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二十五
(え?)
サクラは自分が見ている光景が信じられず何度か瞬いた。
(なんで?)
1人立ち竦むサクラの目の前には荒廃した家や畑の痕跡らしきものが多数ある。雨風すら凌げなさそうなくらいに屋根は廃れて無くなり、辛うじて残った数本の柵がその区切りを表している。
「お母さん?」
意図せずサクラの口からぽつりと呟かれた其れは闇の中へ吸い込まれては消えていった。突如、昔と同種の不安に駆られサクラの身体は震えた。そして背後に忍び寄る人に気づかずサクラはもう一度呟いた。
「お母さん……!!」
その声と同時に、サクラの背中へ強い衝撃が走った。
「一体、ここに何があるって言うんだよ」
ボウの揶揄する声がサクラの緊張を別種のものへと変えていた。こっそりと一目を避けて出てきたというのに、その後ろをボウがつけていたとは思いもよらなかったからだ。先ほどボウに思い切り背中を叩かれて転んだサクラと視線を合わせるようにボウもしゃがむ気配がする。