第18章 不穏な動き
アリスは、剣を両手で持つと
剣を上に掲げる。
切っ先は天を向き、構えとしては大上段とも言える形だ。
その掲げた剣に黄金色の想力が一気に集まりだす。
どこまでも溢れる想力は、一筋の光の柱と化し天を貫く光となる。
その光景に、驚きの表情を浮かべるレイナ。
空で静止したまま動けずに固まってしまっていた。
「アタシは、アタシの『道』を選ぶっ!!!」
そう叫んだアリスが、剣を振り下ろす。
「―――マズイッ!!!」
咄嗟に想力壁をレイナの横に展開し
彼女に向かって思いっきりぶつける。
突然のことに何が起こったのか理解出来ていない彼女だったが
そんな彼女に向かって光の柱が倒れてきて―――
第18章 不穏な動き
しばらく続いていた凄まじい爆音と発光が、ようやく収まる。
周囲が見えるようになった瞬間、目の前の光景を目にしたリシアは
しばらく呆然としていたが
「・・・なんだ、これは」
そう呟くことしか出来なかった。
目の前には、一部が完全に消え去った闘技場の壁。
その先の森も、まるで切り取られたかのように
綺麗に一部分が消えて無くなっていた。
まるで巨大な嵐が過ぎ去った後のようにも見えるが
その程度では表現しきれないほどの破壊のされ方でもある。
正直、これが敵部隊に向けて放ったものだったらと思うとゾッとする。
この威力と範囲なら数万の軍勢を一撃で薙ぎ払えるほどだからだ。
「・・・閣下ッ!!
お怪我はありませんかッ!?」
後ろから声をかけられ、振り返ると
そこには、ミーアの姿。
普段無表情な彼女ですら、その表情には
目の前に広がる光景に対して、信じられないという想いが出ている。
彼女の取り乱し方を見て、私は逆に冷静さを取り戻す。
数秒の沈黙の後
「・・・今、周囲にどれだけ部下が居る?」
「・・・えっ?」
「即、動かすことが出来る兵が何人居るかを聞いてる」
「あっ・・・えっと、5名です。
先ほどの一撃で、被害はありません」
「なら、全員投入して
寄ってくる連中を全て遠ざけろ。
他の連中も、何なら店の連中全員駆り出しても構わん。
・・・この光景を誰にも見せるな」
「・・・了解しました」
そう言うと、彼女は消えるように姿を消す。
「・・・まだ、彼女を表舞台に出すのは早すぎる」
誰に言う訳でもなく呟いた瞬間、ハッとして周囲を見渡す。
するとまずアリスが倒れているのを見つけて、駆け寄る。
「・・・意識は無いが、恐らく力の使い過ぎだな」
想力を一気に使ったことによる反動だろう。
命に別状がないことを確認すると
次にレイナを探す。
彼女を吹き飛ばした方向を調べていると
僅かに残っていた瓦礫に埋もれている彼女を見つける。
想力を解放して、瓦礫を撤去しレイナを引きずり出すと
瓦礫が当たったことによる怪我はあるものの
命には別状なさそうだった。
もし咄嗟に彼女を吹き飛ばさなければ
多くの瓦礫や木々のように『消滅』していたかもしれない。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「・・・んっ・・・う・・・」
アタシは、ゆっくりと目を開ける。
そこにはいつもの天井があった。
そう、アタシの部屋の天井だ。
「気が付きましたか?」
「・・・あれ? リシアさん?
アタシ・・・」
頭がぼけーっとしてなかなかハッキリしない。
確かアタシ、闘技場で・・・
「あっ、そうだっ!
決闘のさいちゅ・・・・あたたたっ!」
頭が殴られたように痛い。
「いきなり動いては身体に障りますよ」
「うう・・・頭痛い・・・」
「決闘のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「えっと、確か・・・・そうそう!
レイナさんが馬に乗ってたっ!」
「・・・ほかには?」
「・・・あれ? なんでだろ?
それは凄く覚えてるんだけど、そこから・・・
あれ? どうなったっけ?」
「・・・思い出せませんか?」
「おっかしいなぁ~。
あの空飛ぶ馬のことはハッキリ覚えてるんだけどなぁ~」
何だかポッカリと穴が開いたように
その後のことが思い出せない。
「あの勝負、アリスさんが勝ったということもですか?」
「えっ!? アタシが勝ったのっ!?
・・・全然覚えてないよ」
勝ったと聞かされても、どこか他人事のような感じだ。
まあ覚えていない試合の結果なので、当たり前の話なんだろうけど。
「・・・無理に思い出す必要は、無いと思いますよ?」
「リシアさん?」
「試合の後、倒れられたので心配しました。
また倒れても困りますので、無理せずゆっくりと思い出せばいいのです」
優しく微笑みながらアタシの手を握り、そう声をかけてくれるリシアさん。
・・・やっぱり綺麗で優しい人だと思う。
「そ、そうかなぁ?」
「ええ、そうですよ。
ですから、今日は無理せず休んで下さい」
まるで子供を寝かしつけるように寝かされるが
全然嫌な気はしない。
「では、私は皆さんにアリスさんが起きたことを伝えてきます。
誰も来ないように言っておきますので、ゆっくり休んで下さいね」
「うん、ありがと」
リシアさんは、綺麗な動作で部屋を出て行った。
その姿を見送った後、アタシは布団を頭から被る。
思わず変な声を出しながら叫びそうになったからだ。
あ~、ヤバイなぁ~。
今きっとアタシ、顔真っ赤だよ。
だって顔が熱いんだもの。
慣れてきたかと思ったけど、やっぱりあの笑顔は反則だよリシアさん・・・。
・・・・・。
・・・。
アリスの様子を確認する限り問題はない。
そう判断して部屋を出た私は、食堂へと向かう。
そして食堂に入った瞬間、寮生全員が揃っており
全員の視線が一気に集まる。
「あの子、どうだった?」
皆の意見を代弁するかのように、フランが声を出す。
「先ほど目を覚ましました。
特に何かある訳ではなく、元気そうでした」
私の言葉を聞いて、一気に場の空気が和らぐ。
誰もが安堵の表情を浮かべている。
「それは、よかったですわ」
「アナタにも本当なら休んで頂きたいですね」
心配する声を出す1人に向かってそういうと彼女は、不敵な笑みを浮かべる。
「自分のことは自分が一番よくわかっていますわ。
でもまあアリスさんも大丈夫そうなので、私も屋敷に戻って休ませて頂きます」
そう言うと誰かが声をあげる前に、さっさと食堂から出て行ってしまう。
「私は、彼女を見送ってきますね」
急いで彼女の後を追う。
そして外に出た所で彼女に追い付く。
「あら? どうされましたか?」
「いえ、少しお話しをと思いまして」
「心配されずとも、約束は守りますわ」
―――闘技場にて
「んっ・・・ここは・・・」
「あら、気が付きました?」
「え、ええ・・・少し体が重いですわね・・・」
そう言いながら立ち上がった彼女は、スグに驚きの表情で固まる。
「・・・大丈夫ですか? 私の声は聞こえますか?」
「・・・えっ、ああ・・・ええ。
目の前の光景に驚いてしまって・・・」
目の前では、巨大な破壊後を隠すように工作部隊によって巨大な仮施設が建設されていた。
ただのハリボデではあるが、隠せれば問題ないのでこの際仕方がない。
周囲でも何事かと集まってきた生徒達を中に入れないように
兵士達が壁となっている。
「とりあえず、この件を秘密にしようと思っています。
理由は、理解出来ますか?」
「・・・なるほど。
確かに、これは危険ですわね」
スグに険しい表情になり、事の重要性を理解したレイナ。
流石に騎士を目指すだけあって、優秀らしい。
「ですので、本日の試合は―――」
「それはいけませんわ」
こちらの言葉を遮るレイナに一瞬驚くも
冷静に言葉を返す。
「何かありましたか?」
「『今日の勝負を無効にしよう』という話ですわよね?
それはいけませんわ。
今回は、私の完全な負け。
負けを偽るなど騎士にあるまじき行為です。
そんな汚名を私に着ろと?」
睨みつけるような厳しい視線を向けてくるレイナ。
「・・・では、アナタはどうしたいと?」
「せめて『勝負は行われた』『アリスさんが勝った』という
2つだけは認めて頂きます」
自分の負けを認めろという者も珍しいが
きっと彼女自身が納得できないのだろう。
「・・・解りました。
では、アリスさんの一撃以外のことでしたら問題ありません。
勝敗に関してもです。
またアリスさん本人が覚えていない場合は、彼女に話すことも禁止します。
・・・それで構いませんか?」
「ええ、それで構いませんわ」
「では、そういうことで」
話し合いが終わったことと、約束事を交わした意味も込めて手を差し出す。
すると一瞬驚くも、スグに手を握り返してくるレイナ。
「・・・それにしても、アナタは何者ですか?」
周囲を見渡しながら、そんな言葉を投げかけてくるレイナ。
「というと?」
「これだけの人数と資材を、この短期間に集めれるような貴族は
ガーランドの姫か、セレナ様やシルビア様のような身分の高い方ぐらいでしょう。
しかも政治的なことも考慮しての判断。
ただの貴族の娘では無いことぐらい、わかりますわ」
彼女の疑問に数秒ほど、どう返すか悩んだが
「・・・さて、何者なんでしょうね?」
笑顔で誤魔化すことを選んだ。
こちらの返答を聞いて、少し呆れ顔になったレイナだが
どうやらこれ以上追及しても無駄だと思ったのだろう。
それ以上何かを聞いてくることはなかった。
・・・・・。
・・・。
「私も、アレがどういうことなのか、解っているつもりですので」
闘技場での出来事を思い出していると
目の前に居た彼女が、そう声をかけてくる。
「・・・そうですか」
「ええ。
それに私は、アリスさんにぜひもう一度挑んでみたいですからね」
そう言って笑顔を見せる彼女に、つい笑みが零れる。
確かにリリスが言った通りだ。
彼女は、本当に真っ直ぐな人間なのだろう。
次の日。
学園内どころか、街中で『学園から光の柱が天を貫いた』という話で持ちきりだった。
のちに『古代兵器を発見し、その発掘中に起こった事故』という
無理やりな理由をつけて事件を処理することになった。
学園長には、事の真相を話はしたが
真相を知る者すべてに箝口令を敷いて
一切外部にこの件が漏れないように細心の注意を払う。
何故なら、これだけの力を持つアリスを
誰もが放置しないからだ。
間違いなく宰相あたりなら適当な理由をつけて
最前線に配置しようとするだろう。
2人の元帥もどういう対応をするか、解らない。
そうなったとき、ブラウンがどう出るかも予想出来ない。
最悪、娘のために国を敵に回すことだってあり得る。
帝国にでも支援を求めて・・・なんてことになったら
泥沼の戦争が再開されることになるだろう。
そしてアリスが、同じことを狙って再現出来るとも限らない。
何より何の覚悟も出来てない彼女を戦場に投げ込んでも
彼女が傷つくだけで何の意味もないだろう。
心配事や不確定な要素が多すぎるのだ。
なので、この件に関しては
陛下には申し訳ないとは思うが、完全に隠蔽することにした。
それなりの金が必要になったが、仕方がない。
我が軍の金庫番のさわやかな怒りの顔を思い出しながら
ため息を吐くリシアだった。
一方その頃。
リッツダール帝国。
皇帝の寝室にて。
「お呼びでしょうか、父上」
皇帝の部屋だけあって豪華な調度品が並ぶ部屋に
臆することなく一人の若者が入ってくる。
「久しいな、我が息子よ」
父上と呼ばれた老人は、言葉とは対照的な鋭い視線を息子に向ける。
この老人の名は
ザンド・フェーン・リッツダール
リッツダール帝国の皇帝である。
「お久しぶりです。
父上もお元気そうでなによりです」
そう言いながら一礼するのは、皇帝の息子。
グラッツ・フェーン・リッツダール
第一皇子にして、次期皇帝最有力とされている男だ。
「気持ちの入っていない社交辞令は止せ。
お前は上辺だけで言葉を言い過ぎる」
「これは手厳しい」
互いに笑顔ではあるが一切気を許していない。
何かしらの見えない壁が2人の間に存在しているかのようだ。
「・・・ときにグラッツよ。
旅に出たいと思わんか?」
「は? 旅・・・ですか?」
自分の目の前に居る父親が何を思ってそう言ったのかを考えるも
唐突過ぎて判断出来ない。
「・・・相変わらず突発的なことには弱いな」
「申し訳、ありません」
「まあいい。
お前に兵3000をしばらく預ける。
将は、好きな者を連れていけ」
「・・・なるほど、理解しました。
必ずや『野盗』を殲滅してご覧にいれます。
では、さっそく準備に取り掛かります」
そう言うと、また一礼してから部屋を出る。
その背中を見送った皇帝は、ため息を吐く。
「まったく、血の気が多い奴よ。
これでは安心して引退も出来んわ」
そう言いながら横に置いてあったワインを1口。
「友好とは、互いの実力が拮抗しているからこそ成り立つ。
同盟もしかりじゃ。
時には牙を見せ、噛みついてみせることも必要よ。
・・・どちらの立場が上であるかを示すためにもな」
誰も居ない部屋でそう呟く皇帝は、先ほどとは違い
実に愉しそうに、そう呟いた。
第18章 不穏な動き ~完~
更新が遅れ、申し訳ありません。
かなり愚痴になるので、まあその辺は活動報告の方に書きますが
そういうのが見たくない人は、見ないことをオススメします。
物語は、アリスの回が終わりです。
しばらくアリスは出番が減りますので
彼女のファン?には申し訳ないですが次以降からは
また別キャラをピックアップしますので
そちらをお楽しみください。




