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第12章 新たな商売






 夕暮れの空に何かが激しくぶつかる音が響く。


「・・・両者とも、有効打無し!」


 その声の瞬間、砕けた槍が地面に落ちる。


「ふふふっ、さすがだね」


「さすがは、大会の覇者・・・といった所でしょうか」


 メビアの嬉しそうな声につられ、思わずこちらも笑みが出る。


 放課後、たまにはと思いジョストをしていると

 会長であるメビアが参加しにきた。


 普段は、会長としての仕事を優先しているらしく

 練習にあまり顔を出さないそうだ。

 それでいて大会2連覇中だというのだから、素晴らしい才能だと思う。


 そのメビアが、リシアがコネルに圧勝したという話を聞いて

 ぜひ相手をして欲しいと言ってきたのだ。


 そして勝負が始まってから既に6回目の激突。


 互いに点数が入らずリシアは1本、メビアは今4本目の槍が折れた所だ。


「かなりの接戦ですわね」


「素晴らしい勝負ですわ」


 周囲の少女達は、興奮気味にその勝負を見ている。


「確かに接戦に見えますが

 ・・・私は、リシアお姉さまが優勢だと思います」


 皆とは違う意見を言ったのはリリスだった。


「あら黒姫様は、どうしてそう思われるのですか?」


「あれだけ激しく槍で互いを妨害しているのに

 リシアお姉さまは1本しか槍を折っていません。


 会長が4本折ったにもかかわらずに・・・です。

 それだけリシアお姉さまの方が、状況を制御しているという証拠。


 つまり技術的にはリシアお姉さまの方が上だということです」


「えっ・・・それでは、リシアお姉さまの方が勝つと?」


「・・・それはどうでしょう?

 ジョストとは単に技術だけでは語れないものがありますから」


 リリス達がそんな話をしている頃。


 リシアは再びスタートラインに向かっていた。


 正直、ここまでとは思っていなかった。

 適当に軽く相手をした後、目立たないように負けるつもりだったのだが

 初手の一撃の鋭さに、思わず身体が反応して防御してしまった。


 無理やり防御したため、槍が折れてしまったが

 実戦経験の無い相手で、まさかこれほどの腕を持つ者が居るとは。


 宰相の娘でなければ間違い無く部隊に勧誘している所だ。


 何か特別なことをしている訳ではなく

 純粋な基礎を追求したスタイル。


 正攻法であるが故に、それに対する対処法が無い。

 純粋な技術で彼女を上回らなければ、まず勝てないだろう。


 『女王』という二つ名も納得できるほどの腕だ。

 もし彼女ほどの実力をレバンの奴が持っていたら

 また違ったのだろうが・・・。


「・・・あ、あのっ!」


 これから7回目の勝負を行おうという時だった。


 1年生だろうか。

 小柄な少女が声をかけてくる。


「あら、何かしら?」


「あ、あの・・・その・・・。

 ・・・が、学園長が、リシアお姉さまを・・・呼んでくるように、と

 その・・・言われ、まして・・・」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら

 話しかけてくる少女。


「そうだったのね。

 わざわざありがとう」


 その少女に笑顔で答える。


「い、いえっ!

 リシアお姉さまとお話し出来ただけで、幸せですっ!」


 そう言った後、自分が何を言ったのかに気づいた少女は

 よほど恥ずかしかったのか、走って逃げてしまった。


「・・・残念だな。

 ちょうどこれからって時だったのに」


 話を聞いていたメビアが残念そうな声を出す。


「どうせ準備は出来ていたのですから

 最後に1回だけやりましょうか?」


「・・・そうだね。

 本来なら2セットだけど、この1回のみの決着としようか。


 せっかくだから最後にお互い出し惜しみ無しで

 戦おうじゃないか」


「・・・あら、まだ手の内を隠されていたのですか?」


「それはお互いに・・・だろう?」


 相変わらず男のような口調なのに

 不思議と女性らしさが感じられる不思議な魅力と笑み。


 まあせっかくだ。

 その笑みを驚きに変えるのも悪くないだろう。


 それにこれほどの相手に手を抜いては

 後で私の方が後悔してしまいそうだ。


 2人がスタート位置につく。


「では・・・はじめっ!」


 審判役の合図で同時に走り出す。


 メビアは、先ほどよりも遅く走ってくるリシアを警戒しながらも

 冷静に一撃を放つタイミングを計る。


 相手の表情がハッキリ見える辺りまで近づいた時だった。


 リシアが一気に馬を加速させる。

 やはり仕掛けてきたかと思いながらも

 その動きに合わせるように槍先を調整する。


 ―――だが。


 リシアが槍の交差する直前、更に速度をあげた。


 そして一瞬にして互いにすれ違い、走り抜ける。


 重い何かが落ちる音。

 周囲の少女達は、驚きの顔のまま固まっている。


「両者、槍破損でノーポイント!」


「・・・これは、まいったね」


「・・・ふふっ」


 悔しそうなメビアに対してリシアは苦笑していた。


 先ほどの勝負で、勝つつもりの一撃を防がれたからだ。


「・・・互いに不完全燃焼となってしまったね」


「ええ。

 勝つつもりで放った一撃だっただけに

 実は、かなり落ち込んでしまいます」


「あれには、正直まいったよ。

 攻撃が見えなかったから、もう『勘』で避けるしかなかったからね」


 相手の視線から外れるように動き、決まったと思える一撃を放ったはずなのに

 メビアは、こちらの一撃を『見ることなく』槍を合わせてきた。 


 それがまさか勘だよりだったと言うのだから

 もう笑うしかない。


「『女王』の二つ名は、伊達では無いということでしょうか。

 勘で避けられたのでは、もうどうしようもありません」


「・・・まさかまだ、これほどの相手が居るとは思わなかった。

 今後もぜひ、練習相手になってくれると嬉しい」


「私も学ぶことが多い試合でした。

 機会があれば、ぜひもう一度お手合わせしたいですね」


 互いの健闘を称えて握手をする。






第12章 新たな商売






 私は、学園長室へと向かっていた。


「わざわざ放課後に呼び出す必要も無いだろうに・・・」


 おかげでせっかくの気晴らしが台無しだと、ため息を吐く。


「失礼します」


 一応、貴族の令嬢としての立ち振る舞いで

 数回ノックをしてから挨拶と共に中へと入る。


 そこには、いつもの2人以外に見知った老人が1人居た。


「久しぶりだな、お嬢さん。

 ワシを覚えておるかね?」


「もちろんです。

 この街の長を忘れる訳がありません」


 学園に来た初日に忠告をしてきた

 ビアース=モーテルだ。


「・・・では、ワシの忠告も

 もちろん覚えておるという訳だな?」


「・・・ええ」


「では、どういうことなのか説明願いたい。

 正直、ワシの知らん所で話が動き過ぎておる」


「・・・説明、ですか?

 何についてでしょう?」


「恍ける気かね?

 ・・・それともワシは舐められておるのか?」


 老人とは思えない鋭い視線。

 やはりただの老人ではないようだ。


「・・・何の話なのか具体的に仰って頂かなければ

 こちらとしても、何をお話しして良いのか解りかねますので」


 威圧に屈さず、笑顔で平然と答えるリシア。

 どちらも主導権を譲らない姿勢を見せる。

 だが睨み合いは数秒後、ビアースが折れる形で決着する。


「・・・商工会の連中と関係者全員が揃って『行方不明』

 それを好機とし、勢力拡大を狙って動いた連中も『行方不明』


 おまけに奴らに関係していた貴族達は『国家反逆罪』で全員処刑ときた。


 これでお嬢さんが無関係と思えるほど

 ワシは、まだボケてはおらんのでな」


「・・・ああ、その件ですか。

 一応、望まれた形にはなるように手配したつもりですが?」


「面倒事を起こさぬようにとアレだけ言ったじゃろうが・・・」


 ため息を吐きながら、紅茶を飲むビアース。


「おかげでギルドの連中から陳情が殺到しておる。

 『今回の件の代表者と話をつけてくれ』とな」


「・・・どのような話でしょう?」


「簡単に言えば、新しい会長になってくれということじゃ」


「私に商工会を一任すると?」


「あれだけの勢力を一掃出来る戦力に

 貴族達をまとめて処分出来るだけの権力。


 そんなもの見せられたら、誰でもそう言い出すと思うがね。

 ・・・まったく、背後に誰が居るのか想像したくもないわい」


「あら、気になります?」


「気にならん訳ではないが、知りたくもないわ。

 余計なことをして、ワシまで『行方不明』は御免じゃ」


 皮肉交じりにそういうと、座っている椅子に大きくもたれかかる。


「・・・なるほど、とりあえずそちらの状況は理解しました。

 それで会長を引き受ける以外に何かありますか?」


「ああ、あとは各ギルドの営業に関してなどの取り決めも

 確認しておきたいということじゃ。


 ・・・下手にお嬢さんの機嫌を損ねて潰されては堪らんからな」


「学園長は、どのようにお考えですか?」


「私は、貴女がどういう人物なのかを知っていますからね。

 全て一任するつもりですよ」


「・・・わかりました。

 では、全てをこちらで引き受けます。


 ただし、後で文句を言われても聞きませんからね」


 まあ学園長からすれば、面倒ごとをこちらに押し付けられるのだから

 反対する訳もないか。


「そうか、引き受けてくれるか。

 では各ギルドの連中は、いつ頃そちらに向かわせればよいのだ?」


「では、今夜にでも。

 全ギルドで一斉に押しかけて来られても困りますので

 ある程度順番を決めてから来るようにと、お伝え下さい」


「そう伝えよう。

 ・・・はぁ、まったく。


 どうしてこういう役割ばかり押し付けられねばならんのだ」


 ため息を吐いた後

 勢い良く立ち上がる。


「それでは、あとはよろしく頼む」


 そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまう。


「・・・ずいぶんと忙しそうなだな」


 ほとんど言いたいことだけ言って去って行った感じだ。


「まあ、昔から落ち着きの無い人ではありますが

 能力に関しては保証致しますよ」


「・・・そうか。

 まあいい。


 では、こちらも準備があるので失礼する」


 そう言うとリシアもさっさと部屋を出て行った。


「う~ん・・・」


「おや、どうしました?」


「結局、あの人は何がしたかったのでしょうか?

 今の話だけなら別にこの場所を利用する必要などなかったですよね?」


「それは街長という肩書を最大限利用するため・・・という所でしょうね」


「えっと・・・どういうことでしょう?」


「・・・貴女には、もう少し色々と学んで貰わなければならないみたいですね」


 微笑むマリエルに対して、意味がわからないといった感じのテリーヌだった。


 そしてその日の夜から、私の街運営が始まった。

 自分の地方だけでも大変なのに、どうして他人の場所までと思わなくもないが

 これはこれで、こちらに利益が無い訳ではない。


 それから数日間は、特に忙しかった。

 各ギルドとの調整に、店の改装。


 あとは、大きな物資の流れを見直すなど

 改革に取り掛かった。


 そうして何日か経った頃だった。

 店の内装が終わったあたりで、1人の商人が私を訪ねてきた。


「お初にお目にかかります。

 私は、ブラウン=フォーレーン。


 一応、商人をやっている者でございます」


 綺麗な一礼をしながら話すのは、アリスの父親でもある

 大商人ブラウン=フォーレーン。


 中年の男性であるにも関わらず、その力強さは

 青年であるようにも見えるほど、活力がある。


 短めの髪に帽子かぶっており

 顔には戦争を潜り抜けてきた歴戦の兵士のような

 歴史を感じさせる何とも言えない雰囲気があった。


 長身な所は、アリスも同じなので

 やはり親子なのだなと妙な納得をしてしまう。


「わざわざご足労頂きありがとうございます。


 私は、この街の商工会の会長をすることになりました

 リシア=ナリアスと申します。


 若輩故に、失礼なことをしてしまうかもしれませんが

 その際は、どうぞご容赦下さい」


「いえいえ。

 このような美しいお嬢さんとお話しが出来るだけでも

 この街にきた甲斐があったというものです」


「どうぞ、お座り下さい」


 お互いに椅子に座ると、そのタイミングでメイド姿の部下が紅茶を出す。

 部屋に紅茶の香りが広がる。


 ミーアは、この大商人と面識があるため

 身元がバレることを警戒して奥に下がらせている。


「さっそくですが、今回は何でも『大きな取引がしたい』とのこと。

 具体的には、どのような取引でしょうか?」


 さっそく取引の話とは、相変わらずだなと思う。


 実は、少し前に手紙を出して彼が来るように仕向けていた。

 まあ彼が急いで来るだろうと思って、わざと詳細を書かなかったのだが。


「『取引は、素早く確実に』でしたか。

 とても良い言葉だと思いますが、物事には順序というものもあります。

 せっかくの紅茶が冷めてしまいますので

 まずは飲んで落ち着かれてはいかがでしょう?」


「いや、これは失礼を。

 商売のことになると周りが見えなくなるのは、私の悪い癖でして」


「まずは・・・そうですね。

 この街の特殊性の話からにしましょうか。


 どの程度、ご存じで?」


 こうして雑談を交えながら、どの程度の知識と理解をしているかを確認する。

 さすが大商人というだけあって、かなり詳細まで知っているようだ。


「では、この街が簡単に商売の窓口を広げられないということも

 ご理解頂けるかと思います」


「まあその関係がありまして、私共も苦労しておった訳ですよ」


 この街は、どこにも属していない非常に特殊な街だ。

 それ故に、特定の何処かと密接過ぎる訳にもいかない。


 どこかと密接になると、前の商工会のような利権だらけのゴミ溜めが

 完成してしまうからだ。


 東商工団に入れるという案も無い訳ではないが

 国中の貴族が出資している街である以上、そういう訳にもいかない。


 あくまで独立性を保ったままである必要がある。

 だからこそ、街長や学園長も苦労しているのだろう。


「東だけでなく他からも同じだけの取引をしなければならない。

 ですが、注意しなければ貴族達に介入する隙を与えてしまって

 前の商工会のような状態になりかねません。


 ですので、方向性を変えることにしました」


「ほう、方向性ですか」


「この街を、西と北から原材料を中心に仕入れる拠点とします。

 そして南側に職人たちを呼び込み、職人街を作ります。

 そこで加工された商品を東側に優先販売する。


 そして東側は、それを好きな場所で売るという流れです」


「・・・なるほど。

 ああ、どうぞ続けて下さい」


 少し前のめりになるブラウン。


「西と北は、原材料をほぼ独占して売るという比較的安定した収入が出来る。

 南側には、活気のある街が生まれて職人だけでなく

 商品を買い求める商人達の拠点となる。

 東は、購入した商品を優先的に仕入れて販売できる。


 ・・・そしてこの街は、その様々な中継地としての利益を得ることになる」


「若干、東が不利な条件だと思えますが?」


「そうでしょうか?

 加工品を一定量売れるように仕向ける必要はありますが

 逆に言えば、それさえ確保されれば一番利益を出せる場所でもあります。


 そうなってくると『優先的に』というものが強みとなってきます」


「・・・なるほど、初期投資はそれなりに必要。

 しかし長期的な視点なら、確かにかなり大きな話だ。


 して、肝心の加工品ですが―――」


「ご自分で確認したいと言われるかと思いまして、用意してあります」


 その言葉を合図に、部下が加工された商品を持ってくる。


「・・・ほう、これは」


 手に取って確認するブラウン。

 出てきたのは装飾品の数々。


 子供でも買えるような安価なものから、貴族でも手が出しにくいほど

 高価なものまで幅広く用意した。


「女性向けのものが多いですな。

 しかも価値も幅広い」


「着飾るものにお金をかけるのは、やはり女性ですからね。

 幅広く用意したのは、これらを手に取れる人数を増やすため。


 一般庶民でも気軽に着飾れるようにすれば

 装飾品は貴族だけのものではなくなる。

 それは、将来的な収益に繋がりませんか?


 それに南側の職人街も、職人だけが住む訳ではありませんし

 これを足掛かりに南側も発展していくでしょう。

 そうなれば、将来的利益は語るまでもない」


「なるほど・・・。

 確かに利益が薄いとはいえ、庶民が気軽に手に取れるとなれば

 貴族達を相手にするより、はるかに大きな商売となる。


 ・・・う~む」


 口元に手をあてて、悩み始めるブラウン。

 恐らく頭の中では、上手くいった場合と上手くいかなかった場合

 双方の利益や損失、そしてこの商売が上手くいく確率などを

 冷静に計算しているのだろう。


「しかし、やはりそう簡単に事が運びますかな?

 西は貴族達の利権が強い土地。

 北は貧富の差が激しい土地です。


 原材料を押さえることで、値段を釣り上げたり

 貴族が絡んでくる可能性も無視出来ない。


 それに南側が東同様に発展出来る保証もない。

 ・・・こう言ってはなんですが、東側が発展したのは

 レナード元帥という天才が指揮したからこそでしょう」


「・・・ふふっ」


 商売人の中の商売人。

 商売の神様とまで呼ばれる男に天才と称されるとは思っていなかった。

 そのため、つい堪えられずに笑ってしまう。


「・・・おや、余裕そうな笑みを見ると

 それなりの勝算があるということでしょうかな?」


「いえ、今のは違うことなのですが。


 ・・・まあ勝算に関しては、それなりに。

 わざわざ負ける確率の高い勝負はしません」


「と、言うことは何か秘策でも?」


「あまり腹の探り合いは好きではありません。


 要するに計画書を出せ、ということでしょう?」


 そう言って用意していた書類を出す。


「ははっ、バレていましたか」


 悪びれる様子も無く笑顔で答えるブラウン。


 大きな事業になるほど、権力と資金が必要だ。

 今回のような巨大な事業になれば、伯爵以上の権力に

 街を2~3個、まるごと買収出来るほどの金が必要となってくる。


 それがちゃんとあるのかを知るために

 わざわざあんな言い回しをしてきたのだ。


「この街の街長に学園長・・・ほう、北や西側の

 それなりに有力な貴族の名も結構ありますな。

 ・・・レナード元帥閣下の名までっ!


 ・・・印も本物・・・ですな」


 彼が見ている資料には、国に居る貴族の約半分の名が協力者として書いてある。

 それが信じられないという様子で興奮気味に資料を読むブラウン。


 この件では、事前に協力してくれそうな貴族達に声をかけてまわっていた。


 最初は拒んでいた者も多かったが、莫大な収入源となるかもしれない

 商売の話であること。


 何より、それがもし失敗しても損失分は全てこちらで引き受けるため

 一切損はしないということを保証すると、手のひらを返したように

 参加者は増えていった。


 どこも長引いた戦争のおかげで余裕がないのだ。

 宰相派だろうが、元帥派だろうが関係ない。

 まずは自分の暮らしからと考えるのは、ごく自然なことだ。


「こ、これはっ!?」


 資料を見ていたブラウンが声を上げ、手がとまる。


「準備金、金貨30万ッ!?」


 思わず声を張り上げるブラウン。


 まあ無理も無い。

 例えるなら、王都を主城や周辺の貴族の屋敷込みで

 文字通り『まるごと全て』買い取れる金額だからだ。


「・・・ご自身の目で確かめられますか?」


「こ、ここにあるとっ!?」


「どうぞ、こちらです」


 そう言いながら席を立つ。


 案内したのは、店の地下。

 改装工事で作った巨大な地下金庫だ。


 その扉をゆっくりと開ける。


「・・・おおっ!!」


 ブラウンは声をあげて呆然とその光景を見ている。


 そこには積み上げられた金貨の山。

 それが周囲の蝋燭によって照らされて何とも言えない光を放っている。


 これは、長年かけて貯め込んできた私の財産と

 部隊で運用してきた軍資金の一部をまとめたものだ。


 これを使い切ってしまうとかなり手痛いのだが

 この商売が成功すれば、この数十倍になって返ってくるだろう。


「これで、どれだけこの取引に前向きなのか

 ご理解頂けましたか?」


「・・・わ、私でもこれほどのことは。

 貴女は、一体何者ですか?」


「さて、何者でしょうね?」


 優雅に微笑みながらそう答えるリシア。


 それからまた先ほどまで居た部屋に戻ってくると

 お互いに席に着く。 


「・・・いや、私も長年商売人をやっておりますが

 貴女ほどの方を見たことが無い。


 ナリアス家に、まさかこれほどの商才を持つご息女が居たとは・・・」


「私は、たまたま運に恵まれただけのこと。


 当時、治安も悪く物資もあまりない状況の中で商売を始め

 大商人と呼ばれるまでになった方には、とても敵いません」


「商売人にとっては運も実力です。

 いや、ウチの娘と同じぐらいの歳に見えるお嬢さんが

 まさかこれほどとは・・・」


「同じぐらいの歳ではなく、同じ歳ですよ。

 何故なら、アリスさんとは同じクラスですから」


「おやっ! そうでしたか。

 これは何とも言えない縁を感じますな」


「そうですね。

 アリスさんとは、仲良くさせて頂いております」


「それはよかった。

 ウチの娘は、男手ひとつで育てたせいか

 女らしいことが一切出来ない娘に育ってしまって。


 まあ子供の頃から商売の都合で

 色んな所に引っ張りまわしてしまったせいかもしれませんがね。


 父親らしいことも出来なかった。

 だからこそ、せめてもの罪滅ぼしに

 あの子が希望したお嬢様学校に入れたという訳ですが・・・」


「・・・そうだったのですか」


「何やら、つまらないことを話してしまいましたな」


「いえ、お気になさらずに。

 私もアリスさんのことが聞けて、よかったです」


「そう言って頂けると助かります。


 ちなみに話は変わりますが・・・」


 そう言って周囲を見渡すブラウン。


「関係のない話かもしれませんが

 この店は、何をやられるので?」


「実際に、この加工品を売ってみようかと思いまして。

 そのための店です。


 ここは特に装飾品などが気になる貴族令嬢や

 それなりに裕福な娘が多いですからね。


 一般庶民のものから貴族向けのものまで

 色々と置いてみて、その反応と売れ筋を見て

 今後の商品に反映させようかと」


「・・・ふふふ、はっはっはっ!」


 こちらの答えを聞いて、ブラウンは突然笑い出した。


「いや~、さすがですな。

 そこまで既に考えていらっしゃるとは」


「大きな取引である以上、失敗できませんからね。

 やれることは、全てやるつもりです」


 どれだけ完璧な準備をして計画を立てても

 やはり実際にやってみないと解らないことも多い。


 それに突然、何が起こるか解らないということもある。

 世の中、絶対なんてものは意外と少ないのだ。


「・・・いいでしょう。

 私も、この話に乗らせて頂きます。


 新たな流れを作るという壮大な商売に関われて光栄ですな」


 そう言って手を差し出してくる。


「こちらこそ、賛同頂けて感謝致します」


 その手を握って握手をする。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



「あ、見つけたわ」


 次の日の朝。

 いつも通り、学園の整備された道を歩いている時だった。


 後ろからやってきた相手は、当然とばかりに隣に来ると

 さりげなく腕を組んでくる。


「・・・あまり目立ちたくない、と言ったはずですよ?」


「いいじゃない、これぐらい。

 仲の良い女の子同士にしか見えないわ」


 そう話すのは、フランだ。

 彼女は、あの件以来やたらとこうして近くに居たがるようになった。


 まあその理由もわかっては居るのだが・・・。


「そう言えば、聞きたいことがあった」


 周囲に誰も居ないことを確認すると

 普通の口調で質問する。


「あら、何かしら?」


「南側の領地のことだが―――」


「何だ、そんなこと?」


 人の言葉を遮って、盛大なため息を吐くフラン。


「どうせなら私のことを聞いて欲しいわ。


 ・・・どうかしら?

 結構、胸はあるほうだと思うのだけれど」


 そう言いながら胸をこちらの腕に押し付けてくる。

 その大きな胸に、こちらの腕は完全に埋まってしまう。


「・・・それはもう十分解った」


「恥ずかしがる顔も可愛くて素敵よ?」


「からかうのなら、一人で行くぞ」


「あん、ちょっと待って。

 そんなに引っ張らないでよ」


 腕を振りほどこうとするが

 それをフランは、何とかしがみ付いて耐えている。


「解ったわ、南側の領地ね。

 ちゃんと答えるわよ」


「はぁ・・・」


 ため息を吐きながら、今日も私は女学生として女子学園へと通う。



 この日より、わずか1年後。


 南側の領土は、国の内外から職人達が集まり

 その技術を競う場所として急速に発展を遂げる。


 またそれら最新技術で作られた質の高い品物を求めて

 商人達が買い付けに押し寄せ、その商人達を相手に

 宿屋や酒場に旅の用心棒と、様々な経済効果を生み出す。


 その結果、東側と同様に左遷の地と呼ばれた面影は消え去り

 人々で溢れかえることになる。


 ・・・だが、これはまた別の話。






第12章 新たな商売 ~完~







まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。


投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

ようやく仕事が一段落して時間が出来ました。


今回は、内政面の関係でたまっていた話を消化する回と

させて頂きました。

当初はもっと早く投稿出来たのですが、出来上がりが

予想外につまらなかったので、何度も書き直すことになり

仕事と重なって・・・という感じです。


今後の流れも、撒いたフラグの回収を少し入れていきたいので

元帥の話というよりは、各キャラの話的なものが続くかもしれません。


なるべく早めに投稿することを心がけるつもりではありますが

もし遅れても寛大な心でお待ち頂けると幸いです。

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