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二十四
(もうすぐ……私の村に着く……!)
サクラは心の中で頷いた。
西の山へ入るための谷道はそれまでの道以上に厳しく、ごうごうという風の音が響く険しい道であった。この辺りはあまり人の手が入っていないのか、獣道とすら言えない道でサクラの顔や肩に小枝がぴしぴしと当たっていた。次第に細く狭くなっている道を歩くサクラはこの険しく恐ろしい谷を自分が知っていることに気づく。
(ここ、覚えてる……、)
一歩谷と反対側に歩を進めたらそこは一寸先も見えない森の闇であろう。確かにサクラは此処に、仔犬を抱いて逃げてきたことを思い出していた。
(ここに来て、ちゃーがどっかに行っちゃって、それから……?)
焦るような気持ちが込み上げ、サクラは道の先を急いだ。危ないと分かっていても足が勝手に空回りするように走り出していた。この道の、この谷道を抜けた裏側に、自分の村があるのだ。あるはずなのだ。
そして、ようやく辿り着いたサクラを待っていたのは、
……無音の世界であった。