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三十六
それで会話が終わったとサクラは思ったのだが、それだけではなかったようでアサは忌々しそうにこう続けた。
「お前を連れて、都へ行く」
信じられない気持ちでサクラは目を丸くした。昨日までそんな予定は無かったはずだ。アサの様子からすると先ほどの男がアサに何か言ったのだろう。サクラはなるべく心を落ち着けて、何も願わぬように自分を諌めながら再び返事をした。
「はい」
――4月5日、亡き前龍王の跡を継いだ次王の改革による新たな登用制度が施行された。新たな制度では身分に関係なく能力の高い者を高い地位に就けるとし、貴族からの反発が相次いだものの、地方問わず各地から己の腕や学に自信のある者たちが、また登用された暁に下賜される禄を目的に幾多の貧困層の民がこぞって上京し始めていた。