九
少女は安心して笑みを浮かべる。
「くぅ~ん」
少女は仔犬の身体に頬を付ける。いつもの暖かさが仔犬には無く、土の表面のそれと変わらぬ温度だった。やはり微かな異臭が仔犬の身体から放たれていたが少女はそれを不思議に思わなかった。土の中に埋まっていたことと、普段から獣の匂いはそれに近い物があったからだ。
とにかく、この時の少女には、仔犬が尻尾を振って少女にいつも通り甘えてきてることが全てであった。いつもと変わらない日常が戻っただと少女は幼いながらに安堵していた。
「おうちに戻ろうね、ちゃー」
仔犬を家に連れて帰ろうと少女は振り返る。
「え……?」
そして、少女は鼻を寄せて低く唸る母犬の姿を目にしたのだ。ぐるるる、という低音は明らかな敵意を示している。
「どうしたの? 何かいるの?」
この辺りは山に近いため熊や鹿が出ることがある。少女は辺りを見回したが、特に変わったところはない。けれど、母犬の唸り声の大きさは増すばかりであった。
「大丈夫、何もいないよ?」
少女は笑いながら母犬に近づいた。一歩踏み出した瞬間にけたたましい声で母犬が吠えた。その声で不審に思った村人達がぞろぞろと家から出てくる。