十二
牛小屋から顔を覗かせればもう日が暮れており、夜というよりも明け方に近い空の色をしていた。結構な時間、一日を寝て過ごしてしまったことにサクラは驚いていた。年端月がもう今日で終わり、梅月が始まろうとしていた。
(……どうせ、今日の仕事は増えるんだろうなぁ。昨日の分、残ってるし……。だったら、もう起きていよう)
そう思ってサクラが牛小屋から出たその時、
遠く離れて米粒よりも小さく見える都の中心から閃光が放たれた。
地響きを立てながら、青白い閃光が夜の闇を駆け上がっていく。
強烈なその光は辺り一帯を一瞬昼間のように照らした。この村自体が都がある平野よりも少し丘になっているためにそれは鮮明に見え、サクラはその光景に動きを止めた。
近隣の村人たちもそれぞれの家から外へ飛び出してくる。そしてサクラと同様に、棒立ちになってそれを眺めた。暫くの間細長い光の筋を描いたかと思うと、雲に掻き消されてしまった。
「王様が、龍王様が御帰りになった……」
いつの間にかサクラのすぐ傍に来ていたフツが呟く。サクラはその言葉に首を傾げる。
「ふ、フツ様、龍王様って?」
普段であればサクラから雇い主家族に口を利くことなど無いが、この時ばかりは自然と声に出してしまった。フツはそれを叱るわけでもなく、唇を震わせながら答える。
「陛下が、崩御なさったんだよ……おお、恐ろしや、恐ろしや」
七歳のサクラにも、それがこの国ではとんでもないことなのだとはっきりと理解した。
――二月一日、この龍王崩御こそがサクラの人生を大きく変える始まりとなる。