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三十一
「っあ、たす、たすけ、けて、」
合間にボウの声が聞こえるというのに、山賊たちは止めない。
「嬢ちゃんは大丈夫、ぼうずみたいな暴力はしねえから、ほら、さっさと手を伸ばせよ、こっちへきな」
サクラの方へ伸ばされた別の手。自分へ向かって来るその大きな手のひらと、本当に苦痛で声を上げるボウとが、サクラの頭の中で重なった。
きゃんっ! きゃんきゃうんっ!!
仔犬の鳴き声がする。
「ちゃー!」
真っ暗な闇の中で後ろ足を引き摺る仔犬の姿が見えた。
泥のように腐敗したそれはぼろぼろと次から次へと崩れていく。
目の前の光景が信じられず少女は目を見張った。
そして背後から人がやってくる。
「その仔犬を渡しなさい」
「サクラ、戻ってきなさい」
「お嬢ちゃん、ほら大丈夫だから、こっちへおいで」