第六話:何か色々と前途多難
こんちには、メルヘンとです。
早速お気に入り登録して下さった方、ありがとうございます。
こんな作品で良ければ、お付き合い下さい。
……今回は、少し短めです。
「先生、魔盲の人が能力を活性化させるには、どうしたら良いんでしょうか?」
と言う訳で、俺はネィルン先生に質問中だ。
先生はちょっと苦笑がちにこちらを見て、それから作った様なしかめっ面をした。
「シルヴィール、矢張り君は睡眠学習には向いて無い様だな。その内容なら、私の記憶に依ればつい一か月前に習ったばかりだが?」
……………そっか、やっぱ学校で習ってた訳ね。
うん、何でチルが隠したのかは知らないが、あいつ嘘付くの苦手っぽいしな。
「えっと、それじゃあ俺でも活性化出来る、って事ですよね………うぐっ…!」
「どうした、突然頭を抱えて?恋でも患ったか?」
っく………くそ、先生に心配を掛ける訳にはいかないしな。
ちゃんとほんとの事を伝えるか。
「いえ、突然に物凄い罪悪感に襲われただけです……すみません」
「……成程な、患ったのはどうやら君では無い様だ。…ふふっ、取り返しがつかなくなる前にどうにかするべきだと思うぞ?」
うーん、どうにかって言われても……。
正直、何で罪悪感が出てくんのかも分かんねーし。
っつか、むしろ俺に嘘ついてたチルの方が、罪悪感を持つべきな気が……。
くそっ、やべぇ全然分からん。
……今はその前に、活性化の方法だ。
「罪悪感については、どうにかしてみます。………えと、どうしたら活性化出来るんですかね……?」
すると、ネィルン先生は少々気まずそうな顔をした。
「……最も手っ取り早いのは、より高位な魔術師に活性化呪文を掛けて貰う事だが………最高ランクの活性化ともなると、本人以外に依る活性化に伴う魔力量は莫大な物になる……。」
他人に掛けて貰った魔法でも、効果って有るんだろうか?
正直それならルエに頼みゃ良かったとか、今更ながらに思ったり。
「じゃあ先生、この学校で言えば誰に頼めば俺は活性化出来るんでしょうか?」
莫大な魔力量ね……まぁ、本来自分用の魔法を他人に掛ける場合は、大抵の場合魔力消費が×3位になるからな。
「………ま、ここの教員では、まず間違いなく活性化出来ないだろうな」
「へぇ、出来ないんすか………って、は?」
出来ない?
いや、だって教職員だろ?
いやいやいやいや。
ネィルン先生はバツが悪そうに頭を掻きながら、それから出来ない理由を言った。
「…シルヴィール、能力のランクを全て言ってみろ」
「え?……微弱、弱、平凡、強、最高……でしたよね?」
ネィルン先生は頷きながら、答える。
「微弱、弱程度の能力なら、我々の様な教職じゃなくとも、魔力が使えると発覚したばかりの子供でも良い。だが、平凡になると途端話は変わってきて、我々教職か、現役の魔力使い等に頼らないといけなくなる…」
おいおい、今話してるのって「平凡」クラスの能力の事だよな?
……大丈夫なのか、俺。
「強に至っては、魔力量が多い他種族に頼らなければいけない」
…他種族に頼るってのは、出費や危険を覚悟するって事だ。
それで、それすら強。
「………最高ランクは、今まで魔盲の前例が無いから何とも言えんな」
「……そっか、そんなに使うんじゃ流石にダメっすよね………分かりま……前例が無い?」
結構な歴史を誇るだろうこの世界。
それなのに、俺の様な不幸な境遇に前例が無い?
………あー、何かスゲームカつくわ。
「…最高ランク自体が珍しい物で、その上魔盲だ、という者は中々いないだろうな。だからこそ、どのくらいの魔力消費かも分からない…………少なくとも、この大陸でそんな不幸な人物は、シルヴィール以外にはいるまいよ」
この大陸では?
……リック姉に質問する事が増えた。
午後の授業開始の鐘を聴きながら、俺は未だ見えない希望を探していた。
んで、放課後だ。
あぁ?授業が一切出なかった?
お前らだって、「ダンジョンで作成可能な即席武器…ダンジョン種別…」の授業描写とか、見る気起きねえだろ?
……見たいのか?
だが断る!何故なら担当教師がミッキーだからだ!
「ね、ねぇシル、一緒に帰りましょ?」
…………誰だこいつ。
レールと同じクラスに通っている最強の大剣使いは、中身の人格が入れ替わったんじゃないかって位、別人な声掛けをしてきた。
「………あ!あれだ、緊張してるんだろ、お前」
成程な、「異常値測定」の前だから緊張して変になってんのか。
やっぱ平気そうでも、近付くと緊張するもんなんだな~。
「……うん、まぁね。だって……これからお世話…………になるのか、するのかは知んないけど、とにかく宜しく………」
…………?
お世話になる?
えーっと。
…………………。
………………………あぁ、分かった。
こいつ、多分何の能力も無いと諦めてんのか。
んで、大剣で戦う時に俺に補助をお願いすると。
随分回りくどい言い方をするんだな。
ま、そう言う事なら返事をしない道理は無いだろう。
「あぁ、こっちこそ宜しくな」
そう言うと、チルは嬉しそうに「えへへ」と笑った。
……何故だろうか、後でこいつを深く傷付けてしまいそうだ。
全身を罪悪感が包んでいく間に、チルは俺の手を取った。
「は?」
俺の手を取った?
いやいや、意味分かんねぇ。
つか、一緒には帰れねぇんだった!
「あー、チル。悪いが、一人で帰ってくんね?」
「…え?あ………うん。大丈夫だよ?あはは、じゃ、じゃあこれで」
…何でそんなに寂しげ……?
あいつ、今日は親が帰ってこないのかな?
チルは手を離し、名残惜しげに自らの左手を擦りながら、帰って行った。
………何だったんだ、今の。
まぁいっか。
俺は今から、リック姉のとこに行かなくちゃなんねえしな。
…うーん、突然押し掛けて大丈夫なんだろうか。
一応家にはいると思うけど、この前は何故か玄関の鍵開けたまま着替えしてたからな……。
本人は一切気にした風も無く、けろっとしているが、気にするのはこっちだ。
いやいや、あんたには12歳に見えてもこっちは27なんだ、前世と合わせりゃな。
だから、正直言って目の毒にしかならない。
……眼福とも言うが。
とにかく、向かってみない事には始まらないしな。
「もう、着替えばっかり覗こうとするなんて、シル君はエッチだなぁ☆」
そんな嬉しそうに言うな、襲うぞコノヤロウ。
「ってか前に、着替える時はせめて玄関先以外で着替えるか、玄関の鍵は掛けて下さいって言っただろ!何で何にも変わってねえんだよ!」
俺が怒鳴ると、リック姉は悪戯っぽく笑いながら、両手で服の上からその「兵器」を持つ。
「前の時より大きくなってるよ?ちゃんと変わってるんだからね?」
「んな事言ってんじぇねえよ!」
この人は、ほんとにもう………!
確か今年で17だった筈だが……おい、将来大丈夫かあんた。
「んで?今日は何しに来たのかな、エッチ君は」
むかっ。
「あぁ、ド変態の知り合いにさ、質問が有って来たんだよ」
「あら私に?」
自覚有るじゃん!
即答じゃん!
「良いわよ!女の子の秘密、いっぱい教えちゃうから♪」
「服脱ぐな服っ!普通の質問だよ!」
こいつは12歳の少年をどんな目で見てんだ。
……ん?あ、いや、むしろこの位の年が性の目覚めだっけか……?
まぁ良いや。
前世と合わせりゃ、俺は後ちょっとで魔法使いだしな。
…悪いか!高校デビュー初日で死んだんだよ!
正確には、デビューする前に死んだんだが。
って、んなのどうでも良い!
「それで?何でわざわざ私のところに?」
やっと真面目な顔をしたリック姉。
「ちょっと、2つ質問が有るんだけど……」
「良いわよ、シル君の質問なら何でも答えちゃうから」
……言ったな?
「なぁ、年「あらシル君、死相が見えるけど?大丈夫かしらね」
…………嘘じゃん。
ま、流石に俺も女の人にこんな質問はしないけど。
そもそも、17の筈だし。
…17、だよな?
サバ読んでないよな?
「冗談だよ冗談……まず、リック姉って、能力を最高ランク持ってて、活性化しなきゃいけないのに魔盲の人って聞いた事有る?」
俺の質問に、リック姉は眉をひそめた。
「何それ、そんな笑い話のネタみたいな人、聞いた事無いけど……」
手掛かり無かった上に心を抉られたっ!
「そ……そっか…そうだよな……そんな奴、いる訳ねー……、か…………ははっ」
「……何かゴメンねシル君、もしかして傷付けちゃった?」
いや、大丈夫だよ俺は…。
強いからさ、心は27だし………。
コナンより年上だな、俺。
「あ、でも……確か、伝承みたいなのに、そんな話が有った様な………?」
「マジか!?頼む、何でも良いから教えてくれっ!」
伝承だって何だって良い!
正直言って、単なる噂話でも大歓迎だ。
「ごめんね、良く覚えて無くて………調べるから、この話はまた後日で大丈夫かな?」
「…あぁ、ごめん。宜しく頼む」
そっか。
でも、これで少し近付いた。
何も無いよりは、遥かにマシだろう。
「それで?後1つの質問ってのは、何かな?あ、ちなみに私は彼氏いないわよ♪」
「訊いてない。それにそんな嬉しそうに言うなよ……」
別にリック姉を狙っちゃいねえし。
さて、後の質問は……。
「…あのさ、来週なんだが、……チルの誕生日で、プレゼント、どうしようかな~って」
「………………………」
……あれ?
リック姉の笑顔が、何故か恐ろしいんだけど。
「あ、あの、リッ…」
「ゴミで良いんじゃない?」
「へ?」
リック姉は、にこにこしながらそう言った。
…気が違った、訳ではなさそうだ、うん。
「要らないわよ、プレゼントなんて。寧ろ罵声を浴びせるべきなんじゃないかな?」
「…………リック姉?」
何だ、すっげぇ怖いんですが。
「あぁ、いっけない」
突然にリック姉は自らのおでこをぺチン、と弾いた。
「悪いのはレチルちゃんじゃなくて、この鈍感ハーレム野郎だもんね…」
「ご、ごめん、俺やっぱ帰るわ!」
「あ、待ってよ死ル君~!」
名前の発音がおかしいって!
俺は慌てて玄関から飛び出し、リック姉の魔の手から逃走した。
「………………歌で良いんじゃな~い?…………」
背後から聞こえた声に振り返ると、リック姉がジト目気味でこっちを睨んでいた。
だが、その目の光が笑っていたので、俺は安心する。
やっぱ、リック姉は良い人だよ。
「ありがとな!チルの誕生日終わったら、また来るから!」
感謝の意味を込めて手を振りながら、俺は家へと向かった。
登場人物紹介、やるかな。
人物紹介も今日中に投稿する予定。
主人公の鈍感さに、苛々してしまう今日この頃。