第3章 猫かぶりな少女
学園に入学して数日。
色々あったが、それなりに忙しい日々になっていた。
やはり堂々と調査が出来ないというのもあるが
女学生として1日の大半を学業に取られるのは
正直な話としてかなり痛かったりする。
まあ、それをカバーするために
諜報・工作部隊を連れてきた訳だが・・・。
そんなことを考えながら教室に行くと
アリスが机に突っ伏していた。
「アリスさん、どうしたのですか?」
「あ~、う~」
「ああ、アリスさんならいつものことですわ」
横から声を掛けられ、そちらを向くと
クラスメイトの1人である
サーヤ=ニコン
背中まである長い髪は、少し波打つようにウェーブがかかっている。
身長や体型は、平均的であるものの
その天真爛漫な姿は、まさに良家のお嬢様といった感じだ。
彼女が愉しそうな顔をしていた。
「いつも通り・・・ですか?」
「そう。
今日は、学力試験でしょう?
アリスさんは、試験前に必ずこうなってしまうのよ」
「・・・そういうことですか」
商人の娘が、勉強嫌いってどうよと思わなくはないが
まあ本当に必要なのは、対外交渉力だろうし
それさえあれば・・・と思わなくもないが
普段の彼女を見ていると、それも絶望的に思えてくる。
「は~い。
試験を行いますよ~」
テリーヌの気の抜けたような掛け声で
その日の試験が、始まった。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・。
そして、その日の放課後。
中庭には、大勢の生徒の姿。
大きな看板が立てられており
そこに試験の上位者の名前が張り出されていた。
「・・・上位者のみ張り出すのですね」
「・・・良い成績とか、表彰とかあると
張り出されるみたい。
私には、関係ないけどね~」
すっかりやる気を無くしてしまったアリス。
それを見ていたセレナが、苦笑する。
「アリスは、やれば―――」
「あら、見覚えのある顔があると思えば
万年2位のセレナとかいうワンちゃんじゃない」
セレナの言葉を遮って現れたのは
いかにも貴族のお嬢様という雰囲気を持つ少女。
自信満々という感じで堂々としている。
背中まである長い黒髪に、小柄ながらも胸が大きくスタイルが良い身体。
非常に強気な性格を思わせる挑発的な言葉。
髪につけている紐のように細いリボンを含め装飾品は
全て赤色で統一されており
赤き女王とでもいうような雰囲気を漂わせている。
「出たわね、性悪女ッ!!」
対するセレナも、いつものお嬢様な雰囲気が完全に消え
言葉遣いも悪くなっている。
「あら、ごめんなさい。
今回は、3位だったわね。
さ・ん・い」
「うるさいわねっ!
いつもそんなことしか自慢出来ない癖にっ!!」
「あら・・・じゃあ他のことにしましょうか?」
「ふんっ!
他のことなら―――」
「・・・ああ、肩が痛いわ。
胸が大きいと、色々大変なのよねぇ。
小さい人が、うらやましいわ~」
「むっきぃ~!!
泣かすっ!
絶対に泣かすっ!!」
セレナは、小柄で
まあ、胸もそれほどある訳ではない。
対してもう1人の彼女は
同じく小柄ではあるが
胸は、言うだけあって服の上からでも
わかるほどの大きさだ。
2人のやりとりは、お嬢様同士の舌戦というよりは
完全に子供の喧嘩。
見ているのが馬鹿らしくなってくる。
「・・・この2人は、いつもこのような?」
「まあ、そのうち慣れると思うよ。
・・・長くなりそうだしアタシ、先に帰るわ」
アリスは、さも当然という感じで
特に2人のやり取りを気にすることなく
よろよろしながら帰っていく。
よほど試験のダメージが効いたのだろうか。
周囲で見ている生徒達も
いつも通りという感じで、遠巻きに見ている。
「貴女は、いつまでも万年2位を・・・いえ3位だったわね。
・・・ふふふっ」
「がるるるっ!!」
「あらやだ。
これだから躾のなってないワンちゃんは。
血統が良くても、やっぱり例外ってあるものなのね」
「例外は、アナタでしょっ!?」
「はいはい。
もう大人しく家に帰りなさいな、わんわん」
「むっかっつっく~!!」
「あら・・・貴女・・・」
セレナと言い合いをしていた少女が
こちらに気づくとセレナを無視して歩いてくる。
「貴女が、リシア=ナリアスね?」
「・・・ええ、そうです」
「私は、ヴァルフォード家の娘。
シルビア=ヴァルフォード。
私と同じく試験結果1位の貴女に会えて嬉しいわ」
わざわざ試験結果を強調するあたり
まだセレナをからかっているのだろう。
やはり印象通り、かなりキツイ性格のようだ。
「もしかして、ジェイス=ヴァルフォード元帥閣下の?」
「そうよ。
私は、その娘なの」
ダムル元帥と長く功績を競ってきた相手であり
我が国の元帥の1人であるジェイス元帥の娘。
噂には、聞いていたが
色々な意味で噂以上の人物そうだ。
「少しだけ調べたけど
ナリアス伯爵家に娘が居たなんて知らなかったわ」
「昔は、病弱で家から出ていなかったもので」
「なるほどね。
まあ、いいわ。
何処かの大侯爵家の娘のような
礼儀知らずでもないみたいだし
これから、よろしくお願いするわ」
差し出された手を、ゆっくりと握り返す。
「よろしくお願い致します」
「それでは、また」
軽く会釈をすると、そのまま校門の方へと歩いていくシルビア。
だが途中で何かに気づいたように振り返ると
「・・・そうそう。
友人というものは、しっかり選ぶべきよ。
そんな駄犬を相手にしていても
貴女のためには、ならないと思うわ」
そう言うだけ言って、去っていった。
その数秒後
「それは、こっちのセリフよ~~~~~っ!!!」
セレナの叫び声が、中庭に響き渡った。
第3章 猫かぶりな少女
そんなセレナの叫びを聞いて
呆れながらため息をつく少女。
ルナ=フォルグ。
彼女は、寮ではなく校門へと向う。
「(・・・よくもまあ、飽きないことで)」
2人のやり取りは、学園の名物と言えるほど
飽きもせず同じようなやり取りを繰り返していた。
幼馴染で、同じ元帥の娘。
そして親同士もライバルとなれば
何かと比較されてしまうことになる。
仲が悪くなるのは当然だろう。
まあ私には、関係の無い話なので
好きなだけやっててくれとしか思っていない。
寮ではなく校門に向かうのは、理由がある。
両親に手紙を出すために街に出るからだ。
着替える時間が惜しいので、制服のまま街に出る。
本来、学園内でも出せる手紙なのだが
街の雑貨屋に直接出した方が、早く届く。
・・・というのも理由ではあるが
学園と寮の往復ばかりでは、息が詰まってしまう。
たまには街で気分転換ぐらいは
させて欲しいものだ。
「ルナ様、ごきげんよう」
「ルナお姉さま、ごきげんよう」
「皆さん、ごきげんよう」
次々に声をかけてくる少女達に
堂々とした態度で返事を返していくルナ。
「ルナお姉さまは、今日も素敵ですわ」
「さすがは、伯爵家のご息女。
礼儀作法も完璧ですわね」
街の宿舎などを利用している生徒達と
すれ違えば、皆が挨拶をしてくる。
声をかけられることも、褒められることも
悪い気分ではない。
むしろ、もっと褒め称えて欲しいぐらいだ。
「あら、ルナさん。
街に何か用があるのかしら?」
「これは、先生。
日用品を少し買い足そうと思いまして」
ルナに声をかけてきたのは
学園教師の1人である
メル=バトン
女神を信仰する宗教のシスター服に身を包み
いかにも『良い人』を思わせる笑顔を浮かべている。
彼女は、情操教育を担当する一人であり
学園の奥にある森に建っている女神信仰の教会を
任されているシスターでもある。
「そうでしたか。
暗くなる前には、帰るようにして下さいね」
「はい、解っております」
軽く会釈をして、その場を離れる。
「(・・・いちいち言われなくても解ってるわよ!)」
ルナは、彼女が嫌いだった。
何故なら、彼女がいつも浮かべている笑顔。
そのあまりにも『作っている』笑顔が
過去に出会ってきたロクでもない『貴族ども』を思い出すため
不快になるからだ。
「(あんな作り笑顔、バレバレだっての。
心の中では、どうせロクでもないこと考えてるんでしょ)」
少し機嫌が悪くなったが、それでも何とか
いつもの表情を保ちながら歩く。
街の中心地に近づくと、人通りが一気に増える。
「そこの可愛いお嬢さん。
私とぜひ、お話しをしませんか?」
ただ、街に出かけると
こういった『身の程知らず』に
出会ってしまうことも多い。
機嫌が悪い時に限って何故
こういうのに出会ってしまうのだろうか?
私は、ため息を吐くと
何も聞かなかったことにして歩く。
「おや、聞こえなかったのかな?
貴女ですよ、貴女」
無駄に追いかけてくるのは
どの男も同じ。
さっさと諦めて欲しいものだ。
「・・・ちょっとキミっ!」
あえて無視しているということに気づかぬ凡人が
凡人らしく野蛮にも手を掴んでくる。
「ハッキリ言われなければ解らないのかしら?
興味が無いの。
他をあたって頂けるかしら?」
そう言って掴んでいた手を振り払い
相手を置き去りにして歩き出すルナ。
「・・・チッ。
調子に乗ってるんじゃね~よっ!」
苛立った相手は、ルナの肩を掴む。
その瞬間。
「―――」
綺麗に身体ごと回転した相手は
そのまま地面に投げ飛ばされる。
「・・・少しは、紳士的に振る舞う努力ぐらい
して欲しいものだわ。
それに、貴方のような『安物』に用は無いの」
地面に叩きつけられ、悶え苦しむ相手に
そう言い放つと、また歩き出すルナ。
それを見ていた学園生や、他の学園の女子生徒達から
嬉しそうな悲鳴が上がる。
学園都市には、他の学園も存在するため
街に出れば当然ながら男も多い。
特に学園フォースは、貴族の娘が多いこともあり
率先して狙ったり、憧れたりする男も多い。
「・・・はぁ」
思わずまた、ため息が出る。
こんな所で声をかけてくるような『安い男』に用はない。
私は、伯爵家の娘。
同じ伯爵か、それ以上の爵位を持つ家柄でなければ
基本的に興味の対象になることはない。
まあ・・・最低条件として可能性を感じるような
私が認める男なら、爵位が下でも問題ないが
そんな男は、今のところ出会ったことがない。
大通りにある雑貨屋に到着すると手紙を出し
ついでに店内を見て回る。
色々見ている時に、ふと店の前を通る男女のやり取りが聞こえてくる。
「待ってよ、コセット!
・・・あっ!」
息を切らして走る男子生徒が
前を歩く女子生徒に声をかけようとして
盛大に転倒する。
その派手な音に、女子生徒が少し振り向くが
男子生徒の様子に、ため息をつく。
「ついて来ないでって言ったでしょ?」
「・・・そ、そんな」
明確な拒絶を示す女子生徒に
男子生徒は、思わす泣き顔になる。
見た目も細く、頼りない印象しかない男子生徒。
そんな男を無視するように、歩き出すコセットと呼ばれた少女。
少し迷った様子を見せた男だったが、それでもゆっくりと
彼女を追いかけるように走っていった。
その様子を見ていた周囲の女子生徒からは
クスクスと笑い声が聞こえてくる。
よく見れば女子生徒は、フォースの制服を着ている。
「あの子も残念ね。
・・・せっかく男爵とはいえ、貴族として生まれたのに」
「彼女が、どうかしたの?」
笑い声を出していた女子生徒が
愉しそうに語り出す。
「彼女、コセット=アルガンって言うのだけど
あのさっき派手に転んでた男居たでしょ?
あの男は、マルク=デンタールって言うのだけど
彼女の婚約者らしいのよ」
「・・・あんな頼りなさそうな男が?」
「しかもあの男の家柄、準男爵らしくてね」
「ええっ!?
平民じゃないっ!?
家柄もそれじゃ、あの男に何の価値があるのよ?」
「何も無いんじゃないかしら?」
「だったらどうして平民と婚約なんてしてるの?」
「どうも彼女の親が昔、あの男の親に助けられたらしくてね。
その縁か何かで、婚約って話になってるらしいわ」
「・・・それは、ついてないわね。
私だったら、あんな男・・・絶対に嫌だわ」
「そうそう。
結婚するなら、もっと条件良い男よねぇ~」
そんな会話を続けながら、少女達の集団も去っていった。
「結婚・・・かぁ・・・」
彼女達の会話を聞いていて、私も少し考える。
私もいつかは、結婚するだろうし
それは、おそらく政略結婚だろうとも思っている。
第一候補は、セレナ様のお兄様だろう。
お父様とダムル元帥とは、仲が良い訳だし
大侯爵の家柄であり、次期元帥の可能性が
高い者の妻となれるのなら、まあ悪い条件ではない。
今は、父親であるダムル元帥の補佐として
戦場でそれなりに活躍しているという話は
噂で何度か聞いている。
問題があるとすれば
一度会って話をしてことがあるが
女を壁掛けの華か何かと勘違いしているような
男主導の考え方をしている点が気になってはいる。
女は、家で大人しく着飾っておけというのは
想力者が増えた今の時代からすれば
時代錯誤も甚だしい。
次に、シルビア様の所だが
ここは、あまり現実的でない。
それにシルビア様よりも能力的に劣ると
聞いたことがある。
それ以外のことは、知らないが
あまり良い印象が無いので期待もしていない。
期待という点では、まだ会ったことが無いが
レナード・ライドック元帥
彼に関しては、かなり期待している。
元々は、子爵だったが
若くして元帥となり大侯爵の爵位を得た人物。
帝国を中心とした数々の激戦で、他の元帥2人が
一進一退の攻防を繰り広げていたときに
彼だけは、次々と敵軍の名のある騎士や将軍を撃破し
討ち取っていった戦の天才と称される実力者。
彼の領地は広大ながらも『何もない』とされ
『左遷の地』とまで呼ばれた場所だが
それを僅かな期間に大都市にまで発展させ
王国の国力を大幅に底上げした政治的手腕も持つ。
何より彼の部下には、女性や平民などが多く
性別や身分によって差別しないことで知られている。
国王陛下からも信頼されており
今、国内で一番勢いがあるだろう。
常に兜などをつけていて素顔を見た者が
ほとんど居ないという話もあるが
特に気にしていない。
何故なら噂で『非常に美しい顔である』という話を
聞いたことがあるからだ。
今、一番会って話がしたいと思っている相手である。
噂通りの人物なら、彼以上に条件の良い相手は
居ないだろう。
若干、爵位的にも立場的にもこちらが不利だが
そこは、私自身の魅力で何とかしてみせる。
自慢ではないが、可愛さもスタイルも
誰にも負ける気は、絶対にしない。
「あ~あ。
お会い出来るチャンスが、どこかに無いかしら・・・」
セレナ様にくっついてれば、可能性あるかしら?
などと考えながら空を見上げると
すっかり夕暮れとなっていた。
「・・・そろそろ帰らなきゃ」
店で会計を済ませると
適当に買った日用品を手に寮へと帰るルナ。
大通りから寮へと帰るために
学園へと戻る。
学園の周囲は、巨大な壁で覆われており
更に壁の周囲が水堀となっていて
中央へと延びる1本の橋のみが、街と学園を繋いでいる。
その橋の周囲も、学園関係の建物が並んでいるため
夜になると人通りが、ほとんど無くなる。
だが、その道を歩いていたルナは
人の気配を感じて立ち止まる。
「・・・何か用かしら?」
周囲にルナの声が響く。
すると、周囲から6人の男達が現れる。
「よく気づいたな」
「で、何か用かしら?」
「さっきのお礼をしたくて待ってたんだよ」
そう言いながらも少しづつルナに近づく男達。
「さっきのお礼?」
「少し前に俺を投げただろうっ!
そのお礼だよっ!」
声を荒げる男を前に
ルナは、首をかしげる。
「下品な男なんて、その辺に転がっているから
いちいち覚えていられないわ」
その言葉に激怒した男が
ルナに迫ろうとするのを、隣に居た別の男が止める。
「まあいいじゃないか。
俺は、こういう気が強い女を無理やりってのが
大好きなんだよ」
全身を舐め回すような視線に思わずため息が出る。
綺麗にルナを囲んで距離を詰めてくる相手を
どうしようかと思っていると
ふと、右側だけが誰も居ない。
更によく見ると建物と建物の間の狭い路地が見える。
それを見つけたルナは
その路地に向かって走り出す。
路地に入ったルナを見て、周囲の男達は
ニヤニヤと笑い出す。
その先は、行き止まりなのだ。
助けを呼んでも誰も来ないような場所へと
ルナを誘導したのだ。
これからの出来事を想像して
何かしらの順番を決めながら路地の中へと入る男達。
だが―――。
「・・・おいっ! 居ないぞっ!?」
「他に抜け道や隠れる場所は、本当になかったのかっ!?」
男達は、居るはずのルナが居ないことに騒ぎ出す。
その時だった。
「ぎゃぁぁぁっっ!!!」
「腕がぁぁっっ!!!」
「足がぁぁぁっ!!!」
男達のうち、3人が腕や足に何かが刺さって苦しみ出す。
それは、矢のようで矢ではないもの。
想力と呼ばれるもので構成された矢。
気づけば、彼らの後ろである
路地の出口に人影が1つ。
月明りに照らされたそれは、弓を手に持つルナの姿。
「ふざけやがってっ!!」
残りの3人が、想力武装の剣を手にする。
だがその瞬間、高速で放たれた想力矢が
想力武装に命中し、その衝撃で想力武装を弾き飛ばす。
そして更に飛来した矢が、的確に男達の腕や足に刺さる。
「く、くそっ!
こんなことをしてタダで済むと思うなよっ!!」
男の一人が、負け惜しみのように
そんな言葉を叫ぶ。
だがルナは、返答の代わりに
数本の矢を放ち、その矢は
またも男達の腕や足に刺さる。
そのたびに聞こえる悲鳴。
「古代語で、夜空に浮かぶ月を『ルナ』と呼ぶ。
月が輝く夜空。
こんな夜に、この私に挑んだ勇気を褒めてあげる」
彼女は、今までに見せたことが無い冷酷な笑みを浮かべる。
「ま、待ってくれっ!!」
男の一人が、震える声で叫ぶ。
だが、その言葉を叫んだ男には
返答の代わりに矢が数本刺さる。
「これは『躾』よ。
言葉の通じない『獣』には
痛みと恐怖で躾なければ、理解出来ないでしょう?」
暗い路地の奥に居る男達に対して
相手を殺さぬように急所を的確に外し
痛めつけることに特化した攻撃。
何度か反撃を試みる男達だが
その全てを完全に潰され、一方的に痛めつけられる。
まるで相手の心を折るように。
「た、たた頼むからぁぁぁ、助けてくれぇぇぇっ!!
もう、こんなことしないからぁぁぁぁっ!!」
徹底した嬲り殺しに、逃げ場すら無い彼らは
ひたすら命乞いをするしかない。
「ダメでしょう?
ゴミ以下の存在が、人間の言葉を使っちゃ。
ゴミは、ゴミらしく地面を這ってなさい」
だが、そんな命乞いをルナが
受け入れることは、決してなかった。
周囲に響くのは、男達の悲鳴のみ。
その光景を離れた位置から見ている者が居た。
「・・・これは、ある意味予想外ですね」
「そうか?
ライナス将軍の娘というのもあるが
あの下手な笑顔を何度も見せられれば
こういった性格が隠れていたとしても不思議はない。
・・・それにしても、良い腕だな。
この程度の暗闇では、精度が落ちんということか」
とある建物の中から、その様子を見ていたのは
リシアとミーアの2人。
調査に出ていた彼らは
偶然にもこの事件を目撃していたのだ。
「しかしこの件、問題にならないのでしょうか?」
「・・・ああ、問題ないだろう。
あの連中、男爵の息子が2人いるだけで
あとは、準男爵の息子ばかりだ。
伯爵家の娘に手を出した時点で
何も言えんさ。
それに問題が大きくなれば
仲の良い何処かの・・・そう、元帥という名の
大侯爵様が出てくることになる。
そうなったら男爵程度では、何をどう頑張っても話にならん」
男爵とは、貴族の中でも一番下の爵位だ。
そして準男爵というものは
簡単に言えば、貴族ではなく平民の位である。
そんな連中が、束になった所で
伯爵家相手にするのは、現実的に無理がある。
それどころか大侯爵まで介入してくるとなれば
家が一方的に潰される危険性の方が高い。
「さて・・・私達は、私達の仕事をするか。
こっちは、空振りだったが
そっちは、どうだった?」
「あまり思わしくない結果ですね」
そう言いながら資料を手渡すミーア。
「・・・いや、そうでもない。
これは、これで十分な結果だ。
これで更に私の予想が、ただ―――」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
大きな叫び声に思わず苦笑する。
「・・・ずいぶんと徹底的なことで」
そう言って軽く苦笑すると
その場を離れるリシア。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
次の日の朝。
「あら、リシアさん。
おはようございます」
「おはようございます、ルナさん」
彼女の顔を見ると
昨日の出来事を思い出す。
結局、彼らは全員まとめて
病院送りとなった。
彼らとその親達が、予想通りに騒いだのだが
相手であるルナの伯爵家という爵位と、ライナス将軍の名前で
一気に大人しくなったらしい。
「・・・ん? 何か?」
「いえ、別に何でもありません」
そう言って視線を逸らすリシア。
少し笑みを浮かべながらの
そんな仕草に意味が解らず、首をかしげるルナ。
彼女の違和感がある笑みを見るたびに
しばらく思い出しそうだなと思いながら
紅茶を飲むリシア。
そして今日も、彼女達の何気無い一日が始まる。
第3章 猫かぶりな少女 ~完~
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回の作品は、登場人物が多すぎて
未だに主要メンバーの名前を完全に覚えきれていないです・・・。
と言う訳で、それなりに更新してみました。
本来は、もう少し違う話にしようかなと思っていたのですが
ルナが見たいという一部熱い要望がありまして
今回は、少し早かったですけどルナ回を持ってきました。
まあここにルナ回を持ってきてもさして全体に影響がない
というのも理由ではありましたが。
ご指摘・要望・感想などありましたら
気軽に書き込んで頂けると・・・。
そして本作品を暇つぶし程度でいいので
読んで頂けると大変ありがたいです。