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三十二
少女へと伸ばされた大きな手たちはまるでそれで一つの生き物のように迫ってくる。
(……い、いや、……嫌!!!)
「おねがい……!」
そして、少女の口から魂の名が叫ばれた。
「「嫌!!! ぜんぶ、全部消して……!!! 【樹下】…………!!!!!」」
サクラの口から魂の名が叫ばれた。
過去と現実の2人の少女が口にした【樹下】、それはサクラのもつ真名であった。
サクラはその名を識っていた。
「なっ……!!」
地響きに似た音と共に現れたソレに、山賊たちは皆息を飲む。谷底から土のような、しかしはっきりと分かる異臭を放ち上ってくるソレは、この谷から落ちて死んだはずの者たちの亡骸であった。腐敗し服を引き摺るようにする者、まだ肉が辛うじて残る者、骨だけの者、この世のものではないその軍勢は谷を山賊目がけて上がってきている。
「なんだこれは?! お、おい、おいいいいい!!!!」
先ほどまで威勢の良かった山賊たちは恐れおののき座り込んだり当てもなくなく走り出し崖へ落ちていく。