初夏の風と共に
さわさわ……と葉が擦れる音がする。遠くのどこかの家から風に乗って音楽が微かに聞こえてくる。
目を閉じた瞬間、気持ちのいい暖かな風が吹き抜ける。私の長い髪がたなびいた。
「…………」
風が止むと、私は深くため息をついた。
「……なんか」
呟いても誰も聞こえない。誰もいないから。私は続きの言葉を飲んだ。
この見渡す限りの田園地帯に人影はない。私だけの場所。私だけの時間。
ゆったりと時間が流れるはずの日曜の午後。だけど今日は少し違う。
「ごめん……」
昨日和人君に言われた言葉を一字一句思い出せと言われても思い出すことなぞとうてい出来ない。切り出しのその「ごめん……」という言葉だけは覚えている。それ以降の言葉はなんとなくしか覚えていない。
私は日本人に生まれて、日本語を使っていてもなかなか詩人のような使い回しが出来ない。率直な感想を述べることくらいしか。
和人君は何を思って私にそう言ったのか私にはわからない。他の人にはわかることかもしれない。だけど私はわからないし、わかりたくない。きっと、アリが私たちを認識できないように私も和人君をわかれない。そういう意味では、ああなってよかったなぁって思ったりもする。
手の平を地面に擦り付ける。
ちくちくとした感触が私の肌を撫でた。腕のあたりの鳥肌が立つ。自然と口元がゆるんだ。
「いいよね……これで」
私は相変わらず誰もいない田圃に向かって呟いた。
「いいんだよね……」
言葉にすればするほど、目の奥が熱くなっていく。
「いいよ……いいはず」
目の前を飛ぶ鳥がにじむ。
既に半袖のシャツでぐっと目を拭く。
鮮やかな緑が目に飛び込んできた。
すぐ後ろで蝉がジジジ……と鳴き始める。
夏が――始まろうとしていた。
こんにちは。生きてます。まなつかです。
受験が終わり、なんとか第一志望に合格。
文芸部には入らず、写真部ととあるぶを兼部しながらやってます。
連載途中の作品……とはいえない駄文ですが――おそらく、更新はされないかと思います。途中ですいません。
それでは。