十七
「ふんっ、別にそんなことはどうでもいいんだ。重要なのは前の村で大変なことして追い出された奴なんか信じられないってことなんだよ。一体何したらここまで村全体から嫌われ者になれるんだ?」
その時ふとサクラは気づく。サクラが死んだはずの仔犬を甦らせたことをボウが知らないという事実にだ。それもそのはず、アサの三男であるボウは今年10歳。サクラと大差ない歳なのだ。サクラのことは村の殆どの大人が知っているが、子供に関しては事実を知らずに大人たちの態度で何となく察している面が大きいのだろう。
「何もしてないよ」
先ほどの自分の言葉を反芻するように答える。今まで気づかなかった周りの人間の認識の差を理解すると、サクラは何故か少しだけ気持ちが大きくなったように感じ始めていた。そのままボウのことを気にせずサクラは午後からの仕事をするために畑へと戻った。その後ろをボウが何やら叫んでいたが、サクラの後を着いていくというのは彼の自尊心にそぐわなかったのだろう。ボウは仕事始まりの鐘の音が鳴るまで姿を見せなかった。
一日の農作業が終わりサクラは自分の寝床である牛小屋内へと帰ってきた。勢いよく藁山へと寝転がると尖った藁の先がサクラの身体を軽く引っ掻く。
(今日は、知らなかったこと、いっぱいの日だった)