第27章 アスタブローグ
最低限度ではあるものの、森の中に整備された道を
ゆっくり常歩で馬を歩かせる。
最近は、雨も無く晴れが続く天気の元で
私は、思わずため息を吐く。
突然、急ぎの伝令がやってきたかと思えば
めんどくさい内容で、それを確認した時は
何とも言えない気分にさせられた。
そもそも城塞都市での戦いの後
ここは既に戦場であるとの判断で
私達は、スグに学園へと帰ることになった。
そこで私も帰るはずだったのだが、めんどくさいアレのせいで
別行動を取らざる負えなくなってしまった。
学園方面に行く帰りの馬車にセレナとシルビア。
そして何故か付いてこようとするフランを詰め込んで
どこぞの元帥閣下が用意した護衛の精鋭騎馬兵500と共に
まずは王都へと向かって貰った。
護衛が騎馬、しかも精鋭500である。
しかもそれを指揮するのが、本来街に残っているべきはずの
元帥閣下その人であるというのだから
一体どこを攻める気だと突っ込みたくもなってしまう。
まあそんな豪華な護衛のことはさておき
学園都市に向かうにしても、どちらにせよ王都は通る。
そして王都では、今回の件で陛下が彼女達に
直接会いたがるだろうと思って、そうなるよう手配しておいた。
向こうに着けば、陛下との対談だけでは終わらない。
間違いなく陛下主催のパーティーが開かれるだろう。
そうなれば、確実に彼女達の話題が王国中に広がることになる。
そうして元帥の娘という解りやすい特徴を持った2人に
今回の手柄を全て引き受けて貰うことで
私が目立たないようにする予定だ。
手配も全て済ませたし、計画も予定通りに進んでいる。
にもかかわらず気分は、晴れない。
「何でわざわざ東側を通るのかねぇ・・・」
『カタリナ・フェーン・リッツダール皇女、帝都オルヴァニスタより出立。
ガーランドを経由し、アスタブローグを通って学園都市に向かう模様』
受け取った伝令を何度頭の中で繰り返し考えてみても
謎ばかりである。
挑発行為の第2弾と見るべきなのか
それともガーランドに何か仕掛けるつもりなのか
もしくはこちら側に何かしらの接触を試みるつもりなのか
狡猾な皇帝の考えることであり
情報不足も手伝って、さっぱり解らない。
どちらにせよ、アスタブローグに帰る必要があることに変わりはない。
このタイミングは、めんどくさいなと思った時だった。
街道の横にある茂みの中から
軽装だが武装した男が8人現れる。
「おっと、お嬢ちゃん止まりな!」
「ここは、通行税が必要だぜ?」
「持ってる荷物を全部置いていきな」
「何なら、身体で払ってくれてもいいんだぜ?」
道を塞ぐように『これぞ山賊』というような連中が現れる。
しかもご丁寧に後ろの木々からも
5人同じような連中が出てきた。
まだまだ居る所には居るもんだなという感想を持ちながら
あの戦いで使用し、そのまま持ってきていた白銀の突撃槍を
馬から外して手に持つ。
「これが何か解りますか?」
明らかに山賊たちを馬鹿にした声と
見下したような視線に一瞬苛立ったような顔をした山賊達だが
スグに余裕そうな表情に戻る。
「お嬢ちゃんこそ、この人数差が理解出来てるのかい?」
「いいねぇ、いいねぇ、俺こういう気の強い女が好みなんだよぉ~」
「騎士って言ったってひよっこのお嬢さんだ、大したことはねぇよ」
舌なめずりをしながら身体中を舐めまわすように見てくる山賊達に
思わず気持ち悪さから身震いをするリシア。
それを怖がっていると勘違いした山賊達は満足げに笑い出す。
「ちょっと遊ぼうってだけだぜぃ?」
「そそ、スグにお嬢ちゃんも気持ちよくなるって」
下卑た笑いにため息を吐くと、リシアは突撃槍を構える。
「丁度、色々あって暴れたかったんだ。
八つ当たりになるが、まあ襲ってきたのは自分達だと諦めてくれ」
その台詞の後、男達の悲鳴が人気のない森に響き渡った。
第27章 アスタブローグ
豪華ではあるものの、派手という訳ではない。
どちらかと言えば気品漂う調度品が並ぶ部屋。
王城にある貴賓室と遜色が無い部屋で
優雅に紅茶を飲む少女。
その対面では、笑顔で応対しているものの
内心では既に怒り爆発状態の女騎士が
それでもあくまで平然を装って話をしていた。
女騎士の名は、テリア=インセント。
レナード軍の副隊長の1人であり、レナードに次ぐ権限を持ったNo2だ。
主が不在の街を任されているほど信頼されている人物である。
テリアの説明の後、少女ではなく
少女の後ろに立っていたメイドが口を開く。
「問題ありません。
先ほど、皇女様が仰られた通り
レナード・ライドック元帥閣下がお帰りになられるまで
1週間でも1か月でも・・・1年でも待たせて頂きます」
さも当然のような返事に、テリアの不機嫌度が更に上昇する。
ここは、レナード軍の本拠地であるアスタブローグにある
レナードの屋敷の応接室。
テリアは、正面に座るリッツダール帝国の皇女である
カタリナ・フェーン・リッツダールの突然の訪問と
その内容に苛立っていた。
そもそも、訪問を伝えるべき使者すらなく
こちらの情報でも、ガーランドに向けて皇女が
出立したということまでは、把握出来ていたのだが
まさか皇女が、ガーランド国でガーランド王に会わずに
ただ通過するだけで済ませてしまうとは思ってもみなかった。
それだけではない。
最短ルートを通ったのではないかと思われるほど素早く
このアスタブローグにやってきたのだ。
こちらの情報収集を行っていた兵士が、それらしい情報を持ち帰り
その精度を確かめようとした矢先の到着である。
準備すら不可能な状態だ。
外交の礼儀を無視し、突然やってきたあげく
言ったセリフが「レナード元帥に挨拶に来た」である。
『喧嘩を売ってるのか』と言いそうになりながらも
相手が相手だけに、適当に扱ったり追い返す訳にもいかない。
「元帥閣下は、国内をお忙しく行き来されていますので
現在この街にはおりません」
と言えば
「でしたら、お帰りになられるまでお待ちしておりますわ」
と即答してきたのである。
「いつお帰りになるかも解りませんし
今から連絡を取ったとしても、閣下がお帰りになるまで
1週間以上はかかってしまうと思われますが」
と暗に断りを入れているにも関わらず
「構いません。
予定よりかなり早く到着してしまいましたし
閣下がお帰りになるのを1週間でも、1か月でも
何でしたら1年でもお待ち致しますわ」
とまたもや笑顔を浮かべながら即答で返してきたのである。
『早く到着したのは、お前達がそうしたからだろ!』と言いそうになるのを
何とか堪えつつ、テリアはあくまで笑顔で応対していたのだが
完全に居座る気でいる皇女をどうしようかと悩んでいると
ドアからノックの音が聞こえて、一人入って来る。
部屋に入ってきたのは、優秀な仲間だった。
「お話し中、失礼いたします。
皇女様のご滞在頂く部屋の準備が整いましたです。
ですので、ご案内致します」
現れたのは、小柄な少女。
名をリーン=クレメント。
副隊長の1人であり、文官・・・というより軍師である。
その才能がレナードの目に留まり、今では軍事面を担当する1人になっている。
彼女の言葉に乗るように『話は終わりですよね』という雰囲気を出すテリア。
それを見た皇女は、手に持っていた宝石の付いた豪華な扇子を広げると
口元を隠す仕草をする。
扇子によって隠された口元は、これ以上ないほどの笑みを浮かべていた。
その後、何事も無かったかのように閉じられた扇子。
皇女の表情も既に元に戻っていた。
彼女は、そのまま立ち上がる。
「では、こちらはお待ちしておりますので
閣下には、くれぐれもよろしくお伝えください」
彼女を知らぬ者が見れば、純真無垢で美しいお嬢様の素敵な笑みに見えただろう。
しかし先ほどのやり取りを経験したテリアからすれば
目の前でわざわざ猫を被る姿を見せてからの猫かぶりである。
彼女からすれば挑発行為以外の何物でもないのだ。
「それはもちろん。
こちらとしても田舎故に色々とご不便かとは思いますが
ご滞在中、なるべく快適にお過ごし頂けるよう手配させて頂きます」
そんな挑発を見なかったことにして
追い出しにかかるテリア。
案内役の兵士が皇女と共に滞在する部屋へと向かったのを確認すると
「ああぁ~!! ムッカつくぅ~!!!」
絞り出すような声で、怒りを爆発させるテリア。
「だから言ったのです。
絶対に面倒事になるって」
そんなテリアを呆れるように見るリーン。
「な~にが
『予定よりかなり早く到着してしまいましたし
閣下がお帰りになるのを1週間でも、1か月でも
何でしたら1年でもお待ち致しますわ』よっ!!
アンタ達が馬鹿みたいな日程で来たからでしょっ!?
てか、事前に到着予定を知らせる使者の1人ぐらい出しなさいよっ!!」
溜まった鬱憤があふれ出すかの如く
愚痴を言い続けるテリアに、ため息を吐きながらリーンが言葉を遮る。
「とりあえず当面は、テリアが担当するのですから
表面上だけでも失礼が無いようにして欲しいのですよ」
「何でこんな時に、シェンナとかミーアとか居ないのよっ!
あんな腹黒、相手にしたくないわよっ!!」
「それはもう、学園都市行きのメンバー選考の
ジャンケンに負けたテリアが悪いのです」
「あの時、パーを出していれば・・・ッ!」
「隊長には、連絡がいってるはずなので
たぶんこっちに帰ってくるはずなのです。
それまでの辛抱なのですよ」
「ツイてないわ~」
盛大なため息を吐きながら、テリアが部屋の扉まで歩く。
「とりあえず見られたくない施設とか
軍事的なアレコレには、勝手に入らないように
警備を厳しくしておくから、隠蔽の方は頼んだわよ」
「そっちは既に行動済みなのです。
あとは適当に街と『見せて良い部分』だけ見せれば
しばらくは大人しくするはずなのです」
「だといいけどね」
手をひらひらとさせながら部屋を出ていくテリア。
それを見送り、一人になったリーンは
部屋の窓から外を見る。
そこには、丁度案内されて歩く皇女の姿。
「さて、帝国は何を考え、どう動くのか。
お手並み拝見・・・なのです」
手に持った飾り気の無い扇子を開けたり閉じたりして
パチパチと音を鳴らしながら、彼女は思考を巡らせる。
例え帝国がどんな手を打とうが、その上を行く手で返すために。
第27章 アスタブローグ ~完~




