二
朝を告げる鶏の鳴き声に、サクラは目を開いた。またいつもの夢だ。慌てて周りを見回す。ここは林の中ではない、サクラの雇い主アサの持つ敷地の牛舎の中である。そのことを確認すると、サクラは息をゆっくりとはいた。
今年でサクラは七歳になるが、これまで何度も養父や雇い主が変わってきた。これは、村の厄介者として近隣の村人達から執拗に避けられていることに起因している。そして、その避けられる元凶となった事件は、先ほどの夢のように悪夢としてサクラを幾年も脅かしてきていた。
正直、その時の記憶が曖昧なサクラにとって親戚中にたらい回しにされ、名ばかりの養子関係になり、血縁者達に気味悪がられ避けられるよりは、どんなに辛く大変な仕事でも雇われている者として置いてもらっている今の方が気楽であった。特殊な経験により、既にその幼い身体で同じ歳の子らに比べて大人びた思考がサクラには備わっていたのだ。
(……もう起きて仕事しなきゃ)
サクラは朝の支度をするために藁山から抜け出した。
この牛小屋の一角に敷き詰めた藁がサクラに与えられた場所であった。村の厄介者のサクラはアサの家は勿論、他のどの村人の家にも上げてもらうことはない。
早朝の清々しい空気を吸いながら、サクラはアサの家の玄関前にある井戸へと向かう。藁の上で寝ることに今更何も抵抗はないが、朝一にこうして冷たい井戸水で髪を洗い、頭に付いた藁を取るのは骨の折れる作業であった。