第1章 今日から女学生
まずは、興味を持って頂きありがとうございます。
本作は、オリジナル作品となっております。
書き物が初心者な人間の駄文ではありますが
もしよろしければ暇つぶし程度に読んで頂けると幸いです。
*R15タグに関して
一応バトル系とか、女装モノのお約束などを
入れる予定なので、念のために入れました。
ですので、若干グロテスクな描写などが少し入るかもしれないです。
快晴の空が気持ち良い。
周囲の張りつめた空気もあって、気が自然と引き締まる。
吹き抜ける風を感じながら馬上で
少し離れた場所を見つめる。
「このまま押し潰せッ!!」
そう叫ぶのは、大剣を持った少女。
勇ましく進む彼女を先頭に、大勢の兵士たちが突撃していく。
「まあ、こんなものでしょ」
隣で同じく馬に乗った少女が、さも当然といった感じの声で
誰に言う訳でもなく呟く。
目の前では、大剣を持った少女が率いる
赤い鎧をまとった兵士たちが、野盗たちを蹴散らしている。
誰がどう見ても圧勝だ。
「・・・まあ万が一ということもある。
あまり深追いはしないよう徹底しておけ」
「りょ~か~い」
ひらひらと手を振る少女に背を向け
常歩でゆっくりと戦場を離れる。
私の名は『レナード=ライドック』
この大陸の中央に位置する『ランバルト王国』
そこに3人の元帥が居るのだが、その内の1人が私だ。
つい先日まで周辺国家と戦争状態にあったが
最近になって休戦となり、つかの間の平和が訪れていた。
・・・まあ、何かあるとしても先ほどのような
空気の読めない国による野盗集団を装った攻撃が
たまにあるぐらいか。
先ほど指揮を引き継いだのは
『テリア=インセント』
顔の顎ぐらいの所まであるショートボブの髪を靡かせ
彼女自慢の大きな胸は、馬の動きで左右に揺れている。
高めの身長と、凛とした表情で女性人気も高いらしい。
彼女は、我が軍団の副団長だ。
元・傭兵団の団長であり、元・貴族という変わった経歴を持つが
その腕前は、実戦経験の豊富さを物語る非常に安定した強さで
信頼している部下の1人でもある。
国内もようやく落ち着きを取り戻してきており
内政も問題なく進んでいる。
全てが順調だった。
これからどうしようかと悩んでいると
1人の馬に乗った騎士が城の方からこちらに向かってくる。
「閣下、こちらでしたか」
「何かあったか?」
「陛下より書状が届いております」
そう言って書状を渡してきたのは
『シェンナ=テルスタット』
首元ぐらいの髪を後ろにまとめ
リボンで結んでポニーテールを作っている。
平均より少しだけ全体的に小柄で
胸も少しだけ控えめ。
地方の小さな商家出身という平民出の娘。
一応騎士なのだが、その能力は残念ながら平凡と言える。
普通の一般兵に負けるようなことは無いが、武官と呼ばれる
武術に特化した者が相手では分が悪いだろう。
しかし事務作業や商売に関しては才能があり
今では我が軍の金庫番として、主に事務で活躍している。
余計な出費をする者には、誰であろうが容赦なく
説教をするなど、怒らせると怖い一面を持つ。
彼女も信頼のおける人物であり、副団長を任せている1人だ。
書状を受け取ると、その場で開封する。
「・・・どういうことだ?」
思わず首をかしげる。
「どうされました?」
「とりあえず読んでみろ」
「失礼します」
書状を手にすると、シェンナも中身を確認する。
書状の中身は、多額の戦争復興金を出したことに対しての
感謝のお言葉と、私にしか頼めない案件があるため
至急王都に帰還せよという内容の言葉だ。
「・・・確かに判断に困る話ですね。
現場の指揮官を呼び戻すほどのことが起きれば
普通は、我々の情報網にも引っかかるはずですから」
「・・・とりあえず野盗の処理が済み次第
主要な役職者を全員集めてくれ。
この件も含めて皆の意見が聞きたい」
「了解しました」
そのまま2人で城へと戻る。
まさかこの1枚の書状から
あんなことになるとは思わなかった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
―――そして1か月後。
私は、ゆっくりとした足取りで歩く。
周囲から聞こえてくる黄色い声は
ここが別世界だと言っているように感じる。
綺麗に整えられた道に、手入れの行き届いた草木。
何もかもが面倒なものに見えてくる。
そして何より自分の格好だ。
「・・・はぁ」
思わずため息が漏れる。
もう何度目になるだろうか。
「あら、どうしたの。
リシアさん?」
後ろから聞こえてきた声に振り返る。
「ふふっ。
やっぱり初めては緊張するのかしら?」
柔らかい笑みでこちらに話しかけてくるのは
セレナ=バルズウェルト
軍人家系と言われ、現在の当主も元帥の地位にある
我が国では知らぬ者は居ないであろう、有名家系。
つまり、お嬢様の中のお嬢様の1人だ。
元帥当人を知っているが
どうしてあの突撃馬鹿・・・もとい勇猛果敢で
我が軍の一角を担う強面なオッサンから
こんな美少女が生まれたのだろうか。
まさに神秘である。
腰まである長い髪。
整った顔立ち。
小柄で体型も細身なため、年齢よりも幼く見えてしまう。
しかし長い髪をなびかせながら歩く姿は
まさにお嬢様という風格を出している。
そのあたりは、さすがバルズウェルトの人間だと言えるだろう。
髪には細い紐のような青いリボンが見える。
小物も青色が多いのも彼女がバルズウェルト家の人間であると
思わせるものの1つになっている。
言葉の力強さも考えると
本質的な気性は、もう少し激しいのだろうか。
「どうしたの?
私の顔に何かついてる?」
「・・・ええ。
目と鼻と口が・・・ね」
「ふふっ。
確かにそうね」
楽しそうに笑う彼女の顔を見ていると
あのオッサンなんぞ、どうでもよく思えてくる。
「2人とも、何だか楽しそうね」
後ろからまた声がして、振り返ると
そこには少し身長が高めな少女。
瞳からは意志の強さがうかがえる。
肩にかかる程度の長さの髪からも
活発そうな印象を受ける。
アリス=フォーレーン
大商人と呼ばれるフォーレーン家の一人娘だ。
王家などと比べると平民ゆえに家柄は低いものの
その財力は、その辺の王家を軽く超えるほどで
発言力も相当なものだ。
現当主のオッサンを知っているが
強かであり、商売上手でもある。
毎回、こちらが欲しいと思うようなものばかりを
持って来る情報網と直感は、素晴らしいと感じていた。
「だって、リシアさんが
当たり前のことを言うんだもの」
「聞いてたけど、そんなに笑うような内容だった?」
「さあ、私からは何とも・・・」
「あ~っ!!
見つけましたよ、お姉さま方っ!!」
元気の良い声と共に走ってくるのは
カレル=マレット
平民出身の元気な娘だ。
小柄で細身の体型は、まだまだ子供らしさが
抜けきっていないようにも見える。
左右対称のおさげ髪を揺らしながら
勢い良く目の前まで近づいてくる。
「ちょっとカレル。
こんなところで大声を出しちゃダメでしょ?」
「あ・・・つい、いつもの癖で」
「せっかくだし、一緒に行きましょうか」
「・・・ええ、そうね」
全員で、話ながら道を歩く。
目的地に近づくにつれ、周囲に少女達が増えていく。
そして見えてきた目的地。
古い外観ながら、その立派な建物は
少女達が通う学び舎。
フォレスと呼ばれるこの場所は
『想力』に目覚めた『少女』が優先的に入学することが出来る
エリート校に分類される。
まあ、想力者だけしか受け入れていないようにも思われがちだが
想力者以外でも優秀であれば入学することが出来る。
主に軍人教育が中心ではあるが
名家のお嬢様も多いこの場所では
完全に軍人という訳ではなく、非常に緩やかな側面も多い。
『想力』とは意志の力とでも言うべきか。
身体から発する特別な『気』のようなものである。
誰もがこの想力というものを少なからず持っている。
その中でも、想力が一定以上の上限を超え
想力を自在に使用出来る者のことを『想力者』と呼ぶ。
『想力』は、想力者と認められるぐらいの
一定以上の力を発揮できるようになると
特殊な『能力』を得ることが出来る。
つまり簡単に言えば、炎を自在に扱えたり
水や風を生み出すなどだ。
想力者として覚醒したものは、必ず1つ
この能力を得ることになる。
逆に言えば、『能力』を得た者のことを『想力者』と呼ぶ訳だ。
この力が戦場の形を変えてしまったと言えるだろう。
『想力』を持つ『想力者』は、身体の周囲に想力を展開しており
通常の武器では傷一つつけることが出来ないこともあり
能力の使い方次第では
たった一人で大部隊を相手に出来るほど強力だ。
だからどこの国も、想力者という人材を
軍事登用したくなるのは、当たり前の話で。
まあ、長年争ってきた帝国とは
半年ほど前に停戦したこともあり
平和になったといえばなったわけだが・・・。
ちなみに、こういう場所は各国にも当然ある。
だがこの場所・・・我が国の古代語で
『聖なる場所』を意味する、このフォレスは
教育・人材・施設どれを比べても一流である。
そう言えば、帝国から親善を兼ねて
誰か来るとか言ってた気もしたが・・・まあいいか。
玄関口で彼女らと別れると
挨拶をするため、一人で学園長室に向かった。
第1章 今日から女学生
一際、豪華な扉を見つけると
軽くノックをしてから入る。
「あら、お客様でしょうか?
いらっしゃい」
白くなった短めの髪に年寄りとは思えない強い目。
ちょっとした威圧感さえ漂う雰囲気と、それらが気のせいだと
思わせるような笑みを浮かべている。
簡単に言えば『年老いた身なりの良い老婆』
個人的な感想で言えば『宰相と同じく、クセの強そうな老人』
という印象だ。
「椅子に座りながらの挨拶とは
・・・私は、舐められているということか?」
主導権を渡すつもりはないとけん制を入れてみる。
「・・・いくら閣下とはいえ、ここはフォレス。
フォレスにはフォレスの流儀がございます」
優しそうな笑顔で、切り返す老婆に
つい笑みがこぼれてしまう。
私が誰だか知っていて
それでも態度を変えるつもりはないと明確に宣言する。
・・・なるほど、確かに噂通りの人物という訳か。
「・・・悪いな。
つい、試してみたくなってしまった」
「いえいえ。
閣下が噂に違わぬ方だと知れたので嬉しく思います」
「それで、貴女が学園長ということでよろしいか?」
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。
私が学園長のマリエル=ハルマンです。
このたびは、私どもの要請に
閣下自ら動いて頂き大変感謝しております」
学園長は、立ち上がると綺麗で丁寧な礼をする。
・・・さすがは、はるか昔に『閃光のマリエル』と呼ばれ
戦場を長く駆け抜けてきただけはある。
食えない感じも、ひしひしと伝わってくる。
「まずは、状況を聞きたいのだが・・・」
「それについては、もうスグ担当が来ますので
お待ち頂けませんか?」
「・・・そうか、では待とう」
用意された椅子に座って瞳を閉じる。
「そう言えば、ご指示の通りに致しましたが
本当によろしかったのですか?」
「・・・構わん。
余計な気遣いが入る方が怪しまれるだろう」
「失礼するぞ」
話をしていると、一人の老人が入ってくる。
いかにも地方の権力者という感じの雰囲気と
それなりの身なりをしている。
「これは、お美しいお嬢さん。
お初にお目にかかる。
ワシは ビアース=モーテル。
この街の街長という役職を押し付けられている
哀れな男じゃよ」
初老の男性という感じの白髪交じりの髪を軽く触ったあと
少し伸びた自身の顎髭を触りながら、何とも言えない自己紹介をしてくる。
「あら、街長なら良い身分ではありませんか?」
「街の権限なんぞ、そこのばーさんが握っておるわ。
商売なども商工会の仕切りじゃ。
実質、何の権限も持っとらんのに責任だけは
街長としてしっかりあるというのだから、たまったものではないわ。
ただでさえ、商工会の連中に手を焼いているというのに・・・」
ため息を吐きながら、そう話すビアース。
「街長としての権限は
他にも色々とあるではありませんか」
「全部書類仕事ばかりじゃろう!
いつもいつも面倒ごとをワシに押し付けおって・・・」
マリエルの一言に、ビアースが噛みつく。
2人の様子からすると、恐らくかなり長い付き合いなのだろう。
「・・・それで、こちらの方が説明を?」
「いえ、それは―――」
「いやいや、何の話か知らんが
ワシが来た用件は簡単じゃ」
そう言って近くの椅子に座るビアース。
「この街で最近起こっておる事件を
解決してくれるというのなら大歓迎じゃ。
だが、街で面倒事だけは起こさんでくれよ。
特に商工会の連中とは関わり合いにならんことだ。
それだけを忠告しておこうと思ってな」
「・・・それは、どうしてです?」
「お嬢さんが誰の差し金でやってきたのかは知らん。
だが連中と揉めることは得策とは思えん。
奴らは周辺におった野盗を囲い込んで私兵とし
更に西側の貴族と手を組んでおる。
正直、下手に権力と武力を持っておるから
なかなか手出し出来んのが現状じゃ」
ため息を吐きながら、そう話すビアース。
「・・・そうなる前に何とか出来なかったのですか?」
「奴らが正規の商工会として存在し、かつ野盗どもを
表向きは『従業員』として雇っている以上
何か事件を起こしてくれんと何も出来んわ。
連中もそれが解っているからか、事件を起こしても
一切証拠を残さん。
まったく、これでワシ如きにどうしろというのか・・・」
「以前から、我々の方でも何とか出来ないものかと
王都へ書状を送って相談していたのですが、なかなか上手くいかず・・・。
ですので、このたびようやく貴女が来ることになって
少しホッとしているのです」
2人してため息をついている様子を見るに、相当面倒な連中のようだ。
「王都に普通の手段で書状を送ったのは失策ですね。
あそこは自分のことしか考えない者達が多い場所。
陛下にその話が届くまで、1~2年かかっても不思議はありません。
手早く処理したいのなら、3人居る元帥の誰かに
直接書状を持っていけば何とかなったでしょうに」
「この中立都市に元帥が介入するとは思えんが?」
「『貴族令嬢』が多く在籍する学園、しかも今は2人も『元帥の娘』が
通っているのですよ?
自分の娘を含めた『貴族の娘達の身の安全』を理由に
治安に口出しするぐらいは、可能です。
周辺の貴族達も、自分の娘や他の貴族達との兼ね合いも考えれば
誰もそれに異を唱えはしないでしょう。
そんなことをすれば逆に国内の貴族達全てを敵に回しかねませんからね。
商工会と手を組んでいる貴族というのも露骨な反対は出来ず
むしろ自分達のことがバレては困ると手を切る可能性も考えられます。
そして元帥ほどの権力なら、多少強引にでも
商工会を一掃出来るでしょう」
「・・・なるほどな。
その話、検討する意味はある・・・か」
何度か悩む仕草を見せた後
勢い良く立ち上がるビアース。
「うむ、良い話が出来た。
では、ワシはこれで失礼する。
何かあれば、ワシを訪ねてくれればいい」
彼は自分の言いたいことだけ言うと
さっさと部屋を出て行ってしまう。
「・・・申し訳ありません閣下。
優秀ではあるのですが、非常にせっかちな性格なもので」
「気にしてはおらんよ。
むしろ、今後そういった話があるなら
私に相談しろ。
この都市が不安定になるのは、正直困るからな」
「そう言って頂けると助かります」
マリエルが一礼した時だった。
ドアをノックする音が聞こえる。
その後、ゆっくりとドアが開く。
「失礼します」
扉の向こうから声がすると、一人の女性が入ってくる。
長い髪を頭の上で束ねた落ち着きのある年上の女性。
装飾が少ない一見地味に見える服を着ているが
よく見ると、かなり良い素材で出来ている。
彼女は、こちらをチラチラと見ながら
学園長の隣にまで移動する。
「お待たせしました。
彼女の方から説明させて頂きます」
「学園長、もしかしてこちらの方が?」
「ええ、そうですよ」
「あらあら、まあまあっ!
なんて可愛らしいのかしらっ!」
興味津々といった感じで近づいてくる女性。
「貴女は、もう少し落ち着きを持ちなさい。
まずは、先に挨拶でしょう?」
「申し訳ありません。
では・・・初めまして。
貴女の担当になる
テリーヌ=ディファン
と言います」
落ち着いた印象の見た目と違い
落ち着きのなかった女性は、元気良く挨拶をしてくる。
「リシア=ナリアスだ。
・・・よろしく」
変わった人間には色々と出会ってきたが
この学園には、変わり者ばかりが居るのかと思うほど
様々な人間の登場に、思わずため息を吐く。
「そんな無愛想な顔では
スグにバレてしまいますよ」
そう言いながら
頬を両手で摘んで左右に引き伸ばしてくる。
「・・・ふぁにぉしゅる(なにをする)」
「失礼ですよ、テリーヌ」
「だって、この方が絶対に可愛いですよ
笑顔が一番です」
「テリーヌ」
強めの口調で名前を呼ばれ、渋々という感じで離れるテリーヌ。
「・・・どうでもいいから、さっさと説明をしてくれ」
赤くなった頬をさすりながら、投げやりに先へと促す。
こうでもしなければ、余計な時間がかかりそうな気がした。
「はい、では説明をしますね」
横にあった大きな板に学園周辺地図を貼り付けるテリーヌ。
「まず初めに確認されたのは、3ヶ月前です。
本校の1年生 サリー=テンプル さんが突然行方不明になりました。
彼女が最後に目撃されたのは、放課後の学園の中庭です。
その日の夜に、彼女が滞在している屋敷から
彼女が帰ってこないとの連絡を受け、付近などを捜索したのですが発見できず。
そして1か月前。
今度は、3年生の ミランダ=エイドルリッヒ さんが同じく行方不明に。
更に2週間前。
1年生の ピリン=アドカル さんが。
1週間前にも2年生の生徒が1人。
最後に、3日前。
また1年生の生徒が1人、行方不明となりました」
そう言いながら、行方不明となった少女達の資料を
手渡してくる。
それを受け取り、目を通す。
「行方不明者の中には、それなりに名の通った貴族のご息女も
含まれていることもあり、早急に事件を解決するため
リッツ男爵が、部隊と共に調査されたのですが・・・」
「・・・結局、何も見つけられず、と」
「・・・はい、そうです」
「・・・ですから私どもでは対処出来ないと考え
国王陛下にお願いしたという訳です」
「・・・行方不明者は、想力者を含めているのか」
「そうです。
なのでもし誘拐だとするなら、相手は想力者ではないかという
話になっています」
それを聞いて少しだけ考える。
いくら想力者といえど、常に想力をまとっている訳ではない。
そのため奇襲・暗殺は、想力者には有効とされている。
そう考えれば相手が想力者だと決めつけるのは、少し早い。
「まあ、どの道。
こうなった以上は、やらねばならんな」
思わず深いため息をつく。
そもそもの話として
どいつもこいつも、今の情勢を理解していない。
帝国との停戦は、あくまで一時的だ。
他の元帥2人は、どう思っているか知らないが
少なくとも私は、戦争継続になるという予感がしている。
この国には、陛下を支える3人の元帥が居る。
突撃馬鹿のオッサンと
頭は回る癖に意外と頑固なオッサン。
そして、最近元帥になったばかりでこんな仕事が回ってきた私だ。
陛下からの緊急帰投命令。
現場の司令官を呼び戻すのだ。
よほどのことだろうと思って帰ってみれば
このふざけた仕事の話だった。
陛下から提案のあった内容に疑問が出るも
スグにあの古狸である宰相の仕業だろうなと理解した。
断りたかったが、陛下には恩もある。
宰相は、事あるごとに3人の元帥と
対立したがる爺さんで、特に私に関しては
敵意を隠そうともしていない。
老将が権を争うは、亡国の兆しと
昔、遠くの大陸から来た商人から聞いた言葉を思い出したが
まさにその通りだ。
宰相は、いずれどのような形になるか不明だが
決着をつけなければならない気はしている。
とりあえず最前線には、任せられる副団長達を残してきた。
それに帝国と停戦している間は
そこまで現場が忙しくなることもない。
定期的な連絡を取れるようにも手配してある。
それでも最前線を離れることに抵抗を感じずには
いられなかったのだが
結局、陛下の説得に応じる形で今回、ここに来ている。
内容は単純。
フォレス周辺で発生している事件を解決せよ。
なお元帥が担当したなどと知れれば大騒ぎになったり
余計な憶測も呼ぶことになるだろう。
だから元帥には『フォレスの学生』として潜入して
身分を隠したまま調査を行うこと。
部隊の展開についてなど細かい点は、任せるが
大掛かりに動く場合は、確実に事件を解決出来る場合のみとする。
ということだ。
よって、今の私は
『フォレスに転入してきた【女生徒】』である。
元帥になってまで、こんなことをやらされるとは思ってもみなかった。
普通なら想力者の女騎士あたりにでもやらせればいいだろうに。
しかし陛下直々に『失敗せぬよう確実に』と私自らやれと
言われてしまった以上、やるしかない。
「・・・大体のことは理解した。
まあ、さっさと終わらせるために頑張らせてもらうよ」
そう言いながらゆっくり立ち上がる。
「貴女のことを知っているのは
私と副学園長に、このテリーヌの3人だけです。
申し訳ございませんが、よろしくお願いします」
「・・・いざと言う時は、頼らせてもらうよ」
そう言うと部屋を出て行ってしまうリシア。
「・・・あの、学園長」
「何ですか?」
「あのリシアって騎士の方。
可愛い顔をしているのに、随分と偉そうな感じですね」
「・・・実際に偉い方なんですよ。
口止めされているから話せませんが、貴女も
あまり迷惑をかけないように」
「はい。
では、私もこれで失礼します」
そういうとテリーヌは、リシアを追いかけて部屋を出て行く。
「・・・少しだけ、楽しみだと思う私は
きっと不謹慎なのでしょうね」
リシアがどんな学生生活をすることになるのか
彼女には楽しみだった。
「・・・」
「・・・」
2人並んで廊下を歩く。
ただ・・・
「・・・何か?」
「い、いえ。
何でもないですよ」
「・・・はぁ」
面倒だという顔をしたまま、テリーヌの方へと向き直る。
「先ほどから、ずっとこちらを見ていて
何もないで話が済むはずがないだろう」
「本当に何もないですよ。
・・・ただ、本当に女の子みたいだなって思っただけで」
「・・・はぁ」
ため息をつく。
もうここに来て何度、ため息を吐いただろうか。
「ああ、ごめんなさい。
そう言われると、やっぱり嫌よね」
解っているなら言うなよと思いながらも
視線を窓の外に向けてみる。
そこには、薄っすらとだが反射して自分の姿が映る。
線が細く、スラリとした体型。
長く伸びた髪。
シンプルながらも落ち着きのある制服。
胸元のリボンが、より少女らしさを出している。
窓に映った自分は、どこからどう見ても
学園に通う貴族のお嬢様といった感じだ。
だからこそ思う。
私は【男】なのにと。
長く伸びた髪は、死んだ母親が
似合っているからそのままにして欲しいと言っていたため
今もそのまま伸ばしていたものだ。
顔が女顔ということで、昔から色々と言われ続けた。
だから騎士になった時に、仮面や兜などで
普段から顔を隠すようになった。
今では陛下のお墨付きを貰い
よほどのことが無い限りは顔を出さなくなった。
そして誰より男であろうと
強さや男らしさを追及した時期もあった。
それがどういう訳か
今は【女らしく】しなければならないとは。
世の中、思うようには行かないというが
この仕打ちは、あんまりである。
「とりあえずご指定通り
想力者として登録してあります。
また出自などに関しても事前に頂いた資料通りで
通しておきました」
「・・・そうか」
架空の人物を演じる上で重要なのは
誰かに疑われて身元調査をされても
問題ない履歴を用意しておくことだ。
無駄に真っ白だったり、改ざんした物は
疑念を抱かせたり、架空であるとバレる恐れがある。
だからこそ今回は、完全に1から用意することにした。
例え他の元帥や帝国の諜報機関が調査しようとも
偽の履歴だと見破れないほど高度なものを
時間と金をかけて用意したので、それについては
問題ないと言える。
想力者という話も同様だ。
本来は、目立っても仕方が無い。
だから想力者ではないという登録をすべきなのだろうが
有事の際にある程度の動きをしても問題ない状態にしなければ
逆に自身の動きを制限しかねない。
そのため、仕方なく想力者として登録することにした。
「あと、もし何かあればスグに相談して下さい。
男性と女性では考え方や行動なども
まったく別なので、些細なことが
大きなミスに繋がることもありますから」
・・・そう。
問題があるとすれば、それだ。
いくら見た目が女でも、中身が男であるため
女の考え方や価値観、仕草や行動など
合わせ難いものや理解出来ないことは、かなりある。
部下の中でも信頼出来る女達に付き合ってもらって
かなりの練習をしてきたが
これだけが唯一、足かせだと感じる部分だ。
まあ、いざという時は
実力行使で何とか誤魔化すことにしよう。
色々と考えているうちに、1つの教室の前に到着する。
「さあ、ここが教室です。
お呼びしますので、ここでお待ちください」
そう言って教室の中へと入っていく。
「さあ、皆さん。
席についてください」
彼女の声で、少し騒がしかった教室内が
静かになる。
大きく一度、深呼吸をする。
「・・・よし、大丈夫だ」
「―――という訳で、本日から
皆さんと一緒に学ぶことになった
転入生を紹介します。
さあ、どうぞ中へ」
こちらを呼ぶ声に、頭の中の意識を切り替え
そして中へと入る。
「・・・あらまあっ♪」
入ってきたリシアは、先ほどまでの
ズカズカとした歩き方とは違い
ゆったりとした、しかし堂々とした
そして非常に優雅な歩き方。
まるで王族や名家の娘のような雰囲気を纏っている。
黒板に名前を書く仕草ですら、一枚の絵になりそうなほどだ。
名前を書き終えたリシアは、くるりと振り返る。
「リシア=ナリアスと申します。
本日から皆様と共に、このフォレスで
学ぶことになりました。
まだ右も左も解らないため
皆様には、ご迷惑をおかけすることも多いかと
思いますが、よろしくお願いいたします」
そして追い討ちとばかりの綺麗な一礼と
色気すら感じるほどの微笑み。
教室は、まるで誰も居ないと錯覚するほど
静かになる。
誰もがリシアに見とれていた。
数秒ほどの沈黙の後
「ああ、なんてお美しい方なのかしら・・・」
「とても優雅で気品もあって、仕草も綺麗で・・・」
「お聞きになりまして?
編入試験を満点で通過されたそうですわよ」
「しかも、想力者だという話ですわよ?」
「同性の私達でも見惚れてしまいますわ・・・」
「そんな凄い方なのに温和そうな方で・・・」
「何処かの名家の出身なのかしら?」
聞こえてくる声は、どれも友好的なもの。
どうしてそんなことを知っているのかと
思うような内容もあったが、まあ悪いことではない。
美しい・綺麗という言葉に
思わず顔をしかめそうになるも
何とか我慢する。
気づけば、セレナとアリスが
こちらに手を振っていたり、微笑みかけている。
どうやら彼女達と同じクラスのようだ。
「では、リシアさん。
あちらの席について貰えるかしら」
指定されたのは、窓際の席。
席までの距離を、あくまでゆっくり、堂々と
しかし優雅で可憐な少女らしく歩く。
そして周囲の生徒に軽く微笑みかけてから席に座る。
「それでは、授業を開始します。
前回からの続きですから―――」
こうして、私の女学生生活が始まった。
ふと窓から外を見上げる。
快晴の空が、今日は鬱陶しく思えた。
第1章 今日から女学生 ~完~