第五話:学校が学び舎って、俺達に取っちゃ訓練所
今回の投稿は短いです。
あ、お気に入り登録して下さった方、ありがとうございます。
「ん、じゃあ行ってきます」
玄関で一声そう言って、俺は家を出た。
今日は平日。
学校がある日だ。
測定の日から数日は休みが貰える為、俺はしばらく学校を休んでいた。
ゴロゴロしていただけだ。ほんとはもっと休む予定だったが……。
昨日はRADWIMPSさんの「夢番地」で震えていた。
そうだ、例え能力を活性化出来ないからと言って、それをぐじぐじ引き摺っても仕方ないしな。
それに、俺はこの能力を持つ事を夢見てた筈だ。
今の俺は、確かに過去の俺の夢を叶えているんだ……と、取り合えず学校に行く気になったのだ。え?訳分からん?すいませんね。
そうそう、この世界の学校は、俺達の愛すべき学び舎とは大分違う立ち位置に有る。
まず、皆が学校へ通う目的は「生きる為」。
過酷な世界って奴ですな。
学校に通う年になるのは、7歳からだ。
んで、卒業は基本的に12歳。
理由は勿論、大抵の奴が「異常値測定」を受けに行くからだ。
んで、「異常値測定」を受けた殆どの奴が、三カ月以内に学校を「卒業」する。
この場合の「卒業」は、前世とは意味合いが全くと言って良い程違う。
「卒業」=「大人の管理下から外れる」、だ。
この世界は異世界で、戦士や勇者が跋扈する世界。
勿論モンスターもいる、そんな中で元気な若者を何年も「学校」なんて空間に閉じ込めていたら、折角の人材が腐ってしまう。
その為ここの「学校」は、独り立ちが可能と判断した時点で「卒業」を言い渡す。
学校にいる期間は、前世と比べれば短い物だ。
だが、教える内容は遥かに質の違う内容。
一年生の時に教えるのは、「基礎的な調理法」、「徹底した読み書き」、「魔力と気力、能力の概念」。
この三つを一年掛けて習得するのだが、中々に厳しく単位を取れない者も結構いる。
んで、二年時以降は本格的に生きる為の術を教わるのだ。
「通貨の正しい使い方」を習ったり、「友好的モンスターと表面上有効な邪悪モンスターの見分け方」を必死に覚えたり、「ダンジョンに潜った際に最も気を付ける三大要素」を復唱したり、「対人戦での覚悟の決め方、仲間との絆の保ち方」を身を以て経験したり。
……嫌過ぎる、なんだよこの内容…今思い返すととんでも無いもん習ってたのか…。
だが、そのお蔭で大体の12歳の子供は、「今すぐダンジョンに潜って、自分が行けると判断した範囲までマッピングしてこい」と言われれば、迷わずその仕事をこなせる。
……一応、俺が上げた内容はこの国全域で習ってるんだからな?
ちなみに、去年から授業中の睡眠が増えた俺は、ほんのちょびっと聞いて無い内容が有ったりする。
………え?
あぁ、そういや言ってないか。
12歳で卒業ってのは、あくまでも「基本的に」、だ。
「異常値測定」でかんばしく無い結果だった場合や、また本人の希望による進路(主に商人や医者、その他専門職)が有った場合、学校に残って今度は「勉強」する。
……俺の様に、折角手に入れた能力を使用できない場合は、…………聞いた事ねーから知らないけど。
うぅ、だがチルのヒモにはなりたくない!
それに、この世界じゃ戦士以外の職業でも十分食ってけるしな。
仕事不足では無いのだ。
ただちょっと…歌手が売れるには厳しい場所、という事だからな……。
そいや、明後日チルの測定日か~。
ついでに誕生日、だな。
……よし、万が一の為に、将来ヒモになる為の布石を打っておこう!
即ち、………ご機嫌取り。
う~ん、普段あんまりしないよーなプレゼントなら喜ぶかな~。
よし、今日は学校終わりにリック姉のところに行くか!
「おう、久々じゃねーかシル!てめぇ、結果どうだったんだこのヤロ~!」
何か面倒な雰囲気を感知!
俺は進行方向を右に180度変えた!
「会った瞬間逃げんじゃねーよ!おい、何でお前は俺を避けるんだっ!」
「いや別に、朝っぱらからむさい教師に話しかけられたもんで」
速攻で捕まり、至近距離から明らかに不必要な声量の怒鳴り声を受ける。
あーメンド。
正直、学校まで後100m位なんだから、見つけないでそのまま入っていって欲しかった。
目の前にいるむさいおっさんは、ミッキー。
キモいだろ?こんな体育会系バリバリの元勇者のおっさんが、ミッキーだぜ?
ちなみに、現役の頃の異名は「対食人鼠虐殺兵器」。
うん、ミッキーが同族をやっちゃってるよ。
あ、ディズニーさんすいません、痛い、空き缶投げないで…!
ミッキーファンの方々にも深く謝罪しておく。
「ほら、先生。生まれてきた事を皆に謝って下さい」
「なな!?教師に言う言葉かっ!でも何かゴメンっ!」
律儀に頭を下げている。
ノー筋だな、この人。
「先生、ここは矢張り誠意を見せましょう。特別な謝罪法を教えますから」
「何っ?!本当か!」
と、言う訳で、校門をくぐる俺の遥か後ろには、むさいミッキーが誰もいない空間に土下座している、というシュールな光景が広がっていた。
…あの人の出番、きっともう無いんだろう。
ばいばい、変な人!
「あ、シルヴィール君、もう学校来たんだ?」
俺の名前を縮めない女子生徒。
これだけで大体の予想は付くぜ……!
「あぁ、おはよ、ミール」
「ぶぶー、残念!レールでしたぁっ!」
ごめん、全然予想出来ない。
「ミールは今日お腹痛いから休むって」
「へぇ。あいつ、折角好きな人の『異常値測定』が近いのに、学校休むんだな」
俺の言葉に、ミールは呆れ顔で溜め息をついた。
「だからだよ、どーんかーんさん?レチルちゃんがもうすぐ『異常値測定』だから、緊張して胃が痛むんだって」
もう流石に分かったか?
チルの百合ラブ相手が、今話題に上ったミールだ。
レールとミールは双子で、レールは普通に男の子が好きらしい。
この前、わざわざ俺に指を突き付けながら言ってたから、恐らく間違い無い。
ちなみに、二人とも一カ月ほど前に測定を終え、今現在は学校へは自由登校になっている。
ミールは魔力使の結構なレベル、レールは気力使のまたまた同じ様な良い線のレベルだった為、二人して【ハンター】に志願した。
要は、対人でも対魔王でも無く、ただ自らの生活の為だけにモンスターを狩る職業。
ま、この二人なら大丈夫だろうな。
実を言うと、こいつらの剣技は俺達の学年トップクラスだったりする。
……ほんとのトップはチルなんだが。
あいつさぁ、マジで有り得ねえんだよ!
大剣だぜ?
12歳の女の子が、大剣なんだぜ?
大の大人の武器だ、間違い無い。
俺達の学年には大剣使いは全員で3人で、そしてその内チル以外はごっつい男子だ。
……チルの奴、子孫に別種族が混じってんじゃないのか…?
もしくは、転生者的な。
…そう錯覚するほど、女の子がマジでぶっとくてなっがい剣を振り回すのは、異様な光景だった。
だってキモいんだもん。
いや、恐らくあの動きは男がしようが他の女子がしようがミッキーがしようが、チル以外ではどうしようもなくキモいんだろうな。
チルだからこそ、その動きが様になっているんだ。
大剣を構え(流石に両手だ)、相手に切りつけながら剣から手を放す。
相手が迫り来る大剣に気を取られている間に、懐から取り出した小太刀で切り付け、一瞬の後に再び大剣は手の中に。
うん、他行対抗試合で余裕の勝利も頷ける。
駄目だ、きっとあいつは魔王の血でも引いてんだろうな。
この大陸だから……えっと、ブラックドラゴンのkjasainか。
ゴメン、発音の仕方は分からないんだ。
……あれ?何かガチでチルが人間じゃない気がしてきた。
だってあいつ、前に召喚事故で現れたミノタウロス、落ち着き払ってぶっ倒してたもん。
え?あぁ、俺はその時遠くから見学してましたよ?
だって怖いもん、ミノタウロス。
お前らも本物見てみろよ?
牛の頭がデカいのに合わせてんのかしらんが、体まで3m超えるし…。
あれに立ち向かったチルはマジすごい。
んで、ついでにミノタウロスが実は魔王の城に存在する、要は「勇者向け」のモンスターって事がマジ怖い。
んなもん呼ぶな。
「…シルヴィール君、そろそろ授業始まっちゃうけど………まーたレチルちゃんの事考えてたでしょ~!」
「っは?授業始まるってお前…」
キーンコーンカーンコーン。
懐かしの音楽が、金属管を通じて響き渡る。
あ、ちなみにこの鐘の音の提案者は俺だ……やっぱこれが無いと学校って感じしないだろ?
…じゃなくて!
今俺がレールと話していたのは、廊下。
レールは隣のクラスの為、まぁ廊下で話すのが当然なんだが……。
くっそ、全然喋って無いつもりだったのに、考え事してたらいつの間にか時間が経ってたか………!
クラス連中はとっくに入っているだろうし、下手すりゃ先生まで入ってるかも。
「遅れてすいませんしたぁっ!」
大声で入ると、クラス中がこっちを向く。
「……おぉ、シルヴィール。お前にしては休みを切り上げるのが早いな」
やっぱ先生も来てらしたか。
「はい、ちょっと心境の変化と、後尋ねたい事が有りまして…」
ん?あぁ、いや何。
この先生には自然、敬語を使わずにはいられないのだ。
俺の最も尊敬できる教師No.1、ネィルン先生!
やばいこの人、何がやばいって生徒からの人気の高さ、教師陣からの反感の渦、そしてこの人自身の高尚な考えに基づく“歌”だ。
そう、この人は俺の憧れだった歌手で、物凄い成功を収めた……いや、今現在も収め続けてる人なのだ。
俺もネィルン先生の曲は全て踏破したが、もうやばい。
何がやばいって、一度聞いただけで中毒になるあの歌声と、更に圧倒的なまでの作曲センスが半端無い。
……残念な事に故郷の歌手では無い為、俺の光の玉には入れられないんだが。
代わりに、先生直々に頂いた最先端科学技術の結晶であるレコードっぽいのを頂いている。
「まぁ遅刻は問題無かろう、要は来たのが大事なのだ………ほら、座りたまえよ」
「あ……いえ、俺は廊下で立っておきます」
駄目だ、何故かこの人に許されると逆に申し訳無い!
そう言う訳で俺は、HRが終わる数分の間、ポルノグラフィティの「ギフト」を聴いていた。
……あぁ、やっぱ俺、音楽やってる人皆尊敬できるわ。
どうしてって、考えてみろよ!
音の流れ、紡がれる歌詞、心を打つ声。
それによって、人を確かに変える事が出来る。
良い音楽に巡り合った瞬間、見える世界はまた少し色付くのだ。
今、俺は凄く幸せだと思う。
この世界に来て、ネィルン先生の音楽に会えて、また元の世界の音楽も聴けて。
俺の世界は、それこそカラフルに染め上っていくのだ。
そんな影響を与えられる音楽を、紡ぎだす人達。
俺は、素直な心で尊敬出来る。
何コレすっげぇ恥ずいんですが。
登場曲:夢番地(RADWIMPS)
:ギフト(ポルノグラフィティ)
今回の更新は少々短めです。
次回の更新、遅くなるかもです。
…これでも作者、テスト4日前です。
おいおい。
ではでは、テスト期間中も頑張りますので!