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観測者と三人の王  作者: 成露 草
第一章 魔王、勇者になる
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プロローグ

≪創造国書第一巻 第一章 著・観測者リズスガルド=カッツェ≫抜粋

 余り知られていない事実だがどんな世界にも必ず、勇者や魔王、チートなどと呼ばれる者は存在する。

 その者達の事を『世界を超越する者』と言う意味を込めて、『メルティア』と呼ぶ事にしよう。

 メルティアの存在する理由は様々だが、どんな理由であろうとメルティアと世界の関係には一つの共通点がある。

 メルティアが世界にとって異端である、と言う事だ。

 中には英雄、勇者などと世界に必要とされる者もいる。

 しかしそれは必要な時に生まれることが出来た、ごく一部が得うる名だ。

 大概の者は危険人物として末梢される。

 だが簡単に殺されるようならばメルティアとは呼ばれない。

 メルティア達は世界を敵に回しても生き残った。いや、正確には死ねなかった。

 生き残り、生き残り、生き残り。

 いつしか精神崩壊を起こすメルティアが現れ、世界を破壊し始めた頃。

 メルティアの中でも更に異端である四人のメルティアが安寧に暮らす為の策を考えだした。

 自分達を受け入れることの出来る世界がないならば、自分達で世界を創ればいいのだと。

 その四人はメルティアの心が壊れることを防ぐ為に、新たに産まれ来るメルティアを幸せにする為に世界を創った。  

 そしてその四人は、聖王・竜王・魔王・観測者となり、世界に君臨した。

 ドラゴンと獣人を管理している竜王。

 魔族と魔獣を管理している魔王。

 それ以外の生き物を管理している聖王。

 あらゆる世界の文化(生き物や成文化されていない物も含む)を記憶する観測者。

 観測者は王と同じだけの地位と権力を持っていたが、管理するものがいないことから王とは成りえなかった。

 しかし、私にはそのことに対する不満はなかった。



≪創造国書第八巻 第四章 著・観測者リズスガルド=カッツェ≫抜粋

 『コンクエストヴェールンス』

 これが三千五百年前からのこの世界の名だ。

 意味は、『制圧する世界』である。

 制圧的な名前だが、事実制圧的な行いをしているこの世界には似合いの名前だろう。

 だがこの世界に反抗する者は誰一人としていない。

 なぜなら、この真実に気付いているのはごくわずかな者達だけだからだ。

 大部分の者達はこの世界の存在さえ知らない。知っている者達も神話のように考えているだろう。

 気付かれないように征服しているのではない。

 その力量の差から誰も気づくことが出来ないのだ。

 違和感など一切なく、それが当然のことのように思えるほど自然に。

 だからこそ気付いた者達は畏怖から『コンクエストヴェールンス』と呼び、ついにはこの名が正式名称と成ったのだ。


   ***


 初代観測者、リズが記した創造国書全十二巻を読み終わると、私は宰相であるルルーシュに新しい本を用意させた。

 新しい本は赤い革で外装がされている。そこには金糸で《創造国書第十三巻 著・二代目観測者ブラッド=イブラゼル=ファントムハイヴ》と記されていた。

 その一ページ目に二代目観測者である私はゆっくりと文字を書き始めた。


   ***


 袖を引かれる――この世界では、異世界トリップすることをこう表現する。

 異世界トリップの前兆としては、扉やトンネルなどを潜る、事故に遭う、気付いたらいた、と言うのが多い。だが、この国の住人は皆、袖を引かれた、と言う。それも強い力ではなく、幼い子供が控えめに、腕を振れば簡単に解けてしまう程に、そっと引かれるそうだ。

 袖を引かれた者は皆、それが実際に引かれているのではないと分かる、と言っている。感覚的に引かれている様に思うらしい。

 そして、振り返ってしまう前者と振り返らない後者に分かれる。

 前者は、暇つぶしや旅行気分の者がほとんどだ。稀に、鬱陶しいと抗議をしに行く者もいる。異世界トリップは、負担はないが自身でするよりも幾分か時間が掛かるそうだ。

 後者は、前者よりも多くいる。初めの頃は何も知らず、振り返ってしまう者もいたが、今となっては皆、それが何なのか知っているので、一々構ったりはしないのだ。

 振り返らないと、それっきり袖を引かれない者もいれば、振り払っても振り払っても執拗に引かれ続ける者もいる。珍しい例では、逆異世界トリップされた者もあった。すぐに送り返したらしいが。

 自分と何の関係もない者を守るより、自分の生活を守る方が大切なのは当然である。しかも、召喚主の多くは、召喚した自分の方が偉く、召喚された者は従って当然と言う固定観念があって実に図々しいのだ。

 そして厄介なことに、そんな体験を50人に1人が体験する世界ならば、いつ何時、順番が回ってきても可笑しくない(何度も袖を引かれる者もいるが)。

 だから、彼が袖を引かれたのも決してあり得ないことではないのだ。

 それが、魔王が勇者として、だとしても。


   ***


 背中からの夕陽を浴びて、私は大きく欠伸をした。遠慮もないそれに、貴族であるルルーシュは眉間に皺を寄せる。けれどもそんなことは気にせず本をルルーシュに渡した。

 今日の業務はこれで終わりと、私はルルーシュを連れ立って執務室を後にした。

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