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観測者と三人の王  作者: 成露 草
第一章 魔王、勇者になる
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第三話 Ⅲ

「……ランドルフさんって呼んで良いのかな? あの、大丈夫?」

 熱があるのかと思えるほど赤く染まったランドルフの顔に、籠目は思わず声をかける。その声にランドルフは肩を揺らして反応した。

「あ、ああ、大丈夫だ」

 顔はまだ赤いが視線はダークから外れて籠目を見ている。そのことに籠目は大いに驚いた。

 人間は『魔』に惹かれる性質から中級以上の魔族の魅了に引っ掛からないことはありえない。特に籠目やダークの様に魔力が有り余っている者は常に一定量の魔力を垂れ流している。その為感情が揺らぐと魔力もそれに応じた変化をするのだ。

 先ほどダークの殺気にランドルフは顔を青くしていたが、それは雰囲気が怖かったなどと言うことではない。ダークの怒りに魔力が反応し、ランドルフに精神的な圧力を与えていたのだ。

 よって、普通の笑顔なら兎も角として今回籠目に向けたような愛情の籠った笑顔ならば十分に魅了の効果があると言える。

 だからこそ、声を掛けただけで正気に戻ったランドルフに籠目は感嘆した。

“腹立たしいが、籠目が気に入ったなら殺すのは止めておこう”

 籠目がランドルフに興味を持ったことに気付いたダークが苦笑気味にそう言う。

 嫉妬とは違うその感情に、籠目は首を傾げた。

「ところで、貴方は一体何者なんだ?」

 ダークを気にしてか、ランドルフは丁寧な口調で籠目に言う。

 イササか空気の読めないタイミングだが念話が聞こえないならば仕方が無い、と籠目は笑顔を浮かべて優しく返答した。

「気にしなくていいよ。私が何者でも貴方に問題はないからね」

 あくまで雰囲気が優しいだけでその言葉に温かみがあるとは言えない。別に籠目はランドルフのことが嫌いな訳ではない。寧ろ好きな部類と言えるだろう。

 しかし仕事上、今はランドルフと深く関わる訳にはいかなかったし、何よりダークの反応が気になった。

 普通の竜人の雄は番を持って数年は独占欲が強く、他の雄と話しただけで怒る。ダークの場合、話したり好意とは違う興味を持ったりすることは問題がないと分かったが、優しくしても問題がないかはまだ分からない。

「…この城にいる以上、十分問題はあるだろう」

「ならここから出ていけば問題無いよね? 少ししたら出ていくからさ」

「いや、出ていくからとかいう問題ではない。城に侵入したこともそうだが、勇者殿との関係も気になるのだが?」

「あぁ、ダークとの関係、ねぇ」

 籠目はそう言いながらダークに視線を向ける。

 それだけでダークは籠目が言いたいことに気が付き、ランドルフに向けて口を開いた。

「籠目は俺の半身であり、番だ」

 どこか切なそうな微笑を浮かべてそう言うダークに、ランドルフは怪訝そうな表情を浮かべたものの何も言うことはなかった。

 籠目も一度口を開いたが音を発することなく閉じられる。

 部屋に何とも言い難い空気が満ちた時、甘い紅茶の香りが漂い、それと共にクラッドの声が静かな部屋に響いた。

「籠目様、紅茶のご用意が整いました」

 三人分の紅茶を机に置き、すっかり冷たくなってしまったランドルフのものを下げる。

 籠目は体を起こそうと腕に力を入れた。その時初めて体が強張っていることに気づき驚く。

 ダークはそのことに素早く気が付くと、籠目の背に手を添えて起き上がるのを手伝った。そして“熱いから気をつけろ”と言い、その手に紅茶を渡す。

 その行動に籠目とクラッドは目を見張った。

 籠目は、番ってここまで過保護なのかとダークの変化に驚く。そして自分と同じようにダークの行動に驚いているクラッドを見て、露見するのは予想以上に早そうだなと思った。

 実際、クラッドはいつも通りの笑顔を浮かべてはいたが、その眼は籠目とダークの間を行き来している。

 けれどもクラッドは不躾に何があったのかを聞くことはせず「お食事はテラスの方にご用意いたしました。ランドルフ様の分も用意いたしましたが、どういたしますか?」と聞いた。

「いや、俺は結構だ」

 籠目が答える前にランドルフは慌てたように立ち上がってそう言った。その表情は同贔屓目に見てもぐったりとしている。

 ダークとクラッドが籠目を見たので、彼女は微妙な気持ちになりながら「お疲れ様」と言った。思わずそう言いたくなるほどランドルフは疲れて見えたのだ。

「では失礼する」

 ランドルフは一度胸に右手を当てると綺麗な動作で部屋を出て行った。

 その優美な動きを見て、籠目は彼って本当に王子様なんだなと失礼なことを思う。

 だが口に出すことは彼の尊厳を傷つけるだろうと考え、口に出すことはしなかった。それが本人の耳に入らないことだとしても籠目にとっては例外ではない。

 紅茶を一口飲んだ後、籠目はふと思い出した様に口を開いた。部屋にオレンジペコーの香りが広がる。

「ダーク、この城で獣人を見た?」

「いや、俺は見ていない」

「クラッドは?」

「いえ、見ていません。ですが、獣人ならあの店に居たように思いますが」

 クラッドの言葉にダークが「あの店?」と籠目に聞く。

「朝、城下に降りた時に見つけた古書店。店主が居るらしい部屋の奥から獣人の臭いがしたんだよね」

 城下や裏道を歩いている時、獣人の臭いがすることに籠目とクラッドの鼻は気付いていた。ところが、実際に歩いてみると獣人は一人として居なかったのである。

 獣人は大まかに三種類いる。

 一つ目はコンクエストヴェールンスに最も多い人獣型。人と獣の両方の姿になることが出来る。人型の際は極めて人との違いが分かりづらいが、それでも籠目の鼻で気付けない程ではない。

 二つ目は半獣型。基本人型だが体の何割かが獣の形を取っている。

 三つ目は獣型。姿は完璧に獣だが人語を話し、理解することが出来る。

「ただ単に獣人差別国家なんじゃないのか?」

 ダークが呆れ顔で言った。

 獣人差別はよくある話だ。そしてそういう国は遠くない未来、獣人に革命を起こされ立場が逆転する。これもよくある話である。

「でもそれだと可笑しいんだよね」

 紅茶を啜りながら言う籠目の言葉をダークとクラッドが視線で促す。空になったカップがクラッドによって再び満たされるのを見た後、籠目は口を開いた。

「ランドルフさんからも臭いがしたんだよね。残り香だったけど間違いなく獣人だよ」

「奴隷として飼っているんじゃないのか? 王貴族が獣人奴隷を飼うことは珍しくない」

 ダークはこの話題にあまり興味が無いらしく、籠目の髪を指で遊びながらそう言った。

「いや、それは無いと思うよ」

 二杯目の濃い紅茶を一気に飲むと、「続きはご飯を食べながらにしよう」と籠目は言った。

「ではこちらに」

 クラッドはそう言いながらテラスに続く硝子扉を音もなく開ける。

 テラスには丸机と椅子が二つ。食事は白いレースのテーブルクロスの上に並べられていた。色取り取りのサンドイッチとクリームアスパラガス。片方のサンドイッチは肉抜きで、もう片方は殆どが肉入りだ。

 籠目は肉抜き、ダークは肉入りの方に座った。

 ランドルフのものは初めから用意されていなかったのだろうと籠目は気付いたが、敢えて口にすることはしない。問題がないならば非難する必要はないからだ。

 ダークに至っては興味がないので気付くこともない。

 クラッドが「お飲み物はいかがなさいますか」と聞いた。籠目は首を横に振り、ダークは「ロゼ」と答える。

 クラッドは移転でボトルとグラスを用意すると、グラスの半分ほどを満たして置いた。鮮やかな赤が芳醇な香りと共に波打つ。それを合図にする様に二人は食事を始めた。

短めです!

それとこれからは各話、基本月一更新でやっていこうと思います(*^O^*)/

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