されます」


 そんなテリーヌの一言からだった。


「・・・訓練?」


「実戦訓練のことよ。

 そう言えばリシアさんは、ここに来て

 まだ戦ったことが無かったわね」


「ああ、なるほど。

 確かに今まで体を動かす授業が無かったわね」


 何の話かと思っていたら、セレナが声をかけてきた。

 おかげでスグに訓練の意味を理解する。


 学園で、一番愉しみにしていたのが

 その実戦的な訓練だ。


 当然、目立つ訳にはいかないため

 私が全力を出すことはないのだが

 この学園生の実力というものに興味があった。


 お嬢様学校ということもあるが

 そもそも前にも言ったが、騎士を本気で目指している少女など

 本当にごく一握りだと言える。


 そしてその一握りの人間でさえ

 軍隊内であまり良い扱いを受けなかったり

 最前線に立たせたくない貴族の親達からの圧力などもあって

 地元や地方の比較的治安の安定している平和な地域へと

 送られてしまう。


 未だに想力という力に懐疑的な者も多いからだ。


 まあそれは今後、変えていければいい話。


 今重要なのは、この場に将来有望そうな人材が居れば

 間接的にはなるが、早めに勧誘しようと思っていることだ。


 少し卑怯な手かもしれないが

 他の場所で適当に扱われるぐらいなら

 私の所の方が数倍マシだろう。

 

 そして、それぐらいの優位性は

 このふざけた任務の報酬として貰ってもいいはずだ。


「それじゃあ、着替えに行きましょうか」


「そうだね。

 さっさと行かないと場所が選べないからね」


「・・・え?」


「ん? どしたの?」


「今・・・着替えるって」


「そうよ。

 着替えないと制服じゃ動きにくいからね」


 アリスの話に、一瞬だけ頭の中が真っ白になる。


 訓練用の衣装まで準備しておいたのに

 肝心の着替えることを想定していなかった。


 ・・・いや、彼女達と『一緒に』着替えるということを

 想定していなかったというべきか。


「どうかしたの?」


「い、いえ。

 何でもありません・・・」


「なら、行きましょうか」


「え、ええ。

 い、行きましょう・・・か」


 セレナにまで急かされては

 これ以上の時間稼ぎも、彼女達から離れることも

 出来なくなる。


「そう言えば、隣のクラスと合同なんだし

 フラン達にも声をかければよかった」


「まあ、次からでいいんじゃないかしら?

 あの2人なら、そんなことで怒らないでしょう」


 更衣室が近づくにつれ、謎の緊張感からか

 足取りが重く感じる。

 セレナ達の雑談も、耳に入ってこない。


 そしてついに更衣室の扉が姿を現す。


 目の前の何の変哲もない扉が

 まるでおとぎ話に出てくる魔神を封じた古の扉のように見える。


「(今まで数えきれないほどの戦場を駆け抜けてきた私が

  たかが、女子更衣室如きで何を臆しているのかっ!


  圧倒的な大軍を前にしても一歩も引かなかった

  あの時の勇気を思い出せっ!!)」


 セレナ達に気づかれぬようにさりげなく深呼吸をする。


 そして一気に更衣室の扉を開く。


「―――ッ!?」


 扉を開いた瞬間。


 今まで経験したことが無い

 非常に独特な甘い匂いと共に

 自分が異物であるという事実を突きつけてくるような

 そんな空気が溢れ出てくる。


「・・・どうしたの?」


 アリスの声に、ハッとする。


 気づけば無意識に一歩後ろに下がっていた。


「早く入って着替えましょう?

 混雑すると面倒だわ」


 セレナに押されるような形で

 更衣室に押し込まれる。


 中には、クラスメイト達が既に数人おり

 皆、当たり前のように下着姿だ。


 それだけでも問題なのに

 割り当てられた個人スペースに移動すると

 左右にアリスとセレナが居た。


「ああ、そういえばここが空いてたわね」


「そうか。

 リシアさんが、ここになったんだね」


「見事に寮のメンバーで揃ってよかったわ」


「ホントだね」


 2人は、愉しそうに服を脱ぎ出す。

 咄嗟に2人を見ないように視線を逸らせるが

 何事にも限界というものがある。


 目を閉じる訳にもいかず

 かといって目を開けていれば

 下着姿の彼女達が見える訳で・・・。


「・・・あれ?

 リシアさんは、着替えないの?」


「い、いえ。

 ・・・ちゃんと着替えますよ、ええ」


 一応、胸に関しては

 わざわざ想力技師に作らせた偽胸をつけている。


 想力技師とは、想力武装などの特殊な品物を

 専門で製作する技師達のことだ。


 今まで、色々変わったものを作ってきた

 そんな熟練の技師達ですら、今回の『偽胸』を依頼した際に

 かなり困惑した顔をされたことを思い出す。


 自らの服に手をかけ、一気に脱ぐ。


「・・・リシアさん、胸が」


「・・・その胸」


 2人から同時に聞こえてきた声に思わず

 偽物では、やはり誤魔化せないかと焦る。


「やっぱり胸・・・大きい・・・」


 2人同時に重なるように呟かれたその言葉に

 思わず混乱してしまう。


「・・・えっと。

 あれ?・・・えっ?」


「その2人は、アナタの胸の大きさを

 羨ましがっているのよ」


 後ろから聞こえてきた声に振り返ると

 そこには、下着姿のフランが居た。


 彼女は、かなり大きな胸をしており

 その魅力に思わず胸をジッと見てしまう。


「・・・あら、そんなに見なくても

 アナタだって立派じゃない」


「そうですわ。

 それに女の価値は、胸で決まる訳ではありませんわ」


 フランの横から、既に着替え終えたルナが現れる。


「そのセリフ・・・ルナさんに言われたくない」


 アリスが拗ねるように、そう言うとルナが苦笑する。

 確かに、ルナもそれなりに胸が大きい。


 対してアリスとセレナは、ざんね・・・ではなく

 胸がちいさ・・・でもなく・・・そう、控えめだ。


 男には、解らない話だが

 女性にとっては、それも悩みなのだと聞いたことがある。


 結局、バレてないようなので

 ホッとため息をつく。


 かなり精巧に出来ていると

 ミーア達も言ってはいたが、やはり本当に大丈夫なのかと

 気になっていたので、ひとまず安心といったところか。


 少しだけ気が楽になると

 そのまま騎士への着替えをする。


 さすがにスカートを単独で脱ぐ訳にもいかず

 先に騎士用のスカートを上から被せ、隠してから

 制服のスカートを脱ぐ。


 着替えだけで、どうしてこう気を使わなければならないのかと

 心の中で、呟きながらも装備をつけていく。


 一度だけ、事前に身に着けただけの『女騎士用の装備』に

 少しだけ手間取るも、何とか着替えを終える。


 用意した騎士鎧は、白銀の白さが際立つ白い鎧で

 女性らしさと潔癖さを表現しているとか何とか

 力説されたのを覚えているが、正直偽装になっていれば

 何でもいいというのが本音だ。


 最後に全体を大きな鏡で確認していると

 既に寮生組は、準備を終えているようだった。


「お待たせしました」


 そう言って彼女らの前に立つ。


「・・・」


 何故か無言の彼女達に

 つい『何処か変な所があるのか?』と確認し直してみる。


 気づけば周囲の女生徒達が、全員こちらを向いていた。


 ミーア達が『似合っている』と言っていたから

 違和感などは、無いはずなのだが―――。


「その騎士姿、とてもお似合いですわっ!」


 一瞬出来た静寂を破ったのは

 クラスメイトのサーヤだった。


「よく似合ってるわ。

 おかげで一瞬、見惚れちゃったわ」


「本当に、よくお似合いですわ」


「とても可愛らしい騎士様ね」


「・・・ああ。

 やっぱりお嬢様だぁ・・・」


 静寂から一転して

 セレナ達も一斉に称賛してくる。


 周囲のクラスメイト達からも

 『綺麗』だとか『可愛い』だとか

 『リシア様、素敵』とか、色々な声が聞こえてくる。


 その声に一応の礼を返すものの

 表情は、笑顔ではなく苦笑といった感じに

 なってしまっている。


 未だに慣れないということもあるが

 男が女性から『可愛い』だとか『綺麗だ』などと言われて

 落ち込むなという方が、無理である、


 このまま見世物になっていても仕方が無いので

 全員で闘技場へと向かう。


 すると中では、別の少女達が訓練をしている最中だった。


「・・・ああ、まだ下級生の娘達が終わってなかったのね。

 少し早かったかしら」


 フランが言う通り、中で戦っているのは

 1年の生徒達だ。


「おや、あれってカレルじゃない?」


 アリスがそう言って指差す場所を見ると

 そこには、対戦中のカレルの姿があった。


「えぃ! えぃ!」


 本人は、真面目なのだろうが

 個人的には、何とも気が抜けるような掛け声と共に

 対戦相手の少女が、手に持った槍で連続の突きを放つ。


「よっ! ほっ!」


 それを綺麗に避けながら距離を詰めようとするカレル。


 その2人の胸元に光る青色のネックレス。


 『奇跡のネックレス』と呼ばれるそれは

 古代技術で作られたもので、特定の設備が必要で

 しかも極めて限られた場所限定という厳しい条件がつくものの

 それらを満たせば、身に着けているものが

 一定以上の怪我をした瞬間に内包された想力が発動し

 その傷を瞬時に癒すことが出来るというレアアイテムだ。


 よほど殺しにかかるような一撃以外では

 死なない程度の強力な回復効果だが

 先ほど説明したように、設備に場所を選ぶため

 戦場に持ち込むことは、出来ない。


 そんなことを考えながらカレルを見ていると

 あることに気づく。


「・・・もしかしてカレルは、打撃系なのかしら?」


 何に気づいたかと言われれば

 カレルは、武器らしい武器を持っていないのだ。


「うん、そうだよ。

 あの娘の想力武装は、足鎧だからね」


「珍しいわね」


「そうなの?

 まあ、確かにカレル以外で見たことないけど」


 想力武装とは、そもそもその名の通り

 武器である。


 持ち主によってその形状を変化させる武器だが

 初めてそれを手にして武器を作り出した瞬間

 もうそれ以外の想力武装を使用出来なくなる。


 なので、生涯武器なんて呼ばれたりもする。


 想力者は、基本的に身体の周囲に想力を展開している。

 そのため、通常の武器では傷一つ付かない。

 そんな想力者を倒すために生み出されたのが

 この『想力武装』と呼ばれる武器だ。


 これは普段、装飾品のようになっているのだが

 誰もが持つ想力を利用し、使用者の呼びかけに応えて

 武器へと変化する便利なもの。


 この武器だけは、想力者の持つ想力の壁ともいうべきものに

 関係なく攻撃することが出来る優れものだ。


 古代の技術が使用されており

 これらを作っている技師達でさえ

 その製造技術を使っているというだけで

 何故、そういうことになるのかの原理を

 詳しく理解出来ていないそうだ。


 ただ武器が1つのみというのでは

 どうしても不便だということや

 想力武装は、非常に高価な武器であるため

 様々な応用品だったり、普通の装備も未だに現役ではある。


 世の中、戦う相手は想力者だけではないからだ。

 戦争の主役は男達・・・つまり想力とは無縁の普通の一般兵が中心。


 それ以外にも、その生態が完全に不明で

 何処からともなく現れるモンスターども。


 南側には不戦協定を結んで数百年ほど不気味なまでに

 沈黙を保っている『魔族』と呼ばれる種族。


 そして同じく南側、正確には西南にある険しい山脈を超えた先では

 日々権力争いを続ける国々。


 西の神聖国は、今は停戦しているとはいえ

 いつ攻めてくるのか解らない。


 北の帝国は、正直不気味すぎる。

 確かに結構な損害を与え、数百年前に奪われた土地も

 奪い返したとはいえ、あのタイミングで休戦という流れに

 疑問を持っている。

 

 東側にはガーランドがあるが、あの国に関しては

 大人しくしているか意地になって敵対するかだが

 あの外交上手の王が『あの戦い』を忘れるとも思えない。

 恐らくは、大丈夫だろう。


 問題は、どちらかと言えば

 帝国寄りだった、あの小国の方だ。

 この前も、盗賊に偽装した兵で

 こちらに何度か仕掛けてきている。



「も~!

 当たってよ~!」


 またも気が抜ける声に、考え事が中断される。


 槍使いの少女は、槍を雑に振り回しながら

 カレルの接近を拒んでいる。



「・・・それにしても、槍相手では接近も大変そうね」


「もうそろそろカレルの『能力』が見れると思うわ」


「―――ッ!?」


「・・・?

 どうかしたかしら?」


「・・・な、何でもありません」


 いつの間にか隣に立っていたセレナの声に

 セレナの方を向くと、先ほど更衣室で見た

 セレナの下着姿を何故か思い出し、目を背ける。


 しかし、次にアリス達を向くも

 何故か、全員が下着姿に見える。


「―――」


 何を意識しているんだと気持ちを切り替えようとするが

 何故か、なかなか下着姿が離れてくれない。


「(どうなっているんだ?)」


 何かしらの要因を考え始めた時だった。


「え~ぃ!」


 槍使いの少女の力任せの横薙ぎ。


 しかし垂直に跳躍して回避するカレル。


 その瞬間。


 空中で何かを『蹴って』加速しながら

 少女に向かって移動し、そのまま飛び蹴りを放つ。


 咄嗟に槍を手元に戻した少女だが

 防御姿勢が間に合わず

 蹴りを受け止めきれずにそのまま槍を落としてしまう。


「やった~! 勝った~!」


「ちゃんと最後の礼までしなさい」


「あれ? フランお姉さま?

 というか、お姉さま方っ!?」


 試合終了後は、互いの健闘を称えて礼をするのだが

 それをしていないカレルにフランが注意する。


「本当。 お姉さま方よ」


「お姉さま方が、いらっしゃったわ」


「きゃっ! セレナお姉さまよっ!」


「お姉さま方、今日も本当に綺麗」


 しかしカレルの一言で、訓練をしていた下級生達が

 こちらに気づいて集まってくる。


 この学園では、下級生が上級生を呼ぶ際は

 名前の後に『お姉さま』と付けるそうだ。


 上級生は、『姉』として下級生を指導すると同時に

 年上であるという自覚を促す。


 下級生は、『妹』という立場で

 年上の上級生に相談などを持ち掛けやすくなる。


 という意味合いがあるそうな。

 だが、この風習が何故か学園都市全体に広がり

 学園都市内にある、他の学校の間でも

 同じように呼ぶようになったらしい。


「お姉さま方、どうでした?

 私の戦いは」


「あれは、もしかして空中を『蹴った』のかしら?」


「はいっ!

 私の能力は『空中走行』ですから。


 ・・・そう言えばリシアお姉さまは、初めてでしたね!」


「やっぱりそうなのね。

 空中走行ってことは、空中をそのまま走っていけるの?」


「ずっと走れればいいんですけど・・・

 ちょっとしか走れないんですよねぇ~」


 苦笑しながら、そう答えるカレル。


 昔、戦場で少しの間なら空を飛べるという

 能力を持つ相手を見たことがあるが

 それに近い能力なのだろう。


「・・・あ、あのっ!」


 カレルと話していると、その横から

 見知らぬ下級生たちが、こちらに・・・というか

 私の所に集まってくる。


「私に何か御用かしら?」


「リシアお姉さまっ!

 その騎士姿、とってもお似合いですっ!」


「ええ、まるで物語に登場する

 勇敢な王女様のようですわ」


「とってもお綺麗です」


「み、皆さん・・・ありがとう、ございます」


 女騎士の恰好をしているだけでも

 かなり恥ずかしいのに、それを褒められるとか

 もはや、乾いた笑顔を浮かべる以外に

 どうしろというのか。


 それから少しして、下級生達が出ていき

 ようやく我々が場所を使えることになった。


 ―――だが。


「リシアさん、大丈夫ですか?

 お顔が真っ赤ですわよ?」


 ルナの指摘に、セレナ達もこちらを向く。


「本当ね。

 体調が悪いのなら、休む?」


「無理しないで、休んでいて構わないわ」


「皆さん、ありがとうございます。

 ・・・では、少し休んでいますね」


 未だに全員が下着姿に見えてしまう状況に

 自分でも解るぐらいに顔が真っ赤だ。


 どうしてこうなった。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 そして現在、この状態である。


 多少、冷静になれたおかげで、彼女達の姿も

 普通に見えるようになってきたのだが

 まだ、ふっと一瞬だけ下着姿がチラついてしまう。


 自分が、ここまで免疫が無いとは思わなかった。

 だが、いつまでもこのままという訳にもいかない。


 立ち上がると、想力武器を取り出す。


「―――白銀の守護者よ、我が手に」


 すると、いつの間にか手には

 1本の剣が握られていた。


 刀身が美しいまでに白いのが特徴だ。


 想力武装は、初めて武器として呼び出した際に

 自身の名を使い手のみに伝える。

 これは、契約とも信頼の証とも言われている。

 生涯を共に戦い抜く大事な相棒の名だ。


 剣先を地面につけ、柄の部分に両手をのせると

 目を閉じて精神統一を行う。


 そして―――


「―――想力、解放」


 さすがに全力でやる訳には、いかないので

 自身にまとわせる程度に抑えながら想力を発動する。


 想力を使うと、これから戦うのだという気持ちに

 自動的に切り替わる。


 そしてゆっくり目を開ける。


「・・・よし、もう大丈夫」


 先ほどまで何を慌てていたのだというぐらいに

 落ち着いた気持ちになる。


「お、リシアさん。

 もう大丈夫なの?」


「ええ。

 普通に参加出来るぐらいには、なりました」


「なら、アタシと一戦・・・やってみない?」


「ええ、構いませんよ」


 アリスからの提案を受け入れる。

 まあ、身近に居る人間の実力を知るのも良いことだ。


「―――契約を果たせ、暁の剣『フォルナ』よ」


 アリスが呟くと、彼女の身の丈ほどの長剣が出てくる。


「長剣なのですね」


「うん。

 初めは、この長さに苦労したけどね」


 そう言って苦笑するアリス。

 長剣は、普通の剣より扱いにくい面があるのは

 私も十二分に理解している。


「リシアさんの剣、綺麗だね。

 真っ白で、新品みたい」


「あら、ありがとうございます」


「・・・でも少し何か違うね。


 あ、そうか。

 ガード(剣の鍔)が普通の剣より大きいのか」


「・・・そんなところも、この子の個性です」


「そっか。

 ・・・じゃあ、いくよ」


 そう言ってアリスが剣を正面で構える。

 学園で教えられている剣術の正統派な構え方だ。


 さて、どうしようかなと考えていると

 アリスの方から仕掛けてくる。


 一気に距離を詰めてきてからの

 素早い連続突き。


「(―――ほぅ)」


 予想外に良い動きに関心しながらも

 その全てを綺麗に回避する。


「(さて、勝とうか負けようか・・・)」


 あまり目立つ訳にもいかないので

 適当な実力という所にしておきたい。


 そういう意味では、負けた方がいいのだろうか。


「(・・・しまったな。

  全体の実力が解らない以上、どう加減していいのか

  さっぱり解らないじゃないか)」


 アリスが一体、学園内でどの程度の実力なのかが

 解らないため、どれぐらい手を抜けば平均的な実力になるのか

 まったく解らない。


 少なくとも、先ほどのカレルや槍使いの少女では

 アリスのこの攻撃は、全て回避しきれないだろう。


「思った通り、リシアさんってやっぱり強いんだ」


「・・・そんなことは、ありません」


「だって今の全部綺麗に避けてたじゃない」


「それは、運が良かっただけですよ。

 それに、避けるので精いっぱいでしたから」


 悩んでいる間にも攻撃を避け続けたからか

 アリスは、攻撃を止めて再び剣を構え直して様子見をしてくる。


 良い判断だと思う。

 これが、商人の娘だというのだから

 やはり才能というものは、血統だけで決まるものではない。


「じゃあ、これでっ!」


 先ほどと同じように距離を詰めてきたアリスだったが

 直前で、回転しながら跳躍し、そのまま遠心力を利用した

 一撃を上から放ってくる。


 強力な一撃だが、それを受け止め弾く。


 その行動を予想していたのか、弾かれたのに

 一切体勢を崩さなかったアリスが、そのまま剣を横に薙ぐ。


 リシアは、後ろに軽く跳躍して回避すると

 前で出るような形で、突きを繰り出す。


 だがそれをアリスに下から綺麗に掬い上げられ―――


 剣がぶつかり合う音と共に

 白い刀身の剣が宙を舞う。


 そしてそのまま地面に突き刺さる。


「・・・負けてしまいました」


 苦笑しながら、負けを認めるリシア。


「・・・今、手を抜いたでしょ」


 先ほどまでの勝負の時よりも

 はるかに鋭い視線で、リシアを睨むアリス。


「そんなことは―――」


「アタシは、誤魔化されないよっ!

 あんな『弾き飛ばして下さい』って言ってるような

 一撃を、アタシは本気だなんて認めないっ!」


「・・・」


 手を抜いたことは、事実だが

 まさかそれを見抜くとは、思っていなかった。


 それを見抜けるだけの腕・・・というか

 彼女の場合は、目の良さがあるのだろう。


「アタシは、真剣に騎士を目指してるの。

 だから、本気で戦って欲しい。


 アタシは、もっと強くなりたいっ!」


 怒っているようにも見えるアリスは

 こちらに向かって再度、剣を構える。


 アリスの大きな声に

 何事かと、周囲の生徒達どころか

 恐らく闘技場内全ての生徒が

 手を止めてこちらの様子を伺う。


「・・・一つだけ、よろしいですか?」


「・・・何?」


「どうしてそこまで騎士を目指すのですか?

 アナタの家は、1つの国家と言えるほど

 巨大な商家の家柄。


 何不自由なく暮らせるはずのアナタが

 どうして命の危険がある騎士を?」


「アタシは、みんなを護りたい。

 じっと護られてばかりじゃ嫌なんだ。


 アタシに力があるのなら・・・

 力の無い弱い人達を助けられるのなら

 その全てを助けたい。


 だからアタシは、強くなりたい。

 もっとみんなを護るためにっ!」


 胸を張ってそう語るアリスの姿に

 自然と笑みが、こぼれる。


 騎士とは、名ばかりの者が大勢居る中で

 まさかこんなにも正面から騎士としての

 あるべき姿を語られるなんて。


「・・・そう、ですか」


 私は、剣を拾うと

 再び剣を構える。


 今度は、適当にではなく

 剣を水平に持ち、剣先を後ろに向けた状態で

 重心を低くする。


 彼女の眩しすぎるほどの想いに応えるには

 こちらもある程度、真剣に行かなければならない。


 少しだけ任務が気がかりだったが

 あっちは、ある程度の目処が立っているので

 最悪、何とかなるだろう。


 そう考えれば多少、アリスに付き合った所で

 問題ないはずだ。


 ・・・いや、むしろちゃんと相手をしてやりたいと

 思ってしまった自分の心に逆らえなかったというべきか。


 一度、深呼吸をして気持ちを切り替える。


「では、行きますよ」


 そう言うと、一瞬でアリスの間合いに入る。


「―――ッ!?」


 あまりにも素早い動きに、アリスは

 戸惑うも、何とか初撃の一撃を受け止める。


 次に、剣を構え直して突きを放つ。

 その突きを避けようとしたアリスだが

 突きが途中で止まり、後ろに剣が引く。


「(しまったっ!)」


 心の中でアリスは、そう叫ぶ。

 フェイントに引っかかったと思ったのだ。


 だが―――


「ウソッ!?」


 思わずアリスが声をあげる。

 後ろに引いたと思った剣だが、スグにもう一度

 突きの方向だけを変化させて

 再度、こちらに突き出される。


 ニ段突きと呼ばれる高度な技だ。

 フェイントに対応するために動いていた身体を

 強引に動かして何とか突きを回避しようとするアリス。


 ギリギリの所で何とか回避したアリスだったが

 目の前のリシアが、その場で左に身体ごと

 回転していることに気づく。


 左からの一撃が来ると防御姿勢を作ろうとした瞬間

 来ると思っていた一撃は、なんと下からの切り上げだった。


 身体を捻りながら何とか横に回避したアリスだが

 切り上げた一撃が今度は、上からの袈裟斬りへと変化する。


 さすがに避けきれず、剣で受け止めるが

 あまりにも重い一撃に後ろに大きく仰け反ってしまう。


「(しまっ―――)」


 がら空きになる胴部分に

 そのまま切り込めば、寸止めでリシアの勝利である。


 誰もがそう思った瞬間だった。

 少し鈍い剣戟の音が闘技場に響く。


「―――なっ!?」


 アリスは、手の痛みを堪える。


 リシアは、胴ではなく『アリスの剣』を狙って

 攻撃をしてきたのだ。


 またも大きく体勢を崩されたアリスに

 リシアは、容赦なく

 その持っている剣に向かって攻撃を繰り返す。


 あまりにも重い攻撃に、受け止めきれずに

 体勢を大きく崩される。


 一撃、また一撃と剣に向かって放たれる攻撃で

 手が痺れて感覚が無くなってくる。

 だが、剣を放してしまえば、その時点で負けだ。


 それからもフェイントが何度も入った攻撃に

 翻弄され、剣への攻撃で手の感覚が完全に無くなり

 そして、何度目かの攻撃で

 ついにアリスは、剣を弾かれて飛ばされてしまう。


 彼女の剣が地面に刺さる音と共に

 その場にへたり込むように座ったアリス。


 アリスにゆっくりと近づくリシア。


「・・・大丈夫ですか?」


「あはは・・・手の感覚が無いや」


 悔しそうな、少し泣きそうな

 そんな何とも言えない顔で笑うアリス。


「・・・ひとつ、アドバイスを。


 アナタは、目が良すぎるのです。

 人より余計に相手の動きが見えすぎてしまう。

 だから、フェイント全てに反応してしまったのです。


 目だけに頼るのではなく

 相手の思惑や、動きの意味なども

 併せて考え、反応出来るようになれば

 もっと強くなれると思いますよ?」


 なるべく、笑顔でそう言いながら

 アリスに手を差し伸べる。


「・・・そっか。

 ・・・うん、ありがと」


 そう言って手を握るアリスを

 引き上げて立たせる。


 その瞬間―――。


「お2人とも、素晴らしい勝負でしたわっ!」


「リシア様、素敵ですっ!」


「凛々しいお姿も、最高ですわっ!」


 周囲から拍手と共に称賛の嵐がやってきた。


 まあ、やる気になった時点で目立つだろうとは

 思っていたので、ある意味仕方が無い。


 その時、ちょうど授業終了の鐘の音が鳴ってくれたおかげで

 挨拶もそこそこに更衣室へ、早々に避難することに成功する。


 さっさと着替えてしまおうと思っていた時だった。


「さて、みんなでお風呂にでも入りましょうか」


 そんなセレナの爆弾発言が飛び出した。


「・・・え? 今、何て?」


「お風呂よ、お風呂。


 ほら、あっちに大きな大浴場と

 一人用の、2種類あるのよ」


 そう言って更衣室の奥を指さすと

 確かにそこからタオル1枚の女子生徒達の姿が。


「そうね。

 今日は、みんなで大浴場にでも行きましょうか」


 フランの言葉で、心臓が跳ね上がるほど

 緊張感が増す。


 胸は、何とかなるにしても

 問題は、下の方だ。


 ここだけは、何ともならない。

 裸の時点で1発アウトだ。


 かといって入らないという選択は

 男ならともかく、年頃の少女を演じている以上

 選ぶことは、出来ない。


「リシアさんも、一緒にどう?」


 セリアの声に、振り返りそうになるも

 どうすればこの危機を回避出来るのかを

 全力で考える。


 すると、1つの逃げ道を発見する。


 それは、一人用の風呂。

 服を着たまま専用スペースに入り

 中で服を脱いで、そのまま一人用の小さな浴槽に入る

 という場所のようだ。


 後で聞いた話だが、他人に肌を見せることを嫌う

 慎ましい女性のために用意されているものらしい。


「私は、少し疲れていますので

 こちらでゆっくりさせて頂きますね」


 そう言うと同時に

 後ろからの声を無視して

 さっさと一人用のスペースへと移動して

 扉を閉めて、鍵をかける。


 完全に1人になったことを確認すると

 その場で崩れ落ちるように座り込む。


「はぁ・・・もう色々とダメかも」


 そんな弱音をつい、呟くリシアだった。


 一方、取り残された少女達。


「・・・えっと。

 行っちゃったね」


「ええ、早かったわね」


「・・・どうしましょうか?」


「まあ、もう今回は

 アタシ達だけで行くしかないんじゃない?」


「それもそうね。

 それじゃ、行きましょうか」


 軽い雑談をしながら

 全員で大浴場に入る。


「・・・それにしても、悔しいなぁ」


 みんなで湯船に浸かってから少ししたぐらいで

 突然、アリスがそんなことを呟く。


「もしかして、さっきの勝負かしら?」


「うん。

 実戦ぐらい、勝てると思ったんだけどなぁ」


「予想外にリシアさんが、強かったからねぇ」


 フランやセレナにそう言われて

 アリスは、ため息をつく。


「でも、確かアリスは

 リシアさんが理想の女性像なんでしょ?」


「綺麗で、礼儀正しくて

 それに優しくて、何でも出来るのにすっごく謙虚で。

 あんな人になれたらって・・・」


 フランの言葉に、アリスが本音を語る。

 彼女は、リシアに憧れているのだ。


「・・・私や、セレナ様は

 理想としては、不十分ってことなのかしら?」


「・・・え?」


「・・・リシアさんが来るまで

 アリスのそんな話を聞かなかったってことは

 そういうことなんでしょうね。


 ・・・そっか、私もダメなのか~」


 ルナの一言に、セレナが乗っかる。


「い、いや、そうじゃなくてっ!

 そういう意味じゃなくってっ!!」


「有名な当主が居る伯爵家や

 国を代表する大侯爵家の令嬢であっても

 アリスの理想には、届かないのね」


「もう、フランっ!

 わかってて言ってるでしょ!?」


 愉しげな笑い声の中、彼女達の間では

 もはや恒例となりつつあるアリスいじりで

 大浴場は、盛り上がっていた。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 そしてその日の夜。


「これで、一応最後の区画情報です。

 やはり、目立った成果がありませんでした」


 部屋にミーアが来て、定例報告を読み上げる。


「・・・いや、これで解った。

 あとは、現場を押さえて捕まえるだけだ」


「・・・もう、お解りになられたのですか?」


「何だ? お前は、解らんのか?」


「はい、残念ながら・・・」


 ミーアが入れた紅茶を飲みながら

 今までの資料をミーアの前に出す。


「今まで解っていることを整理すれば

 ほとんど当たりを引けると思うのだがな」


「今までに解っていることと言われても・・・」


 資料を広げてみても

 街での聞き込み情報は、どれも真っ白。


 つまり行方不明の少女達が街に出てからの

 目撃情報が一切無いのだ。


「難しく考える必要などない。


 1つ

 被害者は、この学園フォースの生徒のみ。


 1つ

 初めに起こった事件は、3ヶ月前。

 被害者は、本校の1年生 サリー=テンプル。


 1つ

 被害者は、想力者・非想力者どちらも関係なく

 被害に遭っている。


 1つ

 街で、行方不明者の目撃情報が

 一切出てこない。


 1つ

 行方不明者全員に何かしらの要求も無ければ

 死体も出てきていない。


 ・・・さて、よく考えてみるのだな」


 その言葉に、もう一度資料を全て見直すミーア。


「・・・なるほど。

 そういうことでしたか」


 ミーアの声を聞いたリシアは、窓の外を見る。


 空には、少し欠けてはいるが

 大きな月が浮かんでいた。


「さて、下らない事件を終わらせるとしようか」






第4章 実戦訓練 ~完~






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