二十九
「こんな夜更けに変なとこ行くし、お前のせいでこんな目に合うし、本当、お前なんかがいなければ」
完全な八つ当たりにサクラは反応しない。それすらも癪に障るのか、ボウは続ける。
「……それに、さっきの村もなんだよ。 何にもねえじゃねえか。 ボロいだけで、後つけて本当損した。 おい、聞いてんのか?!」
無言のサクラに対し、憤るように言い放った瞬間、サクラが足を上げた地面から石が転がる。
「ボウ……危ない!!!」
はっとしたサクラが振り返り警告をしたが油断していたボウには遅く、ボウは崩れた地面を踏み足を滑らせた。自身の身体が地を転がることを予感したボウは無意識にサクラの裾を掴む。
「……!!!!!」
がらがらと音を立て、崖へと落ちる。が、サクラは寸でのところで崖に真横に生えた樹の枝の一つにしがみついた。ボウも同じ樹の幹へと引っかかり、谷間へ落ちずに済んだ。2人と一緒に道から落ちる礫が顔に当たり、小さな切り傷が出来ていた。
「お、おい、これ、どうすんだよ!!」
サクラよりも下にいることに不安を感じたのか、またもボウは声を張り上げる。
「だ、駄目……!!」
静止するのも遅く、その声は谷を木霊した。