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三十五
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(なんで、こんな力が自分にあるのか分からない。 でも、わたしは、わたしには、皆に忌み嫌われ、厄介者として扱われるだけの理由があった。 わたしは、そうされて当然のことをしてしまったんだ)
朝を告げる鶏の鳴き声に、サクラは目を開く。寝ていないため夢は見ていない。アサの持つ敷地の牛舎の中、いつもの日常である。サクラは息をゆっくりとはき、一晩中考えていたことをもう一度反芻した。
(わたしは、自分の村をこわした、村の人たちをころした)
それが迫りくる大人たちに怯えた幼い少女の行動であっても、その少女の手に余り過ぎるくらいの力があった。サクラはそれを自覚していた。
(……もう起きて仕事しなきゃ)
サクラは朝の支度をするために藁山から抜け出した。冷たい井戸水で髪を洗っていると、1人の男がアサの家の門を潜ってやってきた。アサが家から出てきて男となにやら話したかと思うと、サクラの方へやってきた。
「都へ行く」
いつになく怖い顔をしてアサが言う。サクラはゆっくりとアサの方を見る。
「……はい」